Essay エッセイ
2010年12月08日

優勝セール?

前回のエッセイでは、メジャーリーグ野球のサンフランシスコ・ジャイアンツ(the San Francisco Giants)が、ワールドシリーズに勝ちそうだというお話をいたしました。

初めての優勝を目前に、それはもう、サンフランシスコ・ベイエリアは大騒ぎ!

普段は野球に興味のない人だって「にわかファン」に変身して、ジャイアンツのジャージーをせっせと着込んでいましたよ。

おかげさまで、11月1日の月曜日、ワールドシリーズ第5戦に勝利し、優勝トロフィーを獲得できました。

敵地テキサス・レンジャーズでの制覇となりましたが、シリーズ4勝1敗でさっさと勝ってくれたので、文句は言えませんよね。

優勝が決まると、ジャイアンツのホームグラウンドである AT&T Park には、自然とファンたちが集まって来て、みんなで大歓声のお祝いをしたのでした。


サンフランシスコ・ジャイアンツというチームは、1958年にニューヨークから引っ越して来た名門チームなのですが、なにせ、今までワールドシリーズを制したことがなかったのです。

もともとのニューヨーク・ジャイアンツは、1883年に創設された老舗チームで、ワールドシリーズには5回も勝っています。
 でも、なぜかしら、サンフランシスコに移って来たら、ワールドシリーズでは3回とも敗退しているのでした。

ですから、「4度目の正直」の優勝は、サンフランシスコ周辺の住民にとって、何よりも嬉しいことなのです。だって、52年も首を長~くして待ち続けたのですからね。

Hands down, it’s the best day of my life!
(もう絶対、人生最高の日だね!)

なんだか大袈裟な言いようではありますが、こんなファンの気持ちもよくわかるのです。


優勝が決まった2日後には、サンフランシスコに戻って来た選手たちのパレードが開かれました。サンフランシスコらしく、ケーブルカー(ケーブルで動く路面電車)に似せたバスに乗って、選手たちは沿道のみんなに笑顔で手を振ります。

そして、市庁舎前の広場にたどり着くと、ここでは市主催の優勝祝賀会が開かれました。

おもだった選手たちがファンの前で短いスピーチをしてくれましたが、優勝に大貢献したルーキー・キャッチャー、バスター・ポウジー選手は、「来年もやってやるぞ!」と血気盛んなあいさつをしていましたね。

この23歳のルーキーは、いきなりワールドシリーズで勝ったものだから、もう自分たちを止められるものは何もない! って気分だったのでしょうね。(そして、そのあと、彼はナショナルリーグ最優秀新人賞もいただいています。)

彼だけではなくて、チーム全体が若いので、途中まで負けていたにしても、エイっと波に乗れる勢いがあるんです。

シーズン中、チームの調子は優勝に向かって「うなぎ上り」だったのですが、そんなことって、なかなかできることではないですよね!


そんなジャイアンツ優勝のお話をしていたら、日本の方からこう聞かれたのでした。

「優勝セールはありましたか?」と。

最初は「何のことだろう?」と思ったのですが、日本では野球チームが優勝すると、優勝セールが習慣となっていますよね。なぜなら、伝統的に鉄道・百貨店グループが野球チームを持っていたから。

けれども、アメリカでは、プロのスポーツチームは個人か一族、または投資家グループが持っている場合がほとんどなので、残念ながら、「優勝セール」という概念はないのです。

でも、おめでたいことに、洋の東西はありません。優勝セールはない代わりに、ジャイアンツのワールドシリーズ出場にひっかけて、いろんな企画がありましたよ。

たとえば、観光名所のコイト・タワーや市庁舎は、夜間ジャイアンツカラーのオレンジ色にライトアップされていました。 (コイト・タワーは、向こうに見える丘の上の塔)

ここだけではなくて、ベイエリア中でオレンジ色のライトアップが流行ったので、ライトをオレンジに変色させるフィルムが品薄になったとか。

海に近いジャスティン・ハーマン・プラザでは、毎年冬にアイスリンクが登場するのですが、なんでも、金曜日にジャイアンツ・グッズを身に着けて行けば、タダでスケートが楽しめるらしいです。

来年(2011年)1月2日までの企画だそうなので、年末年始にサンフランシスコ界隈にいらっしゃる方は、ぜひお試しくださいませ。冷たいアイスリンクではありますが、なんとなく、現地の熱気が伝わってくるかもしれません。

そして、こちらはちょっと毛色が変わっていますが、ジャイアンツがプレーオフで勝ち続けている間は、オレンジの毛並みの猫ちゃんが手に入りやすくなる! というのもありました。

ホームレスの犬や猫を保護して、希望者に「養子縁組」している動物愛護団体(the Peninsula Humane Society)が、ジャイアンツカラーの猫ちゃんの養子手数料をぐんと安くしていたのです。

普段は50ドルから80ドルかかる料金が、なんと9ドル! これで縁組みも増えて、70匹以上の猫ちゃんたちがもらわれていったのでした。

そして、同じようなプログラムはシリコンバレーでも行われていて、こちらも100ドルが10ドル! と、「ジャイアンツ猫」フィーバーはあちらこちらに飛び火していたのでした。

(犬や猫を引き取るには、健康診断、予防接種、去勢手術、迷子用のマイクロチップの埋め込みなど、いろいろと費用がかかってしまうので、今のように経済が低迷していると、なかなかもらい手が見つからないのですね。)


それから、なかなか粋な計らいですが、こんな賭けもあったそうですよ。

サンフランシスコのギャヴィン・ニューサム市長と、テキサス・レンジャーズの本拠地であるアーリントンのロバート・クラック市長が、どっちのチームがワールドシリーズで勝つかって賭けをしていたのです。

もちろん、お互い自分のチームが勝つことに賭けていたのですが、おもしろいのは、賭けていたもの。

負けた側の市長が、相手の市に行って、相手チームのジャージーを着て、チャリティーイベントに参加するというものなんです。

それから、負けた側がギフトを贈る約束もあったそうですが、サンフランシスコからの贈り物は、11月に解禁となるダンジェネス・クラブ(サンフランシスコ名物のカニ)、サワーブレッド(ちょっと酸味のあるフランスパン)、それからギラデリーのチョコレートが予定されていました。

結局、ジャイアンツが勝って、アーリントンから贈られたものは、テキサス名物のバーベキュー。う~ん、なかなかおいしかったことでしょう。

そして、いよいよ12月中旬には、クラック市長がサンフランシスコにやって来て、ジャイアンツの子供向け野球クリニックに登場するそうです。

もちろん、他ならぬジャイアンツのユニフォームをまとって!

11月1日のジャイアンツ優勝の翌日には、全米で中間選挙が行われ、サンフランシスコのニューサム市長は、カリフォルニアの副知事に当選しています。

そう、来年1月からは、カリフォルニア州の副知事になるんです。それで名前を売ったら、将来的には、州知事も夢ではない(?)

ジャイアンツは勝ってくれたし、自分は選挙に勝ったし、まさに「順風満帆の人生」といったところでしょうか!


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