鎌倉の紫陽花(あじさい)
梅雨時の花は、紫陽花(あじさい)。
雨のシーズンと知りつつ戻った日本では、あちらこちらの街角で可憐な花を見かけました。
東京近郊で紫陽花の名所とされるのは、神奈川県の鎌倉。しっとりとした海沿いの古都ですが、6月下旬の日曜日、花を観ようと鎌倉まで出かけました。
東京の恵比寿(えびす)駅から「湘南新宿ライン」に乗って、鎌倉駅で下車。そこから「江ノ電」の愛称で知られる江ノ島電鉄に乗り換え、極楽寺(ごくらくじ)駅で降ります。
この辺りには、長谷寺(はせでら)や光則寺(こうそくじ)といった紫陽花の名所もありますが、向かった先は成就院(じょうじゅいん)。
なぜって、前日にテレビで紹介していたから。
と、そう思って成就院にやって来た人は大勢いたようでして、極楽寺駅から一本道をのぼって行くと、目の前には、いきなり長蛇の列。列は延々と寺まで連なっているのですが、交通整理の係員まで駆り出され、鎌倉の花の人気を物語っています。
その長蛇の列を見てひるんだ連れ合いは、「もう帰ろうよ」と言うのですが、せっかく鎌倉まで来たのですから、一株くらいは紫陽花を見たいではありませんか。
そこで、あきらめきれずに一本道を進んで行くと、緑のトンネルみたいなこんもりとした箇所が出てきて、さらに先に進むと、テレビで観たような寺の登り口が見えてくるではありませんか!
そうなんです、小高い丘の上の成就院には、登り口がふたつあって、極楽寺駅から手前の方が、混んでいた入り口。そして、遠い方の登り口は、まったく混んでいないので、スイスイと登れそうです。
こちらの登り口は、寺の墓地のある裏手で、ちょうど住職さんが法要を終えて、墓地から出てきたところでした。
そして、紫陽花が咲いているのは、実は、こちら側から登る階段なのですね。
というわけで、順調に紫陽花の道にたどり着いたわけですが、さすがに階段を登り始めると、みなさん色とりどりの花に見とれたり、記念写真を撮ったりと、とたんに交通渋滞しているのです。
さらに、ここの紫陽花の醍醐味は、背景に由比ヶ浜(ゆいがはま)が見えること。ですから、みなさん「煩悩(ぼんのう)」と同じ数の108段を踏みしめながら、花を愛でたり、振り返って海を眺めたりと、まあ、忙しい、忙しい。
この寺には、全部で262株の紫陽花があって、これは『般若心経(はんにゃしんきょう)』の文字数と同じなんだそうです。けれども、実際にはもっとたくさんあるんじゃないかと思えるほど、いろんな紫陽花が丘一面に咲き誇っていたのでした。
紫や青。赤っぽいのや白っぽいの。そして、日本古来の楚々としたガクアジサイに、ぽったりとボリュームのある西洋アジサイ。
まさに、今が見頃! やっぱり、鎌倉に来て良かった!
そんな成就院の花々に加えて、この日は、住宅地に咲く星形の目新しい紫陽花を見つけたり、街路樹の根元に開花する紫陽花に元気をもらったりと、まさに「紫陽花づくし」の一日なのでした。
紫陽花は、わたしの一番好きな花なのですが、それは、カサカサと風化してしまいそうな儚さ(はかなさ)もあり、思わず手で包み込んであげたくなるような花だから。
けれども、その一方で、雨が降れば降るほど、だんだんと元気になっていく不思議な花でもありますね。
雨が降ってくると、そこらじゅうのジメジメを吹き飛ばしてくれるほど、凛(りん)と頭をもたげるのです。
そう、梅雨の紫陽花は、真夏の夜空に咲く、打ち上げ花火のようなもの。
繊細な中にも、華やかさと強さがある。
そして、これほど雨の季節に似つかわしい花は、ほかにはないのかもしれませんね。