ベターハーフ(Better Half)
一年ほど前に、「ダンナ様の教育 パート2」と題して、家事の得意な連れ合いのお話をいたしました。
術後、固形食が食べられるようになると、真っ先にご飯を炊いて、病室に駆けつけてくれましたし、退院後も料理に掃除に洗濯と、スーパーマンのように活躍してくれて、とってもありがたかったというお話でした。
そして、今日も、なにやら朝からソワソワしているなと思ったら、家じゅうの掃除をしようと、わたしが朝食を終えるのを待っていたのでした。
いつも自分が使うキッチンを中心に、念入りに掃除をしたかったようでして、キッチンに行ってみると、普段テーブルに4つある椅子が、ひとつしかありません。
なるほど、よっぽど掃除にとりかかりたかったに違いありません。
いよいよ、わたしの食事が済むと、がっしりと重いイギリス製の掃除機をかけたと思ったら、今度は、でっかいアメリカ製の機械で、床をピッカピカに磨いていたのでした。
こういう風に書くと、わたし自身は料理も掃除もできない人だと思われそうですが、そんなことはないんですよ。
ちゃんと料理もするし、ピッカピカのものをピッカピカに磨くのも大好きです。
けれども、たしかに、重い掃除機をかけるのは「好き」と言えばウソになるでしょうか。だって、あんなに重い機械は、女性には向かないんですよ。
ずしりと重い掃除機を毛足の長いカーペットでころがすほど、重く感じることはないと思ってしまいますもの。
ですから、こちらが何も言わないうちに、連れ合いがやってくれるみたいです。
まあ、一度くらいは、こう言ったことがあったのかもしれません。「あの掃除機は、重過ぎて大嫌い」と。
でも、それを何度も連呼することなく、わたしのメッセージを受けとめてくれたのでしょう。
そう、こちらが「やってよ!」と無理強いすることもなく、進んでやってくれているのです。
さらに、連れ合いの奇特(きとく)なところは、その手間のかかる掃除を楽しんでいることでしょうか。単に、掃除をすることが嬉しいらしいのです。
なるほど、世の中には珍しい人がいたもんだと、いつも驚かされるのですが、まあ、人って、わからないものですよね。
自分が面倒くさいとか、イヤなことでも、人にとっては楽しいこともあるらしいのですよ。
それで、以前も書きましたが、やっぱり「無理強いしない」とか、やってもらえるように「うまく仕向ける」というのが、キーポイントではないかと思うのですよ。
それは、もしかすると、配偶者だけではなくて、子供にも当てはまることなのかもしれませんね。
だって、人は「やれ!」と言われれば、イヤな気がするものですから。
「なんとなく大変そうだな」と思ったり、「自分にも何かできないかな」と考えたりすると、自分の方から「手伝おうか?」と言ってくるものなのかもしれません。
と、言いましても、我が家の場合は、わたしが「うまく仕向けた」わけではなくて、最初から、連れ合いが家事は得意だったというケースなんだと思います。
ところで、英語では、配偶者のことを、こう表現することがあるんです。
Better half(ベターハーフ)。
ハーフというのは、「自分の半分」という意味ですが、ベターを付けたことによって、「自分の中でも良い方の半分」といった意味合いになるでしょうか。
まあ、人が使う言葉ですから、良い意味にも、悪い意味にも解釈することはできます。
たとえば、文字通り「わたしの良きパートナー」という意味で使ったり、「うちの(口うるさい)ベターハーフに聞いてみないとわからないよ」と、ちょっと皮肉っぽく使ったりすることもあるでしょう。
けれども、もともとは、「自分という一個の存在の中で、良い方の半分」という風に、相手に敬意を表して使われ始めた言葉だと思うのです。「相手がいないと、自分は完結しない」というような意味も含まれているのでしょう。
相手に対する尊敬の念と、「自分はまだまだだなぁ」とへりくだった部分と、その両方がいりまじった言葉なのではないでしょうか。
それから、こういう表現もありますね。
Significant other(シグニフィカントアザー)。
こちらもベターハーフに似た言葉ですが、「重大な(シグニフィカント)」「もうひとり(アザー)」。つまり、「自分の大事な人」。
自分と同じように、そして、ときに自分よりも大事な人。
こちらの言葉も、配偶者や、パートナーに対して使われます。
こういった英語の表現を思い起こすと、やはり、「人生のパートナーは、自分という存在の大事な一部分なんだ」と、再確認するのです。
いえ、なんだか変なことを言うようですが、緑豊かな、新しい生命の季節を迎えると、なんとなく神妙な気分になってしまうのですよ。
人って、人と人の結びつきって、どんなものだろうかって。
ま、それにしても、なんにしても、お掃除を楽しげにやってくれる連れ合いには、感謝しなければなりませんよね!