秋の味覚、ナシの次はブドウ
ちょっとびっくりなんですが、カリフォルニア州って、全米の野菜や果物の半分を生産しているそうですよ!
いえ、広大なカリフォルニアが「農業国」であることは知っていましたが、「全米の半分」とは・・・。
ということは、カリフォルニアで農業ができなくなると、大変ってことですね!
そんなわけで、前回のエッセイに引き続き、農作物のお話です。
秋の果物といえば、やはりナシとブドウでしょうか。
リンゴも秋の果物ではありますが、今では世界じゅうから運ばれて来るので、季節感が薄れつつありますね。
前回は、あれこれと西洋ナシ(pears)をご紹介しましたが、あれからひとつ新しい品種を試してみましたので、まずは、こちらをご報告いたしましょう。
こちらは、d’Anjou(ディアンジュ)もしくは Anjou(アンジュ)の仲間で、レッドディアンジュ(Red d’Anjou、写真の左側)。
「レッド」という名前のとおり、緑色の品種の赤い親戚ですね。
前回もご紹介したように、緑色の方は、青リンゴのような酸味と、えぐ味も少々あって、何日置いても、まったりとした甘さにはなりません。
が、赤い方は、熟すとどんどん甘みが増します。それも独特の甘みで、どことなく土の香りがするような、懐かしい、素朴な甘さでしょうか。
色は深い赤で、前回ご紹介した鮮やかな赤のスタークリムソン(Star Crimson)よりは、控えめな色合い。
でも、赤が美しいので、黄緑色の親戚とくっ付けてみると、なにやら芸術的な果物ができました!
ヘタの部分が柔らかくなったら食べごろですが、クセのないお味で、近頃、人気上昇中の品種なのです。
日本のナシほどシャキシャキ感(crisp)はありませんが、どなたにでも食べやすそうなので、こちらのレッドディアンジュも「オススメ」です。
カリフォルニアで栽培するブドウといえば、やっぱりワインをつくるブドウ(wine grapes)が有名ですよね。
白ワイン系のシャルドネ(Chardonnay)やソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)。赤ワイン系のカベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)やメルロー(Merlot)、ピノ・ノアール(Pinot Noir)と、世界じゅうには数えきれないほどの品種があります。
赤ワインをつくるジンファンデル(Zinfandel)などは、ヨーロッパからアメリカに伝えられたわりに、今ではカリフォルニアのブドウとして有名になっています。
カリフォルニアでは、8月の終わりころからワイン用のブドウの収穫が始まりましたが、品種・テロワールによって順繰りに11月まで続けられるそうです。
テロワール(terroir)とは、土壌、気候、地形や日当たりなど、ブドウを育てる条件すべてを表す言葉ですが、条件が違えば、同じ品種でも収穫の時期が違ってくるので、厄介なお話なのです。
今年は「干ばつ4年目」のカリフォルニアではありますが、それがかえって功を奏して、しっかりと味のつまった、良い実が期待できるとか。
なんでも、水が足りないと、ブドウがしっかりと根を生やして、実がおいしくなるそうですよ。
いつか、収穫直前のワイナリーのブドウ棚で、実を失敬して食べてみたことがありますが、小さいわりに、とっても甘かったのを覚えています。
ワイン用のブドウは、糖分(sugar content)が高いそうですが、ひと粒、ふた粒を失敬するだけなら、「ワインを知る」という理由で窃盗罪にはならないと思いますよ!
一方、ワイン用のブドウの陰で存在感が薄くなっている、食卓用のブドウ(table grapes)。
さすがに秋になると、店頭にはいろんな品種が出回ります。
西洋ナシと同じように、今まではアメリカのブドウを敬遠してきたのですが、そんな偏見は捨て去って、じっくりと味わってみることにいたしました。
こちらは、地元カリフォルニア産のコンコード(Concord grape)。
コンコードは、紫色のブドウの中では有名なものですが、実が小さいわりに、とっても甘いのが特徴でしょうか。
独特の「飴っぽい」香りもして、もっともブドウらしいお味と言えるかもしれません。
味が濃厚なので、ジュースやゼリー、パイなどの加工品にも使われるそうですよ。
皮をはずしやすく、食べやすい品種(slip-skin variety)ではありますが、実が小ぶりなので、種が大きくていっぱい入っているように感じるかもしれません(そう、「種なし」ではありません)。
カリフォルニア内陸部の農業地帯、サンホアキンバレーにある農場(Sunview)で栽培されました。
こちらは、緑色の種なし(Green seedless grape)と呼ばれていて、具体的な品種名はわかりませんが、種なしの一番人気トンプソン(Thompson seedless)ではないかと思われます。
なんといっても種がないので食べやすいですし、皮も薄いので、そのまま食べても大丈夫。
実はとても甘く、マスカット系らしい、清涼感のある甘み。そして、見た目も美しいですよね。
緑色のトンプソンは、昔から知られる種なしの代表格ですが、近頃は、種なし品種もどんどん増えてきています。
こちらは、ずばり黒ブドウ(Black seedless)。
色は「黒」というよりも、黒っぽい濃紺ですが、つややかで大きな楕円の実が特徴です。
とっても甘いのも特徴ですが、その甘みは、黒砂糖のような、まったりとした甘さで不思議です。
黒っぽいブドウは、えぐ味や酸味が強い(tart)と言う人もいますが、こちらの黒ブドウは、まったくそんなことはなくて、食べやすいです。
そして、こんな種なしブドウもあるそうですよ。
Flame seedless:火(flame)のような赤い色で、大きめの丸い粒
Ruby seedless:ルビーのような深みのある赤で、小ぶりの丸い粒
Crimson seedless:鮮やかな赤クリムソンで、楕円の粒
Sunset seedless:夕日を思い起こす薄紫で、大きめの丸っこい粒
Gem seedless:宝石(gem)とは、薄紫のとても大きな楕円の粒(おもに輸出用)
どれも美味なんでしょうけれど、名前だってポエティックですよね!
Peony(発音は「ピオニー」で「オ」にアクセント)は、美しい花のシャクヤクのことですね。
初めて見る品種なので、どんなものだろう? と、警戒心を抱くのです
が、口に含んでみると「え、これって巨峰!」と狂喜したのでした。
なぜなら、わたしは巨峰が大好きだから。
ブドウの時期に日本に戻ると、「ねぇ、巨峰を買ってよ」と母におねだりするのですが、まあ、アメリカでも栽培されていたとは!
しかも、上の農場と同じく、サンホアキンバレーにある農場(Schellenberg Farms)で栽培されたものとか。農業の技術革新も、目覚しいものですよね!
このアメリカ版巨峰、味は巨峰そのものなんですが、日本のものと比べると、皮と実の間の繊維質が少なく、口の中に葉脈が残らないのが嬉しいでしょうか。
まあ、日本の「極上の巨峰」と味比べをしてみたら、アメリカ産は劣るのかもしれませんが、わたしからすると「よくできました!」とハナマルをあげたいですね。
というわけで、ブドウのあれこれ。
カリフォルニア州だけで、「種あり」「種なし」を含めて60種以上の食卓用ブドウが栽培されているそうで、ブドウの道も奥が深いのです。
ですから、毎年のように、「あれ、新しい品種かな?」というブドウを見かけるのではないでしょうか。
そんな新しい品種との出会いも、せっせとお店に足を運ぶ楽しみでもありますよね。
蛇足ではありますが:
いやはや、近ごろ新しい改良品種の中には、綿菓子ブドウ(Cotton Candy grape)というのがあるそうですよ。
上に出てきた種なしトンプソンと、やはり種なしのプリンセス(Princess green seedless)を掛け合わせた、緑色の種なしブドウです。「綿菓子」の由来は、まるで綿菓子のように蜜っぽい、濃厚な甘みだとか。
う~ん、一度でいいから、食べてみたいですねぇ。