Essay エッセイ
2010年01月03日

ミッチェルくんのフィアンセ

クリスマスの日の夕刻に、東京に到着いたしました。お正月を日本で過ごしたいと思いまして。

サンフランシスコ空港を出発したのは、前日のクリスマスイブの午前中だったので、クリスマスの雰囲気は、ほんのちょっとだけ東京で味わうことになりました。

日本では、クリスマスの晩を過ぎるとすぐにお正月の支度にかかるので、12月26日ともなると、もうミニ正月がやって来たような気分になりますよね。

クリスマスツリーはすぐに姿を消してしまって、街角のあちらこちらには、しめ縄飾りや門松が目立つようになります。アメリカでは、元日にはまだツリーを飾っておりますので、日本は変わり身が素早いものだと感心してしまうのです。


東京に到着したクリスマスの晩は、みんなでお祝いしましょうとフレンチレストランのディナーにお呼ばれしていたのですが、残念ながら、わたしはパスしてしまいました。

いつも飛行機の長旅では疲れてしまうのですが、今回もちょっと立ち直りがうまくいきませんでした。

それに、日本に到着したばかりの晩は、やはり和食がお腹にやさしいですよね。

というわけで、いそいそとフレンチを食べに行った連れ合いを尻目に、ホテルの部屋で、ひとり湯豆腐を堪能しておりました。
 ほんとはルームサービスのメニューには湯豆腐なんかないけれど、ホテルの日本食レストランが出しているのを知っていた連れ合いがオーダーしてくれました。ホテルによっては、レストランからルームサービスにお料理をまわしてくれる場合もあるようですね。

それにしても、クリスマスに湯豆腐なんてちょっとオツだなと思いながら、ありがたくいただいておりました。しかも、鍋に昆布と豆腐を入れただけの渋~い湯豆腐。飾り気など何もありません。

街にはフレンチだの、イタリアンだの、クリスマスケーキだのがあふれている頃ではありますが、そんな日だからこそ、ちょっと和風にいきたくもあるのです。


ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、本題は、湯豆腐を食べながら観ていたテレビ番組にあるのです。

久しぶりに観る日本のバラエティー番組だったので、思わず画面に釘付けになってしまったのですが、その企画がちょっとおもしろくて、一般の方々にインタビューした内容がベースになっているのです。みんなホンネでトークしましょう、といった企画でしょうか。

たとえば、どちらの答えがポピュラーだったでしょうと芸能人が当てるコーナーがあったりするのですが、その中に、ちょっと意外なものがあったんです。それは、こんなものでした。

30代独身男性にどちらと結婚したいかを質問しました。

A. 料理のへたくそな美人と、B. 料理の上手なおブス

(お断り:「おブス」という言葉は、番組内で使われていたもので、わたし自身が選んだ言葉ではありません。)

そして、その答えは、ほぼ7対3の割合で、「美人を選ぶ」というものでした。

正直に申し上げて、わたし自身は B の答えが多いだろうと思っていたので、ちょっと意外だったのと同時に、どうして人を顔で選ぶのよと、多少憤慨してしまったのでした。

だって、結婚生活なんて、長~いものなんですよ。それなのに、自分で料理をしない限り、毎日、毎日、まずいものを食べなければならないなんて、ちょっと辛くありませんか?

司会者の方は「料理はすぐにうまくなるけど、顔は変えられないでしょ」なんておっしゃっていましたが、ほんとにすぐにうまくなりますでしょうか? だって、料理ってセンスの問題ですから、へたな人がすぐにうまくなるわけはないと思うのですけれど・・・。

それよりも何よりも、顔なんてすぐに飽きませんか。いくら美人だったにしても、そのうち何にも感じなくなって、顔なんてどうでもよくなるんじゃないでしょうか。

美人だと、一緒に歩いていて鼻が高いなんてコメントしている方もいらっしゃったようですが、男性ってそんなに人の目が気にかかるものなんでしょうか?


などと、番組を観ながらいろいろと考えてしまったのですけれど、ここでひとつ思い出したことがありました。それは、題名にもなっているミッチェルくんのことなんです。

彼は、ご近所さんの息子さんなのですが、今は遠く離れてインディアナ州で暮らしています。アメリカのことですから、家族関係はちょいと複雑で、このミッチェルくんは、ご近所さん夫婦のダンナさまの方の一人息子となります。

このダンナさまが離婚したあと、ミッチェルくんはお母さんに引き取られてインディアナ州で育ちました。
 お父さんは再婚して、新しい奥さんとカリフォルニア州に引っ越して来たのですが、たまにミッチェルくんはカリフォルニアのお父さんに会いにやって来る、とそういった関係なのです。

わたしが最初にミッチェルくんに会ったときは、彼はまだ15歳。ニキビたくさんのティーンエージャーでした。それが、今はもう27歳の好青年になっていて、それ自体もちょっと驚きなのですが、もっと驚いたのは、そのミッチェルくんが結婚するというのです。

しかも、会ってまだ数ヶ月の彼女と。

お父さんがいうに、ミッチェルくんはかなりモテる青年のようでして、一年に一回くらいは新しい彼女ができるのですが、それがいつも背の高い、モデルのようにゴージャスな女性だったとか。

ところが、今度結婚を決意した彼女というのは、今までとはまったく違うタイプ。背も日本人くらいですし、きれいだけれど、モデルのように目を引くタイプではありません。
 そして、彼女は大学院を出ていて、その専門性を活かしたキャリアに就くような才女。それも今までとは様子が違うんだそうです。

そんな風に、今までとはまったく違ったタイプの女性に、お父さんはちょっと動揺してしまったようです。しかも、知り合ってまだ数ヶ月のうちに結婚を決意するとは、ちょっと時期尚早ではないか。

そこで、お父さんは息子に腹を割って聞いてみたそうです。

結婚は考えているほど簡単なものじゃない。たとえば、二人でどこに住むとか、お互いの両親のことはどうするのかとか、宗教が違ったらどうするかとか、そんな複雑な問題がたくさん出てくる。だから、そんなに即決するもんじゃないよと。

すると、ミッチェルくんは、こう答えたそうです。そんなことは自分でもちゃんと考えてみたよ。でも、それよりも何よりも、彼女とずっと一緒に暮らしたいんだと。

なるほど、それは一番大事なことかもしれませんね。ずっと一緒にいたいという願いさえあれば、いろんな難関が出てきても、二人でちゃんと解決できるものかもしれません。

そして、「ずっと一緒にいたい」という気持ちには、あんまり顔は関係ないんじゃないかなと、わたしはそういう風にも思うのです。だって、人は相手の顔と結婚するわけではなくて、心と結婚するわけですからね。

なんだかまわりくどい話になってしまいましたが、日本に着いた最初の晩に思い出したのがミッチェルくんのお話だったので、ちょっと綴ってみたいと思ったのでした。

もう新年も明けてしまいましたが、今年もみなさまにとって素敵な一年となりますように。


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