感謝祭にまつわる昔と今
11月の感謝祭も終わり、世の中がクリスマスに向けてエンジン全開! になっています。
そんなあわただしい日々の中、あれ? と思ったことがありました。
それは、「クリステン・スチュワートとロバート・パティンソンが、ロンドンで彼の家族とともに感謝祭を過ごした」という記事を読んだとき。
そう、あの映画『トワイライト』シリーズの主人公を演じ、個人生活でもカップルのふたりですね。
あれ? と思ったのは、彼女の浮気のあとヨリが戻ったの? という意外性もありました。かわいそうに、ロバートさんは、彼女の不用意な行動にショックを受け、一時期、俳優仲間のリース・ウィザースプーンさんの静かな農場に「おこもり」していたという話も耳にしましたので。
でも、そんなふたりのゴタゴタよりも、イギリスでも感謝祭を祝うの? と不思議に感じたのでした。
どうやら、イギリスには、アメリカやカナダのように感謝祭を祝日として祝う習慣はないようです。が、もともとアメリカ人が感謝祭をつくったのは、キリスト教国のイギリスの影響ですよね。
そう、17世紀、イギリス人がアメリカに渡って来たときに始まった習慣。
けれども、意外なことに、みんなが信じているような「メイフラワー号でアメリカにやって来た清教徒たち(Puritans)が始めた習慣」ではないらしいのです!
いえ、わたしもずっと、1620年、マサチューセッツにたどり着いた清教徒が感謝祭を始めたんだと思っていました。でも、先日、サンノゼ・マーキュリー新聞にこんな投書が載ったのでした。
「あなた方(新聞)は、社説で間違ったことを書いていたわ。アメリカの感謝祭といえば、1619年12月、ヴァージニア州のバークレー・プランテーション(農園)で祝われたのが最初なのよ。来年のために覚えておいてほしいわね!」
そんな内容の投書で、最初の感謝祭の名誉をマサチューセッツに持って行かれたことを、ひどく憤慨していらっしゃったようでした。もしかすると、ヴァージニア出身の方なのかもしれません。
まあ、歴史をひも解きますと、イギリス人がアメリカにたどり着いて、最初に住み始めた場所は、メイフラワー号が到着したマサチューセッツのプリマス(Plymouth)じゃないんですね。だいぶ南にあるヴァージニア州のジェームズタウン(Jamestown)というところです。
(地図では、紫色の印がプリマスで、赤がジェームズタウンです)
17世紀が明けた頃、イギリスはジェームズ1世の統治にあって、スペインとの平和交渉ののち、イギリスが新世界(アメリカ北東部)への切符を手に入れました。
これを機に、人口過密や農作物の不作などで悩むイギリスから、新世界への冒険に挑戦する人々が現れたのです。
それと同時に、カトリックからイギリス国教会になったイギリスを逃れ、宗教の自由を求める人々も出てきました。
これが、イギリスからアメリカへと大西洋を越える幾多の船の旅となったわけですが、イギリス人が最初にジェームズタウンに住み着いたのは、1607年のことでした。
辺りは海沿いの湿地帯で、決して農業に向く土地ではありません。そんなわけで、食べるものも乏しく、460人の入植者のうち、最初の3年間を生き延びたのは60人だったそうです。
それから10年ほどたった1619年、ジェームズタウンの内陸に農園をつくる案が出て、ジェームズ1世からも許可が出ました。こちらの方が、作物を育てるのにずいぶんと適していたからです。
そこで、9月16日、イギリスのブリストル港からマーガレット号に乗船し、ウッドリーフ船長以下38名が航海に出たのです。
何度か嵐に遭う厳しい航海の末、11月28日、ようやくヴァージニア沿岸にたどり着いたのですが、ここでも嵐が行き過ぎるのを待ったりして、内陸部のバークレー農園予定地に碇(いかり)を下ろしたのは、12月4日のことでした。
(地図では、紫がジェームズタウン、赤がバークレー農園)
そして、この日、マーガレット号から小舟で陸に降り立った38名の男たちが、無事に新大陸に着いたことを神に感謝し、イギリスで指示された通りに祈ったのが、アメリカで最初の感謝祭(Thanksgiving)というわけです。
「この船の到着の日を、全知全能の神に感謝する神聖な日として、毎年、未来永劫、祝おうではないか」と。
“We ordaine that this day of our ships arrival, at the place assigned for plantacon (meaning plantation), in the land of Virginia, shall be yearly and perpetually kept holy as a day of Thanksgiving to Almighty God”
(Quoted from “History of the First Thanksgiving” by H. Graham Woodlief, posted on the Berkeley Plantation’s Web site こちらの記事は、ウッドリーフ船長の子孫にあたる方が書かれたものと思われます; Photo of the First Thanksgiving enactment also from their Web site)
そんなわけで、こちらの感謝祭は、神に感謝して祈りを捧げたという、厳密に宗教的な感謝祭なのでした。祈りのあと、みんなで食卓を囲むこともありませんでした。
ですから、マサチューセッツの感謝祭とは、まったく違ったものなのですね。あちらは、初めての収穫を神に感謝し、近隣の人々で食卓を囲んだというものですから。
ということは、どっちも「アメリカ最初の感謝祭」でいいのではないでしょうか?
ちなみに、どうしてヴァージニアの新しい入植地が「バークレー農園」という名前になったかというと、イギリスの羊毛業の街バークレー(Berkeley)に由来します。マーガレット号が出奔したブリストル港の近くです。
バークレーは、羊が群れる田園風景で有名なコッツウォルズ地方の南西にあって、1117年にできたバークレー城(Berkeley Castle、写真)で知られています。
実は、このお城がマーガレット号の航海のスポンサーとなり、城主バークレー家のリチャード・バークレー卿も航海に参加したのでした。
17世紀といえば、羊毛業がイギリスでもっとも盛り上がった時期ですが、どうやらバークレー城のあたりはスランプだったようで、そんな背景もあって新大陸の冒険に出たようです。
だから、ヴァージニアの新しい農園は、スポンサーにちなんで名づけられたというわけです。
なんでも、かの有名なシェイクスピアの『真夏の夜の夢(Midsummer Night’s Dream)』は、このバークレー家の結婚式のために書かれたものなんですって!!
今でも、お城はバークレー家の方々が受け継いでいらっしゃいますが、庶民にも門戸を開いて、結婚式や披露宴もなさっているようです。今の時代、お城を受け継ぐのは財政的に厳しいようですが、結婚式プランとは、なかなかいいアイディアですよね!
(Photo of Berkeley Castle from the castle’s Web site)
というわけで、今年は、感謝祭にまつわる歴史のお勉強をさせていただいたのですが、感謝祭の週末にスーパーマーケットに行ったら、お店の人から教えていただいたことがありました。
意外にも、この土曜日に七面鳥を買って行ったお客さんがいたそうです。そう、感謝祭は、とっくに終わっているのに!
どうやら、仕事の関係で木曜日は働かなくてはならなかったので、ちょっと遅れて、日曜日にみんなが集まって七面鳥のご馳走を食べるハメになったとか。
まあ、今は世の中が多様化して、いろんな人がいるのは確かですが、想像するに、この方は、感謝祭の夜はどこかのお店で働いていたのではないでしょうか。
そう、先日も英語のお話でご紹介したばかりですが、今年は、感謝祭の夜から金曜日にかけて営業していた大型店舗がたくさんあって、七面鳥でお腹いっぱいになったところで、みんなでショッピング! というのが話題となりました。
ま、感謝祭の夜中に営業というのは、お客さんにとっては嬉しいことかもしれませんが、働く人にとっては、祝日もゆっくり休めない、ということですよね。
せっかく今までは、感謝祭の日くらいは家族とゆっくりできたのに・・・。
近頃、アメリカの景気は少しずつ回復してきたので、店を早く開けて、長く営業しようということになったようですが、今年は、それが問題にもなったのでした。
「感謝祭の夜9時に店を開ける」と聞いたパートタイムの女性従業員が、大型量販店 Target(ターゲット)に対して、インターネットで反対運動を起こしたのです。
「もともと従業員の就業時間は不規則なんだから、感謝祭の日くらい、ゆっくり家族と過ごさせてよ!」と。
サンフランシスコ・ベイエリア発信の抗議の声はまたたく間に全米に知れ渡り、一週間ほどで37万人がオンライン陳情書に署名したそうですが、そんな反対運動もむなしく、お店は予定通り午後9時に店を開けました。
この女のコの勇敢な行動に、「がんばれ!」という熱い声援もあったものの、中には「こんなご時勢で、仕事があるだけありがたいと思え!」という批判も向けられたとか・・・。
そして、Target の商売敵 Walmart(ウォールマート)でも、感謝祭の晩から翌日の金曜日(ブラックフライデー)にかけて、全米各地の店舗で、千人ほどが抗議行動に出ました。
入り口でプラカードを掲げて、労働条件の改善を訴えたり、お店の中で小さなデモ行進をくり広げたりと、大型店舗で働く厳しさを訴えたのですが、残念ながら、ショッピングに向かう人々には、あんまり関係なかったようですね・・・。
まあ、感謝祭の直前になると、新聞には驚くほどの広告の束が入るのですが、そんな広告の山を見ていると、こう思うんです。
なにをそんなに売るモノがあるんだろう? なにをそんなに買うモノがあるんだろう? と。
わたしが感謝祭のことを好んで書くのは、宗教的に始まった習慣であるわりに、宗教色が薄く、みんなが素直に感謝する気持ちになれるからなんです。
それが、感謝祭がショッピングの日になってしまったら、いったいいつ感謝する気になるのかなぁ? と、ちょっと不安になってしまうのでした・・・。