三つ星よりおいしい(?)二つ星 Quince
前回、前々回と、こちらのフォトギャラリーでは、サンフランシスコに誕生した三つ星レストランを二軒ご紹介しました。
「和と仏」が融合したセゾン(Saison)と、「韓・中・仏」のブレンドとなるベニュー(Benu)です。
それまで「ミシュラン三つ星レストラン」というと、サンフランシスコ・ベイエリアでは、ワインの産地として名高いナパバレーに二軒あるだけでした。
ひとつは、ヨーントヴィル(Yountville)のフレンチランドリー(The French Laundry)、もうひとつは、セントヘリーナ(St. Helena)にあるメドウッド(The Restaurant at Meadowood)。
前者は、アメリカで最も著名なフレンチシェフ、トーマス・ケラー氏の伝統的なフレンチ、後者は、豊かな自然で育つ野生の作物も取り入れたモダンアメリカンのレストランです。
この2軒に、昨年10月「三つ星」に昇格したサンフランシスコのセゾンとベニューが加わり、ベイエリアの「三つ星」は4軒になりました。
そして、「ミシュラン二つ星」とされるレストランがサンフランシスコ市内には4軒あって、その中の一軒が、今回ご紹介したクインス(Quince)です。
サンフランシスコの金融街のはずれにあって、有名な三角ビル「トランズアメリカ」から二本北に行ったパシフィック通り(Pacific Avenue)にあります。
この辺りは、ジャクソンスクエア(Jackson Square)という地区で、昔サンフランシスコが街となった頃には、船着き場だったところです。ですから、レンガ造りのビルが残る歴史地区となっていて、クインスも、1907年に建った古いビルを改造してレストランにしています。
こちらのクインスが気に入った理由は、まず、最初のアミューズ(付け出し)にありました。
本格的なコース料理の前に出てくるアミューズが3品あって、各々のアミューズにも、たくさんの素材が使われていたのですが、何かひとつの食材が勝ち誇っているわけでもなく、まとまりがあって、複雑なことをしているはずなのに、単純に「あ~、おいしいねぇ」と、ため息がもれるような感じ。
すっかり目移りしてしまったので、食材すべてを覚えているわけではありませんが、どれもかわいくて、おいしかったのはよく覚えています。
クインスは「イタリアン フレンチ」と呼ばれるレストラン。
メニューは、野菜を中心としたおまかせコースと、シーフードとお肉を中心としたおまかせコースの2種類です。
オーナーシェフのマイケル・タスクさんは、ニューヨークの料理学校を卒業したあと、フランスとイタリアで修行を積み、アメリカに戻ってからはヌーベルキュイジーヌの先駆的存在バークレーのシェパニーズ(Chez Panisse)で働き、またフランスへと修行に旅立ちます。
その後、ベイエリアの有名イタリアン店などでシェフを務めながら、自分の店を持つプランを育み、ついに2003年、サンフランシスコ市内のべつの場所でクインスを開きます。その6年後、現在の場所に移転して「二つ星」の栄誉に輝きます。
もちろん、アミューズばかりではなく、そのあとのコース料理はどれもおいしかったのですが、わたし自身の印象は、決して奇をてらうことなく、基本に忠実で、なおかつ斬新さも取り入れた繊細なお料理、といった感じでしょうか。
やっぱり、何事も基本があって、その上に自分なりの応用が花開くのでしょう。
オーナーシェフのマイケルさんは、大学で美術史を学んでいたときに料理の世界にひかれたそうですが、そのせいか、プレゼンテーションもひと味違った印象です。
それから、ワインペアリング。最初のシャンペンは「アメリカではここだけ」という珍しいものでしたし、イタリア・トスカーナ地方のシエナ豚に合わせたフランス・ローヌ地方のシラーは、この2006年ヴィンテージのあとワインメーカーが辞めてしまったので「2007年は存在しない」という希少価値のあるものでした。
ワインはよくわかりませんが、このスパイスの効いたシラーが、豚料理にはよく合っていました。とくに、「角煮風」の脂ののったひと口サイズには、最高のマッチングでした!
そして、ワイングラスも、すべて形が微妙に繊細に違っていたのが印象的。ワイナリー製作の白ワイングラスなんて、細長いステムが20センチくらいあって、「どうやって洗うんだろう?」と、いらぬ心配をしてしまいました!
というわけで、「イタリアンとフレンチ」が融合したクインス。
もしかすると「三つ星」よりもおいしいんじゃないかな? と思える「二つ星」レストランなのでした。
まあ、食べ物もワインも、自分の好きなものが「一番良いもの」。星が何個ついていようと、あんまり大差はないのでしょう。
クインスのお隣には、シェフ・マイケルさんのもうひとつのお店、田舎風イタリアンのコトーナ(Cotogna)があるそうな!
近いうちに、こちらにも足を運びたいと思っています。