大リーグの「日本デー」
4月3日。4月最初の日曜日は、それまで続いていた雨季を追い払うように、カラリと晴れ渡り、カリフォルニアらしい気候となりました。
まさに「野球日和」のこの日、オークランド・アスレチックス(通称A’s)とシアトル・マリナーズのシーズンオープン3連戦・最終試合が開かれました。金曜日に始まったばかりのA’sの今シーズンは、いまだ勝ちなし。
今季から、松井秀喜選手が加わったこともあり、ここはぜひ勝ってほしいところです。
この日はまた、「日本デー(Japanese Heritage Day、日本伝統の日)」にもなっていて、A’sの松井選手、マリナーズのイチロー選手、そして、A’sの日系キャッチャー、カート・スズキ選手と、日本にゆかりのある選手たちをたたえる日でもありました。
せっかく松井選手が加わったのだから、シーズン最初の日曜日を「日本デー」にしようとA’sは前から計画していたのですが、3月に起きた東北沖大地震・大津波を受けて、「日本を助ける日」にもしようじゃないかと、計画を修正いたしました。
ひとりひとりのチケット売上から1ドルずつ、合計5万ドル。そして、シーズン最初の試合に松井選手とイチロー選手が着ていたユニフォームをサイン入りでオークションにかけて、そこから1万ドルちょっと。合わせて6万5千ドル(およそ550万円)がA’sによって寄付されたのでした。(オークションでは、なぜだか敵方のイチロー選手のユニフォームがちょっと高く落札されたのでした。)
A’sだけではなく、協賛となっている富士通が1億円を寄付したり、サンマテオのIT企業ネットスイートが従業員から3万ドル(およそ250万円)を募ったりと、さまざまな企業が義援金集めに協力したのでした。みんなが協力していることがわかると、協力の輪はどんどん広がるのです。
この「日本デー」は、威勢良く、和太鼓で始まりました。オークランドの北にあるエメリーヴィルという街から、和太鼓のチーム(Taiko Dojo)がさっそうと登場です。
そして、松井選手が日本を代表してA’sからの義援金を受け取ったあとは、被災した方々を思い、スタジアムのみんなで黙祷(moment of silence)を捧げます。
電光掲示板には、「外国のみなさん、助けてくださってありがとう」と、被災した方々の感謝の言葉が映像で流れます。画面には英語の字幕が付けられていますが、感謝の言葉や復興の決意に翻訳は必要ないのかもしれません。
この日は、国歌斉唱(singing the national anthem)も日系の男性コーラスでした。みなさん黒いタキシードに赤いポケットチーフと、おしゃれな正装で美声を披露なさいます。
斉唱が終わる頃には、必死にこらえていた涙がほほをつっと流れますが、この日は明るい昼間の試合。大きめのサングラスが、うまく隠してくれました。
そんな明るいデーゲームの山場は、2回裏にやって来ます。
この回の先頭打者・松井選手(5番の指名打者)が、二塁打を放ったのです。レフトのラインぎりぎりで、まさに「入ってくれた!」といった感じでした。
なんと、これがA’sとして初ヒット。そして、日米通算2500安打!
電光掲示板には「おめでとう」の文字がともされ、スタジアムの拍手喝采に松井選手は笑顔で答えます。
けれども、残念ながら、この二塁打は得点にはつながりません。次のバッター・スズキ選手がライト方向に打ったのですが、これをイチローがキャッチし、ワンバウンドで三塁に投げ、三塁に向かう松井を刺してしまったのです。
せっかくの松井の二塁打も、イチローの強肩を目立たせる結果となったのでした。
しかし、7回裏には、松井が名誉挽回。ワンアウト満塁で登場した松井は、ライト方向に浅いヒットを打ち、イチローの目の前でポトリと落ちるのです。
さすがに動作が機敏なイチローですので、すぐに二塁に投げますが、その間にA’s4点目の得点が入ります。これが、松井の今季初打点。
さらに、次のスズキ選手へのデッドボールで押し出し、エリス選手への四球で押し出し、三塁に進んだ松井選手は、次の犠牲フライで自らも7点目のホームを踏むのです。
終わってみれば、マリナーズは、2回表のランガーハンズ選手のホームランひとつ。7対1で、A’sは今シーズン初勝利を飾ったのでした。
前日の土曜日のナイターでは、イチロー選手は内野安打二つを打って、マリナーズの歴代打撃リーダーとなりました。(この晩、2248打目のヒットが、エドガー・マルティネス選手の持つ記録を一打更新。マリナーズ在籍10年目の快挙となったのです。)
けれども、この日曜日のデーゲームでは、第一打席に、渋いレフト前ヒットを打っただけで、その後はヒットなし。7回表にやって来た「1死二、三塁」という絶好のチャンスにも、快音は聞かれませんでした。
まあ、この日の主役は、A’sに移ったばかりの松井選手。地元のファンも、彼が初ヒットを打ち、記録をつくってくれたので、上機嫌で球場をあとにしたのでした。
「ベイエリアにはこんなに日本人がいたかしら?」と思うくらい、日本人ファンも多かったのですが、そんな日本ファンにとっては、松井、イチロー、どちらが活躍しても嬉しいのです。
そういえば、「日本デー」にちなんで、3回裏のA’sの攻撃では、日本人の子が日本語で打者を紹介したのですが、この回の先頭打者は、よりによって「Kouzmanoff(クーズマノフ)選手」。彼の名前をうまく発音できなかったのですが、かえってそれがスタジアムのみんなを笑顔に誘ってくれました。
この回には、「DeJesus(デヘスース)選手」も登場し、アメリカの大リーグ選手のカラフルさを強調するのです。(いまや、大リーグ選手の28パーセントが外国生まれだそうで、なんとなく発音が難しい名前も多いのです。)
それまで低迷していたA’sの打撃は、この回を機に活気づいたので、かわいい日本語の紹介が原動力となったのかもしれません。そして、この日新調したA’sの「黄色(retro bright gold)」のユニフォームも、鮮やかなラッキーカラーとなったのかもしれません。
それにしても、A’sとマリナーズは、同じアメリカンリーグの西部地区。これから、16試合も対戦するので、またオークランドに観に行こうかなとも思っています。
だって、「ボールゲーム(ball game、野球のニックネーム)」は、楽しいですものね!