二度目の二つ星 Quince のマイケルさん
今年2月に『三つ星よりおいしい(?)二つ星 Quince』と題しまして、サンフランシスコのレストランをご紹介いたしました。
金融街のはずれにある Quince(クインス)というレストランで、オーナーシェフのマイケル・タスクさんがフランスとイタリアで修行したところから、「イタリアン フレンチのお店」と呼ばれています。
それから4ヶ月もたたないうちに、「またあそこに行きたいね」と、連れ合いと再び Quince を訪れました。
というわけで、今回は、前回と違ったところがいくつかありまして、まずは、座席。
前回は、奥の壁際のテーブルで、ずらりとワインボトルが並ぶワインセラーの真下でした。が、今回は、お店の真ん中に飾られる、立派な生け花の真下。そう、前回は「うらやましいなぁ」と、花好きのわたしが横目で盗み見ていた座席でした。
きっと、二度目の訪問なので、グレードアップしていただけたのでしょう。
アミューズが終わり、コース料理が始まる頃になると、テーブルの担当者が「今日は、何かお祝い事ですか?」と尋ねるので、べつに特別な日ではないんですよ、と答えました。
たしかに、まわりは「ハレの日」の華やかさに包まれた様子。
そこで、「前回は素敵な夜を過ごしたので『また来なくては』と思ったのです(We had such a lovely evening last time that we simply had to come back)」と伝えると、彼女は嬉しそうに笑顔を見せてくれました。
そして、せっかくの「二度目」ですから、コース料理も違ったものにトライしてみました。
こちらの Quince には、野菜中心のおまかせコース「ガーデンメニュー(Garden Menu)」と、お肉とシーフードを中心としたおまかせコース「クインスメニュー(Quince Menu)」の二種類があって、わたしは「ガーデンメニュー」を、連れ合いは「クインスメニュー」を選んでみました。
野菜中心と言っても、ヴェジタリアン(菜食主義)とは違って、シーフードも選べます。
この日のメインディッシュは、メイン州産のロブスター! それもあって、ガーデンメニューにしてみました。
そんなわけで、適度に軽く、量も他店より少なめのコース料理を堪能いたしましたが、このお店は、わたしにとっては不思議なところなんです。「何がそんないいの?」と聞かれても、具体的には答えにくい「つかみどころのないお店」とでも言いましょうか。
前回の Quince のお話でも、「気に入った理由は、まず、最初のアミューズ(付け出し)にありました」とご紹介しましたが、アミューズが出てきたところから、ワクワク、ドキドキ、お次はいったい何かしら? と高まりを感じるのです。
それでいて、何かひとつの素材がお皿を独占しているわけではなく、ハーモニーを奏でているような感じ。
それは、ひとつに素材がどれも抜群に良いことがあって、それから、シェフ・マイケルさんの繊細で、穏やかな感性もあるのでしょう。
そして、もしかすると、テーブルに注がれる明るいライトも一役買っているのかもしれません。
アメリカには薄暗いレストランが多いですが、明るく照らすことでテーブルが「舞台」となり、お料理がきちんと「主役」になっているのです。
美しく「目」でおいしいものは、口に運んでもおいしいですよね。
そして、前回と違う経験としては、オーナーシェフのマイケルさんにお会いできたこともありました。
いえ、彼とは面識はなかったのですが、テーブル担当の方が「マイケルは、日本にもよく行くのよ」とおっしゃって、キッチンでご本人に話をつけてくれたようでした。
食事が終わる頃になると、支配人の方がいらっしゃって、「どうぞキッチンにいらしてください」と、案内してくれました。
以前ご紹介した、シリコンバレーの二つ星 Manresa(マンリーサ)のキッチンもそうでしたが、足を踏み入れると、まず、その明るさにびっくりなのです。
きれいに磨かれたステンレスの調理台には、お皿がいくつも行儀よく並んでいて、その上にはスポットライトがこうこうと当たっています。
頭上には数えきれないほどの銅製のフライパンや小鍋がかけられ、向こうには、きちんと小分けにされた色とりどりのスパイス。キッチンの隅には、まるで花屋さんみたいにエディブルフラワー(食用のお花)が飾られ、「戦場」のわりには、すべてが整然としています。
いつお客様を招き入れても恥ずかしくない、といった印象でしょうか。
まだまだ早い時刻だったので、シェフの方々は、みなさん忙しく立ち回っていらっしゃいましたが、その中で、背の高いマイケルさんが、ニコニコと笑顔でわたしたちを迎えてくださいました。
「僕は、日本にもよく行くんだけど、ちょうど来週も行く予定なんだよ」と、気さくに優しい口調で会話を始められます。
なんでも、日本では、麺類とか、おでん、とんかつの店が大好きで、必ずしも「星付きレストラン」ばかりを訪ねるわけではないそうですが、きっとその中で「紙を調理用具に使う」ことを学ばれたのでしょう。
わたしが選んだガーデンメニュー二品目のサラダは、紙を模した柔らかい金属のお皿に入っていて、「自分で開けて楽しむ」演出が施されていました。こちらの金属のお皿は、日本で調達されたそうです。
そして、クインスメニューの口直しのかき氷には、アメリカでは珍しく金箔が飾られていて、「大丈夫よ、食べられる金なのよ」と、スタッフの方が念押ししてくれました。
カジュアルなお店も大好きなマイケルさんですが、東京では行ってみたいお店がいくつかあって、その中に Manresa のデイヴィッド・キンチさんも挙げられた、赤坂の日本料理 松川 がありました。
デイヴィッドも松川が気に入ったみたいですよ、という話をしたら、あ~、彼はよく知っているよ、とおっしゃっていました。なるほど、シェフ同士、いろいろと情報交換をすることもあるのでしょうね。
そして、どうやらサンフランシスコ界隈のシェフの間では、「和」が注目株となっているようです!
ちなみに、赤坂の松川は「一見さんお断り」の割烹の有名店ですが、我が家はまだ行ったことがないので、代わりに連れ合いは、広尾(天現寺)にある 青草窠(せいそうか)をマイケルさんに紹介してみたのでした。
こちらにはよくお邪魔いたしますし、松川の松川 忠由氏は青草窠から独立された方で、青草窠の料理長時代を知る連れ合いは、松川氏と現料理長の山井 望氏のお味に共通するものがあると感じたそうなので。
というわけで、感性の鋭いマイケルさんの日本の旅は、どんな形でお料理に反映されるのか、また次回のお楽しみとなりました!