脳と宗教:とってもまじめな脳のお話
- 2001年06月11日
- 科学
Vol. 16
脳と宗教:とってもまじめな脳のお話
遺伝子の数では、人間はあまり他の動物達と変わらない、ということが最近になってわかってきました。道端のたんぽぽより、ちょっと多い程度だそうです。でも、人間は、明らかにキリンや象やシマウマとは違う生き物です。二本足の歩行や言葉もそうですし、火を扱い、道具を作り出し、文明を築きあげたのもそうです。
それと同じくらい画期的に違うのは、人間が宗教観を持っているということでしょう。たとえば、チンパンジーなども、親族の死を悲しむ行動を取る場合があるそうですが、生命、死、自然を超越した存在などを中心として、壮大な宇宙観を作り上げたのは、人間だけです。人類は、ネアンデルタール(Homo neanderthalensis)の頃から、仲間の死を悲しみ、花を手向けたと言われています。
人間がそういった宗教観を持った途端、ある疑問が生まれました。本当にすべてを超越したモノはいるのか、それとも、これは人が頭の中で創造するものか、ということです。歴史的に見ると、すべての宗教には、それに懐疑心を抱く者との争いや論争が付き纏っていますが、現在も人口の9割近くが神を信じるアメリカでは、これはいまだに重要な探求のようです。
そういった中、科学がこれだけ進んだ今、脳を探ることで、人間の宗教観を少しでも解明できないものか、と考えている人もたくさんいるようです。
ペンシルベニア大学では、カトリックの僧侶や修道女の脳の働きを測定することで、おもしろい現象を発見しました。PET(ポジトロン放射断層撮影法)と呼ばれる脳内の血液の流れを計る機器で、安静時と祈っている時の脳の動きを比較してみます。そうすると、祈っている時は、"自分を失っている" 状態にあると言えるそうです。
頭のてっぺん部分(頭頂葉: parietal lobe)には、五感の情報を処理するデータセンター(体性知覚野: sensory area)がありますが、祈りを始めると、体の各部所からここへのインプットが処理されにくくなり、"自分" がいなくなってしまうそうです。そうなると、自分より大きい何かに包み込まれているような気になってくるそうです。この自分を見失う状態は、祈りばかりではなく、教会でゴスペルを歌うとか、神の前で舞うとか、呪文を唱える時などにも起きるそうで、自分を消し、まわりと一体となることで、超越した存在を感じ始めるということです。
また、カナダで行なわれた別の実験では、頭の側面部分にも鍵があるのでは、という結果が出ました。何人かの被実験者の側頭部分に、外部から電気的刺激を与えてみると、"自分がふたつに分かれるような気がした" ということです。頭の中に、自分の他に幽霊がいたとか、誰かが自分の肩越しに物を見ていた、とか表現する人もいるそうです。その他、月が照る静かな夜、平和な気分に浸っていたと感じた人もいたそうです。
この実験から、側頭葉(temporal lobe)には、何か宇宙的な存在を感じ取るような回路が組み込まれているのかもしれない、と言えるそうです。
一説によると、この側頭葉には、物体の形や動きなどの目からの情報と、触覚や聴覚からの情報を束ね、総合的に空間を判断している部分があるそうです。この人間が普段行なっている空間的な判断と、非日常的に感じる宇宙的な広がりは、もしかしたら側頭葉の中では、まったく無関係ではないのかもしれません(これはあくまでも、素人考えですが)。
上記ふたつの実験は、頭の中には、自分を消し去り、自然を超越した何かを感じ取る部分が用意されている、ということを示しています。だとすると、これは人間が脳ミソでカミを作り出している証拠なのでしょうか。
実験に参加した修道女は、それは違うと言います。それどころか、彼女は以前に増して、神への信頼感を強めたそうです。それは、神が人間に感じ取る能力を用意されていた、と信じるからだそうです。どうやら、この問題については、科学はどちらとも結論付けることはできないようです。
さて、もう少し脳のお話を続けますが、ごく最近発表された説によると、"自分" というのは、どうも前頭葉に存在するらしい、ということです。具体的には、右の前頭葉(right frontal lobe)の前の部分に位置するそうです。前頭葉は、論理思考や抽象概念などの知的活動や、会話、運動、本能などを司る場所だということは、よく知られています。新説によると、それに加え、性格、信条、好き嫌いなどを備えているらしいということです。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校では、この部分に病気で障害を持つ患者には、性格、価値観、好みに明らかな変化が見られることを発見しました。たとえば、54歳の不動産業界のキャリアウーマンは、いかにも高そうなデザイナーの洋服から、安っぽい服やけばけばしいビーズのアクセサリーに好みが変わり、知らない人にも "あなたのその服、おいくら?" と聞くようになったそうです。また、フランス料理がお好みだったのに、ファストフード、特にタコス(気軽に手で食べられるメキシコ系料理)が大好物になってしまったらしいです。
これら一連の調査結果から、"自分" を保つには、右前頭葉の正しい働きが必要で、この部分の生物的な損傷は、意識や自己のパターンを破壊してしまう可能性がある、と言えるそうです。
"意識とは何ぞや" という問題は、カミの話と同じく、古くから論争の対象となっているわけですが、今回の発見で、少しでも謎解きに近づけたのでしょうか。
ところで、先述のペンシルベニア大学の実験では、五感の情報がデータセンターでうまく処理されないと、"自分" を失ってしまい、超越した何かを感じ始めるようだということでした。それでは、五感のインプット自体が不足している場合は、物事を判断する "自分" の形成に支障が出てくるのでしょうか。
調べてみると、たとえば、視覚に障害がある人の場合でも、後頭葉(occipital lobe)にある視覚野(visual area)は、外部からの刺激にきちんと反応しているそうです。目からの信号が不十分でも、触ったり、においをかいだりすることで視覚的インプットは補われ、視覚野の活動に繋がるそうです。
聴覚に障害があった場合も、同様のことが言えます。話し言葉の場合は、左脳にあるブローカの運動性言語野(前頭葉)とウェルニッケの聴覚性言語野(側頭葉)が活躍することがよく知られています。実は、手話を使う人の左脳でも、まったく同じ言語野が活動しているそうです。一見して、手話は、視覚的・空間的情報を司る右脳が支配していそうですが、どうもそうではないらしいです。視覚的な言語のインプットであったとしても、左脳が理解できるようなフォーマットに、信号処理されるそうです。
では、音のインプットがないと、脳の中で声を聞くことはないのでしょうか。生まれた時から耳が聞こえない人の場合でも、文字が読めるようになるにしたがって、頭の中で次第に音が形成されてくるそうです。普通に聞こえる人の音の響きとは違うかもしれませんが、決して静まりかえった世界ではないということです。
結局、見たり、聞いたりというのは、各々が五感のインプットを受け、それを自分の脳で増幅し作り上げた世界であり、決して客観的なものではない、と言えるようです。哲学者カントが言う、物自体(a noumenon、thing in itself)と現象(a phenomenon、thing as it appears)の違いというのは、このようなことを指しているのかもしれません。
最後に宗教的な話に戻りますが、カミの議論と似たところで、臨死体験なども脳の成せる技だ、と言う説があるようです。高いところから自分を見下ろしていたとか、光のトンネルやお花畑を見たというのは、生き返った人が述懐することとよく言われます。でもそれは、外からは意識がまったくないように見えても、脳の丈夫な部分は辛うじて活動していて、そこが瀕死の状態で作り出す夢は、誰の場合も似通ってくるというものです。
これは正しい、いやそうじゃないのいずれの立場にしても、目の前に展開される事象を少しでも越えると、途端に信じる者と懐疑心を抱く者との論争の種となるようです。そして、その論議は、最後の最後まで、飽きることなく延々と続けられていくに違いありません。
目の前の事すら同じに見えていない人間には、これは宿命なのかもしれません。
夏来 潤(なつき じゅん)
お子様パワー:財布の紐は誰のもの?
- 2001年06月06日
- 社会・環境
Vol. 15
お子様パワー:財布の紐は誰のもの?
シリコンバレーのお子様達の間で、ちょっとしたブームになっているのが、運転手付きのリムジンです。家から空港の往復をしてくれる乗合小型バスの "リムジン" ではなく、通称 "リモ(limo)" と呼ばれる、大型高級車のことです。
大抵、黒塗りのリンカーンが使われ、後部座席に数人座れるように改造されています。よく、ハリウッドの映画などに出てくる、着飾った男女がシャンペンなんかを飲んでいる乗り物です。10人以上乗れるタイプは、"ストレッチ(stretch)" などと呼ばれ、白の巨体で、窓がまっ黒のマジックミラーというのも、最近よく見かけるバージョンです。
どこからどうしてお子様達がこの乗り物の味を占めたかわかりませんが、お誕生日などに、お小遣いをはたいてリムジンを貸し切り、お友達を引き連れ、マクドナルドなどに行くのがおしゃれらしいです。運転手は、お子様だろうが大人だろうが、お客様には丁重に接します。
お子様をターゲットとしたリムジン会社も存在するようで、お子様専用に改造した車は、全長7メートルの、オレンジ色の "いもむし" だそうです。ご丁寧に、10本の足とパクパク動く口が付き、ふわふわした毛が内と外を覆っていて、乗り心地はなかなかのようです。"いもむし号" の他に、かえる、ジャガー、オオハシ(チョコボールのマスコットになっている鳥)があるそうで、お誕生日の小さなお子様を、内緒のおもてなしで喜ばせるには、最適のようです。
リムジンは、もともと大人達の間で、特別なデートやオペラの行きかえりなどに使われていました。それがティーンエージャーに派生し、高校卒業前のプロム(prom)と呼ばれるダンスパーティーの行きかえりに使われたり、大晦日の晩、車で街を走り廻ってお祝いするのに貸し切られたりするようになりました。
そして、今は、小学生の間でも、彼らの人生の上で大事とされる日には、リムジンを雇うという習慣が生まれつつあるようです。子供達に限らず、リムジンを雇うのには、多分に象徴的な意味が強く、目的地に行くための足というよりは、その行程を皆で楽しみ、なおかつリッチないい気分を満喫する、というもののようです。
このリムジンのご一行様と同様、シリコンバレーの大人達を驚かせているのが、お子様のエステ通いです。女の子がお母さんの洋服やお化粧品を拝借し、大人の真似をするのは昔からのお遊びですが、最近はそれを飛び越え、堂々とエステサロンで大人の仲間入りをしているようです。美顔にマッサージ、マニキュアにペディキュア、そして、にきび予防のお手入れ、など何でも揃っています。男の子も例外ではなく、特にマッサージなどをお好みのようです。小さな女の子のお気に入りは、マニキュアをプロにやってもらうのことのようです。お嬢様になると、やはりお肌のお手入れが一番気になるようです。
中には、まだよちよち歩きの子供にマッサージのギフト券をプレゼントしたり、小学生の娘のために、エステでお誕生日のパーティーを開いてあげたりする親がいるそうです。また、母と娘の絆を深めるために、"親子パッケージ" なるものを設け、フェイシャル、マッサージ、メークアップ、そしてお食事を提供するエステサロンも出てきたそうです。勿論、お子様は堅くお断りのサロンも多いようですが、子供といえども同じ値段を請求できるので、結構いい商売になるのかもしれません。
サロンでの一日は、何も奥様やお嬢様、お坊ちゃまの専売特許ではなく、お父さんのエステ通いも、ニューヨークあたりのビジネス街で流行っているそうです。単なるヘアカットやマッサージだけではなく、男性用マニキュアや眉毛のお手入れ、フェイシャルに髪パックなど、女性顔負けの品揃えのようです。"一日14時間も働いていると、たまにはこうしてリラックスしたいんだよ" と語る重役達も多いそうです。
また、最近はデパートでも男性用のスキンケア商品が充実してきているそうで、お顔のお手入れをちゃんとしているのは、細かいことによく気がつく(paying attention to detail)証拠とされるようです。何でもこれがビジネスの成功に貢献するとか。また、エステサロンは、第二のゴルフ場としても、商談成立に一役買っているようです。
こういったリムジン業界やエステサロンの隆盛は、勿論、昨年までの好景気と株式市場高騰に伴い、皆の懐が潤っていたことが大きい要因かもしれません。一説によると、景気が今のように一時停滞しているときが、男性が最もエステサロンに通うとき、とも言えるそうです。バケーションを取る代わりに、身近にマッサージなどでリラックスしたい、というのが理由だそうです。
しかし誰が何と言おうと、ここで忘れてはいけないのが、お子様パワーです。ティーンエージャー産業は今や莫大なのもので、去年アメリカ国内では、12歳から19歳までのティーンのために消費された金額は、1550億ドル(約19兆円)と言われます(Teen Research Unlimited社発表)。
この世代は、戦後のベビーブーマーの子供達で、3千2百万人という数は、親の世代をしのぐそうです。また、両親が働いている家庭が多く、子供達の意見が家庭内の決定を大きく左右するという現象も、ティーン消費拡大に影響しているようです。この分野では、ティーン自らの消費額は全体の3分の2に昇り、いかにして彼らの気を引くかが、販売会社のマーケティング部門での最優先課題となっています。
ソフトドリンクのスプライト(Sprite)は、早くからこのティーンパワーに気付き、音楽を商品と結びつけることで、近年販売を著しく伸ばしてきました。ヒップホップ分野(hip-hop)のアーティストを招き、コンサート会場で自社の飲み物を配る。また、そのコンサートの模様を、人気音楽テレビ局のMTVで放映し、草の根的に若い視聴者に訴える。そして、"スプライトはヒップホップの一部" と言われるまでに、強いブランドイメージを植え付けることに成功したようです。
また、MTV自身も、若い視聴者を繋ぎ止めるためには調査を怠りません。"民族誌研究(ethnographic studies)" と銘打って、MTVのメンバーがティーンエージャーの家に出向き、インタビューだけではなく、その生活の一部始終を記録し、何が彼らに好まれるかを検討するという手法を取っているようです。お陰で、12歳から24歳の視聴者層では、過去4年間連続して、ケーブルテレビ局人気ナンバーワンの座を保っているそうです。今年1月からMTV Japanのサービスが開始されましたが、世界中で140カ国に放送網を作り上げるまでになっているそうです。
ピザのチェーン店、ピザ・ハット(Pizza Hut)は、重役達のランチの席にティーンエージャーを招き、忌憚のないご意見を伺う "円卓会議(roundtable discussions)" を実施しています。これが、新製品開発にうまく生かされているようです。また、ゲームソフト会社では、契約したティーン達に建設的な意見を請うのが、以前からの習慣になっています。こういった会社の謝礼で、充分に生活できそうな "ご意見プロ" のティーンも、たくさんいるそうです。
ひとたび若い消費者の信頼を得ると、生涯に渡って自社ブランドに対し忠誠心を示してくれるかもしれないので、各社ティーン層の獲得に必死なのです。
近頃はティーンエージャー("ジェネレーションY" とか "Gen Y" とか呼ばれる人達)をターゲットとしたマーケット・リサーチの会社がもてはやされ、販売促進にも大きく貢献しているようです。こういったリサーチ会社からは、ちょっとおしゃれな(cool な)ティーンを求めて、"クールハンター" 達が派遣され、街で集めた情報は、即インターネットで顧客に報告するそうです。
でも、こういった情報が公になった途端、クールはクールではなくなるそうで、"クールとはいったい何か?" という命題は、永遠に解き続けなければいけないようです。
それ故に、流行が生み出され、消費者からも新しいものが求められるのでしょうが、それにしても、最近はクールが飽きられるのが早いものです。
夏来 潤(なつき じゅん)
キャリアウーマンと出産:州知事だってママになります
- 2001年05月16日
- 社会・環境
Vol. 14
キャリアウーマンと出産:州知事だってママになります
4月10日、アメリカ史上初めて、妊娠した女性が州知事となりました。圧倒的に民主党支持のマサチューセッツ州で新しく職に就くのは、共和党のジェイン・スウィフト氏、36歳です。ボストン近郊などハイテク産業のメッカを抱えるマサチューセッツ州で、女性の知事が誕生したのは、歴史上初めてのことだそうです。また、現在任期にある州知事の中では、一番若いそうです。彼女は今まで副知事の職を務めており、カナダ大使として新たに任に就いたセルッチ州知事の後を継ぐ形となりました。
別に、女性だろうと、州知事として若年だろうと、普通ならあまり話題にのぼらなかったかもしれませんが、彼女の場合、6月に双子を出産予定であること、2歳半の女の子の母親であること、そして、若い頃から政治の表舞台にいたことが手伝って、何かと州民や報道陣の関心の的となっているようです。副知事時代、職場外で側近を娘のベービーシッター代わりに使ったとか、サンクスギヴィングに自宅へ帰る際、州のヘリコプターを使用した、など "問題" を起して話題となりました。ベービーシッター騒ぎの方では、その無作法な行為に対し1250ドルの罰金を支払ったらしく、そんなこんなで、支持率は必ずしも芳しくないらしいです。
マサチューセッツには州知事公邸がないため、オフィスには3時間離れた自宅から通いますが、遠距離通勤にもめげず、今のところ引っ越す予定はないそうです。また、今後は夫のチャールズ・ハント氏が、家にいて子育ての責任を持つそうで(a stay-at-home dadという言葉で表現されます)、伝統的な責任分担とは違う家庭生活を送ってはいますが、知事としての責任は充分果していく決心のようです。必要とあれば、産後のベッドの中からも指示を出す決意のようです。
このスウィフト州知事もいい例ですが、アメリカでは昨今、30代、40代で初めて子供を持つ女性が増え、出産に関する常識を変えつつあります。ちょっと驚くことに、マサチューセッツ州では、国内で初めて、30歳以降の女性の出産数が30歳未満の出産数を追い抜いたそうです。最新の1998年の統計によると、この年母親になった人の53%は30歳以上で、その中の6%は40歳以降の出産だそうです。20年前は、30歳未満の母親は、年上組の3倍はいたそうですが、今はそれも昔話となってしまいました。
このマサチューセッツ州で特に女性の出産が遅いのは、まずひとつに、高学歴のキャリアウーマンが多いからといいます。ボストン界隈には、ハーバード、MIT、ボストン大学などの名門校があり、卒業後も地元のハイテク、バイオテック産業の企業や医療関係の職場に勤める女性も多いようです。こういったキャリアウーマン達が子供を産むのは、必然的に普通より遅くなるようです。また、この州では国内でも珍しく、不妊の治療に対し保険が効くそうで、これが医学的な面で、遅い時期の出産を大きく助けているようです。その他、離婚率の高さやそれに続く再婚率の増加を、この出産遅延傾向と結びつける専門家もいます。
ご存知の通り、母親があまり若くないということで、出産に関するリスクは当然増えます。流産の危険性は高くなるし、早産のため赤ちゃんの発育に支障が出る場合もあるし、遺伝的な問題、たとえばダウン症などを起しやすくもなります。しかし、若い母親に比べ、無理をしないし、ちゃんとお医者さんの言うことを聞くし、また既婚者の率が高く、高学歴で高収入、といった出産のリスクをオフセットする要因も多々あるようです。興味深いことに、不妊治療をしない状態でも、30歳以降の出産では双子、三つ子などの率が高くなるそうで、これに不妊治療の影響が加わり、全国的に複産が急増しているということです。
ところで、比較的年齢を加えて親になるのは、何も女性ばかりではなく、カリフォルニアでは、政界の熟年男性の赤ちゃん誕生がちょっとした話題になっています。サンフランシスコのブラウン市長は、4月上旬67歳でまたパパになりました。フリーモント市選出の連邦下院議員スターク氏、69歳には、8月に双子が誕生するそうです。ブラウン市長の場合は、自分の補佐を勤めていた女性が母親となっているので、それも原因となっているのでしょうが、この熟年パパ達に対し、眉をひそめる人も少なくないようです。
たとえばハリウッドなどでは、昔から熟年パパの例はたくさんあるようです。チャーリー・チャップリンは73歳で息子ができたし、以前カーメル市の市長も勤めたクリント・イーストウッドには、66歳で女の子が生まれました。昨年、美人女優との間に男の子ができて話題になったマイケル・ダグラスは、55歳で父親となりました。
しかし、これはハリウッドや政界での話であって、もし身近にそのような話が出てきたら、ほとんどの人は拒否反応を示すそうです。リベラルそうなアメリカ人にしても、やはり世間の常識から照らすとこれは間違ったことに映るようで、"もう充分おとなの息子や娘達がいるのに" とか、"子供のキャッチボールの相手をしたり、結婚式に出たりできないかもしれない" とか否定的な意見が多いそうです。正直な子供達に至っては、熟年パパを持つ同級生に向かって、"どうしておじいちゃんが学校に送ってくれたの?" などと尋ねるそうです。
しかし、悪い面ばかりとは限りません。若い男性に比べ、いろんな意味で忍耐強いし、金銭的に安定しているし、過去の子育ての失敗からいろいろ学んでいるかもしれないし。また、初めて父親になる熟年男性は、若い人より子供を持つことを楽しみしていて、生まれてからも、一緒に遊んだり、面倒を見たりといい父親になる、という専門家もいます。ほとんどオフィスで寝起きしているようなシリコンバレーの若いパパ達を考えると、比較的時間を作り易い熟年パパ達も、決して悪くないのかもしれません。
このように、アメリカの出産に関しては、生む側も生んでもらう側もかなり多様化してきて、特に都市部では、今までのクッキーカッター的な(紋切り型の)常識が、急速に変わりつつあるように見うけられます。それにしても、州知事が出産間近と言うだけで、その一挙手一投足が吟味されるというのは、まだまだフェアさに欠ける証拠かもしれません。
最後に、まったく蛇足ではありますが、親権に関して奇妙な実話をひとつ。マサチューセッツ州のある男性が、州の最高裁判所から命令を受けました。四の五の言わずに、子供の養育費を、彼女が18歳になるまで払い続けなさいと。
彼は18の時に、この子の母親から "これは、あなたの赤ちゃんよ" と言われ、疑いもせず、父親として州に届出をしました。養育費(child support)として給料の4分の1を払い、赤ちゃんを定期的に尋ね、パパの役も立派にこなしてきました。子供が5歳のとき、"あの子、あまり似てないわね" という彼の母親の勧めでDNA親子鑑定をしてもらった結果、彼は父親ではないことが判明しました。
もう養育費は払う必要はないはずだと訴えた彼に対し、州最高裁は、"父親であると認めることは、永久的な影響が伴うということを理解しているべきだった。父性(paternity)を問うのには、遅過ぎる" として、あと9年間養育費を支払い続ける命令を下しました。彼はお陰で、薄給の半分は養育費と税金に持って行かれ、お金がないので、未だに両親の家から出ることができないそうです。
マサチューセッツ州最高裁は、他の州にも幾多の前例があると、バーモント州、フロリダ州、メリーランド州の同種の判決例を挙げたそうですが、18歳の男の子には、あまりにも重すぎる決断を強いられていたようです。
ちなみに、子供の母親については、裁判所からは何もお咎めなしだったそうです。
夏来 潤(なつき じゅん)
ナスダック:鬼より怖い除名処分
- 2001年04月02日
- 業界情報
Vol. 12
ナスダック:鬼より怖い除名処分
最近は、インターネット関連企業も自然淘汰(natural selection)のプロセスを経ている様で、昨年3月までは株価高騰の波に乗り、飛ぶ鳥を落とす勢いだった有名会社も、時代の流れには逆らえず、ひとつまたひとつと店じまいを宣言しています。
特に、小売やコンテンツ業にその傾向が強く、先日も、オンラインおもちゃ屋としては代表格で、お客様サービスにも定評があったeToys社が、閉店を発表しました。ヨーロッパの操業も含め3月中旬で完全閉鎖し、"えっ、ここもそうなの?" とクリスマス商戦でお世話になった消費者達を驚かせています。
こういった中で、傾きかけた会社の延命装置のスイッチを握るのは、テクノロジー企業が集中する株式市場、Nasdaq(ナスダック)です。問題を抱える会社にとって、Nasdaqでの取引持続は最後の砦とも言えるもので、ここから外されると、信用の観点で資金集めがますます難しくなり、よって会社の存続自体が怪しくなります。
実際、昨年Nasdaqから外された(delisted)5つの会社のうち、ペット商品を扱うドットコム会社としては認識度ナンバーワンだったPets.com社は、外されてすぐ負けを悟り、さっさと店じまいを宣言しました。犬のパペットを上手に宣伝に使い、知名度抜群のサイトでしたが、あまりにあっけない幕切れに、消費者の間に寂寥感すら残りました。
6番目に除名されたオンライン薬局のPlanetRx.com社は、南サンフランシスコ市にあった会社を経費節減の理由でテネシー州メンフィスに移し、扱う商品もガンやエイズなどの難病の処方薬に制限し、再起をかけています。除名直前、8株を1株とする "逆スプリット(reverse stock split)" を行ない、株価が8倍になることを願いましたが、これがかえって災いし、株価は1ドルから50セントに下がり除名処分となりました。
Nasdaqが除名候補とするのは、株価が1ドルを割り、それを30労働日続けた会社だそうです。日本と違い、優秀企業でも数十ドルという値で取引される米国Nasdaqでは、株価が2,3ドルになってもまだまだ希望は持てます。事実、昨年初頭の異常な株価高騰以前は、将来有望と目された会社でも、株価数ドルという長い下積みの時期を経験していたりします。
しかし、1ドルを割ると話は急変し、それこそ心停止寸前と受け取られるようになります。そういう会社には、Nasdaqから通知が届きます。90日以内に株価を1ドル以上に上げ、それを10日以上持続するように、さもなければ、最後の嘆願をNasdaqに行なうように、というものです。
1ドルルールを守れないと、最終手段として、会社の重役が首都ワシントンDCに出向き、3人のNasdaq陪審員の前で、命乞いをします。もし、これが認められないと、除名処分の憂き目を見ます。
除名されると、最初に落ちる先がOTCBB(the Over The Counter Bulletin Board)です。前述のPlanetRx.com社は、申し開きもせず、ここに落ちていったそうです。ここでは、大きなリスクが伴うのとリターンが小さいという理由で、一部の勇敢な投資家しか取引しないようですが、それでも、この市場にもそれなりの規則があります。それを守れないと、さらに次に落ちていきます。
俗にピンクシート(Pink Sheets)と呼ばれるものです。これは、取引にピンク色の紙を使う、という以前の習慣から来ているそうですが、解雇通知のことを "ピンクの紙切れ(Pink Slips)" と言うのと何となく似ています。この市場では、参加企業は、株式市場取り締まり団体のSEC(the Securities and Exchange Commission)に登録することも、会社の収支を公表する義務もないらしいです。さしずめ、"ならず者の集まる無法地帯、西部(the wild, wild, West)" といったところです。
1971年2月に取引が開始されて以来30年、Nasdaqはじわじわと市場を広げ、現在は5千社ほどが取引されています。1994年には年間取引数で、1999年には取引額でニューヨーク株式市場を追いぬいた、という輝かしい歴史を持っています。こういった強い立場を築いたのは、ホームコンピュータ、携帯電話、インターネットなどのテクノロジーが広く一般に浸透した、ここ数年のことと言えます。
その急激な発展過程では、参加企業に随分お世話になってきたNasdaqですが、今年に入り、全米で2百社ほどに、除名候補の通知を送りつけたそうです。そのうちかなりの会社が、昨年公開したばかりの新米ということです。昨年3月に史上最高値を記録した後、Nasdaq平均値はそこから6割ほど下がっている現状で、経験が浅い会社ほどその影響を大きく受けているようです。
シリコンバレー近郊のドットコム会社のうち、除名の危機を迎えているのは、自動車販売のAutoweb.com社、ソフトウェア販売のBeyond.com社、グリーティングカードのEgreetings社、MP3フォーマット音楽販売のEmusic.com社、クーリエ・流通サービスのE-Stamp社、健康・医療情報サイトのHealthcentral.com 社、そして、女性専用の情報発信サイトWomen.com社などがあります。いずれも知名度の高いサイトではありますが、昨年あたりから、経営の不安定さを指摘されていたり、従業員の一部解雇を行なったりしています。
このうち、Women.com社(Women.com Networks Inc.)は、同業ナンバーワンのニューヨークのライバル会社、iVillage社(iVillage Inc.)に買収されることが先日発表されました。両者とも広告収入に頼っている状況ですが、業種1位と2位の合併後は、増収を狙い、リサーチデータの契約販売などの新分野を開拓するようです。今後2社合わせて月間2千万人近くのビジターを予測しており、3番手であるOxygen社(Oxygen Media)に大きく水をあけることになりそうです。
この業界は、米国インターネット人口の半数を占める女性視聴者層をターゲットにしているわけですが、これをうまくセグメント化し各々に特化した魅力を引き出せていないので、巨大ポータルのYahoo!ほどにファンを増やせていない、という指摘を今のところ否めません。
気の毒なことに、先述のオンラインおもちゃ屋eToys社(eToys Inc.)は、閉鎖を待たず2月末にNasdaqから除名されたようです。この会社の業績低迷には、景気の影響が多少あるようですが、おもちゃ業界全体では、それは必ずしも見うけられないようです。現に、世界最大のオモチャメーカー、マテル社(Mattel Inc.)は、看板商品のバービー人形を中心に、年末商戦を含む昨年第4四半期で、増収・増益を記録しています。
eToys社の場合はむしろ、Toysrus.com (Amazon.comのノウハウを受け継ぎ昨年秋から運営開始した、おもちゃ販売最大手のToys R Us社のWebサイト)や WalMart.com (総合小売チェーンとしては世界最大のWal-Mart社のWebサイト)などの、いわゆるクリック&モーター(click-and-mortar:小売店舗を持つ会社、通称bricks-and-mortarが運営するオンライン・ショッピングサイト)に押されて苦戦していたようです。eToys社は最後まで、吸収合併や会社の建て直しの道を模索していましたが、Nasdaq除名が噂されるようになって、それも更に難しくなってしまったようです。
こういった比較的新しいドットコム達にとって、Nasdaqは強い味方でもあり、怖い存在にもなり得るわけですが、そこから追い出されるだけではなく、自ら出て行った会社もあります。オンライン証券会社としては古株とも言える、業界2位のEトレード社(E*Trade Group Inc.)は、先日Nasdaqからニューヨーク株式市場(NYSE)に移動しました。世界の名だたる金融会社がひしめく取引市場に移ったことで、一介のドットコム会社から金融業界の一流企業に脱皮したぞ、という意思表示をしたようです。
過去には大企業が取引市場を変更することはありましたが、オンライン会社(born-on-the-Net companies)のNYSE移動は珍しいようです。
NasdaqにあかんべーをしたEトレード社に対し、"彼らも大きくなったものだなあ" と感無量のシリコンバレー住人も少なくないと思います。
夏来 潤(なつき じゅん)
肥満の科学:アメリカ人のちょっと危ない状態
- 2001年03月26日
- 科学
Vol. 11
肥満の科学:アメリカ人のちょっと危ない状態
バレンタインデーのチョコレートをたらふく食べた市民に向かって、先日フィラデルフィア市では奇妙なキャンペーンが始まりました。"76日で76トン痩せよう!" キャンペーンです。これは、フィットネスにご執心のストリート・フィラデルフィア市長と、プロバスケットボールチーム、フィラデルフィア76ersのオーナー、クロス氏が呼びかけて始まったもので、自ら希望し登録した市民全体が、76日間でどれだけたくさん痩せられるかを促すプロモーションです。これにタイアップし、多くの従業員を抱える企業や公立学区などが特別なエキササイズクラスを設けたり、民間フィットネスクラブが料金を割り引いたり、といった便宜が図られるようです。
フィラデルフィア市は2年前に、あるフィットネス雑誌上、"アメリカで最も太った街(the least-fit city in the country)" という不名誉な名前を頂戴した経験があり、その名誉挽回を掛け、今回のキャンペーンが始まったようです。住民の3割が肥満という150万都市、フィラデルフィアでは、76トンを落とすには、約3万人が5ポンドほど(2kgちょっと)痩せればいいとのことで、まったく不可能な事ではないらしいです。日本のゴールデンウィークの頃に結果が出るようですが、市民の志がどれほど高いかが、全米中に知れ渡ることとなるようです。
実は、こういった肥満の問題は、フィラデルフィアばかりではなく、全米中で蔓延していると言っても過言ではありません。スリムな人が多い日本やアジア諸国から来ると、とにもかくにも、米国人の大きさ(特に、おなかやおしりのまわり)に圧倒されるわけですが、この傾向が年々加速していることが、生活していてもよくわかります。
一口に肥満と言っても程度の差があり、医学的に言うと3つに分類されます。やや肥満(overweight:BMIが25以上30未満)、肥満(obese:BMIが30から35)、著しく肥満(severely obese:BMIが35より大)と定義されます。[注:BMI=Body Mass Indexは、体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったものです。正常域は、男性で20から25、女性で19から24とされています。]
疾病管理予防センター(the Centers for Disease Control and Prevention、通称CDC)が昨年発表した統計によると、今やアメリカの大人人口の半数以上(54%)が、"やや肥満" より上と分類されるそうです。そればかりではなく、"肥満" と分類される人も年々増え、1991年には12%だったのが、1999年には19%となっているそうです。この増加傾向は、地域や社会経済層に係わらず、全国的に押しなべて言えることだそうです。
ちょっと堅苦しい医学的な話になりますが、肥満が国民の間で問題となるのは、ひとつに、肥満が原因の死亡率が高くなるということがあります。米国では、毎年28万人ほどが亡くなっていると報告されています。しかし、それだけではなく、タイプ2糖尿病、胆のう疾患、冠状動脈系心臓病、高コレステロール値、高血圧、関節炎といった長期に患う病症を持つ人が増えるということもあります。これによって、個人の尊い健康が損なわれるだけでなく、経済的観点から言っても、米国内医療費の1割がこれら肥満関連の疾病に費やされており、患者や保険会社にとって、相当な負担ともなっています。
中でも、タイプ2糖尿病の増加は深刻な社会問題となっていて、昨年夏、CDCのお医者さん達が中心となり、一般消費者に向け警告が出されました。過去8年間で、糖尿病の診断件数が3割も増加し、今や米国人口の6.5%が糖尿病を持っているそうです。言うまでもなく、糖尿病は、失明、腎臓疾患、足の切断などの主要原因となっており、心臓病や卒中などの死亡率の高い疾病を引き起こす要因ともなっています。
最近の傾向は、単に糖尿病患者数の増加だけではなく、昔は45歳以上がかかりやすいとされていたのが、今は30歳代や20歳代、ティーンエージャーの割合が著しく増加していることが挙げられます。若い人口が発病していることで、今後、糖尿病が国民全体の健康度を大きく脅かすことになるのは必至のようです。[ご存知の方も多いとは思いますが、診断される糖尿病件数の1割弱は "タイプ1" とされ、これは、体の免疫(the immune system)がすい臓のインシュリン生成細胞を破壊することが原因で起こります。これに対し、一般的に言われる糖尿病、"タイプ2" は、体がインシュリンに無反応になり、これを使えなくなることが原因で起こります。]
CDCのお医者さん達は、タイプ2糖尿病の最大の原因は肥満にあり、最近のライフスタイルが大きくこれに作用しているとしています。テレビやコンピュータの前に張りついて動かない、エキササイズが足りない、たくさん食べ過ぎる、それも高カロリーのものを巨大な量食べる、などの生活様式に根本的な問題があるようです。
"カウチポテト(couch potato)" なる有名な言葉があるように、テレビの前にどっかり陣取って、スナックをむしゃむしゃほお張り、リモコンでチャンネルをパチパチ変更、というのは洋の東西を問わず工業社会のシンボルとも言えます。最近は、ビデオゲームやネットサーフがそれに加わり、定住民族度(sedentary lifestyle)に拍車を掛けています。
食べる方では、アメリカ人は世界に名だたる悪食と言え、ピザやラザーニャ、フライドチキン、ハンバーガーなど、高脂肪、高カロリー、低ビタミンの見本のような料理を最も好みます。お昼を食べながらのミーティングになると、サンドイッチのような比較的健康料理は敬遠され、ピザの宅配となると、途端に皆の目が輝きます。しかも、レストランなどで出される量たるや、常人の許容範囲をはるかに超え、これを食べて太らない訳がない、と肥満の統計数値に妙に納得したりします。病院食も例外ではなく、開腹手術(laparotomy)の二日後に、ボリュームたっぷりのラザーニャを出され閉口した経験を思い出します。
さすがにアメリカ人自身も、このままではいけないと思っているようで、減量に対し異常なほどに関心を抱いていたりします。"太っていては、重役候補から外される" などと言われるように、健康の観点からと言うよりも、むしろ見かけの美しさ、社会からの容認を求めているようではあります。そのお陰で、フィットネスクラブ、ダイエットプログラム、脂肪取りなどの美容手術の業界は、景気に関係なくとても潤っているようです。
しかし、なかなかうまく痩せられなかったり、落とした体重をまたおなかに戻したり(a yo-yo diet)、と結果が伴わないのが悲しい現実のようです。一連の行事が続く年末・年始が終わってみると、甘いものの食べ過ぎで2,3キロ太ってしまっていた、というのが大抵のアメリカ人の嘆きとなっています。
エキササイズに関しては、肥満の人の過半数が、運動で健康的に痩せようと志を持っているそうです。しかし、エキササイズしているよと言っても、ほんの少しの人しか適切な運動量(一日30分、週に5日)に達していないようです。エキササイズの方法として人気の高い、男性陣のゴルフ(カート付き?)や、女性陣の庭いじり(gardening)に至っては、それ自体が怪しいものです。
また、ダイエットにしても、短絡的に食欲抑制ドリンクに手を出す人が多く、テレビはそういったダイエット製品CMのオンパレードです。食事療法に頼る人でも、野菜中心に変更しようというサラダには、高カロリーのドレッシングをたっぷり掛けたり、たんぱく質の源であるメインディッシュをスキップしてまでも、デザートをぱくついたり、と食の基本ができていないように見うけられます。
そういった食の習慣に関し、こぼれ話をひとつ。先日、シリコンバレーで最も優れたカフェテリアを持つと噂される、サーチエンジンのグーグル社(Google Inc.)でおかしな事件が起こりました。夜中におなかをすかせた何者かが、翌日にカフェテリアで出される予定のパイ数個を、冷蔵庫から失敬し、全部食べてしまったそうです。
誇り高き担当シェフふたりは、これに激怒し、"もし、どろぼうがもう一度パイを盗んで食べたら、金輪際カフェテリアではデザートを出さないぞ" と社内Eメイルで宣言したそうです。結局犯人は捕まりませんでしたが、皆デザートがメニューから消えてしまうのが怖くて、それ以降パイの盗難は起こっていないそうです。
実は、シェフ達が激怒した理由は、盗まれたパイが未完成で、人様に食べて戴く状態ではなかったということらしいですが、食べた側は、きっとそんなことは気が付きもしなかったと思います。
夏来 潤(なつき じゅん)
Naming Rights : スタジアムの名前を替えるな!
- 2001年03月19日
- 社会・環境
Vol. 10
Naming Rights : スタジアムの名前を替えるな!
最近サンノゼ市で、物議をかもし出したことがありました。市が税金で建設し所有しているアリーナ、San Jose Arena の名前を替えるというのです。この建物は現在、プロアイスホッケーチームのシャークス(the San Jose Sharks)の本拠地となっており、昨年はNHL(the National Hockey League)のオールスターゲームやフィギュアスケートの国内チャンピオンシップ、また、オフシーズンには、コンサートや各種催し物などが開かれ、サンノゼ市の目玉ともなっています。建った当初からサンノゼ・アリーナと呼ばれ、7年間その名で市民に親しまれてきました。
変更した後は、民間企業の名前が冠に付き、Compaq Center at San Jose となるそうです。Compaqとは、勿論、コンピュータ会社のコンパック社(Compaq Computer Corp.、本社テキサス州、ヒューストン)のことで、今後15年にわたり毎年約3百万ドル、合計4千7百万ドル(約51億6千万円)を支払うことで、名前を付ける権利を買い取ったそうです。このお金は、市と、建物の運営を担当するNHLで折半し、NHLからは、事実上の運営者であり、建設費用の一部を負担したサンノゼ・シャークスに、お金が落ちる仕組みのようです。この契約の一環として、現在市との契約が2008年に切れる予定のシャークスが、2018年までこの建物を本拠地とすることも合意されました。
名付け親、張本人であるコンパック社の見解は、1997年のタンデム・コンピュータ社(Tandem Computers)買収以来、ベイエリアには3000人もの従業員を持っているが、自社の名前を付けることで、シリコンバレーやベイエリアとの繋がりをもっと深めたい、またそうすることで、シリコンバレーでも信頼できるプレーヤーというイメージを築きたい、ということです。
また、同じコンパック・センターの名を持つアリーナで、地元のプロバスケットボールチーム、ヒューストン・ロケッツが本拠地としている建物が近々建てかえられるそうで、新しく名前を付ける場所を探していたという事情もあるようです。
サンノゼ・アリーナの名称変更は、12月下旬に市議会で可決されましたが、それも全会一致というわけではなく、8対2での決定だったようです(ちなみに、サンノゼ市の人口は約92万人ですが、市会議員は10人しかいません)。
そして、市民の大多数は、この変更に対して抵抗があるようです。"さしたる特徴もない街を代表する良い名前だったのに、愛想のない名前に変更してもらっては困る" とか、"市民が投票で決めた名前で、非常に愛着がある" など、10月に変更案が発表されて以来、続々と市会議員やマスコミの元に反対意見が届いたそうです。
確かに、全米11番目、州内3番目の都市人口を誇り、シリコンバレーの中心地となりつつあるにも拘わらず、カリフォルニア州以外の人から見ると、"サンノゼ市って、いったいどこにあるの?ロスアンジェルスの近く?"、と疑問に思う人が多いようです。そして、サンフランシスコ、ロスアンジェルス、サンディエゴといった知名度の高い街に隠れ、陰が薄い感があります。そういった中で、唯一全国放送で名前が出るアリーナから街の名が消えてしまったら(おしりの方に、"at San Jose"とお印程度に付きますが)、市民の誇りがもみ消されてしまう、という心配が反対意見の大勢を占めるようです。
一方、市民が建てたアリーナに、どうして民間企業の名前を頂かなくてはいけないのか、と疑問視する声もあります。たとえば、"私は自分の街を誇りに思っており、街の名を付ける機会があれば、できるだけその名前を使いたいと思います。大企業にそれだけ大金を使う余裕があるなら、困っている人達に使うべきです。Compaq Homeless Shelter(コンパック・ホームレス施設)というのがあってもいいのではないでしょうか?" という意見がありました。また、"公共の建物の名前を売り払い、市民にそれを喜べと言うのか?それだったら、いっそのこと、シスコ市役所とか、ヤフー州立大学とか、公共の名前を全部売り払えばいいじゃないか!" というのもありました。
ゴンザレス・サンノゼ市長は、"スポーツ・フランチャイズの移転が全国的に盛んな中、サンノゼ・シャークスが、市の最大級の投資であるアリーナに居着いてくれる結果になったことを歓迎すべきだ" としていますが、市民の溜飲を下げることはなかなか難しいようです。
ベイエリアにあるスポーツ施設が、名付けの権利(naming rights)を民間企業に売るのは、何もこれが初めてのことではありません。オークランドにあるプロ野球チーム、アスレチックスとプロフットボールチーム、レーダーズが共同で本拠地としているオークランド・コロシアムは、ネットワーク アソシエッツ・コロシアムとなりました。プロフットボールチーム、サンフランシスコ・フォーティーナイナーズの本拠地、キャンドルスティック・パークは、スリーコム・パークと変更されました。いずれも、セキュリティーソフトウェアのネットワーク アソシエッツ社(Network Associates Inc.)、ネットワーク関連機器のスリーコム社(3Com Corp.)が名称変更権を獲得した結果です。
また、昨年オープンしたばかりの、プロ野球チーム、サンフランシスコ・ジャイアンツの本拠地である海沿いの美しいスタジアムは、最初から民間電話会社の名前が付き、パックベル・パークと呼ばれています。
こういった名前のお陰で、市や所属リーグだけではなくスポーツチームも恩恵を受けており、ジャイアンツは年間210万ドル(約2億3千万円)をパックベル社(Pacific Bell)から、フォーティーナイナーズは80万ドル(約8千8百万円)をスリーコム社から戴いているそうです。
ベイエリアに限らず、民間企業が名付けの権利を獲得することは、ここ2,3年のトレンドとなっており、全米で、実に58のプロスポーツチームの本拠地が、名称を変更したそうです。これら契約金の合計は、30億ドル(約3千3百億円)にもなるそうです。勿論、これは一括払いではなく、2,3百万ドルずつ15年、20年契約で支払うもので、大企業にとっては、年間マーケティング費用の中から、簡単に捻出できるものと言えます。
特に目につく契約では、流通システムのフェデックス社(Federal Express Corp.)とフットボールチームのワシントン・レッドスキンズ(約226億円)、インターネット総合企業CMGI社(CMGi Inc.)とニューイングランド・ペートリオッツ(約121億円)、インターネット・ソリューションのPSIネット社(PSINet Inc.)と今年のスーパーボウルの覇者、ボルティモア・レイブンズ(約116億円)などがあります。
しかし、何と言っても一番スケールが大きいのは、テキサス州、ヒューストンに建築中の総合施設群、Reliant Parkのようです。電力・ガス供給で国外でも急成長し、カリフォルニアにも発電所を持つ地元企業、リライアント エネルギー社(Reliant Energy Inc.)がスポンサーとなるこの施設群には、スタジアム、アリーナ、ドーム、見本市会場、ホールが含まれ、すべてにリライアントの名が付きます。スタジアムの新居住者は、2002年に新設されるフットボールチーム、ヒューストン・テキサンズですが、ここでの名称権は32年で3億ドル(約330億円)だそうです。前述のバスケットボールのヒューストン・ロケッツは、実はコンパック・センターから、ここのリライアント・アリーナにお引っ越しするようです。
ところで、どうしてこういう風潮が最近頓に激しくなったかというと、やはり最大の理由は、会社のブランド認識度(brand recognition)を高め、それによって株価を上げたい、というもののようです。実際、デジタルワイアレス技術のクウォルコム社(Qualcomm Inc.)は、地元サンディエゴにあるジャックマーフィー・スタジアムに自社の名前を付け、それと共に株価が上がったそうです。それまでは、"いったい何の会社だろう?" とか "会社名は何と発音するのかな?" 程度の認識しかなかったらしいですが、それが一転して、株式市場の注目株になったようです。
そういったブランド認識度アップは、スウェーデンに本社のある携帯電話会社、エリクソン社(LM Ericsson Telephone Co.)にも言えます。ノースキャロライナ州に1995年に新設されたフットボールチーム、キャロライナ・パンサーズの本拠地は、当初からエリクソン・スタジアムと呼ばれてきました。シーズンのうち8週は、全国的にその名が放送されるお陰で、携帯電話の爆発的な普及に伴い、有名メーカーであるという認識を一般消費者の間に育て上げ、ノキア、モトローラに次ぎ業界3位の地位を獲得しました。
また、短期的なビジネスを狙い、一石二鳥を考えている企業もあるようです。たとえば上記CMGI社は、ペートリオッツのWebサイトの構築や運営も手がけています。また、ヒューストンにある世界的な電力・ガス供給会社のエンロン社(Enron Corp.)は、野球チームのヒューストン・アストロズと契約し、新施設、エンロン・スタジアムのインフラ整備やエネルギー供給を引き受けています。
企業ばかりではなく、プロスポーツチームの側から言っても、最近のスター選手の年棒高騰に頭を痛めている状態で、それを少しでも緩和してくれる民間企業との名称権契約は、とってもありがたい仕組みといえるようです。
蛇足になりますが、前述サンフランシスコのスリーコム・パークは、何の会社がスポンサーかわからない人が多かったらしく、スポーツ専門テレビ局、ESPNのある人気キャスターは、先シーズンまで、"スリー・ドットコム・パーク" と間違って呼んでいました。昨年は、コムと付けばドットコムのこと、と皆が思っていたようです。年間4百万ドルを払っているスリーコム社には気の毒な話でしたが、今シーズンは、さすがに正しい名前で呼んでくれていました。
また、このスリーコム・パークをお手本に、サンフランシスコの市営トロリーバスの停留所も、数カ所に限り、企業に名付け権を売り出す計画だそうで、このトレンドは留まるところを知らないようです。
ところで、サンノゼ・シャークスですが、今シーズン勢いに乗って、プレーオフで上位まで行ったとします。それで全米の皆さんに "コンパック・センター" の名が轟いたとしたら、"えっ、サンノゼってテキサス州だったっけ?" という人が必ず出てくると思います。
地元の最大企業、シスコ社は、"シスコ・センターにしてちょうだい"、と名乗りを上げなかったのでしょうか?
夏来 潤(なつき じゅん)
エネルギー問題:今いったい何が起きているの?
- 2001年02月16日
- 社会・環境
Vol. 9
エネルギー問題:今いったい何が起きているの?
ここひと月ほど、日本でもかなりホットな話題になっているようですが、現在カリフォルニアでは、州全体が電力・ガス不足に悩んでおり、その影響が西部の他の州にも及んでいます。実際、1月中旬から連日エネルギー不足警報が出され、節制が唱えられています。
いよいよどうしようもなくなると、警察、消防署、病院等を除いて、1,2時間の地域移動型停電(rolling blackouts)になります。北カリフォルニアでは、過去2回これを経験しました。1月末の一大イベントであるフットボールのチャンピオンシップ、スーパーボウルに先駆け、"テレビ観戦は、節電のためグループで行ってください"というお達しもありました。また、過去には見たことも聞いたこともない、自家用発電機の宣伝が、一般消費者に向け流されるようになりました。そして、間もなく、営業時間外での大型店舗の電力無駄遣いを、警察が取り締まるようになります。
昨年来、カリフォルニアでは深刻な問題続きで、ガソリン価格高騰から始まり、ようやくそれもひと段落と思ったら、秋以降は全米的な天然ガス不足のおかげで、ガス料金が跳ね上がりました。そして今度は、いつ電気が切れるかも知れない状態で、操業を強いられています。
こういう事態に至るには、それなりに複雑怪奇な要素が重なっているわけですが、カリフォルニアの住人にとっては、"いったいいつの間に、何が起こったの?" と狐につままれたような気がしている状態です。今回は、その複雑な問題の謎解きに、一消費者として挑戦してみようと思います。
まず、日本とは少し情況が異なり、電力とガスは原則的にひとつの会社が各家庭や企業、店舗に供給しています。主な供給会社(utility companies)は、北カリフォルニアのPG&E社(Pacific Gas & Electric Co.)、南カリフォルニアのエディソン社(Southern California Edison)、そしてサンディエゴ周辺のサンディエゴ G&E社(San Diego Gas & Electric Co.)があります。また、パロアルト市、サンタクララ市、ロスアンジェルス市など、市が供給会社の役目を果 している所もあります。
いずれにしても、これらの供給者が、電線やパイプ等のインフラ整備と、実際のエネルギー調達・配給を担当しています。今回のエネルギー問題で倒産の危機を迎え話題となっているのは、PG&E社とエディソン社です。
ガス不足の方は、昨年秋以降、全国的に数倍の価格高騰を経験していますが、カリフォルニアまで来るともっと値段が跳ね上がり、今までの平均価格の二十数倍で調達されていることもあるそうです。消費者もそのおかげで、一年前に比べ2.5倍の料金高騰に悩まされています。そのような中でも、今はなんとか供給が続いている状態で、今回はガス不足の方は脇に置いて、電力問題に焦点を絞ってお話いたします。
事の発端は、カリフォルニア州で1996年に制定され、1998年から施行された規制緩和(deregulation)にあります。それ以前は、州が発電所建設やインフラ整備を計画し、実際の発電、配電は、PG&E社等の供給会社に担当させていました。料金体系を決定するのも、州が行っていました。
規制緩和後、主要供給会社3社は、所有していた発電所のほとんどを、民間発電会社(independent power generators)に売り払い、自分達は彼等からエネルギー配給を受けるという形を取りました。規制緩和の主な目的は、今まで全米でも最も高い部類に入るカリフォルニアのエネルギー料金が、健康的な市場での競合により、平均的なものに下がるだろうというものでした。
規制緩和後3年間、特に大きな問題もなく、現在までこの新制度は維持されてきました。しかし、昨年夏の熱波や、年末の全米を襲った寒波等の異常気象により、カリフォルニアを含め全国的に電力消費量が激増し、蓄えが減ってきてしまいました。電力の4分の1を他の州から調達しているカリフォルニアでは、供給会社各社は、今までより数倍の値段で電力を買うことを強いられ始めました。それも、状況が悪化した年末以降は、連邦政府の助けを借り、州外の発電会社に対し供給命令を出してもらい、ようやく手に入れられる貴重な電力です。
しかし、規制緩和には落とし穴があり、ガス料金とは異なり、消費者に払ってもらう電力料には、キロワット当たりの請求額が2002年まで凍結されています。これでは購入に掛かったコストすら消費者から回収できない、という状態に供給会社は陥ってしまいました。
新年に入り、1割ほどの料金アップが州から許可されましたが、それも焼け石に水です。彼等の赤字は日に日に増え、株価は下がり、会社の財務評価が下がった中では、低金利での資金調達ができなくなり、電力購入自体も危ぶまれてきました。また、会社の業績を疑問視し、取引を断ってくるガス会社や電力会社も次々と出てきました。こういう状態では、限られた発電会社に頼るしかなく、購入価格もおのずから跳ね上がり、赤字がまた増えるという悪循環です。
そこで、見かねた州政府は、カリフォルニア州民を停電の危機から救うため、自ら供給会社に成り代わり、税金10億ドルを資金とし、電力調達に乗り出しました。現時点では、一日に4千5百万ドル(約50億円)をスポット市場(spot market)で費やしています。しかし、これは一時しのぎの措置でしかありえないし、連邦政府の供給命令も既に5回の延長を受け、これ以上の助けは調達元である西部の他の州との摩擦を招くとして、頼りにすることはできません。
そこで、州としての財務評価が高い優位性を利用し、100億ドルの公債を発行し、供給会社では交渉できない低い価格設定で、長期的な供給契約を電力会社と結ぶことが、州議会で緊急決定されました。全米の総生産の8分の1を生み出すカリフォルニアと長期的な契約が結べたなら、発電会社としても、収入の安定や会社の評価アップ、また株価上昇にもつながり、決して悪い話ではありません。
現時点では、州政府が複数の電力会社と契約交渉をしている段階です。また、何度も危ぶまれている停電も、なんとか回避しています。
今回の電力問題を簡潔に述べると、以上のようなことになりますが、実は、カリフォルニア州には電力不足を引き起こすような潜在的な要素がたくさんあり、これをひとつひとつ解決していかなければ、問題への決定的な対処にはなりません。これらの要因は、おもに、基本的な需要と供給に関するものと、経済構造的なものに分かれるように思われます。
まず、需要と供給の問題として、カリフォルニア州の電力自給率の低さがあります。官営、民営発電に拘わらず、自給率が75%から100%に増えれば、他の州から顰蹙を買いながら、しかも高値で調達する必要がなくなります。
過去10年で、州人口は4百万人増え、その増加率は加速していますが、それに対し新しく建てられた発電所はありません。しかも、3分の2の発電所は、建てられて30年以上経過し、たえずどこかの発電所が補修工事で操業縮小か一時停止している状況です。これはおもに、州内の厳しい大気汚染規制や自然保護条例、住民の反対運動のため、発電所建設が許可されなかったということに起因しています。また、需要予測の甘さもありました。
しかし現在、州は23の発電所建設・改造プランを検討しており、そのうち建設中の6箇所が、近々4百万人分の電力を新たに供給することが予定されています。
また、州外からの電力供給や州内での配電に必要な基幹送電線にも、許容量の問題があり、最も電力を必要とするベイエリア等の人口・商業密集地帯に、タイムリーに送電できない危険性があります。実際、昨年夏に10万人のPG&E社の顧客を襲った停電は、近郊のフリーモントにある高圧線のオーバーヒートが原因でした。
全米的に、送電線の問題は軽視されている傾向にあり、必要な数の増設は行なわれていないようですが、中でもカリフォルニアでは、莫大な建設費用、環境への配慮、周辺住民や事業主の強い反対により、整備が特に立ち遅れています。
これに対し州議会では、民間の供給会社に成り代わり、州自体が高圧送電線の整備をやっていくべきだという案が出されています。
人為的な要因だけでなく、自然も今回の問題に悪影響を及ぼしています。カリフォルニア州の消費電力の1割を供給している西海岸北西部、ワシントン州、オレゴン州では、昨年から降雨・降雪量 が平均を大幅に下回り、大部分の電力をまかなう水力発電所がフル稼働できない状態にあります。カリフォルニア州自体も、州内の発電量の3割ほどを水力に頼っており、同じ問題を抱えています。
これら西海岸の州では、他の地域と同じく、昨年来の異常気象で電力消費量が増加しており、このままでは、カリフォルニアだけではなく、西部全体で危機的状況に陥る恐れがあります。
これら需要と供給の不均衡に対し、経済構造的な要素としては、カリフォルニアの不完全な規制緩和があります。全米中で規制緩和が検討され始めた90年代半ばは、過半数の発電所で使用される天然ガスの料金が安く、また起された電力も他の地域に売れるほど蓄積されていました。そういった状況下では、電力料金は競争の原理で下がることすらあれ、まさかコントロール不能なまでに上がるとは考えられていませんでした。
カリフォルニアの規制緩和は、共和党のウィルソン前知事の政権下で決定され、ロードアイランド州に次ぎいち早く実現されたわけですが、同じ時期に規制緩和された、たとえばペンシルベニア州では、カリフォルニアのような問題は起きていません。それは、この州の供給会社は、発電所を保持するか売却するかの決定権をゆだねられ、また、価格安定のため電力会社とも長期契約を結ぶ自由が与えられていたからです。それだけではなく、消費者に課せられる料金も、適切なベース価格が州により設定され、それ以下で競合会社が市場に参入しやすくし、消費者にとっても複数の供給者から相手を選べるというシステムを作り上げたからです。
カリフォルニアの場合は、ベース価格が以前の1割カットと低く設定され、他社が新たに市場に参入する動機をくじくものでした。しかも、消費者保護のためベース価格が凍結されていたり、電力会社との長期契約にも制限が設けられていたりと、供給会社に足枷がはめられていました。
しかし、供給会社自身も、経営のずさんさを責められています。規制緩和開始時は、今までの負債を清算するよう州から160億ドルの援助を受け、市場で健全に競合できるお膳立てをしてもらっていました。ところが、その上にあぐらをかき、長期的な電力需要を見誤り、その結果 高く買った付けは消費者に払ってもらおうと、高を括っていたようです。
最近行なわれた監査では、供給会社は昨年春頃から危機を察知していたにも拘わらず、何も対策を講じなかったと報告されています。また、親会社への理不尽な利益還元、重役達への過大な報酬、従業員のエネルギー料金25%割引などが広く知られるところとなり、消費者の不信感をますますつのらせています。
供給会社ばかりではなく、ガス・電力会社も、消費者や地方自治体から疑惑の目を向けられています。カリフォルニアの事情を盾に取り、価格操作を行い、不当に利益を得ているのではないかというものです。
現に、2月に次々と発表された、カリフォルニアと係わりのあるガス・電力各社の収支は、軒並み大幅な利益アップを示しています。消費電力の3分の1は、主要7社に供給を頼っており、この中には、利益が前年の3倍に膨れ上がった所もあります。価格操作の疑惑の中には、これら電力会社がカリフォルニアに持つ発電所の操業を、補修と偽り不当に止めているのではないかというものがあります。連邦政府の調査会は、操作性はないとはしていますが、消費者の疑いは完全には払拭されていません。
また、発電会社が生産者(generators)兼卸売り業者(wholesalers)として機能し、仲買の立場で価格操作を行なっている疑いもあります。どの会社も一生産者として始まったわけですが、全国的な規制緩和で強い立場を築き上げ、今までのノウハウを使って合法的に価格操作しているようです。他社が安く電力を起せるなら、自社の発電所を止めてまで電力を買いあさり、困っている地域があると見ると、それを高く売りつける。これは、今やこの業界の常識のようです。
カリフォルニアの規制緩和は、わずか3年の後崩壊しつつあるようですが、シリコンバレーを抱えるビジネス界の大物としての立場と、自然保護と住民福祉優先を掲げる二面性に、州としては今後も悩んでいくことになりそうです。
夏来 潤(なつき じゅん)
住宅事情(パート3):どこにも住めない!
- 2001年02月09日
- 社会・環境
Vol. 8
住宅事情(パート3):どこにも住めない!
前回、前々回と、サンタクララ郡(Santa Clara County)を中心とするシリコンバレーや、サンフランシスコ・サンノゼとその近郊を含むベイエリア(the Bay Area)の住宅事情について、いろんな例を取り入れながらお話してきました。初回は、比較的裕福な家庭が家を買うときの話、そして、前回は、ハイテク産業の平均より収入の低い、先生達への援助プログラムなどを紹介しました。
しかし、実際は、もっと切実な悩みを抱えている人達が日に日に増加している状況で、今回は、そういった人達のお話をいたします。
日本では、ホームレスとか、福祉団体の施設で世話になっていると言うと、仕事も家族も捨て、社会放棄をした人達というイメージが強いようです。それに比べ、ベイエリアの事情は、そういった日本のイメージとも、アメリカ一般 のイメージ、精神障害者かアルコール・麻薬中毒者、ともかけ離れています。
かなりのホームレスは仕事を持ち、給料を定期的にもらっています。そして、3分の1くらいは、子供を扶養しています。時には、夫婦と子供の家族全部で住むところがない、という状況もあります。そして、ホームレスは可逆的な環境と言え、そこから脱出して、普通 の生活に戻った人達はたくさんいます。
サンタクララ郡では、ホームレスの状態に陥ったことのある人は、1年間で2万人に昇ると言います。そのうち4分の1ほどは、ティーンエージャーを含む子供だそうです。郡の人口からすると、ホームレスは百人にひとりちょっと、ということになります。ハイテク産業にいると、そんな人にはまずお目にかからないので、たとえば農業の小作や清掃会社など違った産業に行けば、もっと高い比率で、住む所がない状況のはずです。
郡のホームレス人口は、ここ数年2割強も増えたそうですが、一番増加している層は、子供を抱える女性と家族ということです。過去2年間で、85人が寒さのため路上で亡くなり、比較的暖かいカリフォルニアとは言え、摂氏零度を下ることのある冬季には、ホームレス対策は人の命のかかった切実な問題です。
そういった中、11月第3週はホームレス・ウィーク(Hungry and Homeless Week)とされ、その週以降、ホームレス問題が普段以上に喚起されます。たとえば、サンノゼにある非営利団体では、年間を通 して開けている施設のベッド数を倍の250にし、夫婦でも利用できるようにしました。国家警備隊(the National Guard)では、冬季専用として、サニーベイル市(Sunnyvale)とギルロイ市(Gilroy)の兵器庫に、250人の緊急施設(emergency shelters)を開きました。また、教会でも宗派を問わず、冬の間ホームレスに門戸を開放するところが出てきました。
その他、学校や福祉団体では、暖かい服や毛布、缶詰の寄付を募ったり、雨季に備え施設の修復工事をしたり、また、食事を無料配布している団体では、朝と昼も食事を提供し始めたり、と援助内容の強化に努めています。
路上生活を余儀なくされるには、いろんな事情がありますが、シリコンバレーやベイエリアの場合、自分の意思でそうなったという人は少ないようです。職を持つか、充分に働く意志のある人がホームレスになるのは、大抵の場合、仕事を突然なくし、次の働き口がまだ見つからない、借りていた家が誰かに高く売られて出て行く羽目になった、アパートの賃貸料が急に上がったり、共同で借りていた人が出て行ったりと支払えなくなった。でもその後、払える範囲で借りられる場所は、そう簡単には見つからない、という事情のようです。
最初は親戚や友人の家のガレージやソファー、床の上に寝させてもらっていたけれど、長居はできず、車の中や公園で寝起きせざるを得なくなった、という話が少なくないようです。
各地方自治体では、1時間当たりの最低賃金というのが保証されていますが、たとえ最低賃金以上で働いていても、ゴキブリやねずみが歩き回るようなアパートすら借りられない(物件がないか、あっても高すぎて払えない)、という状況に陥る可能性は充分にあります。
ちなみにカリフォルニア州では、2001年元旦から、最低賃金は1時間当たり6ドル25セントになりました。1年後には50セント上がることが決まっていますが、実際は8ドルでも足りないと言われています。
それでは家賃はいったいいくらぐらいかと言うと、サンタクララ郡の場合、昨年一年で平均して4割もアパートの賃貸料が上がり、ベッドルームひとつの小さな部屋で、1730ドル(約19万円)ほどだそうです。サンフランシスコ市では状況はさらに悪く、一年で5割も賃貸料が上がり、今では市内でベッドルームふたつの普通 のアパートを借りようとすると、平均2550ドル(約28万円)もかかります。
しかも、アパートの空き率は慢性的に1パーセント、というのがシリコンバレーの状況です。この1パーセントの空き率というのは、実質空きはない、と言うに等しい数値のようです。これでは、ホームレスとは紙一重(one paycheck away)という人達は、潜在的にいくらでもいると言えます。
その中で、実際ホームレスになってしまった人の話をひとつお伝えします。サンタクルーズ(Santa Cruz、東京近郊の江ノ島のような、サンノゼを西に山越えした海岸沿いの街)に住むカレンは、少し前まで子供3人とフィアンセと、大きな一軒家を借りて住んでいました。以前その家に同居していた夫との離婚が成立した後、不幸なことに、彼女の乳がんが発見され、切除手術と6ヶ月の化学療法を受け始めました。彼女のお母さんが、同じ乳がんで亡くなった半年後のことでした。治療に専念するため、仕事は辞めざるを得ないし、フィアンセも彼女の病院通 いに付き添い、半年間十分に働くことができませんでした。
そしてごく最近、シリコンバレーのベッドタウンとして脚光を浴びるサンタクルーズでは常識になっているように、家の賃貸料が跳ね上がってしまいました。しかし、充分な収入がない状態では、住み慣れた家を明け渡す以外に方法がありません。国の傷病補償(Social Security disability income)を申し込んではいましたが、届いたのは引っ越しの済んだ1週間後でした。明け渡した家を再度借りようにも、彼女より収入の面 で信頼できそうな借り手はいくらでもいて、到底彼らに太刀打ちはできませんでした。
短大卒で、高級レストランのマネージャーや、はやっている飲み屋でバーテンダーをして人気のあった彼女は、それでも、たくさんの友達に助けてもらい、車を購入したり、子供達にクリスマスプレゼントや学校用の必需品を調達したりしました。しかし、住む所だけはどうしようもありません。"私は、こぎれいな、中流階級のホームレスよ" と言う彼女は、今は家族と共に、週日はひと晩70ドルの安モーテルに住み、リゾート客のため値段の上がる週末は、友達の家に転がり込む、という生活を続けています。このモーテルが格安の理由は、ギャングが殺されて床下に埋められているとか、40年代に溺死した人の幽霊が出る、という噂があるからとか。毎日住む家を探し続けてはいますが、今のところ徒労に終わっています。
しかし、住む家が見つからなくても、彼女はもうすぐフィアンセと結婚し、子供をふたりは産みたいと考えています。そして、"これは一時的なことなのよ、と自分に言い聞かせているの。今は少なくとも子供達はいるし、私も元気でやっているし。これより悪い状態だって考えられるわけでしょ"、と希望を捨てていません。
カレンのいるサンタクルーズ郡(Santa Cruz County)では、先頃、全米でも珍しいホームレスの実態調査が行われました。路上や海岸、森林、緊急施設で生活している人達へのインタビューの形式で、郡内くまなく、一斉に二日間で調査されました。それによると、数は3300人で10年前の約2倍、と悪化を物語っていますが、これは初めから十分に予想される結果でした。
しかし、それ以外は、一般的に信じられているイメージからかけ離れていました。たとえば、4割はホームレスを始めてまだ半年以下、7割は2年未満、と"ベテラン組"の少なさ。4割は女性。全体で3割は子持ち。3割は就労者。同じく3割は大学に行った経験者で、1割は2年制・4年制大学の学位持ち。そして、8割は地域に5年以上住み、ここから出て行く気はない、ということです。
こういったシリコンバレー周辺のホームレスのために、国からの補助が支給されると先日発表されました。住宅・都市開発省(the U.S. Department of Housing and Urban Development、通称HUD)から出される、全米で10億ドル(約千百億円)の補助金の一部で、ホームレスの人達が、住居、定職、医療保険、保育所等を探す手助けをした、地域の優れたプログラムに支給されるものです。
サンタクルーズ郡では、昨年の9倍の250万ドル(約2億8千万円)が、九つの非営利団体に支給されます。ここでは、昨年一年で40人が路上で亡くなっており、より充実した対策が緊急に求められています。
ホームレス人口が2万とも言われるサンタクララ郡では、17の団体に630万ドル(約6億9千万円)が支給されます。現在、郡全体の施設のスペースは2300人分しかなく、この補助金により、もっと多くの人を保護できるようになります。
この他、サンタクララ郡の北に隣接するサンマテオ郡(San Mateo County)、その北のサンフランシスコ郡(San Francisco County)など、北カリフォルニア全体で5662万ドル(約62億3千万円)が支給されます。こういった補助金がなければ、閉鎖の憂き目を見る施設もあるそうで、どの地域の団体も、異口同音に補助金支給を歓迎しています。
前述のカレンのように、教育もあり、いい仕事や家族にも恵まれていたのに、突然状況が変わってしまった、ということは頻繁に起きることです。そして、ひとたびそういう不幸が起きると、特に、シリコンバレー周辺のように異常な住宅事情の場所では、自分を守るのがより困難になってきます。
しかし、このような不幸を経験した人達は、たとえホームレスと呼ばれていても、将来に大きな希望を持っています。自分の意思があれば、ホームレスの状態(homelessness)からは、いくらでも抜けられるからです。
最初は、ひと晩ごとの施設(a shelter)で寝床や食事を提供してもらい、民間・個人基金、教会、非営利団体、そして、国や地方の行政機関の援助を受け始めます。でも、今までの伝統的な施設では、職が見つかった途端に、援助がストップしてしまいます。そのため、シリコンバレーでは、定職があったとしても自立できない人の為に、スキルアップ・トレーニングやカウンセリングを受けられる、半年・一年単位 の一時住宅(a transitional house)というコンセプトが生まれました。
この共同生活施設では、賃貸料が安いので、給与の大部分を、将来の住宅費のため貯蓄することができます。また、ホームレスを止めた人が一番ホームレスに戻りやすい最初の一年を、仲間と安心して過ごすことができます。
ここでスキルや教育を身につけ、より良い仕事に就きお金が貯まったら、次はいよいよ自分の力でアパートを借ります。そして最終的には、低所得者用の特別 ローンを借り、家を購入する。これが、シリコンバレー特有の、ホームレスのステップアップと言えるようです。
"3ヶ月後には、私はホームレスなんかじゃない" という意思が、本人を助け、社会全体の援助活動をさらに意義のあるものにしているようです。
夏来 潤(なつき じゅん)
住宅事情(パート2):買いたくても買えない
- 2001年02月02日
- 社会・環境
Vol. 7
住宅事情(パート2):買いたくても買えない
前回に引き続き、シリコンバレーの住宅事情のお話です。
"マイホームは一生の夢" というのは万国共通のことのようで、家を持つことは、アメリカンドリームの重要な要素となっています。アメリカの事情が日本とちょっと違うところは、ひとつの家にこだわらず、ライフスタイルが変わったら住み替える、ということのようです。
たとえば、子供の数が増えたら、より広い、庭付きの家に引っ越し、子供達が巣立ち定年を迎えたら、手のかからない、小さめの平屋かマンションに引っ越す。これが、伝統的な家の住み替えのスタイルと言えます。
しかし、シリコンバレーでは、第一歩であるはずのひとつめの家が買えないという人が増加し、社会問題に発展しています。社会経済的な格差の激しいアメリカでは、収入の底辺層に位 置する人達には、どの地域にいても、家が高すぎて買えないということも勿論あります。しかし、他の地域だったら充分に家が買えそうな人でも、シリコンバレーではとても手が出ない、というのが実態です。
12月に発表された、カリフォルニア不動産協会の統計によると、シリコンバレーの中心地、サンタクララ郡(Santa Clara County)では、たった18パーセントの人しか平均的な家が買えない状態だそうです。前年は29パーセントの人が買えたそうで、事態の悪化が如実に統計に表れているようです。
また、昨年末の状況を他と比較すると、カリフォルニア州全体では30パーセントの人が、全米で見ると54パーセントの人が普通 に家が買えたそうで、シリコンバレーの特異な現象がよくわかります。サンフランシスコ・サンノゼを中心とした、いわゆるベイエリア(the Bay Area)では、地域全体の中間値である46万ドルの家を買おうとすると、世帯年収は、13万ドル(約1430万円)必要だそうです。17パーセントの人達しか、これに当てはまりません。
[ 注: 統計に興味のある方のために、この指数はthe Home Affordability Indexと言い、20パーセントの頭金、統計時での30年住宅ローンの利子(2000年は約8パーセント)、固定資産税、保険等を想定し、どのくらいの世帯が、その年間世帯収入で、地域の平均的な家を買えるか(the median home price=中間値を払えるか)を計算したものです。]
シリコンバレーに限らず、ベイエリア全体で若干17パーセントの人しか家が買えない状況とすると、それでは、残りの8割強の人はどうすればいいのか? そのことが、行政を含めた地域社会全体の最重要課題になっています。立派に稼ぎがあっても、マンションや一軒家には手が出ない。日本のような "社宅" という概念が伝統的に存在しないアメリカでは、残る選択肢は、アパートを借りる、教会や福祉団体の各種施設でお世話になる、ホームレスになる、または、いっそ他の地域に引っ越してしまう、ということになります。
最後の選択肢に纏わり、気の毒な話をひとつ。サンフランシスコとサンノゼのちょうど中間地点に、サンカルロス(San Carlos)という街があり、ここの市長は、28歳のインターネット関連会社に籍を置く男性です。奥さんは、サンノゼ近郊で小学校の先生をしています。でも、共働きだったとしても、ここでは家が欲しくても買えない、とベイエリアで育ったふたりは以前から嘆いていました。
そこで今回、思いきって市長を辞任し、州都サクラメントの郊外に引っ越し一戸建てを買う、と決心したそうです。彼の会社がちょうど近くに移転して来る、という好条件も働きました。それにしても、2003年末まで任期があるのに、2001年1月末ですっぱり辞任してしまうのか、とまわりは驚いてしまいました。本人達にとっては熟考の末の結論でしょうが、サンカルロス市民としては、同情半分、諦め半分というところではないでしょうか。
しかし、大部分のベイエリアの住人にとって、長く住みなれた故郷とも言うべき土地を離れるのには大変抵抗があり、それは避けたいと考えます。特に、住民が日頃自慢しているように、気候、文化、地域社会等の点で住みやすい土地だったら、尚更のことです。また、当然のことながら、施設入居やホームレスというのは、普通 に会社勤めしている人達にとっては、何としても回避したい状況です。とすれば、残る方法は、賃貸物件を探すしかありません。
しかし、それも慢性的な物件難が続き、見つけるのは至難の技です。ひとたび空きがでると、数十人で奪い合いの状態になります。また、民間人や業者が経営しているアパートでは、契約期間中であったとしても、維持費の高騰や市場とのバランスの名目で、賃貸料をどんどん吊り上げていく。そういう、借り手の足元を見たゆゆしき行為が、珍しくなくなっています。現入居者が逃げてしまっても、借り手はいくらでもいる、と貸す側は強気なのです。
ちなみに、サンノゼ市では、1979年9月以前に建てられたアパートでは、年間に8パーセント以上賃貸料を上げてはいけない、という条例がありますが、シリコンバレーの大部分の都市では、まったく規制がないようです。
このような、にっちもさっちも行かない状況の中、事態を重く見た雇用者の中には、従業員の保護に乗り出したところもあります。低金利の定額住宅ローンを提供したり、住宅購入時の契約料や、アパートの賃貸料の一部を肩代わりしたりする会社が出てきたのです。
また、直接自分達の従業員に補助を支給するだけでなく、サンタクララ郡の住宅基金(the Housing Trust of Santa Clara County)等の公的資金に寄付し、賃貸料の低いアパートの建設や、始めて家を買う人達のための低金利ローンに貢献する、といった幅広いアプローチを取る会社もいくつか現れてきました。
たとえば、サンタクララ市に本社のあるインテル社(Intel Corp.)では、市の統合学区(the Santa Clara Unified School District)とジョイントベンチャーを設立し、学区内の先生達が家を買う手助けを始めました。月々のローン支払いを軽減するため、一人当たり毎月5百ドル(約5万5千円)づつ、5年間にわたり補助するというプログラムです。
この仕掛けは、インテル社が1千万ドル(約11億円)の学区の公債を5年分割で購入し、毎年その購入金額を投資に廻し、それによって得た利子を先生達に分配するというものです。計画では、毎年、少なくとも10人から15人の先生に補助を支給できるということです。
熟練した先生であっても、ハイテク産業の従業員に比べ低い給料で働いているので、先生達にとって、住宅事情はより深刻な問題です。サンタクララ郡の先生の平均年収は、3万7千ドル(約415万円)と言います。子供達の将来を握る優秀な先生達が、生活改善を望んで、郊外の学区や違う職業に逃げてしまったら、学校の質が低下する恐れがあります。また、卓越した人材を求めて、全米各地から先生を採用しようとしても、異常とも言える住宅事情を嫌って、誰も来てくれなくなります。
そこで、サンタクララ市の統合学区でも、独自に、区内840人ほどの先生達に、救いの手を差し伸べ始めました。学校の跡地に40世帯のアパートを建て、これを安く貸し出すことにしたそうです。今はまだ計画段階ですが、2002年春には、抽選で当たった幸運な先生達が、格安の賃貸料で真新しい住処に入居できるそうです。これをお手本に、サンノゼ市やサンフランシスコ市でも、同種のアパートの建設が予定されています。
幼稚園から高校だけではなく、大学でも、優秀な教官が地域を去ってしまったり、新しい人材を全米から採用できなかったり、といった共通 の悩みを抱えています。そこで、大学の先生達が、地域社会に深く根を下ろし、安心して研究や教鞭に集中できるよう、ベイエリアのほとんどの大学が、公立、私立を問わず、何らかのプログラムを提供し始めています。おおまかに分類して、大学が持つアパートや集合住宅の安価での貸し出し、住宅手当の支給、民間アパート賃貸料の一部援助、住宅ローンの利子免除または援助、などがあるようです。
一般的に、私立大学の方が公立よりも待遇が良く、たとえば全米屈指の私立、スタンフォード大学(Stanford University)では、数種のプログラムを提供し、向こう5年間で8千5百万ドル(約94億円)を使う計画だそうです。この中には、700戸のスタッフ用住宅の建設が含まれており、既存の職員住宅を倍増し、更に充実させる計画です。
また、ユニークなプログラムとしては、教官が職員住宅を購入した場合、後に売却した利益を大学と半分ずつ分かち合うことを承諾するなら、無利子でローンを提供いたします、というのがあります。パロアルト(Palo Alto)に隣接した絶好の立地条件で、家の値段がどんどん上がっていく土地ならでは、の巧い計らいと言えます。
また、私立に比べ少額ではありますが、州立大学各校でも、職員住宅の建設や金銭的援助など、公費の中、また限られた都市の敷地内で、できる限りの援助はしているようです。
ちなみに、ベイエリアにある州立大学は、University of California系のバークレー校、サンタクルーズ校、医学校のサンフランシスコ校、そして、California State University系のサンノゼ州立、サンフランシスコ州立、州立ヘイワード、州立モントレー・ベイがあります。この中でも特に、サンフランシスコ・サンノゼの各校は、都市の立地による敷地の手狭さ、という深刻な悩みを抱えています。
こういった、一連の教員援助プログラムは、単に金銭的な手助けに留まらず、特に駆け出しの教員にとって、勤めている学校や地域社会に暖かく歓迎されている、自分達も地域の学生・生徒達に充分還元していける、と実感できるきっかけともなるようです。そういった精神的な誘因は、公共の職場に限らず、民間企業にとっても、優秀な従業員を繋ぎ止めていく上でうまく働いているようです。それと同時に、転職が常識のアメリカではありますが、住宅に関する何らかの保護策を講じないと、シリコンバレー周辺では最初の1、2年すら従業員が居着いてくれない、という段階に来ているようです。
最後に、おまけのこぼれ話をひとつ。シリコンバレー誕生の地(Birthplace of Silicon Valley)とも呼ばれ、カリフォルニア州の歴史文化財にもなっている、ヒューレット・パッカード社(Hewlett-Packard Co.)発祥のガレージが、昨年8月、HP社自身に買われたそうです。
言うまでもなく、1938年、当時スタンフォード大学院生だったウィリアム・ヒューレットとデービッド・パッカードが538ドルで創設した会社がスタートした、パロアルトに位 置する車一台分のガレージですが、HP社は、これを170万ドル(約1億9千万円)で民間賃貸業者から購入したそうです。敷地内にある、パッカードが夫人のルシールと間借りしていた母屋と、ヒューレットが生活していた裏庭のコッテージもこの値段に含まれているそうです。売買時に住んでいた借り主は既に引っ越し、現在は空き家になっているようです。
かの有名なガレージ(The Garage)は、1939年夏には会社として使われなくなり、その後車だけではなく、工作機械やボンゴなどもろもろのガラクタが歴代入っていたそうで、HP社が購入するまでは、"蜘蛛が嫌いな人は、決して入っては行けない開かずの間" だったそうです。また、ヒューレットとパッカード自身には、"価値のない掘っ立て小屋(a worthless shack)" だったとか。
HP社は、近所迷惑になるとして、母屋を博物館にしたり、ガレージを一般 公開したりするプランはないそうですが、このガレージ購入のニュースが流れた途端、"空き家にしておくのはもったいないから、先生やお巡りさん、看護婦さんなど、困っている人を住まわせればいいじゃないか" という声が上がりました。未だに何に使うのかは耳にしませんが、一等地にある家を空き家にしておくのは、ちょっと、どころか非常にもったいない話ではあります。
慈善家としても有名だったヒューレットとパッカードも、きっとこの提案に賛成していたのではないかと思います。
さて、次回はシリーズ最終話として、シリコンバレーでの生活に窮している人達の住宅事情をお話します。
夏来 潤(なつき じゅん)
住宅事情(パート1):誰か家売ってくれませんか?
- 2001年01月26日
- 社会・環境
Vol. 6
住宅事情(パート1):誰か家売ってくれませんか?
先日、家の売買に関し、変なニュースを耳にしました。サンノゼ(San Jose)市内の閑静な住宅街にある一戸建ての家が、持ち主の提示額そのままで売れた、これはバーゲン価格か、もしくは経済が低迷しつつある悪いサインかもしれない、というものです。売り主は、"もうちょっと高く売れたかもしれないけど、たった2週間で売れたから、少しくらい損しても構わないわ"、とまったく気にしていないようでしたが、どうして提示額で家が売れたことがニュースになるのか、ちょっと不思議な気がしました。
また、サンフランシスコの対岸、バークレーに隣接するエメリービル(Emeryville)という街では、家族4人に最適な広さの家が売りに出され、見に来る人はたくさんいるけれど、3週間も誰も買い値を提示してこない、と報道されていました。これは今までにない珍しい事態で、株式市場の下落や広がりつつあるドットコム会社の従業員解雇を含め、全体的に消費者の経済に対する信頼・自信度が下がっているのではないか、と結んでいました。
確かにここ数ヶ月、消費者の米国経済に対する2000年前半のようなゆるぎなき信望は、かなり薄れてきているようです。そして消費者の心に少しでも翳りがあれば、マイホームのような大きな買い物はしにくい、というのも事実です。
しかし、この辺に住んでいる限り、株式市場に比較して、家の価格は特に下がっているようには見うけられず、住宅購入に纏わるシリコンバレーのゆゆしき事態はまったく改善されていない、というのが正直な感想です。
12月下旬に発表されたカリフォルニア不動産協会(the California Association of Realtors)の統計によると、11月に売られた一戸建て中古物件の平均価格は、また、今までの記録を塗り替え最高値になり、秋以降には価格は下がるという期待を、あっさり裏切った形になりました。
シリコンバレーの中心地、サンタクララ郡(Santa Clara County)では、中間値(the median home price、平均値ではなく、半分の物件はそれ以上、半分はそれ以下で売られた値)は55万ドル(約6千1百万円)でした。
これは、ひと月前の10月に比べ、4パーセントの上昇で、前年同月に比べ、実に31パーセントの増加です。この一戸建ての中間値は、日本に比べるととても低いようですが、全米での中間値が、わずか14万2千ドル(約1千6百万円)ということを考えると、シリコンバレーの数値がいかに高いかがわかります。(注:アメリカの場合、中古物件の価格帯がとても幅広く、不動産統計を取ったり変化を見たりするときには、平均値ではなく中間値を使うことが多いようです。)
ちなみに、カリフォルニア州全体で、中間値の高いトップ10としてリストに加わる常連の街を並べると、上から10都市は、サンフランシスコ・サンノゼを中心とする、いわゆるベイエリア(the Bay Area)に位置します。ベイエリアとは、サンフランシスコとサンノゼを結ぶ半島と、その東の対岸、バークレー、オークランド等、また北の対岸、サウサリート、ティブロン等の諸都市を含みます。
お金持ちで有名なビバリーヒルズ(ロスアンジェルス郊外)は、上位の都市に売買がなかった時だけ、ようやく番付の8、9位に顔を出すというところです。圧倒的な中間値の高さを誇るロスアルトス・ヒルズ(Los Altos Hills)は、シリコンバレー発祥の地パロアルト(Palo Alto)に隣接した小高い丘に広がる一等地ですが、そこでの中間値は、340万ドル(約3億7千万円)だそうです。
話は少し脱線しますが、このロスアルトス・ヒルズは、シリコンバレーで成功した人が住む街として有名な所です。新年第1週に、サンタクララ郡最大級となる豪邸の建築プランが街から許可されたそうで、21世紀を迎えても、その名声が衰える気配もないようです。
この新築プランの主は、チップメーカー、LSIロジック社(LSI Logic Corp.)の創設者で現在もCEOの、ウィルフ・コリガン氏です。彼は、40年近くセミコンダクター分野一筋でやってきた人で、この業界のパイオニア的存在であるフェアチャイルド・カメラ&インストルメント社(Fairchild Camera and Instrument Corp.)の創設にも深く係わった人でもあります。
コリガン夫妻は、30年来のロスアルトス・ヒルズの住人ですが、今回新築する家は、床面 積560坪で、6つのベッドルーム、11のバスルーム、ふたつのワイン・セラー、巨大なワイン・テースティングルーム、ふたつのダイニングルーム、図書室、エレベーター、などなどがあり、メディア・ゲームルームのバーからは、大きな噴水のある130坪の中庭が見渡せるそうです。敷地は3ヘクタールちょっとあり、ワイン用のぶどう畑、果樹園、テニスコート、などができる予定です。ガレージを除く居住面積は450坪ほどあり、これは、平均的なベッドルームふたつの家と比べると、10軒分の広さだそうです。
このロスアルトス・ヒルズがいい例ですが、最近は不動産業界でも、百万ドルの価値が頓に薄れ、昔は珍しかった1ミリオンの家(a 1 million-dollar house)も、今となっては、ざくざく不動産市場に出てきているようです(百万ドル=1 millionは、一般的に"お金持ち"の定義とされ、a millionaireと表現されてきました)。
2000年に全米各地で売られた百万ドル以上の家は、前年に比べ5割も増え、1万6千軒もあったそうです。そのうち、実に7割はカリフォルニア州に、3分の1はベイエリアにあるそうです。
話を普通の人の生活に戻しますが、シリコンバレーでは、一年前に比べ、4パーセントも職が増えたのに、それに引き換え、住宅は1パーセントしか増加していないらしく、これでは需要と供給の関係上、価格が下がる道理はないようです。また、最近では、投資先を株式市場からもっと安定した不動産に切り換える動きもあるようで、状況は悪化の一途を辿っているようです。
サンタクララ郡では物件難が慢性的に続き、ひとたび家が売りに出されると、一戸に対し最低数人が買い値をつけ、競合の末、最終的にはたった4週間ほどで売れてしまいます。お陰で一戸建てが買えない人達は、マンション(a condominium)や集合住宅(a town house)に殺到し、こちらの物件は平均して2週間で、しかも言い値で売れてしまうそうです。提示額はあくまでも目安であり、実際はそれ以下で売買されるという以前の常識はどこへやら、です。
2000年は特に "売り手市場" が著しく、売り主達は、自分の買い値との差額を平均して8万ドル(約880万円)も懐に収めたとか。
このような家の奪い合いは、株式市場が最高値を付け、テクノロジー会社に勤める人達の気持ちが大きく膨らんでいた、昨年上半期が最悪だったと言えます。一戸建ての新築物件が売りに出されるというと、抽選会の数日前から、テントを張って待機する人達も珍しくなく、不幸にして当たらなかった人達のための "待ちリスト" には、前の人の名前を消して、自分の名前をちゃっかり書き込む人まで現れたそうです。
また、中古物件の場合は、売り主の気をいかにして引くかが重要課題になり、それこそ涙ぐましい努力や奇抜な思いつきで、家を手に入れようとする人もいます。まず、売り主の手元に、長い手紙が届くようになります。それには、この家がいかに自分達一家にフィットしていて、もし売ってくれたら、家を大事に扱い、庭の手入れもちゃんとします、と書いてあります。大抵の場合、一家が笑い顔で集っている写 真が同封されていて、たまには、ペットのすまし顔の写真や、幼稚園児の子供が描いた、新しい家に住む幸福な一家のクレヨン画も含まれています。
しかし、20件以上の家から似たような手紙が届いたら、手作りのチョコレートケーキでも添えられていない限り、売り主はまず読む気にもなれません。
そういう売り主には、もっと実用的なものが喜ばれるはずです。たとえば、メキシコ行きのパッケージツアーや航空会社のマイレージ・ポイント。また、ダイヤモンドのブレスレットというのも実際あった話だそうですが、これはなぜか嫌われたそうです。
旅行や宝石に興味がなさそうだったら、ごく現実的に、楽々お引っ越しパッケージというのはどうでしょうか。いたれりつくせりのおまかせコースだったら、軽く数千ドルは超えるはずです。
それでも足りなかったら、シリコンバレーらしく、いっそ株でもあげましょうか、と思いついた人がいるそうです。たとえば、プランAとして、80万ドルを提示します。そしてプランBとして、75万ドルの現金と5万ドルの価値の株を提示します。もし売り主がリスクを負える状況にあり、ギャンブル好きだったら、もしかしたらまんまと食い付いてくるかもしれません。残念ながら、このプランが成功したかどうかは、業務上の秘密だそうです。
しかし、何と言っても、一番効果がある方法は、札束に物を言わせることです。これには、古今東西の差はないようです。
友人に聞いた話ですが、彼女の知り合いの退職した夫婦が、パロアルトに小さめの家を探していて、ベッドルームふたつのちょうどお手ごろな物件を見つけたそうです。場所が良いのと、広さが手ごろなので気に入っていたのですが、値段が百万ドル近く(約1億円)ととても高く、すっぱり諦めたそうです。いったいいくらで落札するのかと気にしていたら、間もなく提示額を百万ドル以上超え、2百万ドル(約2億2千万円)で売られたそうです。
最初この話は、友人の作り話かと思いましたが、サンノゼ・マーキュリー紙にも、実話として堂々と載っていました。実際にこの家を見たわけではありませんが、きっと、2億も払うには惜しい物件だったに違いないです。
今回のシリーズは、多様化するシリコンバレーの住宅事情を、3回に分けお伝えしようというものです。初回は、裕福な人達や、平均以上の家庭が家を購入する場合の話に限りましたが、次回はパート2として、平均的な家庭が、この尋常でない住宅事情にどう対処していけるのかを探ってみたいと思います。
夏来 潤(なつき じゅん)
ホリデーシーズン(パート2):クリスマスから元旦
- 2001年01月19日
- 歴史・風土
Vol. 5
ホリデーシーズン(パート2):クリスマスから元旦
前回は、11月末のサンクスギヴィングからクリスマスまでを、かいつまんでお話しましたが、今回は、その後元旦までのお話をします。
一般的に、クリスマスが終わると、すぐ翌日から会社ですが、クリスマスから元旦までが、まとまった休暇が取りやすい時期なので、バケーションを取って旅行に行く人も多いようです。シリコンバレーからだと、サンディエゴ(San Diego、カリフォルニアとメキシコの国境近くの街)、ゴルフ場で有名なパームスプリングス(Palm Springs、ロスアンジェルスから内陸に入った砂漠のリゾート地帯)など暖かい所に出かけて行ったり、ネバダ州との境にあるタホ湖(Lake Tahoe)の周辺にスキーをしに行ったりします。
また、サンクスギヴィングに実家に戻らなかった人達は、東海岸や中西部に家族を訪ねたり、逆に、自分の家に家族を招いたりします。
休暇を取っているけれど、どこにも行かず家で過ごす人は、ゴルフやテニスなどのスポーツをしたり、クリスマスツリーの後片付けをしたり、ショッピングに駆り出されたりします。商業主義の徹底しているアメリカでは、ありとあらゆる休日は、店のセールの口実とされ、クリスマス後の26日にも、"アフタークリスマス・クリアランスセール" なるものがあります。朝早く、7時くらいから店が開き、普段よりも更に安いということで、開店前から何百人も並ぶ店もあるようです。
また、クリスマスで戴いたプレゼントで気に入らない物があると、それを返品したり(return)、交換したり(exchange)する季節でもあります。贈る側も、相手が好んでくれないことを仮定して、店が発行した、ギフト領収書(a gift receipt、どこの店で買ったものかを証明するもの)を付けて贈る人も多いようです。これだと、あからさまに購入金額はわからないようですが、一昔前は、店のレシートそのものを付けて贈り物をする人も少なくなかったようです。何とも、現実的な習慣と言えます。
返品・交換される品物は、たとえば洋服の場合、店舗での購入の数パーセントなのに対し、オンライン・ショッピングでは2,3割にも昇ると言います。それに対応するため、今シーズンは、Webサイト上で、簡単に返品用のバーコード・ステッカーが作成できるとか、Webサイトの姉妹店である店舗に行って返品できる(たとえばWalmart.comではWal-Martの各支店)、などいろいろな工夫がなされていました。
この返品の季節を当て込んで、オークションサイトのeBay.comでは、12月27日から1週間、クリスマスにもらった、要らない物の処分を促すテレビ・コマーシャルを、全国的に放送しました。テレビでの宣伝は、実に会社始まって以来のことで、その話題性だけで、約3億円の広告費の元は取れたのではないか、と思われます。
こういった商業主義から離れ、本来の意味を考えると、クリスマスとはキリスト教の神聖な行事であり、宗教的な祭日です。しかし、いろんな人種、民族、宗教の集まりであるアメリカでは、必ずしも、クリスマスを祝わない人も多いようです。
この時期に別 のお祝いをする主なものでは、ユダヤ教のハヌカ(Hanukkah)、イスラム教のラマダン(Ramadan)、そして、アフリカン・アメリカンのクワンザ(Kwanzaa)があります("黒人" という言葉は、人種偏見の含みがあるということで死語となりつつあり、代わりにAfrican- Americanと総称しています)。
ハヌカは、ユダヤ人がシリア人の統治を紀元前2世紀に覆し、無事に自分達の神に祈りができるようになったことに感謝する、宗教的なお祝いです。ヘブライ暦の12月25日から8日間(2000年は、12月21日から28日)、毎日ろうそくに一本ずつ火を灯しながら(最後には8本になる)、祈り、聖歌を歌い、贈り物を交換し祝います。
一方、ラマダンは、イスラム教の神、アラーに祈るひと月を指し、最終日(2000年は、12月27日)は、祈りと日中の断食の聖なる1ヶ月が無事に終わったことを感謝するため、信者が一同に介し祈りを捧げた後、特別 なデザートを楽しみます。また、この日は、モハメッドの教えに従い、見ず知らずの人にも慈善を行う日とされ、最近シリコンバレーで増えている、ボスニア、コソボ、ソマリアなどからのイスラム教の移民に、援助を施す時期にもなっているようです。
2000年は、クリスマス、ハヌカ、ラマダンの最終日が同じ週に重なるという、33年に1度の出来事となりましたが、それが、キリスト教徒の間でも、他の宗教のお祝いごとを考える良い機会になったようです。また、お互いの信条や習慣を尊重し、これら三大宗教は、新天地でうまく共存しているようです。
ハヌカやラマダンに対し、クワンザは宗教的なお祝いではありませんし、比較的新しい習慣です。黒人解放運動(the Black Freedom Movement)の盛んだった1966年に、カリフォルニア州立大学・ロングビーチ校の教授が、"黒人" が分かち合うアフリカ大陸の文化のルーツを広く知らしめ、誇りを持つように、と始めたお祝いです。
クワンザとは、スワヒリ語で "最初の果実" の意味で、古代エジプトやヌビア、またアシャンティ、ヨルバ、ズールー、スワジなどの国々で、伝統的に行なわれていた収穫祭に起源を持ちます。12月26日から1月1日までの7日間、自分達のルーツを思い起こし、仲間との繋がりを強め、同時に、調和(unity)、決断力(self-determination)、独創性(creativity)など7つの信念を、毎日ひとつずつ心に刻む、という精神的な運動と言えます。
贈り物の交換などもありますが、子供達には、信念を教える本を贈るなど、どちらかと言うと地味なようです。"どうして私には、おもちゃとか楽しいものをくれないの?"、と親に尋ねる小さい子もいるそうですが、クリスマスのサンタさんで育った子供なら、尚更です。ごく最近、商業主義のクリスマスを捨て、クワンザに切り替えた家族も多いようで、子供だけでなく、大人にとっても、まだまだ学ぶことはたくさんある習慣、と言えるようです。
さて、いよいよ年の瀬も押し迫り、大晦日が近づくと、またまた、みんながそわそわし始めます。2000年は、ちょうど31日が日曜日になりましたが、普段は、この日をお休みにする会社もあるようです。
大晦日の晩は、夜通 し、年明けパーティーに参加したり、新年のカウントダウンの花火見物に出かけたり、みんなと楽しく過ごす人が多いようです。サンフランシスコの海沿い、フェリー・ビルディングからの年明け花火も、毎年数十万人の見物人が集まり、一大イベントとなっていますが、全米で一番有名なのは、やはりニューヨーク市タイムズ・スクエアのカウントダウンのようです。1907年から続いているという歴史があり、50万人の見物人のうち、85パーセントは市外から、4分の1は、全世界から集まると言います。
アメリカ中で、12時を廻り、新年を迎えたら、一斉に歓声があがり、風船や紙ふぶきが舞い、カップルはキスであいさつをします。蛍の光を歌うのも、年末ではなく、年が明けてからです(実際には、国内で時差があるので、蛍の光が6回歌われることになります)。
この新年を迎える大騒ぎこそ、日本の静粛な大晦日とは、好対照のものだと言えます。タイムズ・スクエア周辺では、みんなが帰った後、35トンもの紙ふぶきを清掃したとか。
元旦は、さすがに会社はお休みですが、クリスマスとは違い、お店も大部分営業していて、書き入れ時のようです。また、街角のカフェでコーヒーを飲んだり、公園を散歩したり、のんびりと過ごす人も多いようです。
アメリカらしいところでは、毎年元旦にパサディナ(Pasadena、ロスアンジェルス郊外の街)で行なわれる、ローズボール(Rose Bowl)のパレード(花で飾られた山車や鼓笛隊が、何十と街を練り歩く)が有名で、パレードの後のカレッジフットボールは、その他全米5箇所で行なわれる試合と合わせて、元旦の名物になっています。
このあと、1月2日のニューオーリンズでのシュガーボール(Sugar Bowl)、3日のマイアミでのオレンジボール(Orange Bowl)と、カレッジフットボールの天王山が控えています(前回から、アメリカンフットボールの話がよく出てくるようですが、冬は野球のオフシーズンなので、この時期、やはり集客率が一番高いスポーツと言えます)。
元旦の骨休めも束の間、1月2日からは、さっそく会社が始まります。さすがに初日は、"Happy New Year!"との挨拶で始まりますが、前日までののんびりとしたペースはどこへやらで、いきなりフル回転で仕事が始まります。この切り替えの早さが、何ともアメリカらしいところと言えます。
元旦まで街中に残っていたクリスマスの飾り付けも、遅くとも新年6日の公現祭(Epiphany、イエス生誕の際、東方の三博士がベスレヘムを訪れた記念日)までには、さっさと片付けられ、年末・年始の余韻を楽しむ間もありません。
元旦に立てた一年の計(New Year resolutions)も、すっぱりと忘れてしまうのではないかと思われるほど、頭の切り替えが早い国民性ですが、せっかく立てた計画は、半分くらいは実行してもいいのではと思います。ちなみに、一番多い決心事は、"減量して、スリムになるぞ!" だそうです。
夏来 潤(なつき じゅん)
ホリデーシーズン(パート1):サンクスギヴィングとクリスマス
- 2001年01月05日
- 歴史・風土
Vol. 4
ホリデーシーズン(パート1):サンクスギヴィングとクリスマス
ご存知の方も多いとは思いますが、11月末から新年にかけて、アメリカでは重要な休日がいくつか続き、一年のうちでも最もみんなの心が浮き立つときです。今回は、そういったホリデーシーズンについて、2回に分けお話しようと思います。
一口にアメリカと言っても、地方によって歴史・伝統が違ったりするので、これはあくまでもサンフランシスコ・サンノゼを中心とする北カリフォルニアの様子であることを、最初にお断りしておきます。
日本では一般的に、アメリカの方が国民の休日や会社の有休が多く、しょっちゅうビジネスの相手がバケーションでいなくなる、と信じられているようですが、これには多少誤解があるようです。まず、国民の休日(national holidays)は、日本の方が圧倒的に多いです。アメリカの場合は、いくつかの最も重要な休日以外は、各会社がどの日を休みにするのか決定しますが、日本の国民の休日が15日に対して、アメリカは10日の休日(paid holidays)が一般的です。
また、有休(vacation days)は、日本では勤続年数によって増え、20日くらいもらうこともありますが、アメリカの会社では、一律10日ちょっと、というのが一般的なようです。日本では有休はあっても実質的に取りにくい、という事情もありますが、日本に比べて、アメリカの労働条件が決して薔薇色でないことをお伝えしておきます。
一部の職業を除いて、アメリカの会社勤めの人が一斉にお休みできるのは、元旦(New Year’s Day)、5月末のメモリアルデー(Memorial Day)、7月4日の独立記念日(Independence Day)、9月初旬の労働感謝の日(Labor Day)、11月末のサンクスギヴィング(Thanksgiving Day)、そして12月25日のクリスマス(Christmas Day)です。今回は、年末の一連の行事、サンクスギヴィングからクリスマスまでを、かいつまんでお話しましょう。クリスマス後から元旦までは、次回に廻すことにします。
サンクスギヴィング(感謝祭)は11月の第4木曜日ですが、この日は遠い所に住む家族も一同に介し、一年間無事に過ごせたことを感謝しながら、七面鳥(turkey)のディナーをとります。家々によっては、この七面鳥の料理の仕方や、付け合せやソースに秘伝があるところもあり、母の味を楽しみに、遠路はるばる故郷に帰る人もたくさんいます。結婚して代替わりしたら、今度は奥さんに母の味の再現を頼む人もいるようです。
この日ばかりは、小休止していたオーブンもフル回転し、あちらこちらから、七面鳥の焼けるいいにおいが漂ってきます。普段離れている家族が顔を合わせ、近況報告することが第一の目的なので、料理を担当している人以外は、アメリカンフットボールや、各地で行われるパレードの中継をテレビで見ながら、家でのんびり過ごす人が多いようです。
サンクスギヴィングの翌日の金曜は、会社がお休みの人が多いので、前日の続きで、家でのんびり過ごしたり、友達とゴルフやテニスをしたり、と束の間の休みを楽しみます。この日はまた、約1ヶ月後のクリスマスに向けて、正式なショッピングの始まりの日とされ、"黒い金曜日(Black Friday)" と呼ばれています。由来は、今まで赤字の店であっても、この日には充分黒字転換できる(go into the black)、ということらしいです。
不運な人は、テレビの前から引っ張り出され、荷物持ちとしてごったがえしたショッピングモールに駆り出されます。店の側では、この日からクリスマスまでの歳末商戦を命綱としている経営者も多く、朝の5時、6時から営業開始します。客の側もわきまえたもので、この日の大安売りをお目当てに、前日に配られたチラシの束とにらめっこして、綿密にショッピングプランを立て、ご馳走で取り過ぎたエネルギーを発散しにお出かけ、という人も多いようです。
この日を境に、"もうクリスマスショッピングは終わった?(Have you done the Christmas shopping yet?)" というのが、挨拶代わりになります。日本と違って、プレゼントの送り先リストが、家族・親戚 ・友人の何十人にも昇り、単に恋人や親友の身近な人だけでは済まず、誰に何を選ぶかが、かなりシリアスなビジネスになってきます。
今シーズン珍しかったのは、インターネット・ポータルのYahoo!の作戦です。サンフランシスコの中心地にあるユニオンスクエアという公園に、自社のロゴを塗ったタクシーを待機させ、市内だったらタダで買物帰りの客を家まで送る、という人助けと宣伝を兼ねたサービスを行っていました。
これが、多少なりとも功を奏したのかはわかりませんが、Yahoo!ショッピングの歳末商戦の売上は、米国内で前年に比べ、2倍になったそうです。その他、Amazon.comでは、前年比50パーセント増、など、オンラインショッピングサイト全体で、前年の2倍、98億ドル(約1兆800億円)の売上だったそうです(Goldman Sachs/PC Data発表の11月第1週から12月24日の統計)。
しかし、これは予想を下回る結果 だそうで、期待に反して、消費者の財布の紐が堅かったことと、お出かけショッピングの人気の根強さを表しているようです。
話を元に戻して、サンクスギヴィングに実家に帰って、親孝行・兄弟姉妹孝行をした人達は、一斉に次の土日に家に帰ろうとします。日本の帰省ラッシュと似て、この二日が、一年で一番飛行場が混む時と言われています。
特に、シリコンバレーあたりに住んでいる人は、生まれながらのカリフォルニア人("native Californians")、という人は少ないので、車ではなく、飛行機で長距離移動という人が多いようです。
サンクスギヴィングが終わった月曜日からは、まったく普通の日々が続きますが、クリスマスに向け、何となくそわそわした雰囲気が漂っています。この期間は、新しい仕事を見つけたり、引っ越し先を探したり、など大きな決断事は控える人が多いようです。
週末が来るごとに、軒下や庭のフェンスにクリスマスライティングの飾り付けをしたり、クリスマスカード書きに追われたり、クリスマスツリーを買ってきて、その飾り付けに凝ったり、とショッピング以外にも毎週何かと家族の行事が続きます。
その中でも、ライティングは、クリスマスシーズンの到来を告げるシンボルになっています。各都市の中心地では、市民達が見守る中、大きなツリーや、ビルの外壁に光を灯すセレモニーが開かれます。また、個人の家でも、そりに乗るサンタや、キリスト降誕の再現(Nativity)など、毎年趣向を凝らしたライトアップで、近所の人達を楽しませてくれる家がたくさんあります。
大きな家だと、人を雇って軒下や庭の木々にライティングを取り付けたりするようですが、大部分の人は、デザイン、購入、飾り付け、とそのプロセス自体を楽しみにしているようです。毎年新聞にも、どこの家のライティングがすごいから、ぜひ見に行きましょう、と住所付きで特集記事が出るほどで、例年名物になっている家には、2,3時間かけても見に来る人がいるようです。
不運なことに、今シーズンはカリフォルニア州のエネルギー不足が深刻化し、クリスマスライティングなど、生活に不可欠でないものは摂生するように、と電力・ガス会社から依頼があり、夜7時以降でないとライトアップしないコミュニティーも出てきました。遠くから見に来た人の中には、ライトアップが見られない腹いせに、落書きをしたり、大きな声で脅し文句を叫んだり、家主達を困らせる人まで出てきたそうです。
クリスマスには、サンクスギヴィング同様、家族で一同に介してディナーをとる習慣があり、祖父母にとって、孫達の成長振りを見る良い機会になっています。最近は生活が多様化しているので、みんなのスケジュールに合わせて、ディナーの日時を変更し、必ずしも25日に晩餐をするわけではないようですが、この日は開いている店もほとんどなく、街中ひっそりと静まり返っています。不運にも、この日に当番が当たったお巡りさんやバスの運転手は、新米さんが多いようです。
公共の職務に関与しない人達は、家でプレゼント交換をしたり、カレッジフットボールのオールスターゲームを観戦したり、七面 鳥やハム、ローストビーフのご馳走を満喫したり、と静かで平和な一日を過ごします。
ところで、元来クリスマスとは、そういった物理的なことに一番の重きがあるわけでは当然なく、宗教的な意味合いを除いても、人との分かち合い(sharing)、見ず知らずの人・社会への還元(giving)、人とのふれあい(companionship)を精神の根本としています。
特に、持つ者と持たざる者の差が歴然としているシリコンバレーでは、毎年この時期になると、各種の助け合い運動が普段以上に盛んになります。缶 詰やパスタなどの保存食を募るフード・ドライブ(Food Drive)が各会社で行われ、いっぱいになったドラム缶 は、食料銀行(Food Bank)の配送センターに運ばれ、集まった食べ物は、そこから個人の家や施設に配られます。
福祉団体として歴史のあるサルベーション・アーミー(Salvation Army)では、普段行っている古着や家具の寄付受け付けだけではなく、街角に白ひげのサンタを立たせ、ベルを鳴らしながら、街行く人達に募金を促します。
また、海兵隊(the Marine Corps)が中心となって、おもちゃの寄付を募る "Toys for Tots(Totsは幼児)" というプログラムを繰り広げ、ティーンエージャーを含む子供達へのクリスマスプレゼントを集めます。その他、数えきれないほどの非営利団体が、物品やお金の寄付を一般 や企業から受け付けます。
この時期は、有名人も各種のボランティア活動に参加します。たとえば、サンフランシスコの対岸、オークランド(Oakland)にあるプロ野球チーム、オークランドA’sが毎年やっているのは、オークランド・バレエ団の "くるみ割り人形" に、おもちゃの兵隊として出演し、その収益を福祉団体に寄付するというものです。
今シーズンは、フットボールチーム、サンフランシスコ49ersのスター選手、テレル・オーウェンズも兵隊のひとりとして登場し、ちょっとした話題になりました。"バレエの方が緊張したけど、フットボール選手みたいに、数を数えリズムを取れたら、ちゃんと踊れるよ" ということでしたが、お世辞にもうまい踊りではありませんでした。しかし、うまい下手は、この際まったく関係はありません。
クリスマスの日には、"誰もひとりで寂しく過ごしてはいけない"、と教会が中心となって、日頃食べるものに困っている人達に、ディナーを提供する所がたくさんあります。ボランティア3百人で、8千人のお腹を満たし、おしゃべりの相手をしたサンフランシスコの教会もあり、規模の大小は問わず、暖かい食事や子供達が書いたクリスマスカードで、憩いのひとときを提供しています。
家でクリスマスプレゼントを交換するより、ボランティア活動に意義を見出す人も多く、配膳が無事に終わり家に帰ると、今までより食事がおいしく、ベッドが柔らかく感じられるようです。
夏来 潤(なつき じゅん)