予防接種
カリフォルニアの歴史や日常生活をご紹介している、この「ライフinカリフォルニア」のコーナーでは、前回「インフルエンザ」と題して、新型インフルエンザのお話をいたしました。
そのときにもお知らせしていたのですが、アメリカでは昨年いっぱい、とにかく新型インフルエンザ(H1N1 influenza)のワクチンが足りなくて、予防接種を受けたくてもなかなか受けられない状態が続いておりました。
その供給不足も、今年に入ってからはずいぶんと緩和され、わたしがかかっている病院システムでも、ようやく1月中旬から、誰でも新型予防接種を受けても良いことになりました。
アメリカの疾病予防管理センター(通称 CDC)は、1月10から16日を「全米インフルエンザ予防接種の週(National Influenza Vaccination Week)」と定めていて、それに付随した形で、わたしの病院でも予防接種キャンペーンを行っておりました。
あいにくと、その週わたしは日本にいたので、「もしかしたら、日本にいる間に無くなってしまうかな」と恐れていたのですが、2月1日に病院に行ってみると、まだまだ十分に残っているようでした。
一泊の小旅行をしたあと、ちょっと足を伸ばして病院に寄ってみたのですが、予防接種コーナーには数人ほどが順番待ちをしています。そんなに混んでいるわけではありませんが、次から次へと誰かしらが注射を受けにやって来るので、順番待ちがなくなることはありません。
この病院は大きな病院のサテライトオフィスなので、もともと患者数は少なく、普段はそんなに予防接種コーナーは混まないと思うのです。それでも、ひっきりなしに人が訪れるということは、それだけ、みなさんの関心の高さを表しているのでしょう。
(こちらの写真は、そのときに病院の駐車場から撮ったものです。目の前には、黒々とした肥沃な畑が広がっていて、この田園風景を見ると、いつも自然との深いつながりを感じるのです。)
というわけで、ようやく季節性インフルエンザと新型両方の予防接種を完了したので、ホッと胸をなでおろしたところですが、どうやら、肝心のインフルエンザの方は、下火になってきているようですね。
前回のお話でも触れていますが、アメリカ国内では、新型インフルエンザの峠は10月の終わり頃だったようです。その後は、まだまだ流行はしているものの、新しい発症件数は確実に下がってきているとか。
CDCが発表したところによると、昨年4月に新型インフルエンザが確認されてから今年1月中旬までの9ヶ月間、5千7百万人のアメリカ人が新型ウイルスに感染し、そのうち25万7千人が入院したということです。同期間に亡くなったのは、全米で1万1千7百人だそうです。(2月12日にCDCが公式発表した統計)
最初の8ヶ月間で、すでに5千5百万人が新型ウイルスに感染しているので、昨年12月中旬以降は、確実に感染数が減ってきているということでしょう。
年齢別に見ると、入院した方も亡くなった方も、17歳以下の子供やティーンエージャーが多いようではあります。やはり、その点では、高齢層が犠牲になりやすい季節性インフルエンザとは、まったく違う性質があるのですね。
ということは、子供を持つ親や、子供たちが集う学校などは、まだまだ油断をしてはいけないということでしょうか。
それでも、アメリカでは今まで、(3億人強の国民のうち)すでに7千万人が予防接種を受けているので、新しい流行の波が起きることはないだろう、ともCDCは発表しています。
それに、今シーズンのインフルエンザは、そのほとんどが新型(H1N1 strain)だそうなので、新型が台頭すると、季節性のウイルスは姿をひそめるということでしょうか。(同じく2月12日にCDCが発表した週間報告より)
こんな風に、どうやら峠を越えた新型インフルエンザの脅威ではありますが、「新型対策」のテクノロジーは、まだまだ進化を遂げているようです。
いえ、日本のようにマスクを改良するとか、そういったお話ではありません。情報を共有する方法を改良しようというのです。
なんでも、近頃は、インフルエンザ蔓延の最新情報に「手元」からアクセスするのが流行っているそうで、たとえば、アップルのiPhone(アイフォーン)のようなスマートフォンでは、インフルエンザ関連のアプリケーション(ソフトウェア)が花盛りなんだそうです。
スマートフォンというのは、パソコンに近いような、かなりお利口さんの携帯電話のことですが、そのスマートフォンには、使い手が気に入ったアプリケーションをどんどん追加できるようになっています。
そして、ゲームやら、ソーシャルネットワーキングやらと、種々雑多にあるスマートフォン向けのアプリケーションの中でも、近頃は、インフルエンザの流行地図みたいなものが知名度を上げてきているそうなのです。
つまり、どこで新型インフルエンザが流行しているのかと、地図上でサクッと示されるような、わかり易いプログラム。
「え~っ、僕の住んでる場所の近くで、新型の発症件数が多いなあ」と思ったら、それなりに危機感を持って対応するようになるでしょう、というのがこの手のアプリケーションの狙いなんだそうです。
そういったアプリケーションは、iPhone専用のものだけとってみても、100個以上はあるんだそうです。
けれども、これが何かの役に立つかどうかは、かなり疑わしいようではあります。
だって、だいたいのアメリカ人は、危ないからといって、細心の注意を払って自分の行動を変えたりすることはないし、第一、「発症件数」のデータ自体が怪しい場合があるから。
なんでも、使い手自身が「自分のまわりに新型と思われる病人がいるよ」と報告できるものも多いので、果たしてその「病人」が本当に新型に感染しているのかは、科学的に極めて怪しいそうなのです。
(こういうアプリケーションはインターネットにつながっているので、使い手が報告できるような「視聴者参加型」になっているのですが、それが、かえってアダとなっているわけですね。)
だとすると、この手のアプリケーションは、単なる娯楽用?
このお話を報道していたAP(Associated Press)社の記者は、「究極的には、この手のツールは、人々が楽しむために使うコミュニケーションの道具に過ぎないのかもしれない」とおっしゃっていました。
なるほど、一理ありますね。最新情報を手にして、あぁでもない、こぉでもないと、友達とお話しするのが楽しいのでしょうね。
さて、世の中を騒がせている新型インフルエンザですが、ヴァレンタインデーを控えて、おもしろい看板を見かけました。
シリコンバレーの幹線道路のひとつに、フリーウェイ101号線がありますが、このフリーウェイの脇に、ピンク色の大きな看板が立っていました。
一面ピンク色で、かわいらしくハートのマークなんかも付いています。
あれ、かわいい看板!と、すぐに目についたのですが、内容的にはちょっと恐いものでした。
「ヴァレンタインデーのデートの相手には、予防接種を受けさせましょう(Make your date to vaccinate)」
運転している以上、小さな文字は読めないのですが、たぶんこの辺の保健所などが立てた看板なのでしょう。
かわいいゆえに、かなり目立ってますので、ある程度、目的は果たしたのかもしれません。
でも、あなた、間違ってますよ。
何がって、文法が。
Make your date to vaccinate じゃなくて、
Make your date (get) vaccinated ではありませんか?
わたしも文法の専門家ではないので、偉そうなことは言えませんが、アメリカ人ってスペルが怪しいだけではなくて、なんとなく文法まで怪しいですねぇ。
まったく、困ったもんです。
お断り: わたし自身もはっきりとはわかりませんが、こちらの看板の文章は、二つの点で間違っていると思うのですよ。
ひとつは、make A ~ という命令の構文。「Aに~をさせる」という意味ですが、こちらの動詞の前には to は付きません。たとえば、Make me believe(わたしに信じさせて)みたいに使います。
そして、もうひとつは、vaccinate という動詞について。「予防注射を接種する」という意味の動詞 vaccinate は、基本的に他動詞だと思うのです。ですから、まるで自動詞のように扱うことはできないのではないかな?と。(だから、「予防注射を受ける」という意味の get vaccinated か、単に「予防注射を受けた」という状態を表す vaccinated じゃないといけないのではないかと思うのですが・・・)
もし間違っておりましたら、その旨ご教授くださいませ。
それから、運転中は危ないので、看板の写真を撮ることができませんでした。こちらのかわいい看板は、ご想像におまかせいたします。