English words
英語ひとくちメモ/おもしろ表現
English Words 英語ひとくちメモ
2008年12月14日

Dead fish (死んだ魚)

いきなり変な言葉ですみません。

はい、「dead fish」というのは、そのままストレートに「死んだ魚」という意味ですね。

どうしてこんな言葉を書きたいと思ったかというと、ふとあることを思い出したからです。

大学を卒業して、一時期生まれ故郷に住んでいたことがあったのですが、そのとき出会ったアメリカ人が、たどたどしい日本語でこう言ったのです。

「死んだ魚の目のようですね。」

それを何年もたった今、ふと思い出したのです。アメリカで暮らしていて、こんな表現はあんまり聞いたことがないけれど、厳密にはいったいどういう意味なんだろうと。

調べてみると、「死んだ魚(dead fish)」には、「何も感情を表さない人」という意味があるようです。だから、元気がないとか、感情の起伏がないとか、何を話しかけても張り合いのない人とか、そんな意味が含まれているのでしょう。

いえ、別にわたし自身が「感情を表さない人」と言われたわけではありません。わたしの握手の仕方が「元気がない」と言われたのです。

なんでも、世の中には「死んだ魚の握手( ”dead fish” handshake)」なる表現が存在するそうで、わたしの出会ったアメリカ人は、わたしが軽く遠慮がちに、まるで「死んだ魚」のように握手したのが気に食わなかったのでしょう。

握手というものは、しっかりと手と手を握り合い、互いの目を見てにこやかに交わすものと、彼は固く信じていたようです。その基準からすると、わたしの握り方はちょっと弱過ぎたのですね(でも、血流が無くなるほどギュッと握ってはいけませんよ)。

とすると、彼が口にした日本語は、「死んだ魚の目」ではなくて、「死んだ魚の手」だったのかもしれませんね。あまりお上手な日本語ではなかったので、わたしには「手」が「目」に聞こえたのかもしれません。
 そう、きっと彼は、「死んだ魚の手(握手)のように、まるで元気がありませんね」と言いたかったのでしょう。まったくの英語の直訳ではありますが、日本語には無い、なかなかおもしろい表現ですよね。


ちなみに、fish(魚)を使った表現の中に、fishy というのがあります。

形容詞で「魚くさい」、つまり「何だか匂うな、怪しいな」と、懐疑心を表す言葉となっています。きっと fish を使った表現では一番ポピュラーなものだと思います。

こういうのもあります、fish out of water 。こちらも、比較的よく耳にする言葉ではないかと思います。

文字通り「水から出た魚」のように、「居心地が悪い(feel out of place)」とか「どうも仲間に入れない(don’t belong)」といった意味合いがあります。

それから、調べてみると、fish を使ったこんなことわざがありました。

The fish will soon be caught that nibbles at every bait.

「毎回餌に食い付く魚は、そのうちに獲られる」(nibbles at bait は「餌をつっつく」という意味)

つまり、「いつも興味津々でいると、あまり良い事はない(そのうちに自分の悪口を耳にすることになるだろう)」

こうやってみてみると、魚を使った英語の表現には、あまり好印象のものはありませんね。まあ、もともと英語文化圏では、アジア文化ほど魚に縁がないからかもしれませんが、それに比べると、日本語には魚関連のことわざが結構たくさんあるようですね。

ことわざ辞典をめくってみると、たとえば、「魚心(うおごごろ)あれば水心(みずごころ)」「漁夫(ぎょふ)の利」それから「雑魚(ざこ)の魚(とと)まじり」なんかが目につきました。
 魚の名前が出てくることわざには、「鰯(いわし)の頭も信心から」とか「蝦魚(えび)で鯛を釣る」などがありますね。


さて、ふと思い出した「死んだ魚の目(手)」ですが、人間というのは不思議なものでして、何年もたって答えを突然思いつくことも度々ありますよね。

昔、英語の勉強をしていて、どうしても聞き取れない単語がありました。

ひとつは、temperamental という形容詞でした。「感情が激高しやすい(興奮しやすい)」とか「気まぐれな」という意味ですが、名詞形 temperament(気性、もしくは、感情の起伏の激しい気性) から派生した形容詞になります。

いやはや、早口な米語で言われると、最後の「タル(~ tal)」という部分が「ロウ」と聞こえてしまうのです。だから、「テンパラメンロウ」っていったい何だぁ?と、長年疑問に思っておりました。

こういうのもありました。「オルメリ・キャーノプナー」。

もうこっちになると、何のことやらわけがわかりません。

ところが何年もたって、ある朝フロリダで目覚めたら、ぽっかりと頭に浮かんできたのです。あ~、automatic can opener のことだったんだって。
 そう、automatic 、つまり電動の缶切り(can opener)のことだったのですね。

もうアメリカ人にかかると、「オートマティック」が「オルメリ」に聞こえてしまうんです。
 それに、缶切りだって「キャン・オープナー」ではありません。「キャーノプナー」なんです。フランス語ほどひどくはないけれど、英語だってリエゾン(連音)することも多々あるのです。

(ちなみに、日本ではあまりお目にかかりませんが、ものぐさなアメリカ人は、電動の缶切りをよく使うようです。かなり大がかりな機械から、手元でウイ~ンと動くものまで、いろいろとあるようです。日本では縁が薄い道具なので、名前が聞き取れたにしても、実物を想像し難いこともありますよね。)

何はともあれ、何年もたってこの答えを思いついたときは、ほんとに嬉しかったですねぇ。自分の脳がどのように働いていたかは知りませんが、きっと意識化でカリカリと模索していたのでしょう。

「死んだ魚」と「オルメリ」。この言葉のトリックを、わたしは一生忘れはしないでしょう!

追記: お魚の写真は、沖縄県那覇市の魚屋さんで撮りました。南洋の産物らしく、実にカラフルな魚です。
 海の写真は、シリコンバレーから小1時間南下した海岸沿いで撮影したものです。冒頭にあるのは、モントレーとカーメルのふたつの街を結ぶ「17マイル・ドライブ(17-Mile Drive)」の途中。ここは、ドライブするだけで楽しい、風光明媚なルートとなっています。そして、最後の写真は、カーメルからちょっとだけ南下した、ポイント・ロボス州立保護区(Point Lobos State Reserve)です。この日は天気が良くて、海が真っ青でした。

それから、蛇足とはなりますが、日本語のことわざ辞典をめくっていてびっくりしたことがありました。上でご紹介した英語のことわざ「 The fish will soon be caught that nibbles at every bait 」には、日本語でも似たようなものがあるのですね。
 「淵中(えんちゅう)の魚を知る者は不祥(ふしょう)なり」
 意味は、「あまり察しがよいと、かえって身の災いになる」ということだそうです。つまり、淵の中にいる魚がわかるように、人並み以上に察しがよいと、時には、こちらの秘密を察しはしないかと疑われ、ひどいめにあうことがあるということ(福音館書店『ことわざ・故事・金言小事典』より引用)。
 どうも中国に由来することわざのようですが、英語でも言い伝えられているように、何事も必要以上に詮索をすると、痛い目にあいますよ、ということでしょうか。
 まあ、そうまでおっしゃるなら、頭の隅に入れておきましょう。


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