Life in California
ライフ in カリフォルニア/歴史・習慣
Life in California ライフ in カリフォルニア
2011年07月12日

カリフォルニアの熊さん

前回は、「カリフォルニア共和国の旗」と題して、カリフォルニア州の旗の起源をご紹介いたしました。

1846年、まだメキシコの統治下にあった頃、たった25日だけ「カリフォルニア共和国(California Republic)」だったことがあって、その反乱の旗印である「熊の旗(the Bear Flag)」が、のちに州の旗となったというお話でした。

そして、今年は、熊の旗がカリフォルニアの旗となって100周年記念の年!


というわけで、旗の起源はわかったのですが、次に疑問がわいてきませんか?

どうしてカリフォルニア共和国の旗には、クマさんと星が出てくるのだろうと。

「月に吠えるオオカミ」なら、納得のコンビネーションにも思えるのですが・・・。

まず星の方ですが、これは、テキサスの旗をまねたものだそうです。

カリフォルニアと同じく、テキサスもメキシコに隣接する州なので、メキシコの領土だった時代があるのです。

このメキシコの統治から逃れようと、1835年にテキサス革命(the Texas Revolution)が起きました。

革命戦争は翌年に終わりましたが、何やかやと戦いは尾を引き、1840年代に入っても両者のこぜり合いは続いていました。

この争いの時代に、みんなを鼓舞しようとつくられたのが、「一つ星の旗(the Lone Star Flag)」。

一つ星は、メキシコに対抗するみんなの「結束(solidarity)」を表すものだそうです。

この一つ星の旗には、それこそいろんなバージョンがあったそうですが、現在、州の旗とされているものは、1838年にテキサス共和国(the Republic of Texas)の議会で採択されたもの。

この旗が、テキサス人の「独立精神(independent spirit)」を表す象徴ともなっているのですね。

1846年、北カリフォルニア・ソノマに住むアメリカ人定住者にも、テキサス革命のことは十分に聞こえていて、自分たちの独立精神を盛り込もうと、テキサスの「一つ星」を反乱の旗の図柄に採用したのでした。


そして、もうひとつの図柄であるクマさんは、「強さ(strength)」を表すものなのです。

言うまでもなく、クマはとっても強い動物ですので、自分たちの力を誇示するためにクマさんを採用したのでした。

まあ、前回のお話にも出てきたように、ウィリアム・トッドさん手描きのクマがちょっとお粗末だったので、「あれは豚さんかな?」と旗を見上げた住民が困惑したそうですが、何を隠そう、このクマは、グリズリーベア!

ご存じのように、グリズリーベア(the grizzly bear)は、ユーラシア大陸から渡って来たヒグマ(the brown bear)の一種で、北米大陸に住むクマの王様みたいなものですね。

「茶色グマ」の一種ではありますが、毛先が灰色なので、「grizzled(灰色の毛の)」という形容詞からグリズリーベアと呼ばれるようになったそうです。そう、王様は、灰色に輝くマントでおしゃれをしているのです。

体は3メートルほどの大きさにもなりますし、手の爪もとっても長く、こんなのにひっかかれたら、ひとたまりもありません。

カリフォルニア共和国の時代には、カリフォルニアにもグリズリーベアがたくさんいて、北米大陸の中でも最も集中的に生息する地域だったそうです。

ところが、カリフォルニアがメキシコから独立してアメリカの一員となった頃(1850年)から、どんどん激減していって、1922年、内陸部のフレズノ近くで撃たれた個体が、カリフォルニア最後の野生のグリズリーとなったそうです。

つまり、カリフォルニアではグリズリーは絶滅してしまって、今は一頭もいないのです!

州の旗にもなっているのに!!

サンフランシスコ近郊では、1880年代にサンタクルーズ山中で撃たれた個体が最後のグリズリーとなったそうですが、アメリカ人が住み始めて、わずか数十年のうちに絶滅してしまうとは、なんとも嘆(なげ)かわしいことではありませんか。


今では、カナダを中心として、アメリカのアラスカ、モンタナ、アイダホ、ワイオミング、ワシントンと、カナダに近い地域に生息するそうです。

カナダのロッキー山脈では、まだまだグリズリーを見かけるチャンスは残されていて、世界遺産・カナディアンロッキー山脈公園群(the Canadian Rocky Mountain Parks)のバンフ国立公園(Banff National Park)では、ときどき観光客の前にも姿を現すようです(残念ながら、わたしは見かけませんでしたが)。

カリフォルニアのグリズリーが絶滅してしまった原因は、もちろん乱獲にあったようですね。

自分たちの領域を広げる上で、野生のグリズリーと行き当たる。人間だけではなくて、牛などの家畜を襲ったりもするので、実益と狩りの楽しみを兼ねて、どんどん銃で撃ち殺す。さらに、グリズリーが獲物に戻って来る習性を利用して、やられた家畜に猛毒のストリキニーネをしのばせておく。

そうやって殺したグリズリーには、一頭いくらと懸賞金が付いていました。

その一方で、グリズリーベアは、繁殖力が弱い種族なんだそうです。いっぺんにたくさんの小熊を生まないし、3年に一度ほどしか繁殖期がやって来ない。
 だから、なかなか数が戻らなくて、激減していったのでしょう。

ちなみに、現在、州の旗に登場するクマさんは、1889年、南カリフォルニアで捕らえられ、サンフランシスコに連れて来られたグリズリーをモデルにしたものだそうです。

その名も「モナーク(Monarch、支配者)」というオスのグリズリー。
 このクマさんがサンフランシスコで亡くなった1911年に、現在のカリフォルニアの旗が採択されています。

(このモナークくんは剥製となって、サンフランシスコ・ゴールデンゲート公園内の科学アカデミーに飾られているそうです。そして、そもそも捕獲を命じたのは、新聞王のウィリアム・ハースト氏。「ハースト城(Hearst Castle)」と呼ばれる豪邸をつくった大富豪ですが、彼がサンフランシスコ市にモナークくんを寄付したのがきっかけで、サンフランシスコ動物園ができたそうですよ。)


このモナークくんを始めとするグリズリーベアの怨みではないでしょうが、近頃、カリフォルニアでは、クマさんが人前に出没すると問題になっています。

とくに、ネヴァダ州との境にあるタホ湖(Lake Tahoe)は、アラスカを除くとブラックベア(the American black bear、アメリカクロクマ)の一番の密集地帯だそうで、キャンプ場では頻繁にその姿を見かけるそうです。

つい先日も、リチャードソン・キャンプ場でテントを張って寝ていると、クマさんがテントを破って襲って来たというニュースが流れていました。

この方は、背中をひっかかれただけで済んだそうですが、とくにタホ湖の南側ではクマさんの目撃証言がたくさん聞こえています。

そして、7月上旬まで営業する周辺のスキー場でも、ノソノソと歩くクマさんがビデオに収められていました。

今年は雪がとても深く、雪解けが遅れているので、食べ物を求めて人前にやって来るのでしょう。

食べ物は、テントや車の中に置いてはいけませんし、ゴミだって、このような頑丈な金属の箱に入れるのが鉄則ですね。

やはり、いくら開発が進んでいるとはいえ、カリフォルニアにはまだまだ自然が残されています。一歩踏み込むときには、何かに遭遇するかもと心構えをしておいた方がいいかもしれませんね。

というわけで、話が大きくそれてしまいましたが、カリフォルニアの「クマさんと星」には、深~い意味が込められているというお話でした。

(写真出典:州の旗とグリズリーベアはWikipediaより)


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