ナパバレーのオーパス・ワン
今年のベイエリアは、いつまでも雨がグズグズと残り、すっきりとしないお天気です。
6月に入った今も、雨が続いて気温も低いのですが、普段は、今頃はもうカラッとした初夏。こんなことは、とっても珍しいのです。
そんなおかしな天気のベイエリアですが、5月の中旬、日本から知り合いの方がいらっしゃいました。
いちおう、お仕事での出張でしたが、仕事が終わると、ワインの名産地ナパバレー(Napa Valley)と、自然の醍醐味を味わえるヨセミテ国立公園(Yosemite National Park)に足を伸ばそうと、レジャーを併せた出張旅行だったようです。
そんな彼女のレジャーをお助けしようと、連れ合いとわたしは彼女をナパまでお連れいたしました。
その朝、サンノゼは小雨の残る曇天でしたが、彼女をピックアップしたサンフランシスコはカラリと晴れ上がり、前日まで続いた雨がウソのよう。ナパに行くには、まさに絶好のお天気です。
ナパはちょっと雲が残る空模様でしたが、ナパの谷間に入って最初に足を止めたのが、ブリックス(Brix)というレストラン。ワイナリーでテイスティングをするには、空腹ではいけません。
ちょっとカジュアルなブリックスは、店内も広々としていて、お庭がゴージャス。ブドウ畑を望む裏庭では野菜やハーブを栽培していて、穫れたての食材はレストランでお出ししています。それが、こちらのお店のご自慢なのです。
食事のあとは庭を散策させてもらって、「あ~、はるばるナパまでやって来たなぁ」と、ワインの産地の雰囲気を満喫です。
けれども、そんなにゆっくりしてはいられません。かの有名なワイナリー、オーパス・ワン(Opus One)に予約があるのです。
オーパス・ワンは、ボルドー風の赤のブレンドで有名なワイナリーですが、たぶんカリフォルニアのワインの中でも一番高級とされる部類でしょう。フランスとカリフォルニアのコラボレーションの逸品として、その名は世界中に知られ、日本でも人気の高いカリフォルニア赤ワインとなっていますね。
そう、ワインの名前でもあり、ワイナリーの名前でもあるのです。
とっても上品なお味で、誰もが「おいしい!」と感嘆の声を上げるのですが、ちょっとお高いのです。ですから、特別な記念日にいただくワインとしては最適ですね。
そういえば、インターネットバブルの頃は、シリコンバレーでも大人気でした。スタートアップ会社(起業して数年の小さな会社)が株式市場に上場したといっては、お祝いにオーパス・ワンのボトルを開けていたものです。上等なワインですので、「記念」にいただいたボトルは、何年も寝かせてあとで楽しむこともできるのです。
オーパス・ワンは、「お祝い」とか「成功」といった言葉の代名詞となっているのですね。
そんなオーパス・ワンは、日に2回(午前と午後に1回ずつ)テイスティングのツアーをやっています。テイスティングは有料ですが、ゴージャスなワイナリーの中に入って、ツアーをしたあと、おいしい赤ワインをテイストできるので、お勧めコースではあります。
お約束の1時半に15分も遅れて行ったのですが、案内役のスーザンさんは、にこやかに迎えてくださいました。彼女は、ワイナリー設立当初からかかわる「生き字引」なのです。
先客は、ブラジルのカップル。そして、わたしたち3人組のあとに、さらに遅れてチリの男性3人組が到着いたしました。前回オーパス・ワンに来た時には、ほとんど全員がアメリカ人でしたが、日によっては、ずいぶんとコスモポリタンなツアー客なのです。
オーパス・ワンは、ぶどう作りから違います。互いに競争して味のつまった実を結ぶようにと、ぶどうの木はできるだけ近づけて植えられます。
ワイナリーのまわりはすべてぶどう畑となっていて、この広大な畑から穫れた実を厳選して、少量の実から上質のワインをつくります。良いワインは良い実からできる、これはワイン造りの基本中の基本のようですね。
収穫したぶどうの実は、まず人の手で選り分けます。枝を取り除いたり、熟していない実を取り除いたり、逆に熟し過ぎてレーズン状になった実を取り除いたりと、ワインに適した実だけを残すのです。
そのあと、フランス製の「最新兵器」で、さらに極上の実を厳選するのです。このBucher Vaslinという会社の機械は、近年ボルドー地方で使われるようになった「選り分け機」だそうで、オーパス・ワンでは、ごく数ヶ月前に導入されたものです(だから、一年前には見かけなかったんですね)。
中にはコンピュータが入っていて、色、大きさ、成熟度をコンピュータのお目々でチェックし、いらないものははじき出すんだそうです。どれが「不適切」かは、ワイナリー自身が設定できますので、きっとオーパス・ワンでは、最も厳しい基準に設定してあるのでしょう。
厳選した実は、1、2週間発酵させて、プレスして皮を取り除いたあと、スチールタンクでさらに発酵させます。そして、オーク樽にうつして発酵させ、ボトルで何年か寝かせます。
一年目の樽は、ガラス張りのテイスティングルームから見えるように置かれていて、中に入って記念写真を撮ったりもできるのですが、ズラッと並ぶ樽の列は、まさに圧巻なのです。樽がワインレッドに塗ってあるのは、ころがしたあとに汚れが目立たないように(!)だそうです。
オーク樽は、使い回しはせずに毎年新調されるそうですが、フランスの樽造り職人(cooper)十数社から取り寄せているそうです。これだけたくさん新調するとなると、数をそろえるだけで大変なんでしょうね。
(これは想像の域を出ませんが、ここでいらなくなった樽は、どこか別のワイナリーで使い回ししているのかもしれませんね。)
ま、そんな細かい話は置いておいて、樽を見学したあとは、いよいよテイスティング(2007年のオーパス・ワン)のグラスをいただきます。案内役のスーザンさんが乾杯の音頭を取り、一口飲んで「う~ん」とうなったあと、ここでツアーは解散となります。が、残りは屋上でゆっくりと楽しめるようになっているのです。
この屋上がまた、緑のぶどう畑を見渡せる絶好の場所にあって、とっても気持ちが良いのです。日頃のゴタゴタなんてどこかに吹っ飛び、ここにはゆったりとした贅沢な時間が流れているのです。
ナパにお連れした彼女は、さかんにおっしゃっていましたよ。「ここはもう別世界ね!」「ここに来て、アメリカの金持ちの生活を垣間みた気がする」と。
最初から最後まで最高のものを目指したワイナリーでは、それを味わう心の余裕がないといけないのでしょう。それができるなら、べつに金持ちである必要はまったくありませんけれど。
ナパに来たら、日々の生活はちょっと忘れてみる。これが、ワインの名産地を楽しむコツなんですね!
ワイン好きの方への細かい話: 今回テイスティングした2007年のオーパス・ワンは、以下の割合で5種類の赤ワインをブレンドしてあります。
カベルネ・ソーヴィニョン(Cabernet Sauvignon)79%
メルロー(Merlot)8%
カベルネ・フラン(Cabernet Franc)6%
プティ・ヴェルドー(Petit Verdot)6%
マルベック(Malbec)1%
それから、ワイン造りは、ワイナリーによってずいぶんと製法が違ったりするものですが、この2007年のヴィンテージは、スキンコンタクト(skin contact、皮が混ざったままの発酵)は20日間、樽の中での発酵(barrel aging)は19ヶ月ということです。(オーパス・ワンのデータシートより)
ま、細かいことはどうであれ、「おいしい!」というのが個人的な感想です。