サンフランシスコのファーマーズマーケット
サンフランシスコの湾沿いに、フェリービルディング(San Francisco Ferry Building)があります。
街のメインストリート、マーケット通り(Market Street)の突き当たりにあって、文字通り、フェリーが発着する埠頭にあります。
時計台つきの立派な建物が完成したのは、19世紀末。その頃は、フェリービルの前には、ベルト鉄道(Belt Railroad)という列車が走っていて、海沿いの埠頭から埠頭へと貨物を運んでいました。
その中央に位置するフェリービルは、まさに経済の中心であり、街のシンボルだったのです。
1930年代には、対岸のオークランドに向けてベイブリッジが架けられ、橋に車と鉄道が走るようになると、フェリーの本数も減り、一時はビルもオフィスに使われたりして、だんだんと市民から忘れられた存在となりました。
ベルト鉄道も市のストリートカー(San Francisco Municipal Railway)の線路に張り替えられ、周辺も様変わりしています。
ところが、完成から105年たった、2003年。フェリービルは、昔のように復元されたことで新たに生まれ変わり、レストランやカフェ、ワイン屋さんにチーズ屋さん、ハムの専門店やマッシュルームの専門店と、おしゃれなお店がたくさん集まってきました。
Recchiuti(リキューティ)というチョコレート屋さんもあって、ハーブ入りのチョコレートやチョコでコーティングしたナッツ類は、お土産にも最適です。
お勤め帰りの人たちは、ビルの正面にあるカフェでビールジョッキを傾けたり、中のワイン屋さんの一角でコルクを開けたりと、同僚や友人たちと夕食前のひとときを楽しんでいます。
そんなフェリービルでは、毎週ファーマーズマーケット(Framers Market、露天市)が開かれます。
フェリービルのまわりのプラザで開かれるので、フェリープラザ・ファーマーズマーケット(Ferry Plaza Farmers Market)と呼ばれますが、毎年だんだんと大きくなって、ビルの後ろのプラザばかりではなく、ビルの正面や脇にもテントが広がるようになりました。
マーケットは、週に3回、火曜日、木曜日、土曜日の朝10時から2時(土曜日は朝8時から)開かれます。
やっぱり一番大きいのは、土曜日でしょうか。
有機栽培の野菜や果物、花やハーブ、卵に蜂蜜、ハムにチーズと、おいしそうな食べ物のテントが所狭しと並びます。
デニッシュやコーヒーの食べ歩きもできますが、中でも人気なのは、火でゆっくりあぶったローティセリーチキン(rotisserie chicken、ローストチキン)。お昼時には、長蛇の列となります。
ここは、ベイブリッジを眺める場所にあって、絶好のロケーション。けれども、地元の方も、観光の方も、目の前の食べ物に夢中です。
サンフランシスコに来たら、主役はあくまでも「海」なのに、このときばかりは、海や橋や埠頭から離れるフェリーには目もくれず、みなさん品定めに余念がありません。
こちらのファーマーズマーケットは、非営利団体のCUESTA(Center for Urban Education about Sustainable Agriculture)が主催していて、農業を広く都市の住民に知ってもらう役割を果たしているそうです。
食べ物を収穫する上では、自然に優しい、自然と共存した農業(sustainable agriculture)が望ましい、という方針を掲げて20年前から活動を続けています。
ですから、情報ブースでは、水を極力使わないドライ農業(dry farming)のことを教えたり、お料理ブースでは、野菜中心のアジア料理を実演したりと、情報共有を念頭に置いたブースも目立ちます。
そして、もちろん、有機栽培に努める農家と都市住民との橋渡しの役割も果たしていますので、農家にとっても消費者を紹介してもらえて嬉しいし、都市住民にとっても良い食材を提供してもらえてありがたいファーマーズマーケットとなっているのです。
おもしろいと思ったのは、Veggie Valet(野菜のヴァレーパーキング)というシステム。野菜や果物を買うと重くなってくるので、もっとショッピングを続けられるように、ここに荷物を預けられるのです。
わたし自身は、オークランドから出店している Highwire Coffee Roasters(ハイワイア珈琲焙煎工房)でコーヒー豆一袋を買っただけでしたが、手にした荷物が重いと、ショッピングを楽しむ余裕はなくなってしまいますものね。
それにしても、歴史あるフェリービル。
10年ほど前までは、辺りは、人も寄り付かないような寂しい場所でした。
それが、今ではフェリービルばかりではなく、目の前のストリートカー停留所の広場(Harry Bridges Plaza)にも露店が並び、観光客もたくさん訪れるようになりました。
おしゃれなところには、人が集まる。人が集まるところには、活気がある。
サンフランシスコのウォーターフロント(海沿い)も、ずいぶんと楽しい場所になってきました。
そうそう、サンフランシスコの埠頭の番号には、おもしろいルールがあるんですよ。
フェリービルに向かって左側には、Pier 1からPier 49と奇数の埠頭が並び、右側には、Pier 2からPier 50(その先にはPier 70, 80 ~ 96)と偶数の埠頭が並んでいます。
観光地として有名な Pier 39 は39番ですから、フェリービルからずいぶんと左にあります(歩けない距離ではありませんが、ジョギングコースに向いているかもしれません)。
ビルのすぐ左には Pier 1/2(2分の1)というのもありますが、抜けている数字もたくさんあって、時の流れの中で昔の埠頭が姿を消していったんだと思います。