The (ザ・定冠詞)
キャーッ!
気が付けば、この「英語ひとくちメモ」のセクションを最後に更新して、一年近くではありませんか!月日が流れるのは、なんとも早いものですねぇ。
そう、最後に更新したのは、去年の7月6日。ちょうどその頃、本の執筆に取りかかり、毎日インタビューをしていたときでした。それ以降は、執筆に追いまくられ、まったく余裕がなくなって・・・と、一応言い訳をしておきましょう。
ちなみに、この本とは、いわゆる「ゴーストライター(出版業界では構成と呼ばれる)」として執筆したものでして、シリコンバレーに生まれたIT業界スタートアップ企業の成長過程や、日本とのビジネスのやり方の違いなどに焦点を当てたものです。(9月初旬に刊行予定となっております!もちろん、日本語です。後日訂正:刊行は10月上旬のようです。)
というわけで、久方ぶりの英語のレッスンは、「定冠詞 the」にいたしましょう。
なんだか、地味なお題ではありますが、実は、the の使い方というのは、英語の中でも最も難しい部類だと個人的には思っているのです。この the を使いこなせるようになれば、「あなたの英語も大したもの!」と言えるのではないでしょうか。
逆に言うと、間違ってたって、大して問題にはなりません。だって、難しいんだから、外国人が間違うのも当然みたいな感じでしょうか。
白状いたしますと、定冠詞にはとっても苦労させられた思い出がありまして、「ここに the が抜けている」だの、「ここは a じゃなくて、the だよ」だのと、論文が真っ赤になって返ってきたことも度々なのです。
いやはや、一番苦労したのは、大学院の卒業論文でしょうか。論文審査委員会の教授のひとりから、「定冠詞もめちゃくちゃで、とっても大学院生のレベルの英語ではない!」と、第一版を却下されたときには、もう泣きそうでした。
お陰で、ちょっとは慣れましたけれど・・・
というわけで、ここでちょっとだけ規則のお話をすると、不特定の名詞に付ける「不定冠詞 a」に対して、「定冠詞 the」の方は、固有名詞の前に付けたり、一度出てきた名詞を再度指すときに使いますよね。
たとえば、固有名詞の場合だと、こういうのがあります。
The Central Intelligence Agency
そう、通称 CIA のことですね。世界のあちらこちらで、スパイ活動を行っています。厳密に言うと、略語の場合でも、the CIA みたいに、最初に定冠詞を付けるのが正しい言い方です。
一方、前述の名詞がもう一度出てきて、定冠詞を使う場合だと、こういう文章があるでしょうか。
There is a house on the hill. The house has a green door.
(丘の上に家があります。その家には、緑色のドアがあります。)
まあ、ふたつ目の文章では、「その家」というのを it と置き換えることもできますが、あえて house という名詞を使ってみると、the house となりますね。
そして、このふたつの用法以外にも、前置詞 of を伴う名詞に、the を付ける慣習などもありますね。
たとえば、in the vicinity of downtown (ダウンタウンの付近)みたいに。
このように、いろいろと規則はあるわけですが、ちょっと難しいのは、固有名詞の場合でも、the が付いたり、付かなかったりと、はっきりしていないことでしょうか。
たとえば、「サンノゼ市役所」には、the は付きません。San Jose City Hall と言います。
こちらがその市役所なんですが、なんとも、近未来的な建物でしょう。2005年の夏にオープンしたばかりの新品の庁舎ですが、この写真は、まだオフィスに人が入居する以前の、できたてのホヤホヤの頃に撮影したものです。
いつかまた、サンノゼの歴史を詳しくお話するときに、市役所の場所の推移など、裏話をご披露いたしましょう。
それから、学校にも the は付けないのが普通です。たとえば、「サンノゼ州立大学」は、San Jose State University といいます。
シリコンバレーにある公立の大学というと、サンノゼ州立大学が筆頭に挙げられますが、この大学は、1857年に創設された由緒ある学校なのです。シンボルとなっている建物( Tower Hall )にも、風格がありますよね。
学校ができた1850年頃というと、サンノゼの人口もまだ4千人ほどでした。
今では、アメリカで10番目に大きい街(人口100万人弱)となり、高層ビルもだいぶ増えてきました。
こういう風に、固有名詞であっても、the が付いたり、付かなかったりするものですから、英語がネイティヴであるアメリカ人の間でも、混乱を招くこともあるようです。
最近、この辺りで話題になったものに、こんなものがありました。「フリーウェイの号数に、 the を付けるか、付けないか?」
たとえば、カリフォルニア州を南北に突っ切る101号線( US Route 101 )は、「 the 101 」なのか、それとも、単に「 101 」なのか?
いやはや、どうしてこんなに面倒くさい話題が取り上げられたかというと、サンフランシスコやシリコンバレーを中心に、カリフォルニア北部では、フリーウェイの番号に the を付けないのが普通であるのに対し、ロスアンジェルスやサンディエゴなど、カリフォルニア南部では、the を付けるからなのです。
よくテレビやラジオで、交通情報がありますよね。そういうとき、カリフォルニア北部では、こういった言い方をします。
Northbound 101 is heavy from Bayshore Boulevard to 280 due to an accident.
(101号線の北方向は、事故のため、ベイショア通りから280号線まで混雑しています。)
ところが、ロスアンジェルス辺りでは、こういう言い方をするのです。
There’s an accident on the 101.
(101号線で事故がありました。)
北部の人間にしてみれば、「わざわざ the を付けるな!」と言いたいところなのですが、南部の人にしてみれば、この定冠詞を付ける習慣には、ちゃんとしたわけがあるらしいのです。
どうも、ロスアンジェルス近郊のフリーウェイには、the Hollywood Freeway (ハリウッド・フリーウェイ)だの、the Santa Ana Freeway (サンタアナ・フリーウェイ)だのと名前が付いていて、普通は名前で呼ぶんだそうです。そのニックネームを聞けば、フリーウェイの番号がなくても、だいたいどこを通っている道路とか、行き先はどこかとか、現地の人にはわかるようになっているらしいのです。
ところが、たとえば the Ventura Freeway (ヴェンチュラ・フリーウェイ)になると、101号線と134号線の両方が含まれていて、いったいどちらの道かわからない。そういう場合は、仕方なく番号で呼ぶことになるわけですが、いつものクセで、番号にも the を付けてしまうらしいのですね。だから、「 the 101 」となってしまう。
常日頃、カリフォルニアの北と南は、あんまり仲が良くありません。当然の事ながら、何かにつけて、「ふん、やっぱりあっちはおかしいのさ」とお互いが思っているわけです。
まあ、こういうフリーウェイの名称論争に、どちらが正しいも間違っているもないことではありますが、なんとなく相手のすることが気に食わないのですね。
ちなみに、サンフランシスコの辺りでも、ちゃんとフリーウェイに名前が付いてはいるのですが、こちらは地名ではなく、人の名前が多いのです。どちらかというと、郷土に貢献した人の名前を儀礼的に付けているので、名前を聞いただけでは、いったいどの道路かわからないという事情はあるのですね。
たとえば、シリコンバレーの幹線道路ともなっている、280号線( Interstate 280 )には、Junipero Serra Freeway という区間や、John F. Foran Freeway といった区間があります。
ジュニペロ・セラさんは、カリフォルニアに最初にやって来たスペイン人の神父さんで、18世紀後半、いまだ先住民族の部族しかいなかったカリフォルニアのあちらこちらに、カトリック教会(ミッション)を建てた人です。
一方、ジョン・フォランさんの方は、カリフォルニア州選出の連邦上院議員を務めた方だそうです。
それから、280号線には、CHP Officer Hugo Olazar Memorial Highway という名前の区間もあります。きっと、これは、フリーウェイ上で殉職した、カリフォルニア・ハイウェイパトロールの警察官( CHP Officer )の方の名前なのでしょう。
そういえば、あちらこちらで「 Officer ~ Freeway 」というのを見かけますが、職務を全うしようとして犠牲になった警察官の方々に敬意を表するものなのでしょう。
というわけで、カリフォルニア北部のフリーウェイには人の名前が使われているので、誤解を生まないようにと、しっかりと号数を使う習慣ができあがったようですね。そして、その番号には、the は付けない!
ほら、看板もこんなにすっきりでしょ。280号線の南方向( 280 South )から101号線( 101)への分岐も、とってもわかりやすく表示されています。この辺りに初めて来た人にも、ちゃんとわかるようになっているんですね。
追記:実は、道路の番号だけではなくて、地域の名前にも、the を付けたり、付けなかったりと、かなりややこしいのです。たとえば、サンフランシスコ近郊の「ベイエリア」というときには、the Bay Area といいます。けれども、「シリコンバレー」は、Silicon Valley といいます。こちらには、the は付きません。
これは、多分、ベイエリアの方は、ちゃんとした地理的な表記であるのに対し、シリコンバレーの方は、地図にもない、ニックネームであるところから来ているのだと思います。