雨季の晴れ間にカニさん!
以前、「24時間のオフ」というお話を書いたことがありました。毎年1月になると、家から近くの場所で一泊するのだけれど、たった20分しか離れていないのに、まるで別世界に行ったような気分になると。
静かだし、人もあんまり見かけない。広い空間を自分たちで独り占めにしている、そんな贅沢な気分になるのです。
今年も行って来ました。
雨季ではあるけれど、空は晴れ渡り、そのわりに霜が降りるほど寒くはないという、絶好のお天気でした。たった一泊ではありますが、日頃のゴタゴタも忘れて、気分もすっかりリフレッシュなのです。
そして、題名にもなっている通り、その晩は、カニさんを食べました。
金沢名物の「香箱蟹(こうばこがに)」がいい例ですが、冬になると、カニがおいしいですよね。それは、アメリカでも同じことで、サンフランシスコ周辺の海でも、おいしいカニがとれるのです。
その名も、ダンジェネス・クラブ(Dungeness crab)。北はアラスカ州から、南はサンフランシスコ・ベイエリアのサンタクルーズまで、西海岸の冷たい海に生息しています。そう、サンフランシスコ周辺は暖かいと思われがちですが、海は寒流なので、夏でも海水浴には適していないのです。
そんな寒い海に住むカニのシーズンは、11月中旬から翌年の春までです。とはいうものの、やはり一番おいしいのは、1月くらいまででしょうか。
今シーズンは、まだ一度も食べていなかったので、「あ~、今年もダメかぁ」とあきらめていたのですが、宿泊施設のレストランに行くと、「カニがお勧めだよ!」と言うのです。
この週末だけの特別企画で、ダンジェネス・クラブがコース仕立てになっていて、お値段もふたりで百ドル(約1万円)と、そんなに高くはありません。
そこで、迷わず、カニさんのディナーを選んだのでした。
まずは、前菜として、ダンジェネス・クラブのフリッター(fritter)が出てきます。カニの身がこんがりと揚げ物になっていて、添えてあるのは、青リンゴのコールスロー。それがカリッとしたブリオッシュのトーストにのっていて、指でつまんで食べられるようになっています。
お次は、ビスク(bisque)。ビスクというのは、エビやらカニやらの甲殻類のスープのことですが、こってりとして味わい深いので、アメリカでもかなりポピュラーなスープとなっています。
甲殻類の殻や内臓を野菜と煮込んで、スープだけこしたものに、生クリームなどを加えてこってりと仕上げます。とても手間がかかるので、ビスクをメニューに見かけるレストランは限られていますね。こちらのレストランでも、昔はロブスター・ビスクがあったのですが、今は特別企画のときだけに登場します。
お次は、ダンジェネス・クラブのラビオリ(ravioli)。ご存じのように、ラビオリとは、平たいパスタの中に野菜やらチーズやらを入れたものですが、こちらは、カニの身とリコッタチーズが入っています。ヘルシーにほうれん草を添えてありましたが、全体をまとめるクリーミーなソースの中に、何かしらぴりっとした辛みがありました。
きっと鮮やかな緑色の部分は、ハラペーニョ・オイルだったのでしょう。ハラペーニョ(jalapeño)というのは、メキシコの代表的な青唐辛子のことですが、カリフォルニアなどメキシコに面した州では、結構ポピュラーな唐辛子となっていますね。
そして、お次は、アメリカで大人気のクラブケーキ(crab cake)。以前、どこかでご説明したことがありますが、クラブ「ケーキ」という名前のわりに、まったく甘くはありません。カニの身や野菜を丸めて、パンケーキのようにこんがりと焼いたものです。
こちらはちょっと焼きが足りなかったようですが、一般的に失敗がないので、レストランで前菜(appetizer)として注文するのは良い案だと思います。こちらのコースでは、最初に前菜としてフリッターが出てきたので、コースの後ろに持ってきたのでしょう。
さあ、いよいよメインディッシュの登場です。アメリカでカニを食べるといえば、ゆでたものを溶かしバターにつけて食べるか、酢のような酸味のあるソースで食べるかがポピュラーですけれども、こちらは、ガーリック(ニンニク)味を利かせたブラウンバターのソースがかかっています。そんなに濃厚過ぎず、淡白なカニの身と調度良いバランスでした。
上にどっかりとフォカッチアのトーストが乗っていて、迫力のあるプレゼンテーションとなっていますが、基本的には、ゆでたカニにバターソースがかかったもの。カニさんも新鮮で、なかなかおいしかったです。
はて、デザートにもカニ? と思っていると、さすがにチョコレートムースのケーキと、普通でした。まあ、『料理の鉄人』ではないですから、カニのアイスクリームなんかは出ないでしょうね。
でも、カニではないけれど、ガーリックのアイスクリームというのは、すぐ近くの名物なんですよ!
ここからもうちょっと南に行くと、ギルロイ(Gilroy)という街がありますが、こちらは、ニンニクの名産地。毎年夏(7月下旬)になると、盛大にガーリックフェスティバルが開かれ、このときばかりは、ガーリック・アイスクリームを堪能できるのです(食べてみたこともありますが、そんなに強烈ではなかったですよ)。
さて、1月ももう終わりという、ギリギリのタイミングでダンジェネス・クラブを食させていただきましたが、翌日もよく晴れ渡り、すがすがしいお天気でした。
連れ合いは7時から早朝ゴルフに出かけたのですが、自分が終わる頃まで誰もプレーしていなかったので、コースを独り占めにしていたらしいです。おなじみの男性キャディーさんが重いバッグを担いでくれると、すいすいと2時間半でラウンドできたとか。
誰もプレーしていないゴルフコースなんて、ゴルファーの夢ですよね。
そんなとき、コースで出会うものといえば、いい声で鳴く鳥たちや、暢気に草を食む鹿の群れでしょうか。雨季には草原も復活し、動物たちにも嬉しい季節です。
人里をちょっと離れると、まだまだ自然と隣り合わせ。そこが、カリフォルニアの醍醐味でもあるのです。