Essay エッセイ
2018年10月10日

海が見えなくなりました!

いえ、たいしたお話ではないんですが、近ごろ「イヤだなぁ」と思っていることがあるんです。



我が家は普段、「シリコンバレー」と呼ばれる盆地のサンノゼ市(San Jose)に暮らしているのですが、ときどきサンフランシスコの街にやって来ることがあります。



そのときに滞在する部屋は、見晴らしが良く、当初は海が見えたんです。



こちらは、部屋の内装を整えて、机を置いてみたばかりのころの写真。



ほら、パソコンの向こう側には、ベイブリッジが見えているでしょう。



そう、ベイブリッジというのは、サンフランシスコ湾にかかる橋で、正式には「サンフランシスコ〜オークランド・ベイブリッジ(the San Francisco-Oakland Bay Bridge)」。これを渡ると、東の対岸にあるオークランド市や大学街で有名なバークレー市に行けます。



青い海には、橋の足下を行き交う、白い帆のヨットが浮かんでいるのも見えています。



ときには、重そうな巨大コンテナー船が、器用にベイブリッジの下をかいくぐってオークランド港に向かって行くのも見えました。



オークランド港は、アメリカで五番目に大きな港。年間に250万ものコンテナーが運び込まれるそうで、ベイブリッジの下の「交通量」もかなりなものなのです。



こちらが東側なので、太陽はここから昇り、朝早く起きると、部屋からは美しい日の出も見えました。



残念ながら、わたしは早起きはしないので、こちらは連れ合いが撮ったものですが、明るい陽光を受けて、ベイブリッジの橋脚がくっきりと浮かんでいます。



大恐慌時代の1933年に工事が始まり、1936年に開通したベイブリッジ。その歴史のせいでしょうか、単なる橋なのに、なんとなく荘厳な感じもします。




自慢だったのは、ベイブリッジばかりではなく、サンフランシスコのダウンタウン地区が一望できることもありました。



こちらはカメラを東に向けたアングルですが、斜め左側が金融街(ファイナンシャル・ディストリクト)の辺り。新旧入り混じって、高層ビルが建ち並ぶところです。



サンフランシスコは、アメリカ西部の中でも、いち早く都市化が進んだところ。19世紀末には金融でも文化でも西側をリードしていた街なので、街歩きをしながら、さまざまな建築様式の歴史的建造物を見上げるのも楽しいものなのです。



ここは街のメインストリートであるマーケット通りからも近く、マーケット通りに並行するハワード通りがまっすぐに走っているのも見えています。



夕刻ともなると、ガラス張りの高層マンションが、窓に夕日を受けてピカピカと光を放ちます。



この辺りのマンションは、丸みを帯びた設計のものが多く、いろんな角度で街を一望できるように配慮されているようです。



海沿いでなくとも、海と橋を満喫できる。それが、この部屋の魅力でした。




ところが、机を置いたころから6年たつと・・・



海や橋なんて、ほとんど見えなくなってしまったのでした。



こちらは、上の夕方の写真と、ほぼ同じ角度で撮ったものです。



まず、何やら黒い物体が目の前に見えていますが、こちらは、机の真ん前に建ったビル。



プロフェッショナルの方々をターゲットにした有名なソーシャルネットワークの本社ビルです。



ビルの上層の10階分は、重役の方々の部屋になっているそうですが、サンフランシスコに通って来るのは「道が混んでてイヤ!」という方が多く、ほとんど使われていないそうです。(だったら、こんなに高いビルを建てて、周りの人たちの眺望を邪魔しなければいいのに・・・)



そして、右側のリンコンの丘に建つ高層ビル。こちらは、当初は1棟しかなかったんですが、数年のうちに4棟に増えています!



どれも分譲マンションやアパートなのですが、過去数年のうちに「ひどい住宅難」におちいったサンフランシスコ市では、土地が限られているので、上へ、上へと居住空間が伸びていくしか方法がないのです。



ここは、1850年代にはサンフランシスコ最初の高級住宅街になった丘。150年たってみると、こんなにニョキニョキと高層ビルが建っているなんて、昔の住民が見たら、いったい何と言うでしょう?




そして、とどめを刺すかのように、建ち始めた建物が2棟。わたしの大事な「海と橋」を、ほぼすべてブロックしてしまったのです。



それは、フォルサム通りの海に近い場所に建築中の高層ビル2棟。手前はオフィスビルで、向こう側が高層マンション。ガラス張りのタワーの横には同じマンションの別棟が建っていて、その間には、オシャレなショッピングの小道がつくられる予定です。



ちなみに、左側に頭をのぞかせているヘンテコリンな建物は、フリーモント通りに建つ「超高級億ション」。すでに売り出し中ですが、電話やインターネット、テレビが完備され、家具を運び込んだら、あとはスーツケースでお引越しできるというコンセプトになっています。



どちらの高層マンションも、埋立地ではなく、しっかりとした岩盤の上に建つので、近頃、市内で問題になっている「傾く高層マンション」とは事情が違うのです。



最近は、サンフランシスコに新たに登場する高層マンションのモデルルームを冷やかすのが趣味になっている我が家ですが、部屋から海や橋が見えなくなっても、なかなか慣れた場所から動きたくないのも事実です。



だって、上へ、上へと伸びる高層ビルは、値段だって、上へ上へと伸びているのですから。




というわけで、蛇足ではありますが、サンフランシスコの街を遠くから眺めるには、「ここが一番!」というところをお教えいたしましょう。



こちらがその遠景になりますが、残念ながらこの日は、夏も終わりの9月最後の週末。暗い雲が空をおおって、カリフォルニアご自慢の「青い空と青い海」とはいかないものの、晴れた日には、サンフランシスコのスカイラインがくっきりと見える場所なんです。



ベイブリッジの途中にイェルバブエナ島(Yerba Buena Island)というのがあって、そこから橋を降りて、トレジャー島(Treasure Island)という人工島まで行くと、海をへだてて西側にはサンフランシスコのダウンタウンが一望できるのです。



このトレジャー島は、その昔、海軍基地だったところで、一般人が入れるのは基地の入り口まででした。が、1997年に基地が閉鎖されてからは、住宅地にしようと再開発が進んでいるところです。



近年は、基地の住宅を改築して一般市民も住んでいますし、自由に立ち入ることもできます。立ち寄ったときには、海沿いで「オクトーバーフェスト」をやっていて、散歩ついでにビールを愛する人たちが集まっていました。



ここからの夜景は、よく絵ハガキにもなっていますが、とにかく、サンフランシスコのダウンタウンをいっぺんに眺めるには、一等地でしょうか。



というわけで、部屋から海や橋が見えなくなって、ちょっとさびしくなった今日この頃。



近頃は、海の方までお散歩することも、ずいぶんと増えています。



晴れた日には、トレジャー島に足を延ばして、サンフランシスコの街を外から眺めることも増えていくことでしょう。




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