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2016年10月25日

カリフォルニアの住民投票: マリファナと極刑、アダルト業界

Vol. 207

カリフォルニアの住民投票: マリファナと極刑、アダルト業界

今月は、11月8日の「投票の日(Election Day)」をひかえて選挙のお話となっておりますが、(風変わりな)カリフォルニア州にフォーカスいたしましょう。

<頭の痛いカリフォルニアの住民投票>
ご存じのように、今年は、四年に一度の大統領選挙(Presidential Election)の年。

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が、誰が立候補しようと、民主党候補(今年はヒラリーさん)が州の「選挙人団(Electoral College)」を獲得する、カリフォルニア。
選挙を実施する前から、この55票という大票田は、ブルー(民主党)に色づけされていて、大統領候補がここで選挙運動することすら、お金の無駄遣いなのです。

面白いことに、音楽ストリーミングの先駆者パンドラPandora Radio)のサービスでは、ユーザの郵便番号と音楽の好みさえわかれば、90パーセントの確率で支持政党(political affiliation)がわかる、とCEOティム・ウェスタグレン氏が豪語されていました。
ゆえに、「パンドラは政治広告のすぐれたプラットフォームである」というわけですが、「カリフォルニアの都市部に住んでいる」というだけで、過半数が民主党支持者なのだから、あんまり分析力の自慢にはならないかもしれません。

カリフォルニア人にとっては、そんな「決まりきった」大統領選挙よりも、もっと頭を悩ませることがあるのです。

それは、さまざまな法案(ballot measure)を決する住民投票。

そもそも、アメリカという巨大な国の東と西を比べると、どうしても西には、西部開拓時代の「独立心」が根付いているのか、「政治家ではなく、自分たちに決めさせろ!」という意識が高い。
ですから、6月の予備選挙(Primary Election)や、11月の総選挙(General Election)には、住民が決めるべき法案のオンパレード。
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住民に問う法案には、州や市の議会が提出するものと、州民が署名活動を経て発案するものの2種類があって、法令や州憲法改正を決するのですが、まあ、毎回たくさんの法案が出されるものですよ。

いえ、有権者は「はい(賛成)」か「いいえ(反対)」で答えるわけですが、なにせ今回の総選挙には、州全体に関する法案だけで、17箇条!

写真の冊子は、州レベルの法案を説明した資料で、投票ギリギリの10月中旬になって、登録有権者(注)の家庭に配布されたもの。
220ページを超える資料ですが、後半の法律草案の部分だけで105ページもあって、こんなに分厚い資料は、カリフォルニアといえども、なかなかお目にかかれるものではありません!

当然のことながら、ほかにも「大統領」「連邦議員」「州議会・市議会議員」から「近所の学区長」を選ぶわけで、州民としては、頭がクラクラっとするような賑々しさなのです。

<マリファナの合法化>
それで、州民の決する法案が17件もあると、知名度の高いものと、そうでもないものに分かれるわけですが、まあ、一番有名なものは、「提案64(Proposition 64)」でしょうか。

何かというと、俗に「マリファナの合法化(marijuana legalization)」。こちらは、州民発案の法令となりますが、「21歳以上の大人に対して、少量の娯楽的な使用と自宅での栽培を認めてあげよう」というもの。

カリフォルニアでは、すでに「医療用マリファナ(medical cannabis)」は認められていて、自治体が認可した施設(medical dispensary)での栽培や、処方箋を持つ患者への販売が許されています。

Airfield Supply in San Jose-1.png

北カリフォルニア最大のサンノゼ市(人口約103万人)では、認可施設は16カ所。
密集したサンフランシスコ市(約86万人)には、28カ所あるそうで、「医療用」と限られているわりに、ダウンタウンを歩けば、あちらこちらからマリファナの煙が匂ってきます。
(写真は、サンノゼ市にある認可施設: Photo by Karl Mondon / The Mercury News)

医療用マリファナの効用は広く認められていて、さまざまな病気による痙攣(けいれん)やふるえ、がんの化学療法による痛みや吐き気、食欲減退など、薬の効き目が認められない場合や副作用が強いケースに、驚くほど効果を発揮すると言われます。

一方、今回州民が問われているのは、処方箋を持つ患者でなくとも、少量であれば、21歳以上の誰もが娯楽で使えるようにしようじゃないか、というもの。

アメリカ全土では、すでにアラスカ、コロラド、オレゴン、ワシントン各州で、娯楽用のマリファナ(recreational marijuana)が認められています。
そして、11月の総選挙では、カリフォルニアに加えて、西部のネヴァダ、アリゾナ、東部のメイン、マサチューセッツ各州で「娯楽マリファナ」の行方が決まることになります。
Airfield Supply in San Jose-2.png

そもそも、アメリカでは、1930年代までは、マリファナは「薬」として医者が処方していたそうで、「禁止薬物」と定められたのは、1937年のこと。

その後、ヒッピー文化の全盛期1970年には、連邦政府が「医療分野では何のメリットもない麻薬」として、アヘンやLSD、幻覚作用のあるキノコなどと同列に、「スケジュール 1」という「もっとも危険な薬物」に指定しています。

ですから今でも、国から見れば、マリファナは「違法劇薬」。研究機関で大量のマリファナを保持できるのは、全米で唯一、ミシシッピ大学の研究所に限られます。
ここでは、全米から押収されたマリファナが、銀行の金庫よろしく厳重に保管されていて、全米の研究機関は、ここから「配給」を受けなければなりません(ゆえに、研究も極端に制限された状態です)。

そんな歴史的背景があるので、マリファナに関しては「科学的な謎」や「迷信」がたくさん存在するわけですが、これまでの研究で蓄積されたものもあります。

マリファナを使用すると、脳全体にあるレセプタ(受容体)が影響を受けて、いわゆる「ハイ」な気分になったり、創造力が増したりと、「違った自分」を体験できると言われます。

おもな成分には、THCTetrahydrocannabinol)とCBDCannabidiol)があり、前者は、とくにレセプタの多い前頭前皮質に影響を与えるので、「先のことを計画する」とか「衝動を抑制する」ことが難しくなり、逆に、違った目でモノを見るようになるので、芸術性がグンと増すことにもなります。

Medical cannabis KQED News July 21 2016.png

後者のCBDは、THCのように「ハイになる」ことなく痙攣や痛みを抑えるので、医療用マリファナには、CBDの成分が高いものが有効となります。
一般的には、医療用マリファナにもTHCの成分が入っていますが、発育を妨げるほどの重症の小児患者を想定して、THCがほとんど含まれない品種も開発されています。
(Photo from KQED News)

いずれにしても、マリファナといえば、近年は、高校生の4割近くが使用を認めるほど手軽な麻薬となっていて、「少しくらいだったら、べつに娯楽で使ってもいいんじゃない?」という意見が、全米で強くなる傾向にあります。

カリフォルニアでも、「6割が娯楽使用に賛成、3割が反対」という世論調査があって、たぶん「提案64」は通るだろうと予測されます。
合法化することで、今まで隠れていた「売り上げ」に対して、きちんと税金を払ってもらおう! という大義名分もありますし。

けれども、個人的には、合法化には反対なんです。

まず、判断力が鈍ったまま運転するドライバーが増えて、「交通事故が増える」のが怖いではありませんか。だって、ヘラヘラと笑いながら、「あ〜、人にぶつかっちゃったぁ」なんて言われたら、たまったものではないですもの。

そして、「マリファナくらいなら大丈夫」という軽い気持ちは、間違っていると思うのです。一般的には「マリファナには習慣性がない」と言われますが、実際には、使用者の12パーセントは依存症となるそうですよ(米国疾病管理予防センター(CDC)が9月に発表した、最新2014年のデータ)

なにせ、大量のドーパミンが脳に出ることで「ハイで幸せ」な気分になるわけですから、これがクセにならないと考える方がおかしいのではないでしょうか。
マリファナが「ゲートウェイ・ドラッグ(麻薬の玄関口)」と言われるゆえんは、ここにあるのでしょう。そう、コカインやヘロイン、はたまた何十種と出回る化学合成薬物といった習慣性の強い麻薬への「入り口」となることもあるのです。

と、私見はさて置き、近いうちにカリフォルニアでマリファナが解禁となったら、「免疫のない留学生」をはじめとする若者が、道を踏みはずす結果にならなければいいなと願っているところです。

<「極刑」と「アダルト業界」>
というわけで、なかなか難題の住民法案。「提案64」のほかにも、16件もある州民への問いかけですが、簡単にふたつだけご紹介いたしましょう。
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ひとつは、「ふたつでワンペア」みたいな提案ですが、極刑に関する「提案62」と「提案66」。

そう、死刑death penalty)に関する問いかけですが、前者は「死刑廃止案」、逆に後者は「死刑を迅速に執り行おう」という法案です。

もちろん、民主党の州支部や主要新聞は「死刑を廃止し、保釈なしの終身刑」を推奨しているのですが、アメリカ人の心情としては、まだまだ極刑を望む声も強く、両提案の行方は不明です。

一般的には、これだけ提案件数が多いと、とりあえず「ノー」と答える人が増えるので、両方とも通らない(現状維持の)可能性もありますが、両方とも通って「自己矛盾」をきたす可能性もあります(その場合、どっちが勝つんでしょうか?)。
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そして、もうひとつご紹介したい法案は、「アダルト映画の出演者にコンドーム着用を義務づける」という「提案60」。

なんでも、州の法律では、アダルト映画業界の従事者は、危険な労働環境(workplace hazards)にさらされていると定義され、定期的に健康診断を受けることなどが義務づけられているとか。
この労働衛生安全要件の中には、コンドーム着用も入っているわけですが、現場では、プロデューサーが理解を示さないこともある。だから、労働者を性感染症から守るために、追加の法律が必要なんだ! というわけです。

こう聞けば、「ま、いいんじゃない?」と思うわけですが、この法案には落とし穴があって、州や自治体ではなく、法案の提案者(団体)が業界の行方を牛耳る結果になるんだとか。
ですから、政治史上の「珍事」ではありますが、民主党と共和党が一致団結して反対しているそうな。

実際には、アメリカでは昨年、三大性感染症の報告件数がグンと増えて記録を更新したし(今月発表のCDCデータ)、「業界従事者の四人にひとりは性感染症にかかる」という研究結果もあるそうです。

でも、多くの州民にとっては、「どうしてこんな法案が投票用紙に載ってるの?」という提案ではありました。

<郵便で投票するカリフォルニア人>
というわけで、風変わりなカリフォルニアの選挙事情。

カリフォルニアのように大きな州では、インターネットによる投票は実施されていませんので、選挙は「投票用紙(paper ballot)」で行なわれます。

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が、さすがに投票日に投票所(polling place)に行くことは少なく、たとえば、「シリコンバレー」と呼ばれるサンタクララ郡では、8割近くの人が、郵便での投票(vote by mail ballot)を選択しています。

カリフォルニアでは、投票に関する資料と投票用紙が届いた時点で、早期投票(early voting)や郵便投票が可能となりますので、10月後半(法令では10月10日)には、早々と投票できることになります。ですから、「大統領候補者討論会」の最終回(10月19日開催)なんか待たずに、さっさと投票した人も多いというわけです。
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が、法案には微妙なものも多く、連日連夜「イエスと投票しよう!」「ノーと投票しよう!」とテレビコマーシャルが流れると、いったいどっちが正しいの? と、州民の心も右へ左へと揺れ動くのです。

さらには、「税金」がからむ法案も多いので、「理想はそうなんだけど、向こう30年間、税金が増えるとなるとねぇ・・・」と、またまた悩みはつのるのでした。

(注)登録有権者: 蛇足ではありますが、選挙制度について少々。アメリカでは、市民権がないと投票できませんが、それだけではなく、在住する郡(county)に有権者登録(voter registration)をしないと投票できません。
カリフォルニアの場合、スペイン語、中国語、日本語をはじめとして、9ヶ国語の言語サポートも整っていますが、投票権のある2,500万人のうち、登録しているのは1,800万人という現状です。

Voter registration at Fresno State campus.png

そんな中、今年の選挙戦で特筆すべき点は、ヒスパニック系をはじめとして、「査証を持たない移民(undocumented immigrants、いわゆる不法移民)」も参加して、登録運動が広まったことでしょうか。
「自分たちは投票できないので、せめて投票できる立場の人には、ちゃんと投票してほしい」という願いが込められていますが、選挙に参加するのは、市民の義務であり、「特権」でもあることを訴えていらっしゃるように感じます。
(Photo by Ray Chavez / The Mercury News)

夏来 潤(なつき じゅん)

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