サンタクルーズへドライブ
シリコンバレーは、山に囲まれた谷間(バレー)ですので、サンノゼを始めとして、多くの街は海に面しているわけではありません。
ですから、シリコンバレーに住む方々は、海が見たくなると、だいたいサンタクルーズにドライブします。
サンタクルーズ(Santa Cruz)は、サンノゼの真南にある太平洋沿いの街で、サンノゼからは州道17号線(CA-17)で山越えとなります。
まあ、この山越えの道がクネクネしていて、片側2車線の道路は狭く、いやでも隣の車が迫ってくるようです。おまけに、街灯がないので夜は真っ暗ですし、冬の雨季はスリップ事故も多いので、慣れないと運転しにくい道ではあるのです。
けれども、ようやく山を抜けてサンタクルーズまでたどり着くと、「あ~、来て良かった!」と思える場所なので、皆さんもドライブしたい気分になるのでしょう。
サンノゼから南下してくると、17号線が1号線(北方向)に合流するところでサンタクルーズ市内に入りますが、混んでいないと45分ほどの道のりでしょうか。
この辺りで、すぐにリバー通り(River Street)が出てきます。
このリバー通りを左折すると、レンガ造りの時計台が見えてきますが、これが街のシンボルの時計台。この先が、サンタクルーズのダウンタウン地区となります。
ひとたびサンタクルーズの街に入ったら、スローダウンいたしましょう。
この街には、なんとなくリラックスした、ヒッピーの雰囲気を備えた方も多く、セカセカとしたペースは似合いません。
近くにはカリフォルニア大学サンタクルーズ校(University of California, Santa Cruz)のキャンパスもあって、自由をモットーとした「リベラルの総本山」のイメージも全米に広まっています。
1960年代のヒッピーの時代に、学生たちが気ままに過ごすイメージが培われたようですが、実際は、天文学を始めとして優秀な研究者をたくさん輩出する名門校なのです。
街の中心地ダウンタウンは、近頃こぎれいになって、オシャレなレストランやショップが建ち並びます。歩行者や自転車も多いし、片側通行(one way)も多いので、間違って逆車線に入らないように要注意(!)箇所でもあります。
この辺は、のんびりと歩いてみるとおもしろい場所だと思うのですが、白状いたしますと、わたし自身は一度も歩いたことがないのです。たぶん昔は、寄ってみたいようなお店もなかったのだと思いますし、第一、ダウンタウンはすっ飛ばして、ビーチに行きたいではありませんか!
そう、サンタクルーズの街は、ビーチを楽しみたい人が集まって来るところ。
寒流の北カリフォルニアでは、泳ぐのは厳しいですが、それでもビーチ遊びはできます。
天気のいい日は、海が真っ青ですし、海の中にグイッと突き出た埠頭(Santa Cruz Wharf)を歩くのも、とっても気持ちがいいのです。
この埠頭は、1914年に建て替えられたもので、今年はちょうど100周年記念!
言われてみれば、ものすご~く長い木の柱を海に突き立てて、その上に板を打ち付けたような、簡素な感じ。横から見ていると、柱がポキッと折れそうで恐いのですが、埠頭の上には大きな市営駐車場もあるし、レストランやおみやげ屋が何軒もあるし、そんな重みを木の柱がしっかりと支えているのです。
この埠頭は、西海岸では一番長く、埠頭の長さは、なんと800メートル以上もあるそうです!
よく映画やドラマに出てくる、サンタモニカ(Santa Monica)の埠頭よりも長いんですねぇ。
週末になると、ドライブや観光で訪れる人も多いですが、釣りを楽しむ家族もたくさんやってきて、埠頭からは長い釣り糸が無数にたれています。
折りたたみ椅子に座って、音楽を聴きながらのんびりと待っている人。車のハッチバックに腰掛け、子供たちとサンドイッチを食べながらピクニック気分の人。そして、釣り竿の前で真剣に待っている人と、いろんなタイプの釣り人たち。
そんな釣り人のエサを狙っているのが、カモメたち。小さなまな板でエサ用の魚やイカを切っていたら、それをめざとく見つけて、にじり寄ってくるのです。実際に魚を釣り上げる人は少ないようですので、カモメにとってはエサを狙う方が、効率が良いのかもしれません。
そして、埠頭の下からは、何やら声が聞こえてくるのです。
アウッ、アウッ、と誰かとお話をしているようですが、これはカリフォルニア・アシカ(California sea lion)の鳴き声。
埠頭の橋脚でひなたぼっこをしているアシカや、グループをつくって波間に浮かんでいるアシカと、埠頭のまわりはアシカの住処になっています。
以前は、こんなにたくさんはいませんでしたが、きっと人間の努力の甲斐あって、だんだんと数が増えてきたのでしょう。
昔は漁業の船も多かったので、間違って網にかかったり、海に捨てられた網で首を締められたりと、アシカ人口にとっては、かなりの打撃があったようです。
戦後アメリカで頻繁に使われていた化学物質(DDTやPCB)も、長い間、海洋生物の環境に悪影響を与えてきました。
近頃は、さまざまな取り組みによって生活環境が改善され、サメ(shark)やシャチ(killer whale)の天敵の少ない埠頭の辺りは、アシカたちにとって絶好の住処となったのでしょう。
一見、暢気にお気楽に映るアシカたちですが、埠頭から身を乗り出して観察していると、アシカひとりひとりに個性があることに気がつくのです!
そう、他と徒党を組んで、その中で「俺が一番さ!」と威張ってみたいアシカがいます。この手のアシカは、声も大きいし、気性も荒い。だから、自分よりも弱そうなアシカに対しては、噛み付かんばかりに威張りちらすのです。
そんな「いじめっこ」からは逃れたいから、みんなで仲良く輪になって、のんびりと波に浮かんでいるグループもいます。
プカリプカリと浮かんでは、みんなで風に向かってヒレを突き立てたりしていますが、こんなグループがいくつも付近の波間に浮かんでいて、ちょっと不思議な光景です。
それから、まわりの喧噪なんて、何のその。グループから離れて、ひとりで優雅に海を泳ぐアシカもいます。
いろんなタイプがいて、まるで人間社会みたいだなぁと感心していると、連れ合いが声を上げます。
「あ、あのアシカがウンチした!」
例の優雅に泳ぐアシカが水の中でウンチをしたらしいのですが、ウンチと言っても、すぐに水の中で散らされるようなウンチ。
もしかすると、ああいうウンチって、魚たちのエサになるんでしょうか?
と、ついついアシカに目を奪われるサンタクルーズの埠頭ではありますが、近くの浜辺には、人間がわんさと集まる遊園地もあります。
ボードウォーク(Santa Cruz Beach Boardwalk)という入場無料の遊園地で、今から100年以上前にできた、由緒正しい遊園地なのです。
わたしもサンフランシスコに住んでいる頃は、よくここまで遊びに来ていましたが、なんとなく「古き良き時代」という言葉を思い出すような、近頃では珍しいタイプの遊園地です。
「ジャイアント・ディッパー(Giant Dipper)」という木造のジェットコースターなんかは、今から100年ほど前にできたジェットコースターなんですよ!
ゴトゴトと車輪をきしませて坂を登って行くと、もう、それだけで(壊れそうで)スリル満点。でも、このアンティークな乗り物以外にも、新しいアトラクションだってたくさんあります(乗り物は有料です)。
というわけで、サンタクルーズの埠頭と遊園地。
日帰りのドライブには最適ですので、もしも何日かシリコンバレーに滞在されることがあったら、足を伸ばしてみるのも楽しいかもしれませんね。
追記: 蛇足ではありますが、アンティークな「ジャイアント・ディッパー」は、1924年に始動したサンクルーズ名物のジェットコースターです。90年の歴史を誇り、2012年夏には6千万人目のお客さんを達成しました。
1987年には国から「国定歴史建造物(National Historic Landmark)」の指定を受けていますが、まだまだバリバリの現役。毎日ちゃんと人がコースを歩いて点検していますし、わたしが知るかぎり、事故が起きたことはありません。どうぞご安心を!