青森のねぶた祭
数ある日本の祭りの中で、とっても行きたかったのが青森市の「ねぶた祭」。8月の第一週、短い東北の夏を祝うかのように、街じゅうを賑やかに練り歩くお祭りです。
祭り好きにとっては、一度は見てみたい代表的な夏祭りですね。
毎年、夏になると、ああ、今年もねぶた祭を見られなかったねぇなどと話していたのですが、ようやく、ねぶた見学の実現となりました。
この旅は、突然思い立った連れ合いが、泊まっていた東京のホテルに相談を持ちかけたことから始まりました。「ねぶた祭を見てみたいんだけど」と切り出してみたものの、開幕まで、10日とありませんでした。
さあ、それから、ホテルのコンシエージュは大発奮。迫力のある夜のねぶた見学と、最終日の花火大会のチケットをどこからともなく手に入れてきます。
けれども、一番問題なのが、宿泊先。青森市内には宿泊施設が少なく、かなり前から満杯なのです。そこで、青森駅からJRで20分の浅虫温泉(あさむしおんせん)というところに宿を見つけてくれました。まあ、値段は、普段の倍でしょうか。
そんなこんなで、直前まで不確定だった「ねぶた旅行」に行ってみると、さすがに青森は観光客でごったがえしています。ねぶた祭は、毎年、8月2日から7日が開催期間で、小さな青森駅は、到着したばかりの人とこれから出発する人で大混雑。中国からの観光客もたくさん見かけました。
そして、街も、夕方になると、夜のねぶた運行に参加する人たちや、早めに見学場所を確保したい人たちでごったがえし。昼間っから、酒を酌み交わし、路上で宴会となっているグループもいます。
わたしたちも、屋台の食べ物で腹ごしらえ。漁師さんが海から獲ってきたばかりのホタテは、さすがに新鮮でおいしかったです。
7時からのねぶた運行を控え、予約席のまわりを歩いてみると、かわいらしく浴衣を着込んだ子供たちを見かけました。ねぶた踊りの跳人(ハネト)のようです。彼らの「制服」は、浴衣に赤いたすきがけ、そしてカラフルな飾りの付いた花笠。ちょいと不機嫌な顔をしながらも、お母さんに言われた通り、ちゃんと被写体になってくれました。
見学席にも、かわいい男の子と女の子を発見。後ろからカメラを向けていると、気が付いたお母さんが、「ほら、あっちを向きなさい」と促します。なかなかフォトジェニックな子供たちでしたが、女の子が、トコトコとわたしの方に寄って来るのです。そして、「ねえ、これあげる」と、鈴を差し出します。
踊り担当の跳人は、体中に鈴をつけているのですが、この女の子は、自分で持っていた大事な鈴を、わたしに分けてくれたようです。「お姉ちゃんが写真を撮ってくれたから、お礼に鈴をあげたの」と、まわりの大人たちに説明していましたが、それを聞いたわたしは、ねぶた運行が始まる前から、妙に感激していたのでした。
合図の花火が上がり、お囃子が聞こえてくると、なぜだか目頭が熱くなってきます。初めて聞いたのに、とってもなつかしい響き。
お腹に響く締め太鼓のドンドンという拍子に合わせ、横笛が高い旋律を奏で、手振り鉦のチャンチャカチャンというリズムが花を添えます。日本人の原点ともいえる音色。
お囃子のあとに続くねぶたを見て、またまた感激。そろそろ暗くなってきて、電灯がともされたねぶたは、迫力のひとこと。全部で22台のねぶたは、まさに、そのひとつひとつが芸術品なのです。
その大きなねぶたを、男たちが引き回す。車輪は付いていますが、相当に重たそうです。見物人が歓声をあげると、すぐ前までやって来て、みんなの前で重いねぶたを廻してくれます。それが見たくて、あちらこちらから、こっちに来〜いと大きな掛け声。
お次は、跳人の威勢のいい踊り。たくさんの跳人たちが行列を作り、「ラッセーラッセー、ラッセーラ」と掛け声をあげながら、片足でぴんぴん跳ねて踊ります。右に左にと跳び上がる踊りはわりと単純なものですが、みんなでやるから、いやに迫力がある。
ねぶたは、絶対に参加しないとダメ!と聞いてきたのですが、しっかり統率が取れたグループには、飛び入り参加は難しいようです。それがちょっと残念でした。
こんなに威勢のいいねぶた祭ですが、起源はよくわかっていないそうです。一説に、中国から伝わった七夕祭の燈籠流しと、青森古来の精霊送りが融合したものではないかと言われているそうです。神を迎え、もてなし、お送りする。それにしても、「燈籠」にしては、ずいぶんとでっかいものですね。
このねぶた、昔は竹で骨組みを作り、和紙を貼っていましたが、今は、骨組みには針金を使っているそうです。だから、昔よりも、ずいぶんと複雑なフォルムができあがるのですね。制作日数も、5月、6月、7月と、約3ヶ月もかかるそうで、ねぶたっ子たちの心意気が伝わってくるようです。
最終日には、「ねぶた海上航行」もあります。賞をいただいたねぶた5台が、船に乗って青森港を航行するのです。遠くからかすかに聞こえるお囃子がだんだんと大きくなり、ねぶたの光も大きくなるにつれ、こちらの心臓もドキドキと鼓動を速めます。
その後ろでは、大きな花火。ねぶたと花火の取り合わせは、最高の演出です。
祭が終わって入った居酒屋では、現地の跳人たちに混じって、観光客も何組か見かけました。お隣は千葉、その隣は富山から。
千葉からのおじさんは、ほとんどひとりでJinroを一本空けていましたが、翌朝3時から、青森の名山・岩木山に登る予定だそうです。
いい気分のおじさん、よっぽどねぶたが気に入ったらしく、出がけに店内の跳人たちを巻き込んで大騒ぎ。
「ねぶた最高〜、青森最高〜、このお店最高〜!さあ、みなさんご一緒に〜!」
「ラッセー、ラッセー、ラッセーラ!」「ラッセー、ラッセー、ラッセーラ!」
青森のみなさん、素晴らしいお祭を、ほんとにありがとうございました!
それから、鈴をくれた女の子に、どうもありがとう!
追記:青森市のねぶた祭に加え、弘前市にもねぶた祭があります。ちょうど同じ時期、8月1日から7日に開催されます。こちらは「ねぷた」と呼ばれ、扇形のねぷたが使われます。青森のものに比べ、しっとりとしていて、「精霊送り」色の強いものだそうです。「青森に2泊するなら、一日は弘前に行ってみて」と、弘前出身の人に懇願されたくらい、とってもいい祭のようです。
次回はぜひ、弘前にも足を延ばしたいものです。東北4大祭も、あと3つ(仙台七夕、秋田竿燈、山形花笠まつり)も残っていますしね!