浅草!
いえ、今さら、浅草が目新しいところだとは思ってはおりません。アメリカ人の観光客じゃないですものね。
でも、近ごろ、隅田川を上る水上バスが妙に気に入っておりまして、目的地・浅草に着くと、自然と浅草寺(せんそうじ)に足が向くのです。
10月後半に日本に行ったときも、わたしの両親を連れて、日の出桟橋から浅草へと35分の船旅を楽しみました。そして、そのあとは、お決まりの仲見世商店街と浅草寺。
今回は、両親が一緒だったので、いつもよりも、じっくりと浅草を散策できました。
べつに、両親は宗教家というわけではありません。どちらかというと、無信教と言った方がいいかもしれません。でも、浅草寺の本堂で、お賽銭を投げ何やら真剣に祈っている姿や、寺の前でお線香の煙を頭からかぶっている姿なんかを見ると、ずいぶんと丸くなったものだなあと、妙に感心してしまうのです。
そして、書家の母が一緒にいると、本堂に掲げてある大きな額なんかに自然と目が行くのです。あの力強い立派な文字は、いったい何と書いてあるのでしょうね。漢字には崩し方がいろいろあって、そう簡単には読めないのです。
それから、本堂の天井絵。きれいな天女さまと強そうな竜が隣同士に並んでいます。今まで、あんなにきれいな絵があったなんて、気が付きもしませんでした。きっと、金きらの正面ばっかり見ていたのでしょうね。
ところで、仲見世商店街。土曜日だったこともあり、ごった返しでした。どうしてここはいつも人通りが多いのでしょうね。まさに、毎日が縁日!
外国人の観光客が喜びそうな、扇やら壁掛けやら着物もどきの衣装やらと、ごちゃごちゃと狭い店先に吊るされています。祭りのときにでも使うのでしょうか。かつらを売る専門店なんかもありますね。
それにしても、食べ物屋さんの多いこと。名物の「雷おこし」は勿論のこと、人形焼や浅草寺御用達の手焼せんべいだとか、古そうな構えのお店が並んでいます。同じ人形焼でも、混んでいる店と空いている店があるのは、やっぱり味が違うんでしょうね。
近ごろは、「揚げ餅」なる妙な食べ物があって、これには、たくさんの人が集まっていましたね。お餅を油で揚げているんです。お昼前だったので試してはいませんが、なんだか、みなさんおいしそうに召し上がっていましたよ。
浅草寺の脇には伝法院通り。一画は、江戸時代の通りみたいに再現され、いろんなお店屋さんが並んでいます。
そのひとつに、刷毛の専門店がありました。お、珍しいと思わず足を踏み入れてしまいましたが、お化粧用の刷毛だとか、染み抜き専用のブラシだとか、おそうじ用のブラシだとか、とにかく、いろんな種類の刷毛が置いてあります。
母は、父のヘアーブラシが古くなったって、ヤマアラシの固い毛で作ったヘアーブラシを買ってあげていました。でも、わたしは、あんなに固いので大丈夫なのかな?と、ちょっと心配になりましたけど。
ここのおじいちゃん、ちょっと耳が遠くって、お客さんの「すみません」の声がなかなか聞こえないんです。でも、商品に対する知識はさすがに素晴らしくって、どんな質問にも答えますよという感じでした。
それに、母が「もうちょっとお勉強してくれません?」なんて言うと、「いや、うちのはね、もう卸値で提供しているんですよ。これなんか、デパートで売ってるのを見たんだけど、1万2千円で売ってるんですよ」なんて、うまくすり抜ける技を持っていらっしゃいます。
そんな浅草を後にして、その日のランチは、お台場のホテルで、おいしいフレンチを食べました。自分でも驚くような、すごいギャップ。
でも、どうして好んで浅草に行くかって考えてみると、ここに来ると、ちいさな旅をしたような気になるからでしょうね。日本人であっても、ここで接するものは、旅人の目で見ることができる。
カラフルな踊りの衣装や扇、かつら、刀の小道具。そんなものは、日頃目にしないものですからね。
お祭りじゃなくても、毎日がお祭り。どこか遠い街で遭遇した、旅人の空間。それが、浅草なのでしょうか。