カニ漁に「待った!」が
11月の3週間を日本で過ごしたあと、カリフォルニアに戻ってみると、こちらは秋本番でした。
東京よりも紅葉は進んでいるし、雨がぱらついたり、朝晩は霜が降りたりして、とにかく肌寒い。
けれども、感謝祭の木曜日(11月26日)を迎えると、雲ひとつない青空!
太陽が顔を出すと、心の中も、ポカポカと暖かくなるのです。
ところが、そんな今年の感謝祭は、カリフォルニアに災難が・・・。
なぜって、「感謝祭の定番」が食卓から消えてしまったから。
いえ、アメリカじゅうの家庭の食卓にのるターキー(turkey、七面鳥)ではありません。
サンフランシスコ・ベイエリアをはじめとして、西海岸で愛されるダンジェネス・クラブ(Dungeness crab)というカニのことです。
そう、11月になると解禁となる、カニ漁。それは、アメリカも同じことで、例年、感謝祭の頃になると、カニ漁はエンジン全開になります。
待ってました! とばかりに、カニ漁船が戻ってくる埠頭に詰めかける「カニ好き」たちも少なくありません。
観光名所となっている フィッシャーマンズ・ウォーフ(Fisherman’s Wharf、漁師の埠頭)の看板にも、誇らしげにダンジェネス・クラブが描かれています。
ところが、今年は、カニ漁に「待った!」がかかりました。
なんでも、夏の間、海に繁殖した植物プランクトン(phytoplankton)が原因で、カニを検査してみると、毒(biotoxin、生物毒)を持っているケースがあった。それも、人体に害を及ぼす恐れがあるほどの検査値が・・・。
秋になって水温が下がると、カニの身や内臓からは毒も検出されなくなりましたが、2回連続してクリアしなければ、カニ漁にはゴーザインが出ない。
というわけで、現在は「おあずけ状態」になっているのですが、これはカリフォルニアだけの話ではなくて、隣接するオレゴン州とワシントン州でも同じ状況なんだとか。
いつもは、12月1日には解禁となるダンジェネス・クラブ漁が、オレゴン全域とワシントンの一部区域で延期となっているそうです。
(Photo of crab fishing by John Green / Bay Area News Group Archives, from San Jose Mercury News, November 25, 2015)
この自然界に発生する毒の正体は、ドウモイ酸(domoic acid)。
普段から、貝やその他の海洋生物は自然に持っている毒素だそうですが、今年は、植物プランクトン、とくに珪藻(けいそう)が大繁殖したせいで、毒のレベルが普段よりも高くなってしまった。
なんでも、人があやまっていっぱい食べると、食中毒を起こすだけではなく、神経毒なので死に至こともあるという、怖い毒です。
ですから、いくらダンジェネス・クラブが「感謝祭の定番」とはいえ、食卓から消えてしまったことに対して、不平を言うわけにはいかないのでした。
さらには、災難はダンジェネス・クラブだけでは終わらず、今年は、イカの漁獲量が、例年の3分の1しかないとか。
たとえば、シリコンバレーから山を越えたサンタクルーズの港は、イカ漁が盛んで、ここ数年は「大漁」で潤ってきました。
が、今年は、地球をおおっている「エル・ニーニョ現象」のせいで、イカが獲れないのではないかと言われています。(Photo by Shmuel Thaler / Santa Cruz Sentinel, from San Jose Mercury News, November 26, 2015)
エル・ニーニョ(El Niño)は、太平洋の水面の温度が例年よりも高いことで起こると考えられていますが、そうなると、イカが食べる餌が激減して飢えてしまうか、餌を探して水中深く潜ってしまう。だから、イカ漁にひっかからないのではないか? とも言われています。
が、どんな原因であろうとも、イカは、アメリカでは「カラマリ(calamari、イカリングのフライ)」として大人気の食材。(Photo from Wikimedia Commons)
そう、「イカ刺し」や「イカ飯」では食べないけれど、衣をつけて揚げると、みなさんパクパクと食がすすむのです。
ですから、カニだけではなく、イカも少ないと聞くと、「収穫」「ご馳走」「感謝」がテーマの感謝祭のシーズンには、とっても寂しい気分になるのでした。
ちなみに、ダンジェネス・クラブの最新の検査結果は、明日(12月3日)発表されるそうです。
11月中旬の検査では、調べた12匹すべてが基準値をクリアしたそうですが、2回続けて検査をパスして、すぐにでも船を出せるようにと、カニ漁師さんたちは、準備万端です。
カリフォルニアは、アメリカの「サラダボウル」と呼ばれるほど、野菜や果物の名産地であると同時に、海の恩恵を受けてきた場所です。
サンフランシスコからハーフムーンベイ、サンタクルーズからモントレーベイと、昔から小さな漁船で魚やイカ、カニ、あわびを獲ることを生業(なりわい)としてきました。
1930年代から50年代にかけては、こちらの『マルセラ号』のような小型漁船が主流でした。
ひとり、ふたりで漁に出て行っては、その日のうちに帰るので、冷蔵設備も何もない、というシンプルな漁船。
今は、船もちょっとは立派になり、漁獲量も増えてはいるでしょうが、昔ながらの海に頼る生活を続けている方々もたくさんいらっしゃいます。
そんな漁師さんにとっては、これ以上ダンジェネス・クラブ漁が「おあずけ」になったり、「中止」になったりすると、それこそ死活問題。
ですから、漁師さんたちも、お店で売る人たちも、「カニ好き」たちも、どうか、カニ漁にゴーサインが出ますように! と、祈っているところなのです。
後日談: 残念ながら、12月3日の検査結果報告会では、カリフォルニアのカニ漁に「ゴーサイン」は出ませんでした。
漁師さんや市場関係者を招いて開かれた報告会では、「サンフランシスコからサンタバーバラの区域では基準をクリアしたが、検査値が高い区域もあり、いまだ経過観察が必要だ」と発表されています。
とくに、ダンジェネス・クラブよりも、ロック・クラブ(rock crab)の検査結果が良くなかったそうで、「もうちょっと待ってよ」と判断されたとか。
ロック・クラブは、ダンジェネスの親戚で、おもにサンタバーバラ付近の南カリフォルニアで獲れるカニ。
対して、モントレー以北の北カリフォルニアで獲れ、冬季が旬のダンジェネス。
今シーズン、カリフォルニアで食べられるダンジェネス・クラブは、カナダから輸入したものですが、今は「禁止令」が出ているオレゴン州、ワシントン州では、間もなく「解禁」となることが予想され、クリスマスの時期には、カリフォルニアでも新鮮なカニが食べられるのではないか、と期待されています。
食べられないと知ると、もっともっと食べたくなる。「カニ」に対する執着心は、西も東も同じですね!