空が白っぽいです
例年、5月末ともなると、シリコンバレーの雨季はようやく終わりを迎えます。
今年は、5月の初め頃には、雨がまったく降らなくなって、辺りはもう真っ茶色。
これから10月まで、一滴も雨の降らない乾季が続くのですね。
そんな季節の変わり目になると、そろそろ空の色が気になってきます。
サンラクララバレーの盆地はかすんで見えないし、空も、いつものように真っ青ではありません。
日本では、最近、中国からの黄砂の影響で、空気が黄色くよどんでいると聞きました。でも、こちらシリコンバレーでは、霧のように、辺りが白っぽくなるのです。
そう、天気予報士の話によると、これは、霧のせいだそうです。
夜の間、海から押し寄せた霧が、内陸部まで覆い隠す。そして、昼間は、太陽の光で暖まってだんだんと晴れてくるけれど、夜になると、また霧が出てくる。
だから、日中、太陽が照り付けるわりに、気温が上がらない。まだまだ、真夏には遠いのですね。
でも、今日の空の白さには、別の理由も手伝っているみたいです。
それは、山火事。
雨季が終わると、途端に辺りは乾燥し、自然発火しやすくなるのですね。
今日の午後、この場所からは火の手は見えませんでしたが、消火ヘリコプターが飛んでいるのが見えました。
消防車にも何台も追い抜かれました。
家の後ろから煙がモクモク上がっているので、最初は家が燃えているのかと思いました。(空がとても青く見えるのは、車のフロントガラスのせいです。)
高台から見下ろすと、住宅地の裏手の空き地が燃えているのが見えました。幸い、火の手は沈下し、煙ばかりになっています。
けれども、煙は住宅の裏庭に迫り、もう少しで、庭のフェンスを飛び越えそうです。
この日は土曜日でしたので、家でのんびりしていた人たちは、さぞかしびっくりしたでしょうね。
この辺りは、昔は牛の放牧場だらけだった、とお話したことがありましたが、「草原が燃えると、そこは開発業者に売られて住宅地になる」のが、世の常なのです。
きっと、この黒焦げの部分は、来年あたりは家で埋め尽くされることでしょう。
ところで、カリフォルニアは山火事が多いことで有名ですよね。
実は、カリフォルニアの草地は始末が悪く、根っこが導火線のように、縦横無尽に地中に埋まっているのです。
ひとたび、自然発火すると、この導火線を伝って、次から次へと枯れた草に引火する。だから、消し止めるのが非常に厄介なのですね。
こちらの写真は、5月上旬の南カリフォルニアの山火事です。このときは、ロスアンジェルスの街を見下ろす山手の公園が燃え続け、近くのロスアンジェルス動物園と天体観測所も閉鎖となったそうです。
同じ週、ロスアンジェルスの南の海に浮かぶ観光名所、サンタ・カタリナ島でも、大きな山火事がありました。幸い、歴史的な建物は無事だったそうですが、千世帯ほどが、数日間の避難生活を送ったそうです。
これを受けて、大手保険会社のオールステート(Allstate)は、カリフォルニアでの住宅保険の新規加入をストップしてしまいました。火事や地震が立て続けに起こると、保険会社の支出が増えるばっかりですからね。
なんでも、いかに乾燥したカリフォルニアでも、5月上旬に、こんなに大規模な山火事があることは珍しいそうです。今年は異常なのです。
それは、とりもなおさず、冬の間、雨がまったく足りなかったことを表しているんですね。
水が足りないので、地べたがカンカンに乾いているのです(英語では、“bone dry” つまり 「骨のように乾いている」 という表現をするんですよ)。
しかも、今年は、シエラネバダ山脈などの高い山に雪が少なかったので、雪解け水も不足しています。だから、あちらこちらで水不足になることが予想されています。
そろそろ、海沿いの街サンタクルーズでは、日中に、庭の水撒きをしてはいけない規則ができあがっているはずです。昼間は水が蒸発しやすいので、水撒きをしても、無駄になるばかりですからね。
サンフランシスコなどでも、今年の夏は、給水制限があるだろうと言われています。
一方、シリコンバレーのあるサンタクララ郡では、そんなに簡単には、水不足にならないそうです。
それは、サンタクララ郡には、こんな風な貯水池がたくさんかるからなんです。
でも、これは、普通の水源地ではないんですよ。実は、水を地中に誘導するための池なんだそうです。
まあ、地面の下の地層に、水源地を作っているようなものなのですね。
この地中の水源地は、“groundwater basin (地下水の盆地)” とか “aquifer (帯水層)” とか呼ばれるそうですが、ラッキーなことに、サンタクララ郡は、ちょうど大きな「帯水層」の上に位置しているのです。
他の地域だと、固い岩盤だったり、帯水層があっても水質が悪かったりと、こんな絶好の条件は揃わないらしいです。
けれども、水の恩恵にあずかれるのは、自然の条件ばかりではないのですね。
ご存じのように、サンタクララ郡は、昔は農業で栄えた所です。そして、作物を育てるには、たくさんの水が必要です。
その水を地下から汲み上げすぎて、20世紀初頭には、井戸水が枯れ、地盤沈下が見られるようになりました。
そこで、1930年代以降、計画的にダムを建設し、地下水を少しずつ貯め始め、そして、ようやく、今の状態にまでなったそうです。
そんなこんなで、今では、サンタクララ郡で使われる水の4割は、この地中の水源地から来ているそうです。
だから、一年くらい雨が降らなくても、大丈夫なんですね。ありがたや、ありがたや。
自然の好条件と、先人の知恵のコンビネーション。
恵まれた環境ではありますが、やっぱり、水は大切に使わなければいけませんよね。
追記:ひとつ思い出したことがあります。
なんでも、シリコンバレーで一番大きな街サンノゼの年間平均降雨量は、モロッコと同じなんだそうです。
まあ、シリコンバレーが乾燥していることは確かですが、ちょっと驚きですよね!