韓国の風景 ~ 食べ物編
韓国で一番有名なお食事といえば、やはり焼肉とキムチでしょうか。
ところが、わたし自身は、焼肉はあまり好んで食べないし、辛いキムチは口に入れることすらできません。ですから、ちょっと韓国に旅行するのが恐かったというのが正直なところです。
けれども、わたしの韓国の食生活に対する潜在意識は、最初の晩にガラリと崩れることになりました。
東京からソウルに着いたばかりで右も左もわからないので、ホテルの方にいいレストランを紹介していただいたのですが、その中で「一番胃にやさしそう」と選んだのが、宮廷料理のレストランでした。
ホテルのほど近くにある「ヨン・ス・サン」というお店で、店の前の駐車場には高そうな車ばかり止まっているし、駐車場係のおじさんも深々とお辞儀をしてくれたので、何だか高そうだなと気後れしてしまいましたが、お店に入ってみると、みなさん笑顔で気さくに出迎えてくれました。
ここでは、朝鮮王朝時代に宮廷で出されていたお料理を現代風にアレンジしたコースがお勧めとなっておりますが、アラカルトで一品ずつ頼むこともできます。けれども、連れ合いは、せっかくだからとコース料理に挑戦です。わたしは「おかゆ」一品にしたのですが、もちろん、連れ合いのコースもつっつかせていただきました。
コースのお品書きを見ると、とても品数が多いので、食べる前からギョッとしてしまうのですが、実際にお料理が出てくると、そんなに量は多くはないし、第一その繊細さにびっくりしてしまうのです。韓国料理というと、何でもピリリと辛いのかなという固定概念がありますが、そうではないのですね。
たぶん、シェフの方はずいぶんと外国料理も研究なさっているのではないかと思うのですが、ひとつひとつがデリケートなお味に仕上げてあって、辛いものが苦手の人にも十分に堪能できるようになっておりました。それに、お皿に盛りつけるプレゼンテーションも、どことなくフレンチの感じもいたします。
店内には、現地の方ばかりがいらっしゃいましたが、日曜日の晩なので、家族連れのお祝いのディナーだとか、若い二人の記念のデートだとか、そんな「よそ行き」の雰囲気が漂っていました。たぶん現地の方にとっては特別なお店なのでしょう。
けれども、わたしたちにとっては、換算レートのせいでしょうか、コース料理自体はそんなにお高くはありませんでした。ただ、ワインは輸入品となるので、そっちの方が高かったかなという印象が残っております。
さて、翌日は、現地のガイドさんに案内してもらってソウル市内を観光しましたが、「お昼には、サムゲタン(参鶏湯)のおいしい所に連れて行ってね」と最初から頼んでおきました。
韓国料理に対するわたしの限られた知識からすると、サムゲタンは自分が一番好きなお料理だと思っているし、薬膳料理のようなサムゲタンは、観光で疲れた体を元気づけてくれるのではないかと思ったのです。
連れて行ってもらったお店は、「土俗村参鶏湯」という名の老舗のサムゲタン屋さんで、路上には仮設駐車場みたいに車がいっぱい止まっていますし、店の前には人が並んで待っています。なるほど、有名なお店なのでしょう。
入って行くと、「うなぎの寝床」みたいにずんずんと奥まで案内されて、十畳ほどの部屋に通されます。細長い部屋には二列に机が並べてあるのですが、もしかすると、ここは以前旅館だったのかもしれませんね。小さな中庭があって、ちょうど造りが旅館みたいなのです。
靴を脱いで床に座っていたので、忙しく行き来する店員さんにムギュッと足を踏まれて痛い思いをしたのも束の間、目の前には、湯気を上げたサムゲタンが出てきます。
お~、立派な鶏だこと。それに、肉もホクホクと柔らかく煮てあります。
高麗人参だのナツメだの松の実だのと、体にいいものもたっぷり入っています。
けれども、ちょっと意外だったのは、日本やアメリカで食べるサムゲタンよりもスープの味が薄いことでした。きっと現地のものは、鶏肉に塩を付けたりして自分で加減ができるようになっているのでしょう。
それにしても、お隣に座っていた現地の男性は、さすがに骨付きの鶏を食べるのがうまいなぁと、感心するのです。
というわけで、念願の本場物のサムゲタン。栄養満点のお料理に舌鼓を打ったのでした。
このお店ではサムゲタンは一種類しかありませんでしたが、お店によっては、「女性用」「男性用」と分けて出してくれる所もあるそうですね。女性用には美容健康にいいものが、男性用には滋養強壮にいいものが入っているそうです。
さて、この晩は、現地の方と待ち合わせをして、どこかに連れて行ってくれることになっています。以前、連れ合いのスタッフだったセールスマンの方で、韓国市場の開拓をバリバリと担当しておりました。
やあ、やあ、何年ぶりだろうと二人の挨拶が済むと、彼はホテル近くのプルコギのお店に案内してくれました。現地の方が仕事帰りに同僚と食べるような所で、8時にお店に着くと、ほぼ満席でした。
宴会もできるようになっていて、個室での宴がはねるときに、みんなで万歳みたいな大きな声を出しておりました。きっと日本の宴会の「一本締め」みたいに、気合いを入れて終える習慣があるのでしょう。
ご存じかとは思いますが、プルコギというのは、柔らかいお肉をほんのりと甘いタレにつけ込んだ焼肉で、まったく辛くはありません。ですから、わたしも大丈夫。三人分のプルコギを頼んだのですが、三回に分けてお店の人が焼いてくれるのです。
三回目になると、「え~、まだ焼くの?」と思っていたのですが、おいしいので、じきに食べてしまいました。プルコギは、野菜(サラダ菜)に包んで、薬味をつけて食べるので、肉と野菜が一緒に食べられて健康的ですね。
それに、頼んでもいないのに、キムチやナムル(もやしなどの野菜を胡麻油で和えたもの)、それからサラダや酢の物なども出てくるので、食事としてもバランスが取れています。
仕事帰りに食べて飲んでというお店なので、もう10時には閉店するようですが、話し足りない彼は、それから20分くらいねばっていましたね。お店の方が皿を片付けたり、テーブルを拭きに来たりするんですけれど、彼はまったく動じません。
何をそんなに一生懸命話していたかって、自分がどんなに奥さんの尻に敷かれているかを「自慢」していたんですよ。韓国の女性は、結婚すると豹変する。これが、彼の持論なのです。
さて、その翌日は、自分たちで街歩きをして、早めの夕食となりました。胃も少し疲れていることだし、手近に済ませようと、ホテルの上の階のレストランに行きました。レストランといっても、ロビーフロアにあるので開放感たっぷりだし、待ち合わせに使う人も多く、ちょっとカジュアルな感じでした。
もちろん造りは西洋風なのですが、ここでのメニューは韓国料理とイタリアンとなっております。
6種を盛り合わせた、春のナムルを試してみましたが、ふきやワラビを食べる日本人には、何の違和感もなく食べられるのです。ちょっと苦みがあって、いかにも体に良さそうと感じるのですが、きっと西洋人はダメですね。こんな味は、苦手でしょう。
ふふっ、こういうときには、東洋人としての味覚の優越感を感じてしまうのです。
そんなわけで、3泊4日の短い韓国旅行ではありましたが、おいしい旅でございました。また違ったものを食べに足を運んでみたいと思います。
そうそう、次回は屋台も試さなければ。
追記: プルコギのお店に案内していただいた現地の方ですが、彼のお話をちょっとだけ書かせていただいております。
こちらの3つ目のお話「女性パワー」と、4つ目のお話「教育パワー」というものです。もし興味がおありでしたら、現地の男性のつぶやきをお聞きくださいませ。(全体的にちょっと長いので、最初の方は飛ばして読んでいただければと存じます。)