サンノゼのお盆祭り
7月4日の独立記念日の翌週、サンノゼ市では、恒例の「お盆祭り」が開かれました。
以前、『アメリカのお盆フェスティバル』と題してご紹介したこともありますが、カリフォルニアでは、7月に入ると、あちらこちらでお盆祭り(Obon Festival)が開かれます。
あくまでも「お盆」ですから、仏教寺院のある街で開かれるのですが、サンノゼでは日本街(Japantown)にある別院(San Jose Buddhist Church Betsuin)というお寺で開かれます。
毎年、サンノゼ市の翌週には、マウンテンヴュー市のお寺(Mountain View Buddhist Temple)、その翌週には、サンフランシスコ市のお寺(Buddhist Church of San Francisco)と、7月はお盆祭りラッシュとなります。
サンノゼにもサンフランシスコにも、19世紀末に形成された日本街が残りますが、サンノゼのお盆祭りは今年で第80回、サンフランシスコは第77回の開催となります。
そんな歴史ある祭りですが、アメリカのお盆祭りは、日本を知る目で眺めてみると、ひなびた、懐かしい感じがするのです。
お寺では、日に何回か講話が行われ、その合間に太鼓に耳を傾けたり、フードコートでヤキトリをほおばったり、屋台でゲームを楽しんだりと、昔懐かしい「縁日」の雰囲気でしょうか。
それで、何年かぶりにサンノゼのお盆祭りに足を向けたわたしは、堂々たる太鼓の響きを楽しみながらも、屋台のゲームに興味をひかれたのでした。
いえ、今回は何もやらなかったのですが、「こういったゲームは、いったいどこから来たんだろう?」と興味津々。
だって、「金魚すくい」とか「ヨーヨー釣り」とか、日本の屋台のお遊びとは明らかに違います。
空きビンに向かって輪っかを投げる「輪っか投げ(Ring toss)」やバスケットボール・シュートは、アメリカのストリートフェスティバルでも見かけますが、その他はちょっと異質で、日本街独特のお遊びなんじゃないかな? と思ったのでした。
もちろん、ちょうちん(lantern)を釣り上げるゲームなどは、日本街ならではの工夫ではありますが、たとえば、5セントを白と黒の枠に投げ入れる「ニッケル投げ(Nickel pitch)」や、10セント(ダイム)を色枠に投げ入れる「カラースポット(Color spot)」などは、実際の硬貨を使うので、ギャンブル性が強いではありませんか。
枠にうまく入ったら、白だと5倍、黒だと10倍になるそうですが、なんとなくカジノのルーレットみたいでしょ。
日本人だったら、「お金で遊んではいけません!」と子供をしかりつけそうではありますが、日本街では「大人も遊べるゲーム」として、硬貨を利用する遊びが生まれたのでしょうか?
明治初期、日本からサンタクララバレーに移民が移り住んだ頃には、日本街には圧倒的に男性が多かったので、自然と賭博も余暇の過ごし方となった、と耳にしたことがあります。
日本街に家族で住むようになってからは、野球や相撲、踊りや太鼓がレクリエーションとなったようですが、硬貨を使う屋台のお遊びは、初期の日本街のなごりかもしれないなぁ、と漠然と考えながら歩いていました。
そして、アメリカのフェスティバルと言えば、やっぱり食べ物!
フードコートに登場したのは、餃子に天ぷら、チキンサラダに握り寿司、そして一番人気は、チキン照り焼きとビーフ照り焼き。奥のテリヤキコーナーは、長蛇の列。
もう夕方だったので、みなさん、ガッツリお腹にたまるものが良かったのでしょう。
ここでも日本の屋台フードの定番「焼きそば」や「たこ焼き」は見かけませんでしたが、代わりに「アイスモカ」だの「パールティー」と、おしゃれな響きのメニューを見かけました。
もちろん、お盆祭りの主役は「盆踊り」。
英語では Obon dance とか Bon Odori と表記されるようですが、サンノゼの地元紙マーキュリー新聞には、こんな由来が載っていました。
あるとき、「もくれん」という男性が、地獄にいる母の魂を助けて欲しいと仏陀にお願いしたら、仏陀の弟子が「7番目の月の15日目にお供えをしなさい」と教え、もくれんがその通りにすると、母は地獄から放たれ、嬉しさのあまり彼が踊り出したのが盆踊りの走りとなった、と。
ですから、お盆祭りの中心は「盆踊り」であって、縁日(street fair)などのお楽しみは、あくまでも副産物なんだとか。
今年は、「ええじゃないか、ええじゃないか!」と、賑やかな『ええじゃないか踊り』も登場していましたが、みんなで輪になって楽しむ盆踊りは、しっとりとした余情のある踊りですよね。
盆踊りは、サンノゼやマウンテンヴューに限らず、サンフランシスコの対岸の港街オークランドや、海沿いの農業地帯ワトソンヴィルのような小さな街でも、毎年地元のお寺で開かれているようです。
踊りの輪に大小はあるとは思いますが、盆踊りはきっと、日系の方々だけではなく、地元の人たちの夏の楽しみとなっていることでしょう。
以前、「お盆というのは、そもそも祖先の供養のためにあるんですよ」と太極拳の師匠に教えたら、「え~、そうだったの?」とビックリされたことがありましたが、ドンドンドンと威勢の良い太鼓が響きわたると、「これじゃあ、ゆっくりくつろげないよ」と、祖先の魂も帰って行きそうな感じもするのです。
今年は、歴史ある『サンノゼ太鼓』に加えて、私立スタンフォード大学、州立カリフォルニア大学バークレー校、アーヴァイン校、デイヴィス校と、大学の太鼓道場も自慢の腕を披露していましたね。
というわけで、アメリカのお盆踊りは、縁日や太鼓やテリヤキで楽しく過ごすフェスティバル!
「楽しい」を目当てに、みんながお寺に集まってくる週末なのでした。
「盆踊りの起源」の引用文献: “A gathering of joy: Street event steeped in Buddhist tradition celebrates its 80th year” by Joe Rodriguez, San Jose Mercury News, July 13, 2015