ジャイアンツ近くの三つ星レストラン Saison
ジャイアンツというのは、サンフランシスコ・ジャイアンツのことですが、彼らのホーム球場である AT&Tパークの近くに、三つ星レストランが誕生しました。
先月、2015年版ミシュランガイド(2015 Michelin Guide-San Francisco Bay Area & Wine Country)で、めでたく「三つ星」に昇格したレストランで、Saison(セゾン)と言います。
5年前にオープンしたお店だそうですが、最初の2年半はべつの場所でやっていて、2年ほど前に今の場所に移転しました。AT&Tパーク前のキング通りの一本裏手、タウンゼンド通りにあります。
シェフ、ジョシュア・スキーンズさんは、フロリダ州出身。ニューヨークの料理学校を出てボストンで働いたあと、サンフランシスコにやって来て、シリコンバレーの「一つ星」Chez TJ(シェTJ)でシェフを務めたころから、注目の人となりました。
その後、サンフランシスコの「一つ星」Michael Mina(マイケル・ミーナ)のマイケルさんからロスアンジェルス近郊のホテルレストランを任されるなど着々と腕を上げ、サンフランシスコに戻って来てからは、Saison 一号店をオープンします。
なんでも、こちらはヨガスタジオのバーを改造したお店で、オープンなキッチンにテーブルをいくつか並べただけの簡素なつくりで、最初は日曜日だけの営業だったとか。
それが、週に2回、3回とオープンが増えてきて、それだったらいっそのこと、お店をつくり直しましょう! ということで、今の Saison になりました。
こちらは、もともと屋内駐車場だったレンガ造りのビルを改造したもので、高い天井にスチールビーム、オープンなキッチンに広々としたダイニングとバーエリアと、オープンコンセプトが基調となっています。
ホームパーティーでもそうですが、やっぱり、みなさん、キッチンのまわりに集まるのがお好きなようですね。
それで、こちらのレストランの特長は、「和」の影響を受けていることでしょうか。
材料もあわびや松茸が登場したり、調理法も茶碗蒸しや焼き魚があったりと、懐石風なんです。
それでも、フレンチが基調となっているので、前半は和、後半はフレンチと、和洋折衷のコース仕立てになっています。
食べ物にちょっとうるさい連れ合いによると、一番好きだったのは、二つ目のキャヴィアと三つ目のロブスターだそうです。
まったりとしたキャヴィアは、揚げたポテトの付け合わせと絶妙にマッチしていましたし、昆布で締めた新鮮なロブスターは、甘みがうまく引き立っていました。
わたし自身は、地元ダンジェネスクラブ(蟹)を入れた茶碗蒸しと、メインディッシュ前のサラダが印象に残っているでしょうか。
解禁直前に仕入れたダンジェネスを茶碗蒸しにするなんて、とっても贅沢な発想ですし、「蟹好き」のわたしは、やさしいお味にホッとひと息。
そして、サラダは、苦手の芽キャベツも火であぶって甘さを引き出してあるので、トロッと調理したキャベツと絶妙の取り合わせです。ドレッシングには、梅の酸味が効いていました。
この野菜の一品は、ジョシュアさんが4年かけて進化させた「こだわりのメニュー」だとか。
サラダが終わって後半になると、口直しのトフィー(砂糖菓子)、メインの鴨肉、鴨の骨のブイヨンスープ、チーズとデザートと、一気にフレンチに様変わり。
まさに「和と仏」の混合なのでした。
「おまかせコース」は14品あるとはいえ、ひとつひとつのお皿は小さく、バターは少なめで、全部たいらげても、ちょうどいいくらいでした(ということは、アメリカ人の男性にしたら、ちょっと少なめかもしれません)。
さらに、ワインペアリングも「和と仏」の混合でした。
前半「和」の三品目、ロブスターにペアリングしてあったのは、山形県・新藤酒造の『九郎左衛門・雅山流』純米大吟醸という香り豊かな日本酒でしたし、後半「仏」のチーズにペアリングしてあったのは、茨城県・木内酒造の『常陸野(ひたちの)ネスト赤米ビール』でした。
なんでも、ソムリエのマーク・ブライトさんは最近ご結婚されたそうですが、新婚旅行で日本に一ヶ月半も滞在されたとのこと。「日本テイスト」にも、さらに磨きがかかったことでしょう。
そんなわけで、「和」の特色もさることながら、このレストランが他とちょっと違うかな? と思うのは、ひとつに「ドレスコード(着衣のルール)」がないことでしょうか。
もちろん、カリフォルニアのレストランにはドレスコードはほとんどないのですが、三つ星ともなると「男性は要ジャケット」の規則もあるようですし、こちらとしても気になるではありませんか。
けれども、お店のウェブサイトにも明記されている通り、ここでは「お客様がいらしたままで歓迎いたします(We invite our guests to come as they are)」という主義だとか。
とは言え、アップスケール(高級)なレストランですから、女性はそれなりにオシャレしていますし、男性もネクタイはしないまでも、シャツにスラックスの方がほとんどです。が、Tシャツにジーンズ姿の連れ合いも、モダンなインテリアにしっくりと溶け込んでいました!
それから、サーヴする(お料理を運ぶ)のも、入れ替わり立ち替わりいろんな方が持って来られるのが、普通とちょっと違います。
ウェイターの方たちだけではなく、若い、修行中のシェフたちもお皿を運んで来て、お料理の説明をしてくれるのですが、これは面白い発想ですし、若いシェフにしても、お客様の顔がじかに見えて、修行の励みにもなるのではないでしょうか。
一方、このお店の「弱点」と言えば、お値段が高いことでしょうか。Eater SFというウェブサイトによると、「サンフランシスコで一番高いお店」だとか!
現在、14品のスタンダードコースと新メニューを取り入れたチャレンジコースがありますが(それぞれ248ドル、398ドル)、これにワインペアリング、税金、20パーセントのサービス料を入れると、東京の三つ星レストランよりもお高いのかもしれません。
ですから、観光ついでにちょっと立ち寄ってみましょうというよりも、グルメの方が「アメリカの和」を楽しむお店のようではあります。
お隣に座っていた初老のアジア系カップルは、シカゴから観光にいらっしゃったそうですが、「サンフランシスコに三つ星があると聞いたから、やって来たのよ」とおっしゃっていました。
というわけで、サンフランシスコの新三つ星、Saison。気取らない雰囲気に和洋折衷と、ユニークなお店であることは確かです。
ちなみに、これまで「星付きレストラン」はいくつも体験しましたが、じっくりとご紹介したことはありませんでした。
ひとつに、お店の宣伝になるのがイヤだったこともありますし、とくに日本では写真はご法度のお店が多いこともあります。そして、「おいしい!」と舌鼓を打ちながら、写真を撮るのをすっかり忘れてしまうことも多いです。
こちらの Saison は、フラッシュを使わなければ写真はOKで、逆に「どうぞ、どうぞお撮りください」と勧められたくらいですので、ゆったりとした気分でお料理すべてを撮影できました。
ですから、こちらのフォトギャラリーでご紹介しようと思ったのでした。
それに、わざわざナパバレーまで行かなくても、サンフランシスコで「三つ星」を体験できるなんて、ちょっと自慢したい気分でもありますしね!