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2015年06月26日

古いスタジアムはどうするの?

こちらは、『Silicon Valley NOW(シリコンバレーナウ)』6月号・第2話「形あるものは壊される」として掲載されたものに、少々加筆いたしました。


前回は、プロバスケットボールのゴールデンステート・ウォーリアーズが40年ぶりの優勝を果たしたお話でしたが、彼らの金色に輝く優勝トロフィーはベイエリア各地を巡回している、今日この頃。(Photo by Jose Carlos Fajardo, San Jose Mercury News, June 17, 2015)

ウォーリアーズをめぐっては、アリーナをオークランドからサンフランシスコに移転するプランがある中、「古いスタジアム」が物議をかもしておりました。

フットボールのサンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)が一昨年まで使っていた、キャンドルスティックパーク(Candlestick Park)です。

以前もご紹介しておりましたが、49ersはシリコンバレー・サンタクララ市に豪勢なスタジアムを建造し、昨シーズンに「こけら落とし」を迎えました。
 来年2月7日には、ここで華々しく『スーパーボウル50』が開かれるのです。

すると、今までのスタジアムはどうするの? という疑問が浮上するわけですが、サンフランシスコ市は「さっさと壊しちゃいましょう!」という結論に達し、昨年末には、解体作業に取り掛かっておりました。なんでも、跡地にはショッピングモールや集合住宅が建てられるとか。

ところが、先日、重大な問題が発覚!

解体業者が、作業にともなう粉塵を抑えようと、事もあろうに飲料水(drinking water)を広大な解体現場に撒いていたとか!

しかも、1時間に何千リットルという水を8週間にわたって撒き続けていた、とか。
(Photo by Karl Mondon, Mercury News, May 15, 2015)

ご存じのように、現在カリフォルニア州は、「干ばつ(drought)4年目」という史上最悪の大試練を経験しています。シャワーは一分でも短く、庭の水撒きも週に2回と、みんなが水を一滴でも節約しようとしているときに、ホコリを抑えるために飲み水を撒いていたとは! と、解体業者は各方面から突き上げられます。

しかも、ほんの近い場所から、市が提供する汚水再生水(recycled sewage water)を無料でもらうことができるのに、この業者は、消防車が緊急時に使う給水口から勝手に水を使っていたというのですから、地元住民は呆れて物が言えません。

問題をすっぱ抜いたサンノゼ・マーキュリー新聞が業者にインタビューすると、「だって市側は、大規模な解体作業には再生水を使っちゃダメだって言ったんだよ」との答え。

それに対して、市の水道局は「それはまったくの誤解だよ。再生水を使ってよと奨励していたのに」と、まったく意見がかみ合いません。

すると、翌日になって、「周辺住民の健康を鑑みて、大規模な建築・解体現場では再生水を使ってはいけない」と、一年前に市が業者に通達していたことが発覚。

じゃあ、悪者はあんたじゃないの! と市に言いたいところですが、近くの汚水処理場の再生水は、単に殺菌してあるだけで、飲み水どころか、シャワーにも適さないので、州の規則にのっとり大規模な散布を禁止した、という経緯があったとか。

ここは、サンフランシスコ湾に突き出した、年中冷たい風が吹き荒れる場所。ですから、周辺住民の健康を守るために、水を撒きながら解体することが義務付けられているのです。
 最初は、ダイナマイトで爆破(implosion)するプランだったのが、周辺住民のことを考え、ひとつひとつ壊していくことになったわけですが、これだけ水を無駄遣いするのだったら、一気に爆破する方がマシだったのでは? と、疑問が頭をよぎるのです(写真中央、海を走る道路の先から右に突き出した(茶色っぽい)小さな岬がキャンドルスティックポイント)。

「水撒き問題」のあと、一時中断された解体作業はすぐに再開され、6月中旬、キャンドルスティックパークのそばを通ってみると、スタンドはほとんどなくなって、あちら側の風景が見えています。
(写真左、入口の聖フランシスコの像が、ひとり寂しそうに立っています)

今年4月、ブラウン州知事は、州民に対して「2013年の水使用量から25%削減」を義務付けています。従わないと、給水事業者に罰金が科せられるので、自治体によっては、個人にも罰金が科せられるケースもあります。

けれども、「水を使わない」には限度があるので、これからは、汚水の再生利用とか、海水の淡水化(desalination)とか、「水を生み出す」方法が必須となるのでしょう。

再生水と言えば、シリコンバレー・サンタクララ郡では8年前から再生水を利用していますが、今のところ、ゴルフ場や公共施設の芝生と、使用はごく一部に限られています。
 が、サンノゼ市はサンタクララ市とともに、市北部の汚水処理場の改造計画を発表し、「7年後までには、汚水すべてを再生利用する」と目標を掲げています。
(写真は、改造計画発表の際、再生水を飲んでみせるサンノゼ市長サム・リカルド氏(左)とサンタクララ市長ジェイミー・マシューズ氏; Photo by Karl Mondon, MN, April 28, 2015)

近頃は、個人の住宅でも、シャワーやキッチンの水を再生してトイレに使ったり、庭に撒いたりと、上水道(potable water)と中水道(grey water)の両方を利用する家庭も増えてきています。
 再生水用のフィルターを通った水は、「パープルライン」と呼ばれる中水道管を流れ、紫色のパイプは、上水道と区別がつきやすいようになっています。

それにしても、渦中のキャンドルスティックパーク。以前はスポーツにコンサートと、サンフランシスコ・ベイエリアを興奮の渦に巻き込んでくれた、大きな存在。
 解体されるだけでも悲しいことなのに、解体作業でも「鼻つまみ者」となるとは・・・。

そう、昔は、野球のジャイアンツもホーム球場としていたスタジアムなので、夏のナイターともなると、寒くて、寒くて、真冬の格好をしていないと耐えられなかった思い出があります。けれども、風は強いので、勝利のあとの花火は綺麗でしたねぇ。

そして、秋になると、フットボール。すがすがしい9月の空は、抜けるように青く、8月よりもかえって暖かい。
 そんな晴れた日曜日、49ersの名選手たちが、次々と相手チームをくだしていくのを楽しみにしていたものでした。

追記: 「2013年の25%を節水」というスローガンが掲げられたとき、わたしは心の中で「ふん、属州のオレゴンから水を運べばいいじゃない!」と、うそぶいたのでした。
 いえ、「属州」というのは冗談ですが、降雨量が多いことで有名なオレゴン州ですので、実際に同様の私見を明言したカリフォルニア人もいらっしゃったのですが、その直後、ワシントン州の州知事が「干ばつ宣言」をして、西海岸の州は上から下へと未曾有の水不足であることがわかったのでした。

汚水再生水というと、『toilet to tap(トイレから蛇口へ)』などとイヤなニックネームもつけられていましたが、この期に及んで、州民の6割近くが「汚水再生水を飲料水に混ぜてくれてもいいよ」と認めているそうです。

もちろん、再生水の一般利用には、再生水を直接飲料水に混ぜるのではなく、地下の水源地(aquifer)に戻して、地中の「自然フィルター」にかけるわけですが、それでも個人的には、海水の淡水化に一票を投じたいのですが・・・。


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