They’re TiVoing (ティヴォーってる)
They’re TiVoing.
これは、文型的には、とても単純なものですね。「彼らは何かをやっているんだ」という現在進行形です。
でも、最後の TiVoing とは、いったい何でしょうか。
TiVoing の原型である TiVo とは、電化製品の名前です(「ティーヴォウ」と発音します)。
テレビの番組を、ビデオテープではなく、パソコンなんかに入っているハードディスクに録画する機械のことです。
録画する媒体が、単に、テープからハードディスクに変わっただけではなく、いろんな便利な機能が付いてくるのですね。
まず、アナログ方式のビデオテープに比べて、このデジタルの方式は画像がとてもきれいで、劣化しません。そして、録画をしながら、録画中の番組を頭から観たりできます。
それから、今観ている番組は、録画していなくても自動的に記録されるので、見逃したり、聞き逃したりした場合、その場で巻き戻して楽しむことができます。スポーツ番組で、もう一度観たいシーンがあったら、いつでも自由にリプレーできるのです。
そして、この電化製品は、ケーブルテレビや衛星テレビの番組配信会社とつながっているので、放映時間をいちいち調べる必要がなくなります。画面に出てくる番組ガイドで、録画ボタンを押すだけで、サクッと録画予約ができたりするのです。
この便利な製品を最初に売り出したのは、シリコンバレー・サンノゼに本社のある TiVo という会社です。TiVo は会社名でもあり製品名でもあります。
そして、いまや、その人気に乗って、TiVo みたいな機能を持つ製品の総称にもなっています。Digital Video Recorder(デジタル録画機)とか DVR とか呼ばれている製品群を、TiVo と呼んだりするのです。
(写真の上段の製品は、我が家にあるデジタル録画機ですが、これは Motorola製の DVR機で、ケーブルテレビ会社 Comcast が提供するものです。デジタル放送の受信機能も内蔵します。)
そして、TiVo という言葉は、いつの間にか製品群の総称を超えて、「TiVo でテレビ番組を録画する」という動詞ともなっています。
I’ll TiVo my favorite TV program と言えば、「一番お気に入りのテレビ番組を、TiVo で録画しておこうっと」という意味になりますね。
一方、表題になっている They’re TiVoing は、ちょっとひねりのある表現なのです。
「彼らが TiVo でテレビ録画している」という文章ではありますが、別に、誰かさんの現在進行の行為を指しているわけではありません。
「誰でも TiVo を使ってテレビ録画している」といった、世の中の動きを表現しているのです。
They とは「世の中のたくさんの人」という意味で、現在進行形にしているのは、いつもそうやっているといった継続の含みがあるのですね。
これを発言したのは、金融関係のアナリストなのですが、こんな背景があったのです。近頃は、みんなが TiVo でテレビ録画しているので、再生するときはコマーシャルなんかすっ飛ばして、誰も好んで見てはいないよと。
たしかに、アメリカでは、ひとたびコマーシャルに入ると、数分間CMのオンパレードとなります。誰でも番組の続きが早く観たいので、そんなものすっ飛ばしますよね。
ですから、今後は、テレビコマーシャルのあり方もずいぶんと変化することが予想されているのです。
ところで、TiVo に限らず、過去にも、便利な製品が動詞となった例がありました。
たとえば、書類をコピーすることを “Xerox it” と言ったりします。これは、Xerox(ゼロックス)のコピー機から転用されているものですね。
そして、最近では、書類を一夜で相手に送付することを “FedEx it” と言います。こちらは、ご存じ、民間の輸送会社FedEx(フェデックス)から来ています。
ちなみに、日本では、Google(グーグル)でインターネット検索することを「ググる」などと言いますが、アメリカではまだ、“Google it” は市民権を得ていないようにも思えます。
検索といえば、同じくシリコンバレーのYahoo(ヤフー)がいますし、現時点では、どちらかが市場を独占しているという状態ではないからでしょうか。