I didn’t like her (あのコ嫌い)
アメリカに住んでいて、ときどき自分でハッとすることがあるのです。今のは、ちょっときつい表現だったかなと。
日本語で話すときと英語で話すときは、何となく性格が変わってしまうのか、それとも、英語自体が白黒はっきりしている言語のせいなのか、それはよくわかりません。でも、日本語では絶対に言わないようなことを、ズバリと言ってしまうことがあるのです。
アメリカでは、半年に一回、半強制的に歯医者さんに行かされます。歯垢(plaque)や歯石(tartar)を取るデンタル・クリーニング(dental cleaning)に行かされるのです。
一回行けば、半年後の予約を自動的に入れられるので、あちらのペースにはまって、ずっと通うことになるのです。
あるとき、クリーニングの都合が悪かったので、歯医者さんのオフィスに電話し、予約を変更してもらいました。ついでに、担当の衛生技師(hygienist)も変えてもらうことにしました。
今まで何年も担当してくれていたバーバラ女史は、職業病から肩がおかしくなり、一年前に手術をしていたのでした。
復帰後、一回やってもらいましたが、もう以前のように完璧ではありませんでした。シミも残ったままでしたし。おまけに、コーヒーや紅茶を飲むことが、まるで犯罪のような口ぶりだったし。
そこで、別の人をお願いしますと言うと、「シルヴィア嬢になりますね」との答え。実は、このシルヴィア嬢が、クセモノなのです。一度やってもらったら、痛いは、血は出るはで、一回で懲りたのでした。
そこでつい本音が出て、こう言ってしまったのです。I had her once, but I didn’t like her at all(彼女には一度やってもらったけれど、私あの人ぜんぜん好きじゃなかったです)。
ところが、現時点では衛生技師はふたりしかいないとのこと。仕方がないので、シルヴィア嬢で我慢しようと、こう答えました。Well, she was just starting out when I had her, so she may be better by now(そうねぇ、私が彼女にやってもらったときは、彼女は仕事始めてすぐだったから、今はもうちょっとマシになっているかもね)。
いずれにしても、日本語では絶対にこんなことは申しません。
先日、そのシルヴィア嬢にクリーニングをやってもらいました。そして、以前痛かった理由がようやくわかったのです。彼女は荒っぽいのではなく、歯ぐきの奥の方まで、一本ずつ丁寧におそうじしてくれていたのです。
前回は、何も説明してくれなかったので、その親切がわからなかったのです。そして、ただ単に荒っぽい人だと思ってしまったのです。
シルヴィア嬢は、中国系かのアメリカ人で、英語はネイティブではありません。だから、あんまり口数が多いほうではないのです。
でも、やってもらう側としては、何が問題があるのかとか、どういう処置をしているのかと、きっちりと説明してほしいのです。黙ってゴリゴリやられたら、単に「下手くそな人ね」と思ってしまうではありませんか。
一般的に、東洋人は、自分の行動を正当化する(相手にわかるように表現する)ことに慣れていません。一方、アメリカでは、きちんと相手に説明しながら行動を取るようなところがあります。黙って何かをやったら不気味に思われることもありますし。
だから、シルヴィア嬢も、いい仕事をしているのに、アメリカ人の患者には誤解されやすいんじゃないかと思った次第です。
こちらからシルヴィア嬢に声をかけたら、ご親切なことに、きちんとした歯の磨き方まで指導してくれました。決して無口な方ではないようです。
その日着ていた鮮やかなブルーのカーディガンが、「あら、いい色ね」と、会話のきっかけを作ってくれたのかもしれません。
写真のご説明:半年に一回歯医者さんに通うと、いろいろおまけグッズをもらいます。だいたい、歯ブラシ(tooth brush)、歯磨き粉(tooth paste)、デンタル・フロス(dental floss)の三種の神器が多いです。
写真の「ノコギリ」みたいなものは、フロスの一種です。片手で歯の間をそうじできるタイプです。最近は、電動フロスなどもあるようですが、これは歯並びのよい人にお勧めだそうです。
ちなみに、デンタル・クリーニングでは、歯をきれいにするだけではなく、気になる部分のレントゲンを撮ったり、歯医者さんの点検(dental checkup)があったりします。歯が痛くなくても歯医者に通う、これは大切なことかもしれませんね。
アメリカ文化では、きれいな歯並びと真っ白な歯というのは、とっても大事なことでして、これにかける費用は日本人の比ではないでしょう。
ティーンエイジャーのブレース(brace、歯並びの矯正器)などは、テレビでもよくご覧になると思います。歯の漂白キットだとか、レーザーを使った漂白なども人気の高いものですね。