楽園のさざ波:「民泊」の落とし穴
- 2015年10月25日
- 社会・環境
Vol. 195
楽園のさざ波:「民泊」の落とし穴
今、何かと話題になっている「民泊」や配車サービス。
今月は、間もなくサンフランシスコで行われる民泊の住民投票など、スマートフォンで広がるシェアサービスのお話を二つお届けいたしましょう。
<第1話:「楽園」サンフランシスコの悩み>
シェアサービスといえば、一般の消費者が、自分の所有物や時間を共有(シェア)して、業者さんのように誰かにサービスを提供することですね。
たとえば、タクシーの代わりに迅速に車を呼べる Uber(ウーバー)、Lyft(リフト)、Sidecar(サイドカー)といった配車サービスや、ホテルの代わりに誰かの部屋に泊まれる Airbnb(エアービーアンドビー)、HomeAway(ホームアウェイ)、VRBOといった民泊サービスがあります。
スマートフォンアプリを使えばサービスを気軽に利用できるし、一般の人が登録すれば、誰でもサービス提供者になれる、つまり、お金を稼げるという「手軽さ」から人気急上昇。
こういったシェアサービス分野で消費が拡大するにつれ、シャアリング・エコノミー(sharing economy)という言葉も登場しました。
「共有経済、シェア経済」とも訳されますが、利用者も一般人なら、提供者もプロをすっ飛ばして一般人、という消費構造を指します。
近頃は、こういった迅速なサービス提供を表し、オンディマンド・エコノミー(on-demand economy)という言葉も生まれています。
テレビのリモンコンを使って、好きなときに好きな映像を観られるように(オンディマンド)、思い立ったときに手元でサービスを利用できる、といった意味です。
ところが、世の中にシェアサービスが広がるにつれ、いろいろと問題も生じています。
配車サービスの場合は、一般ドライバーが業務用の保険に入っていないため、事故の際は誰が責任を取るのか? といったケースや、ドライバーに対してタクシー運転手のような厳しい身上調査がないので、乗客が犯罪に巻き込まれる、といったケース。
そして、Airbnbのような、個人の部屋を有料で貸し出す民泊サービスの場合は、周辺住民が騒音で悩まされるとか、行政に内緒で不当な利益を得ているとか、さまざまな問題が表面化しています。
そこで、「シェア経済の発祥地」とも言えるサンフランシスコでは、「民泊規制」を始めました。
日本でも、東京都大田区が年内に条例を制定することを発表していますが、サンフランシスコは、ちょっと先輩になりますね。
昨年10月末、エド・リー市長が署名した市条例(short-term rental ordinance)は、今年2月に施行。
この条例では、Airbnbなどの民泊サービスに部屋を登録する場合、部屋の所有者もしくは賃貸契約者の「届出制」を義務化しています。(写真は、35ページにわたる条例の冒頭)
なんと、市役所に「短期賃貸届出課(Office of Short-Term Rental Registry)」というのを設けて、届け出た住民に登録番号を与え、年間90日以内だったら、部屋の貸し出しを許可することにしました(年間90日の制限は、所有者や賃貸契約者が旅行や出張などで部屋を開けている場合に適用。部屋にいながら一角を貸す場合は無制限)。
登録できる部屋(家屋)は、別宅ではなく「年間275日以上住む、法的な自宅(primary residence)」でなければならないし、Airbnbなどのサービス側も、市の登録番号がなければ部屋を掲載できません。
また、登録者は、税務上の観点から市内でビジネスを行うビジネスライセンスが必要ですし、最低50万ドル(約6千万円)の賠償責任保険への加入が義務化されるなど、さまざまな規制が設けられています。
ところが、「年間90日」という規制を超えそうな人が現れました。
「自宅のみ」の条項を無視して、投資目的で買った別宅を貸し出す違反者もいます。
さらには、「自分が住みながら部屋の一角を貸し出す場合は、年間貸し出し日数の制限がない」ことを逆手にとって、アパートの一室にいくつも二段ベッドを置いて、ひとりずつから何万円も徴収してみたりと、さまざまな違反行為が明らかになってきました。
この背景には、サンフランシスコの急激な人口増加にともない、慢性的に賃貸物件や滞在スペースが不足する現状があります。
急ピッチで高層ビルやアパートを建てているものの、とても間に合わないので、どんな小さなスペースでもありがたい。
そんな中、Airbnbなどを利用して、儲かるトリックを編み出した、ということでしょうか。
たとえば、月に30万円の賃貸料を払っていても、100万円を生み出すなら、その差額で南洋のビーチでバケーション! というのもオツなものでしょう(これは、借家の大家さんが訴え出た実話だとか)。
現在、市内の民泊物件一件当たり年間平均13,000ドル(約160万円)を生み出している、との統計もあるそうです。
まるで、生活空間が「金の卵」になったような感じですが、サンフランシスコのアパートやマンションは、居住スペースだけではなく、起業したばかりのスタートアップのオフィススペースでもあります。
おまけに、街は業界イベントや観光でも大人気なので、短期滞在者も絶えず押し寄せています。「金の卵」の輝きは、色あせることがないのです。(こちらは、10月初頭サンフランシスコ上空を飛ぶ海軍飛行隊ブルーエンジェルスのエアショー)
そこで、こういった状況に懸念を抱いた住民グループから「住民提案」が出され、さっそく、11月3日の投票日に住民投票を行うことになりました。
これは 住民提案 F(Proposition F)というもので、「年間75泊の上限」「3ヶ月ごとの市への報告義務」「登録番号のない物件を掲載した場合は、サービス会社に罰金を科す」などを提案しています。
さらには、「離れ(in-law units)」のような別棟の貸し出しを禁止したり、30メートル圏内に住む周辺住民が「あそこは違反してるんじゃない?」と思ったら市に届け出て、60日後には裁判所に提訴できたり、と厳しい条項も盛り込まれているので、物議をかもしています。
当然のことながら、Airbnbをはじめとして、サービス各社は提案 F に反対の立場ですので、反対運動には10億円ほどの資金が集まり、さかんに「提案 F 反対!」のテレビ広告を流しています。
反対派は、「提案が通ったら、おばあちゃんが離れに住めなくなるってことでしょ?」とか「近隣住民が提訴できるなんて、お隣さん同士がプライバシーを侵害し合うってことでしょ?」と、住民の不安をあおります。
一方、ホテル業界、家主協会、賃貸居住者組合を含む賛成派は、わずか4千万円ほどの資金調達で情報伝達も地味ですが、彼らのポイントは、こちら。
2月に市の条例が施行されたものの、(一課に3人という)スタッフ不足で何万件という民泊物件を精査できずに、違反が横行している。サービス側も、自ら違反を是正しようとはしない。
あと何年猶予を与えたところで、現行の条例ではダメだ!
日頃は敵対しがちな家主協会と居住者組合が、「賛成派」として肩を並べるという珍しいケースになっていますが、家主には「知らないうちに登録されて騒音の苦情が増えた」といった切実な悩みがあるのでしょうし、居住者には「旅行者や短期滞在者に部屋を貸されたら、自分たちが住めなくなる」という厳しい現実に直面しているのでしょう。
両陣営を比べると、反対派には、前サンフランシスコ市長のギャヴィン・ニューサム副知事のような強力な助っ人もいます。ですから、反対派の方が有利にも見受けられるでしょうか。
このニューサム副知事、一時は「選挙運動を支えてくれた親友の奥さんと関係を持ち、友人夫婦を離婚に追い込んだ」というスキャンダルもありましたが、その後、結婚して家庭を持ったことで見事に立ち直り、次期カリフォルニア州知事か?(2018年総選挙)とも目されています。
2004年のバレンタインデーに、サンフランシスコ市長/郡長として全米で初めて同性結婚(same-sex marriage)の証明書を役所で発行し、注目の的となった方でもあり、地元での発言力は大きいのです。
ちなみに、市内のマンションでは、昨年のうちに「住民規約」で短期間の賃貸を禁止した場所も多いようです。
もちろん、Airbnbのような民泊サービスをターゲットとした条項ですが、「誰かに貸し出す場合は、最低30日の契約」という風に定められています。
<第2話:配車サービス用の保険>
お次は、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)といった配車サービスのお話です。
以前は、こういったサービスには 乗車シェア(ridesharing)という言葉が使われていました。が、同じ方向に向かう乗客が乗車をシェアするわけではないので、近頃は、乗車予約(ride-booking)とか 交通ネットワーク会社(transportation network company)とも呼ばれ、行政機関は略語 TNC を使うようです。
というわけで、第1話にも出てきましたが、配車サービスの場合は、まずは自動車保険の問題がありますね。
つまり、個人が入る自動車保険では、営業目的の運転中に事故を起こしたら、保険はおりないどころか、下手をすると保険停止になってしまいます。が、サービス各社は、なかなか個人ドライバーを保護してくれない。
ところが、今年7月カリフォルニア州で法律が施行したこともあって、お客を乗せて運転中の事故なら、賠償保険や衝突車両保険を会社が払ってあげよう、という風に態度を和らげています。
けれども、お客を探しながらクルーズ中は車両保険がないので、自分の車にダメージがあっても自腹を切るしかないし、自分が怪我をしても誰も払ってくれない。しかも、相手に責任がありながら払ってくれない場合は「泣き寝入り」、という状況が続いていました。
そう、このクルーズ中が「魔の時間帯」になっているのです。
そこで、カリフォルニアなど一部の州では、ドライバーがクルーズ中(上の図では「Period 1」)から、お客を乗せて降ろすまで、配車サービス用の保険提供を許可することになりました。
カリフォルニアでは、今年5月から保険大手ファーマーズ(Farmers Insurance)が提供を開始しています。
スヌーピーのキャラクターでおなじみのメットライフ(MetLife)に対しても、先日、州保険庁ジョーンズ長官が提供を許可しています。
けれども、ここで問題なのは、まだまだ提供機関が少ないので、保険料は高いし、いろいろと制限があることです。
たとえば、配車サービス保険は、あくまでも個人の自動車保険の延長なので、もしも他社の保険に入っている場合は、ファーマーズなどに乗り換えないといけません。
そして、配車サービスではリスクが増えるため、衝突や賠償の支払額を増やそうと思っても、個人保険の部分で契約額を増やす必要がある。また、個人保険でカバーしていない内容は、配車サービス保険でもカバーできない、などなど制限が多いのです(いずれも商用保険よりも個人保険の方が、レートが高い)。
ですから、今のところ「保険に入りたいけれど、高いから払えないよぉ」というドラーバーもたくさんいるんだとか。
さらに、ドライバーに対する身上調査に関しては、おかしな話があるんです。
それは、サンノゼ市が、夏の間に「お試し期間」としてサンノゼ国際空港への配車サービス乗り入れを許可しようとしたのですが、あまりにドライバーの身上調査が厳しいので、Uberも Lyftも、誰も参加しようとしなかった! とか。
まあ、駅、空港、スタジアム、それから政府機関などは、もっとも警戒が厳しい場所ですので、そこに乗り入れるタクシー会社にしても、ドライバーの身上調査(background check)は怠りません。
が、サンノゼ市が配車サービス各社に要求した中には、米司法省級の身上調査だけではなく、指紋押捺、サンノゼ市でビジネスを行うビジネスライセンス取得、そして、10年未満の車であること、といった制限が含まれていたとか。
とくに、指紋(fingerprinting)に関しては「タクシーの運転手だって指紋調査はないのに、どうして自分たちだけ?」と反発が大きかったのでした。
普通、指紋を取られるなんて、警察に逮捕されたときや、米国永住権を申請するとき、または警察やFBIに勤めるときでしょうから、「指紋」と聞いただけで、身震いしてしまったのでしょう。
サンノゼ市は、11月に再度議会で討論するそうですが、予備調査を募集する前から「こんなに厳しいチェックがあったら、誰も参加しないよ」という否定的な意見が聞かれていたとか。
来年2月、シリコンバレー・サンタクララ市の Levi’sスタジアム(サンフランシスコ49ersのホームフィールド)では、フットボールの祭典『スーパーボウル50』が開かれます。
スタジアムから100メートル圏内は、開催の前の週から厳戒態勢に入り、食べ物を運ぶトラックですら X線検査を通り、トラック運転手も犯罪歴がないかどうか厳しくチェックされるとか。
まあ、どんな場面でも、誰も信用してはいけない、世知辛い世の中になりましたよねぇ。
夏来 潤(なつき じゅん)
楽園のさざ波:「民泊」の落とし穴
- 2015年10月24日
- Life in California, テクノロジー, 日常生活
こちらは、Silicon Valley NOW(シリコンバレーナウ)10月号として掲載されたお話です。
2015年10月
Vol. 195
楽園のさざ波:「民泊」の落とし穴
今、何かと話題になっている「民泊」や配車サービス。今月は、スマートフォンで広がったシェアサービスのお話を二つお届けいたしましょう。
<第1話 :「楽園」サンフランシスコの悩み>
シェアサービスといえば、一般の消費者が、自分の所有物や時間を共有(シェア)して、業者さんのように誰かにサービスを提供することですね。
たとえば、タクシーの代わりに迅速に車を呼べる Uber(ウーバー)、Lyft(リフト)、Sidecar(サイドカー)といった配車サービスや、ホテルの代わりに誰かの部屋に泊まれる Airbnb(エアービーアンドビー)、HomeAway(ホームアウェイ)、VRBOといった民泊サービスがあります。
スマートフォンアプリを使えばサービスを気軽に利用できるし、一般の人が登録すれば、誰でもサービス提供者になれる、つまり、お金を稼げるという「手軽さ」から人気急上昇。
こういったシェアサービス分野で消費が拡大するにつれ、シャアリング・エコノミー(sharing economy)という言葉も登場しました。
「共有経済、シェア経済」とも訳されますが、利用者も一般人なら、提供者もプロをすっ飛ばして一般人、という消費構造を指します。
近頃は、こういった迅速なサービス提供を表し、オンディマンド・エコノミー(on-demand economy)という言葉も生まれています。
テレビのリモンコンを使って、好きなときに好きな映像を観られるように(オンディマンド)、思い立ったときに手元でサービスを利用できる、といった意味です。
ところが、世の中にシェアサービスが広がるにつれ、いろいろと問題も生じています。
配車サービスの場合は、一般ドライバーが業務用の保険に入っていないため、事故の際は誰が責任を取るのか? といったケースや、ドライバーに対してタクシー運転手のような厳しい身上調査がないので、乗客が犯罪に巻き込まれる、といったケース。
そして、Airbnbのような、個人の部屋を有料で貸し出す民泊サービスの場合は、周辺住民が騒音で悩まされるとか、行政に内緒で不当な利益を得ているとか、さまざまな問題が表面化しています。
そこで、「シェア経済の発祥地」とも言えるサンフランシスコでは、「民泊規制」を始めました。
日本でも、東京都大田区が年内に条例を制定することを発表していますが、サンフランシスコは、ちょっと先輩になりますね。
昨年10月末、エド・リー市長が署名した市条例(short-term rental ordinance)は、今年2月に施行。
この条例では、Airbnbなどの民泊サービスに部屋を登録する場合、部屋の所有者もしくは賃貸契約者の「届出制」を義務化しています。(写真は、35ページにわたる条例の冒頭)
なんと、市役所に「短期賃貸届出課(Office of Short-Term Rental Registry)」というのを設けて、届け出た住民に登録番号を与え、年間90日以内だったら、部屋の貸し出しを許可することにしました(年間90日の制限は、所有者や賃貸契約者が旅行や出張などで部屋を開けている場合に適用。部屋にいながら一角を貸す場合は無制限)。
登録できる部屋(家屋)は、別宅ではなく「年間275日以上住む、法的な自宅(primary residence)」でなければならないし、Airbnbなどのサービス側も、市の登録番号がなければ部屋を掲載できません。
また、登録者は、税務上の観点から市内でビジネスを行うビジネスライセンスが必要ですし、最低50万ドル(約6千万円)の賠償責任保険への加入が義務化されるなど、さまざまな規制が設けられています。
ところが、「年間90日」という規制を超えそうな人が現れました。
「自宅のみ」の条項を無視して、投資目的で買った別宅を貸し出す違反者もいます。
さらには、「自分が住みながら部屋の一角を貸し出す場合は、年間貸し出し日数の制限がない」ことを逆手にとって、アパートの一室にいくつも二段ベッドを置いて、ひとりずつから何万円も徴収してみたりと、さまざまな違反行為が明らかになってきました。
この背景には、サンフランシスコの急激な人口増加にともない、慢性的に賃貸物件や滞在スペースが不足する現状があります。
急ピッチで高層ビルやアパートを建てているものの、とても間に合わないので、どんな小さなスペースでもありがたい。
そんな中、Airbnbなどを利用して、儲かるトリックを編み出した、ということでしょうか。
たとえば、月に30万円の賃貸料を払っていても、100万円を生み出すなら、その差額で南洋のビーチでバケーション! というのもオツなものでしょう(これは、借家の大家さんが訴え出た実話だとか)。
現在、市内の民泊物件一件当たり年間平均13,000ドル(約160万円)を生み出している、との統計もあるそうです。
まるで、生活空間が「金の卵」になったような感じですが、サンフランシスコのアパートやマンションは、居住スペースだけではなく、起業したばかりのスタートアップのオフィススペースでもあります。
おまけに、街は業界イベントや観光でも大人気なので、短期滞在者も絶えず押し寄せています。「金の卵」の輝きは、色あせることがないのです。(こちらは、10月初頭サンフランシスコ上空を飛ぶ海軍飛行隊ブルーエンジェルスのエアショー)
そこで、こういった状況に懸念を抱いた住民グループから「住民提案」が出され、さっそく、11月3日の投票日に住民投票を行うことになりました。
これは 住民提案 F(Proposition F)というもので、「年間75泊の上限」「3ヶ月ごとの市への報告義務」「登録番号のない物件を掲載した場合は、サービス会社に罰金を科す」などを提案しています。
さらには、「離れ(in-law units)」のような別棟の貸し出しを禁止したり、30メートル圏内に住む周辺住民が「あそこは違反してるんじゃない?」と思ったら市に届け出て、60日後には裁判所に提訴できたり、と厳しい条項も盛り込まれているので、物議をかもしています。
当然のことながら、Airbnbをはじめとして、サービス各社は提案Fに反対の立場ですので、反対運動には10億円ほどの資金が集まり、さかんに「提案 F 反対!」のテレビ広告を流しています。
反対派は、「提案が通ったら、おばあちゃんが離れに住めなくなるってことでしょ?」とか「近隣住民が提訴できるなんて、お隣さん同士がプライバシーを侵害し合うってことでしょ?」と、住民の不安をあおります。
一方、ホテル業界、家主協会、賃貸居住者組合を含む賛成派は、わずか4千万円ほどの資金調達で情報伝達も地味ですが、彼らのポイントは、こちら。
2月に市の条例が施行されたものの、(一課に3人という)スタッフ不足で何万件という民泊物件を精査できずに、違反が横行している。サービス側も、自ら違反を是正しようとはしない。
あと何年猶予を与えたところで、現行の条例ではダメだ!
日頃は敵対しがちな家主協会と居住者組合が、「賛成派」として肩を並べるという珍しいケースになっていますが、家主には「知らないうちに登録されて騒音の苦情が増えた」といった切実な悩みがあるのでしょうし、居住者には「旅行者や短期滞在者に部屋を貸されたら、自分たちが住めなくなる」という厳しい現実に直面しているのでしょう。
両陣営を比べると、反対派には、前サンフランシスコ市長のギャヴィン・ニューサム副知事のような強力な助っ人もいます。ですから、反対派の方が有利にも見受けられるでしょうか。
このニューサム副知事、一時は「選挙運動を支えてくれた親友の奥さんと関係を持ち、友人夫婦を離婚に追い込んだ」というスキャンダルもありましたが、その後、結婚して家庭を持ったことで見事に立ち直り、次期カリフォルニア州知事か?(2018年総選挙)とも目されています。
2004年のバレンタインデーに、サンフランシスコ市長/郡長として全米で初めて同性結婚(same-sex marriage)の証明書を役所で発行し、注目の的となった方でもあり、地元での発言力は大きいのです。
ちなみに、市内のマンションでは、昨年のうちに「住民規約」で短期間の賃貸を禁止した場所も多いようです。
もちろん、Airbnbのような民泊サービスをターゲットとした条項ですが、「誰かに貸し出す場合は、最低30日の契約」という風に定められています。
<第2話:配車サービス用の保険>
お次は、Uber(ウーバー)やLyft(リフト)といった配車サービスのお話です。
以前は、こういったサービスには 乗車シェア(ridesharing)という言葉が使われていました。が、同じ方向に向かう乗客が乗車をシェアするわけではないので、近頃は、乗車予約(ride-booking)とか 交通ネットワーク会社(transportation network company)とも呼ばれ、行政機関は略語 TNC を使うようです。
というわけで、第1話にも出てきましたが、配車サービスの場合は、まずは自動車保険の問題がありますね。
つまり、個人が入る自動車保険では、営業目的の運転中に事故を起こしたら、保険はおりないどころか、下手をすると保険停止になってしまいます。が、サービス各社は、なかなか個人ドライバーを保護してくれない。
ところが、今年7月カリフォルニア州で法律が施行したこともあって、お客を乗せて運転中の事故なら、賠償保険や衝突車両保険を会社が払ってあげよう、という風に態度を和らげています。
けれども、お客を探しながらクルーズ中は車両保険がないので、自分の車にダメージがあっても自腹を切るしかないし、自分が怪我をしても誰も払ってくれない。
しかも、相手に責任がありながら払ってくれない場合は「泣き寝入り」、という状況が続いていました。そう、このクルーズ中が「魔の時間帯」になっているのです。
そこで、カリフォルニアなど一部の州では、ドライバーがクルーズ中(上の図では「Period 1」)から、お客を乗せて降ろすまで、配車サービス用の保険提供を許可することになりました。
カリフォルニアでは、今年5月から保険大手ファーマーズ(Farmers Insurance)が提供を開始しています。
スヌーピーのキャラクターでおなじみのメットライフ(MetLife)に対しても、先日、州保険庁ジョーンズ長官が提供を許可しています。
けれども、ここで問題なのは、まだまだ提供機関が少ないので、保険料は高いし、いろいろと制限があることです。
たとえば、配車サービス保険は、あくまでも個人の自動車保険の延長なので、もしも他社の保険に入っている場合は、ファーマーズなどに乗り換えないといけません。
そして、配車サービスではリスクが増えるため、衝突や賠償の支払額を増やそうと思っても、個人保険の部分で契約額を増やす必要がある。また、個人保険でカバーしていない内容は、配車サービス保険でもカバーできない、などなど制限が多いのです(いずれも商用保険よりも個人保険の方が、レートが高い)。
ですから、今のところ「保険に入りたいけれど、高いから払えないよぉ」というドラーバーもたくさんいるんだとか。
さらに、ドライバーに対する身上調査に関しては、おかしな話があるんです。
それは、サンノゼ市が、夏の間に「お試し期間」としてサンノゼ国際空港への配車サービス乗り入れを許可しようとしたのですが、あまりにドライバーの身上調査が厳しいので、Uberも Lyftも、誰も参加しようとしなかった! とか。
まあ、駅、空港、スタジアム、それから政府機関などは、もっとも警戒が厳しい場所ですので、そこに乗り入れるタクシー会社にしても、ドライバーの身上調査(background check)は怠りません。
が、サンノゼ市が配車サービス各社に要求した中には、米司法省級の身上調査だけではなく、指紋押捺、サンノゼ市でビジネスを行うビジネスライセンス取得、そして、10年未満の車であること、といった制限が含まれていたとか。
とくに、指紋(fingerprinting)に関しては「タクシーの運転手だって指紋調査はないのに、どうして自分たちだけ?」と反発が大きかったのでした。
普通、指紋を取られるなんて、警察に逮捕されたときや、米国永住権を申請するとき、または警察やFBIに勤めるときでしょうから、「指紋」と聞いただけで、身震いしてしまったのでしょう。
サンノゼ市は、11月に再度議会で討論するそうですが、予備調査を募集する前から「こんなに厳しいチェックがあったら、誰も参加しないよ」という否定的な意見が聞かれていたとか。
来年2月、シリコンバレー・サンタクララ市の Levi’sスタジアム(サンフランシスコ49ersのホームフィールド)では、フットボールの祭典『スーパーボウル50』が開かれます。
スタジアムから100メートル圏内は、開催の前の週から厳戒態勢に入り、食べ物を運ぶトラックですら X線検査を通り、トラック運転手も犯罪歴がないかどうか厳しくチェックされるとか。
まあ、どんな場面でも、誰も信用してはいけない、世知辛い世の中になりましたよねぇ。
夏来 潤(なつき じゅん)
秋の味覚、ナシの次はブドウ
- 2015年10月15日
- エッセイ
ちょっとびっくりなんですが、カリフォルニア州って、全米の野菜や果物の半分を生産しているそうですよ!
いえ、広大なカリフォルニアが「農業国」であることは知っていましたが、「全米の半分」とは・・・。
ということは、カリフォルニアで農業ができなくなると、大変ってことですね!
そんなわけで、前回のエッセイに引き続き、農作物のお話です。
秋の果物といえば、やはりナシとブドウでしょうか。
リンゴも秋の果物ではありますが、今では世界じゅうから運ばれて来るので、季節感が薄れつつありますね。
前回は、あれこれと西洋ナシ(pears)をご紹介しましたが、あれからひとつ新しい品種を試してみましたので、まずは、こちらをご報告いたしましょう。
こちらは、d’Anjou(ディアンジュ)もしくは Anjou(アンジュ)の仲間で、レッドディアンジュ(Red d’Anjou、写真の左側)。
「レッド」という名前のとおり、緑色の品種の赤い親戚ですね。
前回もご紹介したように、緑色の方は、青リンゴのような酸味と、えぐ味も少々あって、何日置いても、まったりとした甘さにはなりません。
が、赤い方は、熟すとどんどん甘みが増します。それも独特の甘みで、どことなく土の香りがするような、懐かしい、素朴な甘さでしょうか。
色は深い赤で、前回ご紹介した鮮やかな赤のスタークリムソン(Star Crimson)よりは、控えめな色合い。
でも、赤が美しいので、黄緑色の親戚とくっ付けてみると、なにやら芸術的な果物ができました!
ヘタの部分が柔らかくなったら食べごろですが、クセのないお味で、近頃、人気上昇中の品種なのです。
日本のナシほどシャキシャキ感(crisp)はありませんが、どなたにでも食べやすそうなので、こちらのレッドディアンジュも「オススメ」です。
カリフォルニアで栽培するブドウといえば、やっぱりワインをつくるブドウ(wine grapes)が有名ですよね。
白ワイン系のシャルドネ(Chardonnay)やソーヴィニヨン・ブラン(Sauvignon Blanc)。赤ワイン系のカベルネ・ソーヴィニヨン(Cabernet Sauvignon)やメルロー(Merlot)、ピノ・ノアール(Pinot Noir)と、世界じゅうには数えきれないほどの品種があります。
赤ワインをつくるジンファンデル(Zinfandel)などは、ヨーロッパからアメリカに伝えられたわりに、今ではカリフォルニアのブドウとして有名になっています。
カリフォルニアでは、8月の終わりころからワイン用のブドウの収穫が始まりましたが、品種・テロワールによって順繰りに11月まで続けられるそうです。
テロワール(terroir)とは、土壌、気候、地形や日当たりなど、ブドウを育てる条件すべてを表す言葉ですが、条件が違えば、同じ品種でも収穫の時期が違ってくるので、厄介なお話なのです。
今年は「干ばつ4年目」のカリフォルニアではありますが、それがかえって功を奏して、しっかりと味のつまった、良い実が期待できるとか。
なんでも、水が足りないと、ブドウがしっかりと根を生やして、実がおいしくなるそうですよ。
いつか、収穫直前のワイナリーのブドウ棚で、実を失敬して食べてみたことがありますが、小さいわりに、とっても甘かったのを覚えています。
ワイン用のブドウは、糖分(sugar content)が高いそうですが、ひと粒、ふた粒を失敬するだけなら、「ワインを知る」という理由で窃盗罪にはならないと思いますよ!
一方、ワイン用のブドウの陰で存在感が薄くなっている、食卓用のブドウ(table grapes)。
さすがに秋になると、店頭にはいろんな品種が出回ります。
西洋ナシと同じように、今まではアメリカのブドウを敬遠してきたのですが、そんな偏見は捨て去って、じっくりと味わってみることにいたしました。
こちらは、地元カリフォルニア産のコンコード(Concord grape)。
コンコードは、紫色のブドウの中では有名なものですが、実が小さいわりに、とっても甘いのが特徴でしょうか。
独特の「飴っぽい」香りもして、もっともブドウらしいお味と言えるかもしれません。
味が濃厚なので、ジュースやゼリー、パイなどの加工品にも使われるそうですよ。
皮をはずしやすく、食べやすい品種(slip-skin variety)ではありますが、実が小ぶりなので、種が大きくていっぱい入っているように感じるかもしれません(そう、「種なし」ではありません)。
カリフォルニア内陸部の農業地帯、サンホアキンバレーにある農場(Sunview)で栽培されました。
こちらは、緑色の種なし(Green seedless grape)と呼ばれていて、具体的な品種名はわかりませんが、種なしの一番人気トンプソン(Thompson seedless)ではないかと思われます。
なんといっても種がないので食べやすいですし、皮も薄いので、そのまま食べても大丈夫。
実はとても甘く、マスカット系らしい、清涼感のある甘み。そして、見た目も美しいですよね。
緑色のトンプソンは、昔から知られる種なしの代表格ですが、近頃は、種なし品種もどんどん増えてきています。
こちらは、ずばり黒ブドウ(Black seedless)。
色は「黒」というよりも、黒っぽい濃紺ですが、つややかで大きな楕円の実が特徴です。
とっても甘いのも特徴ですが、その甘みは、黒砂糖のような、まったりとした甘さで不思議です。
黒っぽいブドウは、えぐ味や酸味が強い(tart)と言う人もいますが、こちらの黒ブドウは、まったくそんなことはなくて、食べやすいです。
そして、こんな種なしブドウもあるそうですよ。
Flame seedless:火(flame)のような赤い色で、大きめの丸い粒
Ruby seedless:ルビーのような深みのある赤で、小ぶりの丸い粒
Crimson seedless:鮮やかな赤クリムソンで、楕円の粒
Sunset seedless:夕日を思い起こす薄紫で、大きめの丸っこい粒
Gem seedless:宝石(gem)とは、薄紫のとても大きな楕円の粒(おもに輸出用)
どれも美味なんでしょうけれど、名前だってポエティックですよね!
Peony(発音は「ピオニー」で「オ」にアクセント)は、美しい花のシャクヤクのことですね。
初めて見る品種なので、どんなものだろう? と、警戒心を抱くのです
が、口に含んでみると「え、これって巨峰!」と狂喜したのでした。
なぜなら、わたしは巨峰が大好きだから。
ブドウの時期に日本に戻ると、「ねぇ、巨峰を買ってよ」と母におねだりするのですが、まあ、アメリカでも栽培されていたとは!
しかも、上の農場と同じく、サンホアキンバレーにある農場(Schellenberg Farms)で栽培されたものとか。農業の技術革新も、目覚しいものですよね!
このアメリカ版巨峰、味は巨峰そのものなんですが、日本のものと比べると、皮と実の間の繊維質が少なく、口の中に葉脈が残らないのが嬉しいでしょうか。
まあ、日本の「極上の巨峰」と味比べをしてみたら、アメリカ産は劣るのかもしれませんが、わたしからすると「よくできました!」とハナマルをあげたいですね。
というわけで、ブドウのあれこれ。
カリフォルニア州だけで、「種あり」「種なし」を含めて60種以上の食卓用ブドウが栽培されているそうで、ブドウの道も奥が深いのです。
ですから、毎年のように、「あれ、新しい品種かな?」というブドウを見かけるのではないでしょうか。
そんな新しい品種との出会いも、せっせとお店に足を運ぶ楽しみでもありますよね。
蛇足ではありますが:
いやはや、近ごろ新しい改良品種の中には、綿菓子ブドウ(Cotton Candy grape)というのがあるそうですよ。
上に出てきた種なしトンプソンと、やはり種なしのプリンセス(Princess green seedless)を掛け合わせた、緑色の種なしブドウです。「綿菓子」の由来は、まるで綿菓子のように蜜っぽい、濃厚な甘みだとか。
う~ん、一度でいいから、食べてみたいですねぇ。
パンの袋に「(賞味期限)9月31日」って書いてありました。
あれ、9月って、30日まででしょう?
9月31日って、10月1日のこと?
でも、アメリカ人って、そういうのに疎(うと)いんだろうなぁと、ひとり納得したのでした。
そう、暦には、9月のように、31日までない月がいくつかありますよね。
ですから、日本には「ニシムクサムライ」という便利な言葉があります。
言うまでもなく、2月(ニ)、4月(シ)、6月(ム)、9月(ク)、11月(サムライ、士)は、31日より短いですよ、という意味。
語呂がいいので、とっても覚えやすいですね。
実は、英語にも、似たようなものがあるんですよ。
Thirty days hath September
と言います。
こちらは、古語と倒置法を使っているので、わかりにくいですが、
「9月は30日持っています」という意味です。
本来は、September has thirty days となるべきですが、
後ろの thirty days を先に持ってきて、「30日だよ」と強調しています。
こういった使い方は、Tomorrow it is(そうね、明日にしましょう)という倒置法と同じですね。
そして、hath というのは、has(持っている)の古語になります。
ですから、Thirty days hath September で、「9月には30日ある」という意味。
それで、31日より短いのは9月だけではありませんので、当然ながら、続きがあるのです。
調べてみると、いろんなバージョンがあるそうですが、こちらが一番、語呂合わせがいいでしょうか。
Thirty days hath September, 30日、9月は持ってる
April, June, and November. 4月、6月、そして11月も
All the rest have 31, その他すべては31日持ってる
Except for February all alone, たったひとつ2月は例外
It has 28 each year, 毎年28日持ってる
But 29 each leap year. でも、閏(うるう)年には29日さ
英語では、詩はすべて「韻をふむ(rhyme)」ようにできていますので、こちらの英語版ニシムクサムライも、とってもリズミカルにできています。
ですから、何回か唱えるうちに、自然と覚えられるようになっているんですね。
(たとえば、and, the, for といった言葉は軽く流して、他の単語にアクセントをつけるようにすると、英語風の抑揚になるでしょうか)
それで、ちょっと難しい言葉になりますが、mnemonic rhyme というのがあります。
発音は「ニューモニック・ライム」ですが、mnemonic (「ニューモニック」の「モ」にアクセント)は、「記憶するのを助ける、つまり記憶術」という意味になります。
後ろの rhyme(ライム)というのは、リズミカルに韻をふむこと。
ですから、mnemonic rhyme というのは、「リズミカルな語呂合わせで物事を覚える」ことで、その代表例が、日本の「九九」ではないでしょうか。
1の段の「1 x 1(いんいちがいち)」「1 x 2(いんにがに)」から始まって、
9の段「9 x 8(くはしちじゅうに)」「9 x 9(くくはちじゅういち)」で終わる「九九」。
日本の小学校では、低学年でマスターするでしょうか。
ところが、英語圏の文化では、「九九」みたいな覚え方がないので、掛け算表(the multiplication table)を頭に叩き込まないといけないようです。
そう、1の段、2の段、3の段と、ずらずらと数字が並ぶような掛け算表。
こちらは、ネット検索で出てきた掛け算表ですが、他にも、色を使い分けてカラフルにしたり、動物を登場させてかわいくしたりと、退屈な掛け算表にも、いろんな工夫が見られます。
が、結果的には数字を覚えないといけないので、うまく覚えられないと、暗算ではなく「掛け算表」に頼ることになるのです。
何かいい方法はないのかな? と友人に聞いても「日本の九九みたいなものはないわ」という答えでした。
さらにネットで検索してみたら、ユタ州立大学の修士論文が出てきました。
なんでも、「学校でちょっと遅れを取っている生徒の場合は、絵を見せながら、いろんなお話をつけて覚えさせた方が良い」という学説があって、それを自分の生徒で試してみたら、学説は正しかった、という内容の修士論文。
おのおのの数字に pegword(ペグワード、記憶を助けるためのキーワード)をつけておいて、そのキーワードからお話を組み立てるのです。
「3 x 4 = 12」
「Tree x Door = Elf」
3 と 4 と 12 には、それぞれ発音の似ている Tree と Door と Elf というペグワードをつけておいて、こんなお話を展開しています。
昔、森にホームレスの小人が住んでいました。一日中、木々の中で遊び、夜には大好きな星と木々の下で休みます。ときどき寒くなったり、雨で濡れたりするので、お家が欲しくなりました。ある日、木(Tree、3)に大きな穴を見つけたので、そこに小さなドア(Door、4)を取り付けて、なんとも居心地のいい小人(Elf、12)の家にしましたとさ。
う~ん、なんとも厄介なお話でしょうか。
だったら、そのまんま
Three times four is twelve
と覚えた方が、手っ取り早いかもしれません。
みなさん、日本の「九九」は偉大なんです。子供の頃に覚えていて、良かったですねぇ!
Reference cited: Logan James Eubanks, “The Effects of Mnemonics to Increase Accuracy of Multiplication Facts in Upper-Elementary School Students with Mild to Moderate Disabilities”, 2013, Utah State University, All Graduate Plan B and other Report, Paper 297; mnemonic figure taken from Appendix C “Example of Mnemonic story with visual support”, p28
カリフォルニアのお天気
- 2015年09月30日
- Life in California, 夏, 季節
先日、火星を観測していたNASA(アメリカ航空宇宙局)が、こんな発表をしましたね。
お~っ、これは、昔は火星に水が豊富に存在していて、今でもときどき水が流れている証拠に違いない。
そして、もしも地下で水が凍っているならば、地球人が火星を訪れた時に、水源にできるかもしれない! と希望的観測も聞こえています。
すると、すかさず、こんなジョークが飛び交いました。
なんだ、火星って、カリフォルニアよりも水がたくさんあるじゃない!!
(Photo by NASA / JPL-Caltech / Univ. of Arizona)
そうなんです、夏の間は「乾季」のカリフォルニア。
乾季というのは、誇張でもなんでもなくて、ほぼ一滴も雨が降らないのです。
今年は、例外的に南カリフォルニアで洪水に見舞われました。が、北カリフォルニアは、カランカランに乾ききった状態です。
太陽はじりじりと照りつけるし、雑草を刈るために雇われたヤギさんたちも、「もう、この暑さどうにかしてよ~」と、その場にへたり込んでいます。
カリフォルニアの暑さは、日本と比べると、ちょっと異質でしょうか。
どちらかというと砂漠のような暑さなので、日中、太陽が照りつけている時間は、窓を閉め切ってブラインドを下ろしていた方が、部屋の中が涼しいです。
そして、外に出かけるときにも、長袖をはおっていた方が、直射日光が当たらなくて涼しいでしょうか。
とくに、車に乗っていると、窓越しの太陽は肌を刺すように痛いですし、オープンカーで風に当たっても、痛みはやわらぐものではありません。
我が家では、小型のスポーツカーを持っていた時期がありますが、ホロを開けて「オープン」にしたのは、ほんの2、3回。憧れのオープンカーでしたが、実は、カリフォルニアで「必要ないモノ」の筆頭かもしれません!
それで、どうしてお天気の話をしているのかといえば、以前撮影したサンフランシスコの風景写真を見ていて、はたと気がついたからなんです。
近頃は、昔ほど霧がかからないし、寒くない! と。
そうなんです、わたし自身も何度も書いたことがありますが、サンフランシスコは、霧がかかりやすいせいで、真夏の8月が一番寒い(もしくは寒く感じる)のです。
こちらは、ちょうど10年前に撮影した写真で、真っ赤なゴールデンゲート橋には、たっぷりと霧がのしかかっています。
サンフランシスコという街は、細長い半島の先端にあって、三方を海に囲まれていますが、とくに夏になると、太平洋側で生まれた霧が、狭い金門海峡を通って、つ~っと市内に押し寄せてきます(金門海峡は、上の写真の場所)。
夏の間は、太平洋の海水の温度が上がって、水蒸気になりやすいのですが、それが、サンフランシスコ周辺の寒流で一気に冷えて水滴となり、霧が発生するメカニズムです。
要するに、この街だけは「天然の冷房」が効いているわけですね。
が、近年は「寒流」の温度が上がって霧がかかりにくくなったので、ベイエリアの他の街と同じくらい暑くなることもあるのです。
こちらは、今年8月中旬に撮影した写真で、週末ごとに公園(Yerba Buena Park)で開かれる無料コンサートでは、みなさん、日の当たる芝生を避けて、木陰で音楽を楽しんでいます。
なんと、この日は、華氏90度(32℃)まで上がったそうですが、市内でこんなに暑くなるなんて、ほとんど聞いたことがありません!
9月に入っても、暑くなったり、涼しくなったりの「ヨーヨー現象」を繰り返しています。
レーバーデー(Labor Day:勤労感謝の日)のあった9月第二週、ベイエリア全体が熱波(heat wave)に見舞われ、各地で華氏100度(38℃)を超えるような日々が続きました。
翌週は、暑さもやわらぎ、「あ~、これでもう秋なのねぇ~」と油断していたら、とんでもない。
その翌週は再び熱波に見舞われ、いつもは風で涼しいサンフランシスコ国際空港でも、華氏96度(36℃)を記録したとか!
こんな話もありました。
ペットにしている亀さんが、9月中旬に急に涼しくなったので、冬眠の準備を始めましたが、その翌週、またまた暑くなったので、冬眠は止めにして、パキパキと活動している、と。
そして、サンノゼでは、路線バスの運転手さんが、路上生活者の方々を乗せて走っていた、と。
運転手さんいわく、「彼らが暑さをしのぐためにバスに乗ってくるのはわかってるけれど、運賃が払えないからって追い出したら、暑さで倒れるかもしれないだろう?」
ご存じのように、カリフォルニアは「干ばつ4年目」というカラカラの状態なので、山火事が怖いです。
しかも、この4年間でカラカラに乾いた木々は、今後50年ほどは、山火事の「燃料」となって人々を悩ませる恐れもあるそうです。
水が不十分な木々は、病気になりやすいし、火に対する抵抗力も低下するから(カリフォルニアの在来種は、もともと火に対する自衛能力を持っているとか)。
9月に入って、北カリフォルニアでは、立て続けに大きな山火事が発生しました。ひとつは、州都サクラメントから東の郊外、もうひとつは、ナパやソノマのワイナリーの地域から北に行った山あいの地域。
いまだに火は完全には消し止められていませんが、この2つの山火事では、合計6万ヘクタール、2,500軒の家屋が燃え、6人の住民の方が命を失っています。
動物たちも被害に遭っていて、野生の動物だけではなく、牧場の馬や豚やペットの犬や猫も、火傷を負ったり、熱風で気管をやられたりと、治療を必要とする動物がたくさん出ています。
そこで、めざましく活躍するのが、カリフォルニア大学デイヴィス校(UC Davis)の獣医学校付属病院。
動物救急病棟をつくって、みゃあ、みゃあと痛がる猫ちゃんをはじめとして、たくさんの動物を治療しています。(Photo by Randy Pench /The Sacramento Bee)
ここのスタッフは、各地の山火事にも出動して治療なさるそうですが、この2つの山火事ほど大勢の「患者」を見たことがない、と証言されているとか。
猫ちゃんの患者が多いそうですが、「家族」だって家を焼かれて、命からがらに逃げているので、猫ちゃんが助かって治療されていることを知らない人も多いとか。(Reference cited: “Davis treating burned pets: Hospital receiving more than 40 cats, other animals” by Cynthia Hubert, The Sacramento Bee, September 27, 2015)
今はネットの情報伝達が早いので、間もなく無事に家族とも再会できるでしょうけれど、猫ちゃんの「つぶらな瞳」に見つめられると、どんな命だって大切なのねぇ、と痛感するのでした。
アメリカ社会: そろそろ女性でもいいんじゃない?
- 2015年09月28日
- 社会・環境
Vol. 194
アメリカ社会: そろそろ女性でもいいんじゃない?
今月は、女性に関するお話をいたしましょう。軍隊、スポーツ、政治と各方面で活躍する女性のお話です。
<男の涙、女の涙>
「今月は女性のお話」と言いながら、いきなり話はそれるのですが、9月22日、ローマ教皇フランシスコが訪米され、アメリカじゅうが大騒ぎとなりました。
「アメリカ大陸初」「イエズス会初」「初のフランシスコ襲名」と初めてづくしの教皇ですが、アメリカに来られるのも、生まれて初めて。
資本主義の申し子のようなアメリカは、今まで敬遠されていたようですが、ひとたびアメリカの土を踏まれると、やさしい笑顔で人々と接され、信者も信者でない人も「願わくば、お召し物に触れん!」と、沿道から懸命に手を伸ばします。
「初めてづくし」の教皇フランシスコは、連邦議会も訪れ、教皇としては初めて上下両院合同会議で(苦手な)英語で演説をなさったのですが、この議会演説の実現に尽力したのが、下院議長のジョン・ベイナー氏。
副大統領のジョー・バイドゥン氏(下の写真、左奥)、女性初の前下院議長ナンシー・ペローシ下院少数党代表とともに、敬虔なカトリック信者として知られる方です。が、ベイナー氏は、同時に「泣き虫」でも知られる方。
演説の直前、下院議長として「Pope Francis of the Holy See(ヴァチカン市国の教皇フランシスコ)」と紹介なさると、じきに感極まって、内ポケットから白いハンカチを取り出し、涙をぬぐうシーンもありました。
いえ、近年アメリカでは、「男性に涙は禁物」という信仰は薄まってきて、とくにリアリティー番組の影響なのか、男性が涙を流すことに寛容な風潮にあるのです。
女性の方も、「まあ、感激家なのねぇ、ステキ〜」と一緒に涙を流すものだから、「涙は女々しいことはない!」と、男性も心強く感じているのでしょう。
<女性はダメなの?:軍隊編>
というわけで、本題ですが、夏の間、こんなことが話題となりました。
米陸軍の精鋭部隊にアーミー・レンジャー(U.S. Army Ranger)というのがありますが、史上初めて、女性のレンジャー学校卒業生が誕生したのです。
レンジャー学校(Ranger School)といえば、その9週間にわたるコースは、体力・スタミナ・気力勝負の第一関門に加え、ジョージアの山奥での生存訓練とフロリダの湿地帯での水陸両用サバイバルと、「世界で最も厳しい軍事訓練」と呼ばれる過酷な選別プロセス。(写真は、フロリダ州の空軍基地でロープを伝って川を渡る女性訓練生:Photo by Nick Tomecek /Associated Press)
今年8月下旬、めでたくレンジャーコースを完了したのは、男性志願者380名中94名、女性志願者19名中、2名でした。
テキサス州出身のシェイ・ヘイヴァーさんは、現在アパッチヘリコプターの操縦士、コネチカット州出身のクリスティン・グリーストさんは軍警察官で、アフガニスタンにも派兵された経験があるとか。
ふたりとも陸軍士官学校ウェストポイントの卒業生なので、もともと軍隊の中でも「逸材」だったのでしょう。(Photo by John Bazemore/Associated Press)
もちろん、今のところ、女性はレンジャー部隊として戦闘任務(combat roles)を負うことはできません。
2013年、当時のパネッタ防衛省長官が「軍隊の戦闘任務を女性にも開放する」と発表したものの、現在、陸・海・空軍と(海軍省下の)海兵隊から意見を求めていて、来年1月に防衛省が最終判断を下す予定です。
その一環として、今夏初めて、女性のレンジャーコース参加が認められていて、来年初頭には、海軍特殊部隊ネイヴィー・シールズ(U.S. Navy SEALs)の訓練参加も始まる計画です。
先日、「いくつかの戦闘任務は女性には向かない」と首脳陣が暫定発表した海兵隊は例外として、だんだんと男女の区別なく、戦闘、非戦闘任務に従事できる傾向にはあるようです。
すでに、同性愛の兵士もオープンに兵役に従事できる規律になっていますし、トランスジェンダー(性転換した)兵士についても、現在、6カ月の実態調査が行われています。アメリカの軍隊も、「排除」から「包括」へと変身を遂げつつあるのかもしれません。
軍事費削減計画にともない、徐々に兵士の数を減らしたい米国政府ではありますが、「ストレートの(同性愛者でない)男性のみ」なんて制限を設けていたら、「定員割れ」する恐れもあって、それで女性にも声がかかっているのかなぁ? と、いぶかしくも感じるのです。
<女性はダメなの?:アメフト編>
社会の変化といえば、国民的スポーツのアメリカンフットボールだって、「男性のスポーツ」とは断言できなくなっているようです。
まあ、アメフトというスポーツは、学校の間は女のコも男のコに混じって活躍していて、高校チームのラインバッカーとか、大学チームのキッカーとか、有名な選手も多数輩出しています。
が、プロともなると、男性でも大学とは歴然な差があって、女性には近寄りがたい。
けれども、女性だってアメフトを続けたい人はたくさんいますので、セミプロの女性フットボールリーグは3つあって、女性チーム同士が闘う形式となっています。が、いかんせん知名度が低く、ホームフィールドも各地の高校に間借りしている状態ではあります。
そんな中、今年は、男性のプロリーグNFL(ナショナルフットボールリーグ)で話題になったことがありました。史上初の女性の「審判」と「コーチ」が誕生したのです。
と言いましても、キャサリン・コンティさんが務めたのは、「開幕前プレシーズン」のサンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)対ダラス・カウボーイズの線審(Line Judge)。
まあ、「お試し期間中」みたいな感じで、一試合だけNFLで審判を務めたようですが、この方は、昨シーズンは、大学フットボール(PAC-12:西部12校)で「女性初の審判」として線審を務めた方。
49ersのリーヴァイス・スタジアムでの審判ぶりも、なかなか評判が良かったようですし、「お試し期間」がはずれて、NFLのレギュラー審判となる日も近いのでしょう。
一方、ジェン・ウェルターさんは、NFLのコーチとして注目を浴びました。
まあ、キャサリンさんと同じく、プレシーズン中にインサイド・ラインバッカーコーチの「インターン」としてアリゾナ・カーディナルズが採用。シーズンが開幕すると、地元のテレビ局に「NFLアナリスト」として雇われています。
けれども、インターンであろうと、NFLコーチとして女性が雇われたのは初めてですし、博士号を持つコーチも珍しいことですし、周囲から熱い眼差しを注がれたのでした。
なんでも、彼女自身、女性リーグでプレーしていたし、男性に混じってアリーナフットボール(屋内のプロリーグ、写真)の経験もあるので、タフな方ではあるようです。その後、オンライン大学コースでスポーツ心理学の博士号も取得して、文武両道の方。
カーディナルズの選手や奥さんからも、「コーチ」「ドクターJ(ジェイ)」と親しまれていらっしゃったとか。
女性初の審判とコーチの誕生に、「これからはNFLも変わりそうかな?」と、新たな兆しを感じた出来事ではありました。
ちなみに、女性として初めてNFLのサイドラインに立たれた方は、わたしの記憶する限り、日本人女性です。
ピッツバーグ・スティーラーズのトレーナーを務めていた方で、「アキコさん」とおっしゃる方です。サンノゼ州立大学で運動学(kinesiology)を専攻され、ビル・キャワー監督下(1992~2006)のスティーラーズに採用された時には、シリコンバレーでも、ちょっとした話題になりました。
ごく近年までスティーラーズのサイドラインでお見かけしていましたが、小さな体躯のわりには、でっかい選手たちを気持ちで包み込んでいらっしゃいました。
<女性はダメなの?:大統領編>
最後に、政界のお話です。
7月号でもご紹介しましたが、現在、アメリカでは、大統領候補を選ぶプロセスが始まっていて、競馬予想よろしく、巷(ちまた)は大いに盛り上がっています。
7月号では、不動産王でリアリティー番組のスター、ドナルド・トランプ氏が共和党レースのトップを走っていることをお伝えしましたが、8月6日、9月16日と2回の共和党候補者討論会を経て、いまだトップを死守しています。
が、現在、ジリジリと人気を上げているのが、元HP(ヒューレット・パッカード)CEOのカーリー・フィオリナ氏。(Photo by John Minchillo/Associated Press)
彼女については、CEO在任中(1999~2005)も退任後も何度か書いたことがありますが、まあ、シリコンバレーでは、あんまり評判の芳しい方ではありません。
ひとつに、在任中多くの従業員を解雇して、シリコンバレーの象徴ともいえるHPの文化を壊してしまった張本人と目されるから。さらには、HPを業績不振に導いたと非難されるわりには、何十億円という「さよならボーナス」をもらって、自分だけいい思いをしている、と冷たい目で見られているから。
そんな彼女が、政界に目をつけたのは、2010年。カリフォルニア選出のベテラン連邦上院議員バーバラ・ボクサー氏(民主党)の議席を狙って共和党から出馬しましたが、CEO時代の悪評と「過去30年、一度も投票したことがない」事実からは逃れられず、あえなく落選。
ところが、そんな経歴があっても、シリコンバレーやカリフォルニア圏外では無名に近いので、他州の人にとっては「フレッシュな新人」。「大統領には、政治家ではなく新しい息吹を!」と熱望する共和党支持者の間で、グングン名声を高めています。
8月6日の討論会では、「トップ10」を逃し「ジュニア討論会」に出たフィオリナ氏でしたが、そこで人々の関心を集め、ゴリ押しで入った次の「トップ11討論会」では「彼女が一番素晴らしかった!」と評されています。
対する民主党といえば、ヒラリーさん(クリントン前国務長官)が長官時代に自宅にメールサーバを立てて、極秘文書のセキュリティがずさんだったと非難されています。
が、民主党支持者は「政治のベテラン」を欲していますので、いろいろと雑音はある中、十中八九、彼女が民主党候補に指名されることでしょう。(Photo by Charlie Neibergall /Associated Press)
となると、ヒラリーさんとフィオリナ氏の女性候補同士の一騎討ち(!)も夢ではないかも?!
ま、個人的には、大統領選というものは、とくに今回のように共和党候補者が乱立する場合、「自転車レース」に似ていると思っているのです。
そう、レースの早いうちは、風を避けるために人の後ろに付き、ゴール近くになって、グイッと抜き去る。それが秘訣かもしれないな、と思っているのです。
ですから、「女性同士の一騎討ち」は難しいとは思いますが、可能性が生まれただけでもスゴいことではないか、と感心しているのです。
アメリカという国は、労働人口の約半分が女性で、子供のいる家庭の4割は女性が世帯主です。
ところが、男性と女性の賃金格差は大きく、男性が1ドル稼ぐところ、女性は78セントしか稼げません。これが、黒人女性となると64セントで、ヒスパニック系の女性になると、44セントだとか!
そして、先進国で唯一「有給の産休(maternity leave with pay)」が法制化されていないので、「無給」でも産休を認めている企業は、全体の3分の1だとか。産休がなければ、子供を産んだら、どうにか自分でやりくりするか、仕事を辞めなければなりません。
これが、女性が社会進出する上で大きな妨げともなっていて、そういった事情を真にわかってくれるのは、女性政治家だろう、と多くの方々が期待しているようです。
ところで、冒頭に出てきた「泣き虫」のベイナー氏ですが、教皇演説の翌日、「僕は下院議長を辞める!」と突如辞任を表明しました。来月末には、議員も辞職されるそうです。
もしかすると、教皇にも親しくお会いできたし、「もう揉め事の多い共和党をまとめるのは疲れた」と、吹っ切れたのかもしれません。
いつも「わたしはオハイオ州の貧しい家庭の出だ」とおっしゃるベイナー氏。
「このわたしに、Pray for me(わたしのために祈ってください)と教皇がおっしゃったんだよ」と記者に答えながらも、感極まって涙を浮かべていらっしゃいました。
夏来 潤(なつき じゅん)
西洋なしの季節
- 2015年09月21日
- エッセイ
9月の第一週、日本から戻ってきた連れ合いが、開口一番こう言うのです。
いやぁ、カリフォルニアは、天気がいいねぇ、と。
そう、今は「乾季」のカリフォルニア。
天気がいいのは当たり前ではありますが、日本では連日雨に降られ、余計にカリフォルニアの晴れた空に感動したようでした。
けれども、さすがに9月ともなると、風がひんやりとしてきて、早々と季節の移ろいを感じるのか、葉っぱを黄色くする木々も見かけます。
そうなると、スーパーマーケットにも、秋の果物が並びますね。
秋の果物といえば、梨(なし)を思い浮かべる方も多いと思いますが、それはカリフォルニアでも同じでしょうか。
夏の間、幅を利かせていた桃やプラムは影をひそめ、代わりに梨が登場します。
もちろん、日本で見かける丸い梨も「アジアの梨(Asian pear)」と呼ばれ、ポピュラーなものではありますが、やっぱりアメリカでは、西洋梨が主流ですね。
西洋梨といえば、今までは縁遠い存在でしたが、近くのオーガニックスーパーには、いろんな種類が並んでいて、ついつい試してみたくなりました。
どことなく美術品のように端正で、「どんな味がするんだろう?」と、興味をそそられるでしょう。
それで、最初に試したのは、バートレット(Bartlett)という緑色の梨(上の写真では、朱の混じった黄緑の二つ)。
実は、このバートレットが西洋梨の代表格だそうで、みなさん梨と聞くと、こちらを思い浮かべるとか。缶詰にも使われる品種だそうです。
歯ごたえは、まさしく西洋梨独特の柔らかい感じ。日本のシャキシャキ感はなくて、トロッとした感じでしょうか。
お味は、甘みがある代わりに、酸味もあって、すっぱ味の強い日本の梨を思い浮かべます。そう、梨らしい味ですね。
そのまま食べても美味しいですが、お料理に使うときには、サラダに入れたり、スライスしたチーズと重ねたりと、リンゴの代役ともなるようです。
9月後半の旬になると、どこのお店にも並んでいるような人気の梨です。
酸味が少なく、食べやすいですし、もっとも日本の梨に近い味と歯ごたえでしょうか。見かけも茶色っぽくて、皮の感じも日本のものに近いですね。
実がしっかりしているので、型くずれしにくく、火を通すお料理にも向いています。西洋梨独特の香りが少ないので、どんなソースも邪魔しない、万能の果実だと思います。
お次は、真っ赤なスタークリムソン(Star Crimson)。
クリムソンは、燃えるような、鮮やかな赤の名前ですね。
こちらは、わたしの「一押し」なんですが、それは、見た目が美しいだけではなくて、熟した実はとっても柔らかく、甘みも強いからです。
ジューシーで味わい深く、どことなくトロピカルフルーツのような独特の甘みが特長です。
わたしはさっさと皮をむきますが、せっかく色鮮やかなので、皮のままスライスしてサラダに入れたりすると美しいそうですよ。
その名の通り、イタリアの品種なので、アメリカでは知名度は低いようですが、こちらも「オススメ!」です。
日本で知られるラ・フランスみたいに、西洋梨独特の香りがパ~ッと口の中に広がり、これぞ、西洋梨! と、声を上げたくなるようなお味です。
酸味もありますが、すっきりとしていて、とっても親しみやすい品種だと思います。
アメリカでは、おもに西海岸で生産されるようですが、人気のバートレットに似た味と外観なので、これからドンドン知名度が上がるのかもしれません。
別名、アンジュ(Anjou)とも呼ばれます。
近くのスーパーでは、まだ緑色しか見かけませんが、赤い種類もあって、アメリカではバートレットに次いで知名度の高い品種だとか。
わたしが試食したときには、まだ熟していなくて青リンゴのイメージでしたが、本来は2、3日待って食べるべきとか。熟しても緑色のままなので、ほったらかしにしないで、数日たったら冷蔵庫に保存するように、とのことでした。
あまり酸味がなくて、とっても食べやすい品種です。
歯ごたえは柔らかですが、型くずれしにくいので、お料理にも最適です。ボスクと同じように、西洋梨独特の香りが少ないので、どんな調理法にも合いそうです。
スライスしたあとも、茶色く変化(oxidize)しにくいので、サラダに入れても、スライスチーズと盛り合わせても見栄えがする、とのことでした。
そして、こちらは、セッケル(Seckel)と、ご存じ日本の梨(Asian pear)。
セッケルは、英語では「セクー」といった風に発音しますが、とにかく西洋梨の中では、一番「小粒」。
でも、「山椒は小粒でもピリリと辛い」ように、セッケルは小さくても、とっても甘いのです!
あまり果汁が多い方ではありませんが、歯ごたえが柔らかく、甘みが強いので、すでにコンポートになっているような印象でもあります。
甘みに加えて、リンゴのような独特の酸味もあって、子供たちにもスナックとして最適かもしれません。
スライスすると、ビワに似た香りも漂い、外観からは想像できない、意外な西洋梨! といったところでしょうか。
そして、おなじみ丸い梨。
外見は、日本の幸水に似ていますが、アメリカで生産するものは、どことなく西洋梨の香りに近い感じがします。
でも、やっぱりアジアの梨は、冷やした方が美味しいですよね!
ひんやりとした、果汁たっぷりのアジア梨は、まだまだ暑い秋口には、ぴったりの果実なのです。
知ってみると、奥が深い、西洋梨の探訪でした。
まだまだ試していない種類はたくさんありますが、それはまた、次回お店で出会ったときのお楽しみといたしましょう。
と、あいづちを打ちたいときがありますよね。
もっとも簡単に言うには、
Really?
というのがあります。
ちょっと大げさに「リァリー?」と言いながら、語尾を上げます。
こちらの really は「ほんとうに」という副詞ですが、
Really? というあいづちのときには、これだけで立派な文章になっています。
(写真は、フリーウェイの出口で横転した車(右端)が完全に焼けてしまって、野原に引火した火を消し止めている消防士さんたち)
そして、同じく「信じられない、ホントに?」というあいづちには、
Seriously?
というのもあります。
「シリアスな(まじめな)」という形容詞 serious の副詞で、
「まじめに、本気で」という意味の seriously 。
ですから、「本気で言ってるの?」という文章は、こういう風になるでしょうか。
Are you seriously saying that?
それが、ごく短く省略されて、
Seriously?
になったようです。
Really? と同じように、「シリアスリィ?」と、かなり大げさに語尾を上げますね。
すると、これだけで立派な文章になるのです。
Seriously? は、近頃ちょっとしたトレンドになっていて、現在、テレビのコマーシャルでも、車の宣伝3社に使われています。
中でもちょっと目立つのは、クリスティー・ブリンクリーさん出演のインフィニティ(Infinity: 日産のプレミアムブランド)QX60というスポーツ多目的車のコマーシャルでしょうか。
クリスティーさんは、アメリカでは一世を風靡した超有名モデルさんですが、このブロンドの美しい妻を持つダンナさんが、家族でバケーション中に、赤いスポーツカーのブロンドの女性(写真)に目を奪われる、というシナリオ。
このとき、寝たふりをしていたクリスティーさんが、ダンナさんに言い放つのです。
Honey, a blonde in a convertible?
あなた、オープンカーに乗ったブロンドの女性?
Seriously?本気なの?
ここでは、ちょっと「脅し」の入った Seriously? ですが、こんな風に、いろんな場面で使えるので、便利な表現ではあるでしょうか。
どちらかというと、ティーンエイジャーや若い世代が気軽に使う言葉ですので、ビジネスミーティングなどでは使いませんね。
ところで、英語のあいづちの中には、面白いなぁと思うものもあるんですよ。
たとえば、Beats me
「僕をビートする(打ち負かす)」という言い方ですが、
「僕にはまったくわからないよ」という意味になります。
そう、なかなか想像しにくい表現ですが、もともとは、
It beats me(その話題は僕を打ち負かした)
もしくは
It got me beat(僕はその話でわけがわからなくなったよ)という文章。
それが省略されて、
Beats me(僕にはまったく見当もつかないよ)となりました。
こちらは、昔から使われているポピュラーなあいづちですので、覚えていて便利な表現だと思います。
そして、「まったくわからないよ」という意味では、こんな表現もあります。
It’s (all) Greek to me
直訳すると、「それは、僕にとってはギリシャ語だね」となります。
ですから、ギリシャ語がわからない僕にとっては、「まったくわかんないよ」ということになるのです。
Greek は、この場合「ギリシャ語」ですが、英語と比べるとアルファベットから違うので、まったく「ちんぷんかんぷん」の状態を表します。
よくラテン語(Latin)も「理解できないもの」の代表として引き合いに出されますが、「わかんないよ」という表現には、なぜかギリシャ語を使います。
たとえば、外国の言葉がわからないときもそうですが、数学や科学など理屈っぽいことが理解できないときにも使います。そう、頭の上をすうっと通り越すような感じでしょうか。
「わかんないよ」をさらに強調して
It’s all Greek to me
よく耳にする表現ですので、覚えておくと便利だと思います。
というわけで、すっかりお話がそれてしまいましたが、
今日のお題は、Seriously?
単語ひとつだけでも、十分に心が通じる。
それゆえに、みんなに受けて、トレンドにもなっている。
Seriously? は、そんな便利な言葉でしょうか。
冒険小説をきっかけに、考えてみました
- 2015年08月29日
- エッセイ
森村誠一氏の『勇者(ゆうしゃ)の冒険』。
今年、集英社文庫から文庫本が出ていますが、文庫化は4社目(!)という人気小説です。
これが、ちょっと風変わりな冒険小説で、戦争中のことを描いているんです。
主人公は、関東内陸部で生まれ育った13歳の少年。第二次世界大戦末期の昭和20年(1945年)7月末、ひょんなことから、3人の仲間とともに近所のドイツ人の少女ザビーネを長崎の祖父の元まで送り届けることになるのです。
一度、東京に出て、はるばる長崎に向かう行程ですが、アメリカ軍が空爆を繰り返す日本列島を列車で横断するという、なんとも無謀な旅に出ます。
そうなんです、「7月末に旅に出た」ところに意味があって、途中、一行が広島を超えて岩国にさしかかると、広島市上空で原子爆弾が炸裂。
そして、めでたく長崎に到着した翌朝、長崎市上空でも原爆が炸裂するのです。
この小説は、戦争を知らない人だって、戦時下の庶民生活を「味わえる」ように書かれているので、若い人みんなに読んでもらいたい作品です。
少年たちの冒険も、軽快なタッチで書かれているので、読み物としてもとっても面白いです。
そして、わたしにとっても、いろいろと考える材料になったのですが、考えれば考えるほど、どうしても理解できないことが山積みとなりました。
とくに、原爆に関しては、まったく理解できないのです。
だいたい、どうして原爆を投下したんでしょうか?
1945年8月6日(月)午前8時15分、広島の上空で炸裂した「リトルボーイ」。そして8月9日(木)午前11時2分、長崎の上空で炸裂した「ファットマン」。
(写真は、テニアン島で爆撃機B-29エノーラゲイに搭載される直前の「リトルボーイ」)
この二発は種類が違うので、どうしても二発をセットで落としてみたい事情があったのでしょうか。
ちょっと詳しい話になりますが、広島に落とされたのは「ウラン原爆」で、長崎に落とされたのは「プルトニウム原爆」。
広島のウラン原爆は、ウラン235という元素を使った核爆弾。天然のウラン238を濃縮した同位体を使い、爆薬でボンと核分裂の連鎖反応を起こさせるタイプです。
そして、長崎のプルトニウム原爆は、人工的な元素プルトニウム239を使った核爆弾。
爆薬の衝撃波を「爆縮レンズ」で中心に向かわせ核分裂を起こさせるタイプなので、丸っこい形をしています。
(写真は、テニアン島で爆撃機B-29ボックスカーに搭載しようと組み立て中の「ファットマン」)
こちらのプルトニウム原爆は、前月16日に、ニューメキシコ州の砂漠で実験していたものと同じ型です。
ということは、プルトニウム(ニューメキシコの実験)のあとに、ウラン(広島)を落としたので、日本が降伏する前に、もう一度プルトニウムを落としてみたかった、だから、標的を小倉から長崎に変更しても落としてみたかった、ということでしょうか。
それにしたって、何十万人が一瞬にして焼け焦げ、命が助かったにしても生涯にわたって後遺症が残り、あるいは偏見や差別にさらされ「心の傷」を負うであろう、恐ろしい核兵器です。
そんな兵器を、地球上の仲間に対して実際に使ってみたいと思うでしょうか?
(原爆の構造については、『原爆先生の特別授業 用語集』の「ヒロシマ型原爆(ウラン原爆)」と「ナガサキ型原爆(プルトニウム原爆)」を参照。上の写真は、長崎への投下の際、観測機B-29グレートアーティストから乗組員Charles Levyが撮影)
さらには、「原爆投下は正しかった」と正当化されるのも、まったく理解できません。
第二次大戦後、「原爆投下によって戦争終結が早まり、両国の市民も兵隊も無駄に命を落とすことがなくなったので良かった」と、大勢のアメリカ市民が信じ込んでいます。
けれども、どんな状況であったにしても、「殺戮が正しい」とは、いかなる理屈でしょうか?
そこで、先日、はたと気がついたことがありました。
原爆投下が正当化されるのは、「自分が悪かった」と認めたくないことがあるのでは? と。
このことに思い立ったのは、アメリカ南部の弁護士ブライアン・スティーヴンソンさんのインタビュー発言。
彼は、Equal Justice Initiative(平等イニシアティヴ)という団体の創設者で、無実の罪で服役する死刑囚を何人も助けた実績のある方。その彼が、こうおっしゃったのでした。
今年4月、死刑囚として30年間独房につながれ、53人が処刑されるのを傍で見てきた黒人男性が、晴れて自由の身となった。だが、彼を逮捕し有罪に追い込んだ者は、誰ひとりとして謝罪しようとしなかった。たったのひとりも。
結局、彼らは、自ら非を認めて謝ることよりも、誰かを間違って極刑に処す方が心地よいのだろう、と。
(8月20日放映インタビュー番組『チャーリー・ローズ』より)
なんとも穏やかに発せられた激しい発言ではありましたが、たしかに、「謝罪する(apologize)」という行為は、自分の弱さ、欠点をさらけ出し、信用を失墜させるものかもしれません。
それで、謝る代わりに、「沈黙を保つ」もしくは「自分の行為を正当化する」ことになるのかもしれません。
たとえ、どんなに良心の呵責にさいなまれていても、「表の顔」で理屈を並べる、というような・・・。
けれども、いかなる正当化が世の中で成り立ったとしても、一番苦しいのは、実際に被害に遭われた方々でしょう。
多くの生存者が「死んだ方がましだった」と一度は思われた、と聞いています。
被爆者の方々が、国の費用で医療が受けられるようになったのは、敗戦から12年(!)もたった昭和32年(1957年)。
これも、最初のうちは「伝染病だ」「うつるから、あっちへ行け」と忌み嫌われていた被曝の諸症状が、ビキニ環礁の水爆実験(1954年)で被爆した第五福竜丸の「死の灰」事件をきっかけに知られるようになって、ようやく制定された原爆医療法です。
けれども、国が定めた「爆心地からの距離」や「対象疾患」に漏れた方々は多く、その後も長い闘いが続くことになりました。
「日本全体が空襲でひどい目に遭ったんだ」「被害に遭ったのは、お前たちだけじゃない」という考えが邪魔をして、核兵器の恐ろしさは、なかなか理解されない年月が流れたのでした。
(上の写真は、長崎市郊外の香焼島から松田 弘道が撮影、長崎原爆資料館 所蔵)
日系アメリカ人のスティーヴン・オカザキ監督の作品に『White Light / Black Rain: The Destruction of Hiroshima and Nagasaki(邦題:ヒロシマナガサキ)』というのがあります。
("White Light" poster by Home Box Office)
広島と長崎で被爆された方々と、原爆投下にかかわったアメリカ人へのインタビューを映画化し、62周年となる2007年にリリースされたものです。
その冒頭で、日本の若者にこう尋ねる場面があります。
1945年8月6日に何があったか知っていますか?
これに対して、原宿を行き交うティーンエージャーは、口々にこう答えるのです。
「いや、わかんない」「何かあったっけ? え、地震?」「わたし歴史って苦手」
自国の歴史を知らないのは、自分の生い立ちを知らないことと同じようにも感じるのです。
そして、残念ながら、歴史は学校の教科書では「実感」できません。
ですから、いろんな本を読んだり、映画やドラマを観たり、遺構や展示物を見学したりしながら、想像をめぐらせ、自分の中で育てていくものではないのかな? と思っているのです。
追記: わたしの大好きなイギリスのドラマに、『Foyle’s War(邦題:刑事フォイル)』というのがあります。
クリストファー・フォイルという刑事さんが、戦時下のイギリスで起きる難事件を次々と解決する「刑事モノ」なんですが、いよいよ、日本でも、8月30日(日)午後9時から毎週 NHK BSプレミアムで全28編を放映するそうですよ!
このドラマシリーズでは、第二次世界大戦時の庶民生活が描かれているので、「へぇ、イギリスでも物資に困ってたんだぁ」とか、「敵国ドイツに寝返った人もいるんだなぁ」とか、「かえって、戦争が終わって食べ物に困ったのねぇ」とか、いろいろと感心する場面も多いのです。
イギリスに加勢に来たアメリカ兵は、物資を潤沢に持っていたので、アメリカ兵と付き合って「わたしもアメリカに渡りたいわぁ」と憧れるヤングレディーもいたりして、「ないないづくし」はどこも同じ、と日本と比較してみたりするのです。
べつにドラマの宣伝をしているわけではありませんが、歴史を「実感」するには、これも良い材料ではないかと思うので、ご紹介いたしました。フォイル役のマイケル・キッチンさんが、また良い演技をしているんですよ!
冒険小説:「勇者」とは?
- 2015年08月28日
- 歴史・風土
Vol. 193
冒険小説:「勇者」とは?
カリフォルニアは、まだまだ暑い日が続いています。そんな今月は、本のお話をいたしましょう。
<冒険小説をどうぞ>
夏って、「冒険小説」を読みたい気分になりませんか?
人それぞれにいろんな名作を心に秘めていることでしょうが、たとえば、少年少女向けには、マーク・トウェインの『トム・ソーヤーの冒険』、ロバート・スティーヴンソンの『宝島』、ダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』。
大人向けのものでは、ミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』やアレキサンドル・デュマの『三銃士』などを思い浮かべるでしょうか。
個人的には、子供の頃に読んだ『ロビン・フッドの冒険』にひどく感動した思い出があります。
ロビン・フッドは、イギリスの伝説上の義賊で、日本でいうと「鼠小僧」みたいなものですが、「強きをくじき弱きを助ける」典型みたいな行いの数々に、やっぱり人間はこうじゃなきゃいけない! と、子供ながらに「世の不条理」と「義」を学んだような気がします。
今となっては、どなたの原作の編訳を読んだのかはわかりませんが、最後にロビン・フッドが捕らえられ、極刑に処されるくだりは涙が止まらなかったのを鮮明に覚えています。
彼のような義をくじくなんて、それこそ、世の中は不条理のかたまりではないか? と。
そして、この夏も、いい冒険小説を読みました。
森村誠一氏の『勇者(ゆうしゃ)の証明』という小説で、1998年の作品を文庫化したもの。文庫版はこれまで三社から出ていて、今年は、集英社文庫が出したという人気小説です。
主人公は、関東内陸部で生まれ育った13歳の少年。
第二次世界大戦末期の昭和20年(1945年)7月末、3人の仲間とともにドイツ人の少女ザビーネをはるばる長崎の祖父の元まで送り届ける任を負うのですが、無謀にも、アメリカ軍に空爆される日本列島を列車で横断する旅に出る、という風変わりな冒険小説となっています。
この『勇者の証明』からは、当時の「戦時下の庶民生活」がいろいろと読み取れるのですが、ハイライトとなるのは、どうにも劣悪な命がけの列車の旅事情と、遠くから体験した広島と長崎の原爆投下でしょうか。
昭和20年8月6日、陸軍司令部の置かれる広島市の上空で、原子爆弾「リトルボーイ」が炸裂。広島を超えて岩国に差しかかった列車は目のくらむような閃光を浴び、巨大なキノコ雲(火柱)の熱風と風圧に追われながらも、一行は命拾いをします。
広島から逃れた被爆者を乗せ「救援列車」となった列車は、翌朝、西に向かって発車し、その翌朝めでたく長崎に到着します。が、翌8月9日、ザビーネの祖父の住む長崎で、またまた原子爆弾「ファットマン」が炸裂。
もともと陸軍造兵廠(ぞうへいしょう、兵器工場)のある小倉に向かったB-29爆撃機ボックスカーは、天候不順から投下をあきらめ第二目標の長崎に向かい、奇跡的にできた雲の裂け目から三菱重工業長崎兵器製作所・大橋、茂里町両工場を目視し、「ファットマン」を投下。
が、ここでも山陰の漁港にいた一行は、命拾いをするのです。
(写真は、長崎市郊外の香焼島から松田 弘道氏が撮影、長崎原爆資料館 所蔵)
そんな大冒険を果たした少年たちが郷里に戻ると、後半のハイライトに突入。「仇討ち」とも呼べるような、教師や先輩の抑圧に報いる快進撃が始まるのです。
戦時下、学校には配属将校が派遣され、軍隊組織化した学校では、先輩が後輩の日々の生活を牛耳り、教師や先輩は「絶対君主」のようなものでした。
教練の時間には、校庭で敵に見立てたワラ人形に竹槍を突き立て、敵国の言語である英語を使えば、スパイとみなされる。
「撃ちてし止まん(うちてしやまん、敵を討って駆逐する)」の精神のもと、この戦争を国家総力で戦い、地球上から米英を抹殺する! それが「聖戦」目的と掲げられていたのですから、今からは想像もつかない学校生活なのです。
実際、「陸軍現役将校学校配属令」というのがあって、中学以上の学校には現役将校が配属され、「学校教練」という名のもと、軍事教練は正式科目でした。
『勇者の証明』からは少々逸脱しますが、知り合いの韓国系アメリカ人の方から、こんな話を伺ったことがあります。
彼が小学生の頃、日本の統治下にあった韓国では、教師は日本から派遣され、日本語教育がなされていました。
1937年に閣議決定された「国民精神総動員実施要綱」が、翌年には「国家総動員法」として制定され、朝鮮半島、台湾、南洋諸島など外地においても住民を「皇民化」しようとしていたのでした。
そんな中、彼の小学校のクラス担任は、そろそろ老齢にさしかかる日本人女性教師。
まあ、この女性教師が意地の悪い(mean)人で、雨の日も晴れの日も長靴を履いているんです。その長靴のかかとには、馬の蹄鉄みたいな分厚い金属が付いていて、子供たちが言うことを聞かないと思うと、長靴を手に取って、子供の顔を右から左へと金属のかかとで殴打するのです。
子供たちは怖いから、言うことを聞くようになるのですが、それこそ「聖戦」をまっとうするために、皇国の臣民は狂気に踊っていた時代なのでした。
そんなわけで、『勇者の証明』のザビーネと少年たちが体験した空爆や権力による暴力、そして原爆によって一瞬にして破壊し尽くされた街と人々。そんな一個の人間にはどうしようもできない不条理の数々を、読者ひとりひとりが余すところなく疑似体験できる。それが、この冒険小説の魅力だと思うのです。
これまで、森村氏の作品は数冊読んだだけですが、いつもその文章の美しさに感心させられます。仰々しく美辞を連ねるわけでもなく、逆に、無駄を一切削ぎ落とした簡潔でテンポの良い文章が、表現の美を引き立たせる。この『勇者の証明』も、辛い時勢を描くわりには、親しみやすい読み物に感じます。
春秋に富む若者たちは無限の可能性に富み、人生の方途を自分で選ぶ自由を持っている。だが、国は彼らの自由を奪い、戦力の中核として必死の(「必ず死ぬ」の意)作戦に放り込んだのである。
若者たちは大したことを望んでいるわけではない。少なくとも自分の意思によらない人生の方位や、生き方(死に方)を強制されない世界を求めているだけである。(P214より引用、「必死」の注釈は付けさせていただきました)
そして自由は奪われてこそ、その尊さがわかる。(P312より)
ご本人の解説(公式サイトの「著書リスト」より)によると、小学校時代、町外れに「おばけ屋敷」と呼ばれる外国人母娘(おやこ)の住む古い屋敷があって、戦争の勃発とともに、母娘は消息を絶ってしまったとか。その思い出が、少年たちの旅の出立点として登場しているようです。
こちらは、もともと大人向けに書かれた冒険紀行だと思いますが、戦争を疑似体験できるという意味では、ぜひ、少年少女や(ヤングレディーも含めた)青年のみなさんに読んでほしい小説だと思っているのです。
夏来 潤(なつき じゅん)
サンフランシスコの新しい交通ルール
- 2015年08月15日
- Life in California, 交通事情, 日常生活
そろそろ子供たちの学校も始まり、夏のバケーションシーズンも終わりに近づいた、8月11日。
サンフランシスコ市では、新しい交通ルールが施行しました。
街一番のメインストリート、マーケット通り(Market Street)では、一部区間で自家用車の乗り入れを禁止するようになったのです。
マーケット通りは、高層ビルが密集するダウンタウン地区を斜めに横切る大通りで、東の終点は、海沿いのフェリービル(Ferry Building)。
西の終点は、夜景で有名なトゥイン・ピークス(Twin Peaks)という山で、ここからポートラ通り(Portola Drive)という名前に変わって、山を越えます。
そう、サンフランシスコの街を西へ東へと車で移動するなら、かなりの確立でここを通る、という幹線道路なのです。
8月11日に始まった新しい規則では、マーケット通りの3番通り(3rd Street)から8番通り(8th Street)の区間を自家用車で運転してはいけないことになりました。
厳密には、マーケット通りを北から南へ、南から北へと超えることはできますが、縦に走る3番通り~8番通りからは右折や左折でマーケット通りに入れないことになります(地図の赤い矢印が禁止)。
同じように、マーケット通りの北側に走る道路、たとえばオファーレル通り(O’Farrell Street)やストックトン通り(Stockton Street)からは右折や左折でマーケット通りには入れません。
こちらの写真では、左のオファーレル通りから来た車は、手前のマーケット通りには入れないので、向こう側のグラント通りに曲がらないといけません(今まで通れたところは、市交通局のスタッフがしっかりと「通せんぼ」をしています)。
ちなみに、この箇所からマーケット通りを超えて南に行こうとすると、右折を繰り返して、ちょっと離れたモンゴメリー通り(Montgomery Street)で超えることになります。
(Map provided by SFMTA, adopted from ABC7News)
という風に、車にとっては面倒くさいルールですが、ご覧のとおり、効果はてきめん。
新ルール施行後は、マーケット通りはウソのように空いています。
それで、どうしてこんな面倒くさいルールをつくったかと言うと、近年、右折や左折でマーケット通りに入って来る車と、歩行者や自転車がぶつかるケースが増えてきたからだそうです。
マーケット通りには、バスやトロリーやストリートカー(路面電車)が走り、地下にはベイエリア高速鉄道(BART、通称バート)という地下鉄も走ります。
交通機関の幹線道路であるとともに、お店もたくさん並びますので、自然と歩行者も増えますし、交通渋滞を嫌って、自転車で移動する人も近年とみに増えています。
3番通りから8番通りの区間では、過去2年で160件以上の負傷事故が起きていて、そのうちの8割が、自家用車が引き起こした事故。自家用車は、交通量の3割にも満たないのに多くの事故原因となっていて、「自家用車を制限しよう!」ということになったとか。
わたし自身も、マーケット通りの一本南、ミッション通りを渡ろうとして自家用トラックとぶつかりそうになったことがありました。
このときは、歩行者であるわたしの方が「緑」だったんですが、車は「赤」でも右折できるので、ずんずんと突き進んで来たのでした。
いえ、「赤」だったら、車は一旦停止して徐行発進しないといけないのですが、多くのサンフランシスコのドライバーは、そんな規則は守らない(知らない?)のです!
ですから、それ以来、横断歩道が「緑」であっても、キョロキョロと左右に目を配るようになったのでした。
現在、サンフランシスコ市は、『ビジョン・ゼロ(Vision Zero SF)』という目標を掲げていて、2024年までに交通事故死をゼロにしよう! とがんばっています。
その一環として始まったのが、今回のマーケット通りの自家用車制限。
バスやタクシー、業務用トラックは規制されませんが、乗車シェアサービスのUber(ウーバー)やLyft(リフト)などは、自家用車同様に乗り入れ禁止です(こういった乗車サービスは、自家用車を使っていますものね)。
『ビジョン・ゼロ』のキャンペーンにのっとって、街中には「バスとタクシーのみ(Bus and Taxi only)」の赤い車線も登場しています。
こちらの車線は、通れるのはバスとタクシーのみ。
自家用車は、乗り入れ禁止となります。
そして、新しい交通ルールとともに脚光を浴びていたのが、ケーブルカーにまつわる規則。
そう、ケーブルカーと言えば、サンフランシスコの名物。街に集まる観光客が、まず乗ってみたい乗り物です。
ところが、今年に入って、ケーブルカーの運転手や車掌さんが車にひかれて、大けがを負う事故が二件も起きています。
一件では、体じゅうの骨折という重傷、もう一件では、昏睡状態に陥ったあと、延命措置を終了するという悲劇となっています。
原因は、ケーブルカーが止まった際、道路に降りた従業員を車がひいてしまった、というもの。
ケーブルカーは、歩道に近づいて止まるバスとは違って、道の真ん中で止まります。
そして、同じく道の真ん中で止まる路面電車には停留所が設けられていますが、ケーブルカーに停留所はありません。
ですから、ケーブルカーに乗客が乗り降りするときには、車が往来する道路を超えることになり、従業員もケーブルカーから降りて車道に出ることもあります。その際、車とぶつかる危険性があるのです。
いえ、「ケーブルカーが止まっているときには、車は追い越してはいけない」つまり「止まれ」という州の交通規則があるんですよ。(California Vehicle Code Section 21756)
ところが、二件のケースでは、飲酒運転のドライバーが、徐行もせずに従業員をひいてしまったのでした。
こちらの写真は、サンフランシスコ・エグザミナー紙の記者が撮影したものですが、ケーブルカーが停車しているのに、白い車がルールを無視して、通り越そうとしています!
残念ながら、こんな光景は日常茶飯事。
事故をきっかけに、ケーブルカーの車掌さんに真っ赤な「ストップ(Stop)」サインを持たせて、車を止まらせるようにしたそうです。
が、こちらの車掌さんのように、まだまだ体を張って交通整理をする場面もあって、不十分。
ですから、 警察の取り締まりを強化するとともに、レンタカー会社やホテルにも通達して、観光で訪れたドライバーにも交通ルールを守ってもらうように徹底してほしい、と従業員側は要求しています。
ケーブルカーが止まっていたら、人が乗り降りするので、車は後ろで止まる。これが規則です。
(Photo of “Do Not Pass” sign by Joe Fitzgerald Rodriguez, from “SF cable car operators call for safety reforms in wake of devastating injuries”, San Francisco Examiner, July 13, 2015)
遠い昔、サンフランシスコの街が整備された頃には、道を走っているのは、馬車やケーブルカーのみでした。
時代の流れとともに、バスやタクシー、自家用車が増えたばかりではなく、近年は、テクノロジー企業の社員をピストン輸送するコーポレートバスや、乗車シェアサービスの車も増え、狭い街はますます渋滞しています。
混んだダウンタウン地区ばかりではなく、市西部の住宅地でも、歩行者が横断中に車にはねられるケースが後を絶ちません。
今回ご紹介した「マーケット通りの自家用車乗り入れ禁止」も、「ケーブルカー停車中は止まれ」も、人の命を守るためのもの。
「交通事故死をゼロに!」という『ビジョン・ゼロ』の目標を実現するために、みんなが肝に銘じる時期にきているようです。
先日、サンフランシスコのメインストリート、マーケット通り(Market Street)を歩いていたら、奇妙な光景を見かけました。
宅配サービスのFedExの女性配達員と、UPSの男性配達員が、満面の笑みでハグしていたんです。
二人とも大きな台車を引いていたので、マーケット通りのビルに配達する途中だったようですが、きっと久しぶりに顔を合わせたので、「あら、元気だった?」とばかりに、互いを笑顔でハグしたのでしょう。
それにしても、FedExとUPSは商売敵ですよね?
そんな会社の事情よりも、個人的な友情が優先するなんて、ずいぶんと心に余裕があるんだなぁ、と見ていて感心したのでした。
そう、わたしは、わたし。仕事中だって、お友達にはあいさつさせていただくわ、といった感じでしょうか。
というわけで、英語には「もうちょっと心に余裕を持ったら?」という、こんな慣用句があるんです。
Stop and smell the roses
足を止めて、バラの香りをかいでみたら
心に余裕がないと、きれいなバラが咲いていても、気づかず忙しく通り過ぎるだけ。
ときには、まわりを見回してみて、きれいなバラが咲いていたら、足を止めて香りを楽しんでみたら? というアドバイスなのです。
同じような表現で、「バラ」の代わりに「花」を使うこともあるようです。
足を止めて、花の香りを楽しみましょうよ
都会のビルの谷間にも、きれいな花はたくさん咲いている。
同じ道を歩くのだって、心にちょっと余裕があれば、花の香りを楽しみたい気分にもなるはず、そんなアドバイスでしょうか。
両方とも、きれいな表現ですし、心にすっと入ってくるようなストレートな慣用句ですよね。
よく耳にする表現ですので、覚えておくと便利だと思います。
サンフランシスコという街は、人の歩みが速いところなんです。
もちろん、みなさん忙しいので、一刻も早くA地点からB地点に移動したいのでしょうが、とりたてて何もなくても、セカセカと早足で歩くのが習慣になっています。
横断歩道の信号機だって、すぐに緑から赤に変わって、ここは「せっかちな街」であることを表しているようです。
そんな「せっかちな大通り」から、ふと脇道にそれると、建物の中から人の声が聞こえてきました。
どうやら、その建物はアパートだったようですが、こんなコンクリートビルのオフィス街で、庭の囲いの奥から人の声が聞こえるなんて、ひどく意外な気がしたのでした。
右側のオフィスビルは、「つぶやきサイト」のTwitter(ツイッター)が、成長期に本社を置いていたので、その成功にあやかって間借りするスタートアップ会社も多い建物です。(795 Folsom Street)
そんなテクノロジーの中心地に、アパート群があったなんて、脇道にそれてみると、普段と違ったものにふと気がつくのです。
すると、目の前の風景も、生まれ故郷の散歩道で見かけるアパート群とぴったりと重なって、一瞬、時空をワープしたのでした。
というわけで、お話もそれてしまいましたが、今日の表現は、こちら。
Stop and smell the roses
セカセカと歩いてばかりいないで、足を止めて、バラのかぐわしさを楽しんでみて。