Essay エッセイ
2012年12月30日

オバマ家のお気に入り

アメリカでは、クリスマスには何かしらプレゼントをあげたり、もらったりするのが習慣となっています。

もちろん、「クリスマス=プレゼント」という構図は、日本でも多くの方が連想されることだと思います。

というわけで、今日の話題は「オバマ家のお気に入り」。

いえ、オバマ大統領ご夫妻にお会いしたことはないので、クリスマスプレゼントにご夫妻が欲していらっしゃったのではないか、と想像するモノです。

まずは、大統領ご自身。

今年は大統領選挙もありましたので、テレビにも大統領や共和党挑戦者ミット・ロムニー候補のパロディーがさんざん流れました。

そんな中、大統領ご自身がお気に入りなのは、『Key & Peele(キー&ピール)』というコメディー番組。

キーガン-マイケル・キーさんとジョーダン・ピールさんというコメディアン二人組の番組で、ケーブルテレビ局コメディー・セントラルが放映しています。

二人が登場する2、3分の短いスキットで構成されていて、テンポの速い、30分番組となっています。

今年1月にデビューしたわりに、9月には第2シーズン、11月末には第3シーズンが始まった人気番組ですが、何がそんなに受けているのかというと、「オバマ大統領の怒りの代弁者」というキャラクター。

英語で「anger translator(怒りの通訳)」と呼ばれる「Luther(ルーサー)」というキャラクターなのですが、ピールさん扮する(とっても冷静な)オバマ大統領の後ろに「背後霊」のように立ち、オバマ大統領のホンネを粗暴な言葉で代弁してあげる役なのです。

いつもオバマ大統領って冷静な感じがするではありませんか。でも、ホントは心の中で「毒づきたい」こともあるんじゃないの? と、キーさん扮する「ルーサー」が心の叫びを訴えてあげるんです。

ときにルーサーは飛び跳ねながら、意味不明なことを叫び、放送禁止用語(放映時にはピーッという音で消される)もどんどん飛び出してくるので、椅子に座って冷静沈着に物を語るオバマ大統領との対比が、ひどく滑稽なんですよ。

そして、オバマ大統領ご自身も気に入ってらっしゃる。

いえ、これはホントのお話です。だから、大統領ご自身が「ルーサー役」のキーさんに電話して、実際、ホワイトハウスに二人を招いて会われたそうなんです!!

大統領からの電話なんて、お二人もものすご~くびっくりしたそうですが、キーさんいわく「大統領は、テレビで見るよりも背が高く、クールでかっこ良かった」ということでした。

そんなわけで、今発売中の『キー&ピール』第1シーズンのDVDは、オバマ大統領だって欲しいと思っていらっしゃるんじゃないか、と勝手に想像してみたのでした。

(いえ、実は、わたし自身が欲しいんですけどね!)。


そして、奥方のミシェルさんといえば、実際にご所望の品があったのです。

いえ、クリスマスプレゼントだったかどうかはわかりませんが、11月中旬、ホワイトハウスから公共放送のPBS(Public Broadcasting Service)に電話があって、あるDVDをホワイトハウスにお届けしたそうですよ。

このミシェルさんご所望のDVDは、『Downton Abbey(ダウントン・アビー)』というイギリスのBBCが制作した歴史ドラマシリーズ。

20世紀初頭、イギリスの領主の館「ダウントン・アビー」で繰り広げられる、領主クラウリー家の人々と、館で働く方々のドラマです。

いわゆる、上階(upstairs)に住む一家と下の階(downstairs)で働く人々両方に焦点を当てた、「歴史小説」風のドラマなのです。

アメリカでは、本国イギリスにちょっと遅れて、2011年1月に放映が始まったのですが、今年(2012年)1月に第2シリーズが始まった頃には、かなりの人気となっていました。

登場人物が多いので、話に広がりがあるところも受けているのでしょう。

そして、間もなく1月から始まる第3シリーズを目前に、現在、話題沸騰中!

まあ、(真面目な番組の多い)公共放送の番組が、これほど話題になるとは誰も予想していなかったようですが、なにやら「ダウントン・アビーマニア」の間では、イギリスの上流階級をまねて「アフタヌーンティー・パーティー」も流行りつつあるとか!

イギリスの「お紅茶」とスコーンを片手に、レディーたちは何を語らうのでしょうか?


1912年、タイタニック号の沈没に端を発する「跡取り探し」から始まるオリジナルシリーズは、第2シリーズでは、第一次世界大戦やスペイン風邪の大流行(the 1918 Spanish flu pandemic)といった悲劇を乗り越え、これから身分制度の崩壊や女性の社会進出と、世の激変期へと発展していきます。

時代物が好きな人にも、恋愛物が好きな人にも、社会派が好きな人にも、かなり「噛みごたえ」のあるドラマとなっているのです。

何を隠そう、わたし自身もハマっていて、昨年初め、手術をして歩くのもままならない生活を送っていた頃から、「未知の世界」イギリスのお話に夢中になってしまったのでした。
(昨年11月にオリエント急行でイギリスに行くことになったのも、このドラマの影響なんです!!)

まあ、華やかな上階とは裏腹に、下の階で働かれる執事(butler)やハウスキーパー(housekeeper)、料理人やメイドさんといった方々は、とても大変だったんだなぁと実感できたりするんですよね(なにせ朝から晩まで働くメイドさんは、2週間に半日しかお休みがなかったらしいですよ!)。

そういう意味では、まるで自分がドラマの中で生きているような感じでしょうか。

今年2月に書いた「Butler’s Pantry(執事の配膳室)」という英語のお話も、実は、このドラマで疑似体験したことだったのでした。


というわけで、ミシェルさんがどうして『ダウントン・アビー』にハマったのかはわかりませんが、きっとお好きなキャラクターがいらっしゃるのかもしれませんね。

だから、1月までは待てずに、第3シリーズをPBSに届けてもらったようです。

いえ、庶民は、1月6日のシリーズ初回まで待たないといけないんですよ。でも、ファーストレディーには、ドラマを先取りする「権力」があるんですねぇ。

ずるい、ずるい!!

追記: イギリスの写真は、「マナーハウス(領主の館)」で有名なコッツウォルズ地方にある the Lords of the Manor(ローズ・オブ・ザ・マナー)というホテルです。

それから、「ダウントン・アビー」という名前ですが、どうして「アビー(修道院)」と呼ばれているのかな? と疑問に思われた方もいらっしゃることでしょう。
 なんでも、16世紀半ば(1530年代)、時のイギリス王ヘンリー8世が「修道院解散令(the Dissolution of the Monasteries)」なるものを発令し、イギリス、ウェールズ、アイルランドじゅうの修道院や尼僧院を解体し、建物は貴族たちに譲ったりしたそうです。それまでの国教ローマカトリックから決裂し、イギリス国教会を打ち立てたヘンリー8世の確固たる意思表示だったのでしょう。
 ですから、貴族の館の中には修道院だったものもたくさんあって、「~アビー」と呼ばれるようになったということです。


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