晩秋の風物詩
「今年は寒い」と聞いていたのに、滞在中は暖かい日々が続き、アメリカに戻る直前になって、初めて秋らしさを感じました。
今回の滞在で驚いたのは、日本で「ハロウィーン(Halloween)」が広がっていること。
東京・渋谷などは、夜を徹して大騒ぎの中心地になっているようで、「ケルト人の新年」はここまで浸透しているのか! と、びっくりなのです。
そう、ハロウィーンとは、もともとカトリック信者からすると「ケルト人の邪教のお祝い」。あの世とこの世の壁が薄くなって、あちら側から戻って来る魂たちをお迎えする時期。
ですから、怖いコスチュームもOKというわけですが、ハロウィーンが日本に伝わると、ご当地なりの祝い方もあって、目を見張るものがありました。
東京・六本木のお店で飲ませていただいた、ハロウィーン限定の純米酒。
龍神酒造さん(群馬県館林市)の『尾瀬の雪どけ』と記憶しております。純米大吟醸かと思いますが、味わい深く、バランスのとれた逸品です。
そう、ラベルの可愛らしさに惑わされてはいけません。じっくりと味わうべき、良き酒なのです。
そして、こちらは、ミシュラン三つ星のレストラン、龍吟(りゅうぎん)の一品。
名付けて、収穫祭の椀。
今年8月、それまで15年も店を構えた六本木から、完成したばかりの東京ミッドタウン日比谷に移り、心機一転。内装から調度品から器から、すべてに料理人・山本 征治(やまもと せいじ)氏のこだわりが光ります。
10月は、ハロウィーンの楽しい器でお出しする吸物。
お椀は特別にしつらえたものですが、蓋を開けてみて、またまたびっくり!
蓋の裏側にも、美しい絵が施されます。
金地の背景に、黒の古木やパンプキンの怪物たちと、空を舞う赤や黒のコウモリたちが効果的に配置されています。
肝心の吸物は? というと、もっちりとした甘鯛やお餅でくるんだ車海老のしんじょが主役ですが、脇役で登場した松茸やオクラ、柚子のデコレーションさえも、うまみの利いた一番出汁の中で存在感を出しています。
存在感といえば、黒いコウモリ。珍しい「水前寺海苔(すいぜんじ のり)」でできています。水前寺海苔をいただいたのは初めてですが、その肉厚さと海苔としては珍しい歯ごたえに、驚きを感じました。え、これが海苔なの? と。
またまた違った絵柄が隠されていて、大きな蜘蛛の巣を背に、お化けやパンプキンたちが、みんなに笑いかけています。
どうだった? おいしかったでしょ? と語りかけているようにも見えるでしょうか。
そんなわけで、日本では10月末のハロウィーンが終わると、一気にクリスマスの雰囲気に包まれます。
まあ、それが、感謝祭(Thanksgiving)を祝うアメリカとは、ちょっと違うところでしょうか。
感謝祭になると、家族や親戚、親しい友人たちが集まって、ご馳走に舌鼓を打ちながら「感謝する(give thanks)」一日となります。
「健康でいられてありがたいな」「仕事が順調にいって感謝してるよ」「家族と一緒に仲良く過ごせて嬉しいわ」と、ひとりひとりが、それぞれの言葉で感謝の意を表す一日なのです。
そんな冬を迎える一日。これも、この季節の風物詩かな? と思いました。
それは、これから気になってくる「ひび・あかぎれ」を治す薬のコマーシャル。
指の関節のあたりが、水仕事などで切れてしまう Cracked skin(あかぎれ)。
そんなしつこい症状も一回クリームを塗布したら治りますよ! という宣伝は、アメリカでも日本でも、効き目バツグンでしょうか!
余談ではありますが:
文中に出てきたレストラン龍吟ですが、こちらには名物のフクロウが二羽暮らしているのです。その名も「りゅうちゃん」「ぎんちゃん」と言いますが、六本木のお店の頃からの同居人で、レストランに隣接した専用のお部屋でのんびりと暮らしています。
(どちらが「りゅうちゃん」か「ぎんちゃん」か忘れてしまいましたが)こちらは、パッチリとした目のシベリアワシミミズク。さすがに、お客さんに慣れているのか、眠そうな目をパチパチと開けながら、素人の写真家にもフォトチャンスを与えてくれるのです。
こちらは、たぶん「トラフズク」の仲間だったと思うのですが、体全体に虎の模様みたいな斑(ふ)があるのが特徴です。ヨーロッパから来たと伺った記憶があるのですが、もうひとりと比べて、お客さんにサービスをするわけでもなく、マイペースな性格なのかもしれません。
わたしは、レストランが移ると聞いて、まず「りゅうちゃん」「ぎんちゃん」はどうするんだろう? と心配してしまったのですが、「一緒に移る」のが条件でミッドタウン日比谷に引っ越すことになったそうです。
二人とも元気そうにしていたので、安心いたしました。