Drink responsively(責任を持って飲んでください)
お久しぶりの英語のお話となりますが、いきなり、おっと! といった題名です。
Drink responsively.
これは、とても単純な命令の構文ですね。
つまり、「責任を持って飲みなさい」。
Drink は、「(何かを)飲む」という動詞。そして、responsively という副詞は、「(まわりの環境に)敏感に反応しながら」という意味があります。
通常、Drink responsively という表現は、お酒に対して使われるものなのです。自動詞 drink には、「お酒を飲む」という意味もありますから。
ですから、「前後不覚にならないように、お酒の飲み過ぎには注意しなさい」といった含みがあるのです。だって、喉ごしがいいと、ついついクイっとやってしまいますものね。
まあ、アメリカで Drink responsively と聞くと、「飲み過ぎには注意してください」とテレビコマーシャルで警告を発する、スミノフ・ウォッカ(Smirnoff Vodka)なんかを思い浮かべるでしょうか。
若い人たちを相手に大々的にお酒を宣伝しておいて、いったい何を言ってるの? とも思ってしまうのですが、実は、このお話を書こうと思ったきっかけは他にあるのです。
それは、Drink responsively という表現がまったく違った意味で使われていて、「おや、珍しい!」と、ご紹介したくなったからでした。
先日、大好きなコーヒー屋さんの豆のパッケージが一新されていて、袋の上部には「Drink me(わたしを飲んでちょうだい)」などと、かわいく書いてあります。
そして、裏側には、こんなに恐~い但し書きがしてあったのでした。
Drink responsibly: Enjoy this coffee within 14 days
「責任を持って飲むこと。このコーヒーは14日以内に楽しむべし。」
こちらのコーヒー屋さんは、シリコンバレーで一押しのコーヒー専門店でして、その名も「ベアフット・コーヒー・ロースターズ(Barefoot Coffee Roasters)」。
訳して、「裸足(はだし)の自家焙煎屋」。
想像するに、「Barefoot」なるネーミングは、裸足に近いような、気取らない姿で作業をする世界各国のコーヒー農家と、裸足で自由に野原を闊歩する野生児といったイメージを打ち出しているのではないでしょうか。
どうして「野生児」なのかって、お店には、なんとなくヒッピーの雰囲気が漂っているから。
とくに偉ぶった様子もなく、淡々と世界各地の個人農家からコーヒーを調達して来ては、納得のいくまで手間ひまかけて焙煎する。だから、自分たちの豆は自信を持ってお勧めできるので、これを飲むときには、どうか責任を持って飲んで欲しい。
Drink responsively という但し書きには、そんな提供者の願いが込められているのでしょう。それに、焙煎したあと2週間以上も放っておくなんて、それは作り手にも失礼になりますものね。
というわけで、ついでにコーヒーの味を表現する言葉をちょっとご紹介いたしましょうか。
こちらは、エル・サルバドールのアフアチャパン地区アパネカという街にある、サンノゼ農園のコーヒー豆。
品種(varietal)は、「レッド・ブルボン(Red Bourbon)」と呼ばれるアラビカ種で、マダガスカル島の東に浮かぶブルボン島(現レユニオン島)が原産地なんだそうです。
レッド・ブルボンは、今となっては、世界で生産されるコーヒー豆でもっともポピュラーな品種のひとつだそうですが、おもに1000メートル以上の高地で栽培されるので、中米グアテマラやエル・サルバドールの農園で好んで栽培されているようです。
こちらの豆の特徴は、バターたっぷりの香ばしい飴「バタースコッチ(butterscotch)」の甘みと、柑橘系の酸味。その辺のところを、コーヒー屋さんはこんな風に表現しています。
Tropical butterscotch. Hints of clover honey, with sweet green grapes and citrus and just the suggestion of ruby red grapefruit. The flavor and texture of raw sugar with butterscotch candy throughout.
トロピカルなバタースコッチ。かすかなクローバーの蜂蜜の甘みと、甘い緑のぶどうと柑橘の(甘酸っぱさ)に、ちょっとしたルビーレッド・グレープフルーツの甘みも加わる。全体的に、粗糖やバタースコッチキャンディーの香りと舌触りが広がる。
(粗糖というのは、糖蜜を完全に分離しきっていないので、コクの強いお砂糖となります。)
まあ、なんとも、複雑怪奇な表現ではありますが、コーヒーもワインと同様、いろんな「うんちく」を並べるのが流儀となっているのですね。
それでも、偉そうに難しい言葉を並べているのではなくて、わたし自身も、書いてある通りだと思うのですよ。
バタースコッチキャンディーのように甘みがあって、砂糖をカラメル状にこがしたような香ばしさがある。
それから、コーヒーには大切な酸味(acidity)。柑橘系(citrus)の酸味は、グアテマラやニカラグアの豆でもよく出ていますけれども、このエル・サルバドールの豆でも十分に楽しむことができるのです。
いそいそと買って来て最初に飲んでみたとき、こう思ったものでした。「あ、ほんとにバタースコッチだ!」
そして、甘みがかなり強いので、牛乳の甘みは合わないかもしれないなぁと。
なんとなくコーヒーを語ってしまいましたが、中米産の豆が大好きなわたしとしましては、ベアフット・コーヒーというお店は、なくてはならない存在なのです。
中南米産に限らず、ここではアフリカのケニアやタンザニアやエチオピア、そしてルワンダのコーヒーも手に入ったりするのですが、やはり基本は、個人経営の小さな農園。
環境に配慮して、動物や鳥たちとともに自然と同化しながら、じっくりと豆を育てる。そして、雇われる労働者も共同経営者として運営に参画している。
そんな意識の高い農園が、こちらのコーヒー屋さんの取引先となっているのです。
巷には、コーヒーのチェーン店があふれかえり、街角ごとに緑色のロゴを見かけたりいたします。昨年の「金融ショック」以来、ちょっと遠のいていた客たちも、近頃はまたこの緑の看板を目指して戻って来ているみたいですね。
でも、やっぱり自分には「裸足のコーヒー」だなぁと、頑固に通い続けているのです。
そして、このお店を教えてくれた友達には、足を向けては寝られないのです。
シリコンバレーにお越しの際は、ぜひ立ち寄ってみてくださいね。場所は、シリコンバレーのど真ん中、サンタクララ市にありまして、賑やかな目抜き通りのスティーヴンズ・クリーク(Stevens Creek Boulevard)とローレンス高速道路(Lawrence Expressway)が交わる角(北東の角)となります。
お店に漂う、何とも言えない香ばしい空気に、至福すら感じることでしょう!
(お断り:べつに、お店から宣伝文を書いてちょうだいと頼まれているわけではありません。あしからず。)
追記: 蛇足とはなりますが、エル・サルバドールといえば、「パカマラ(Pacamara)」という独特の豆が生産されています。1950年代に、かの地で栽培され始めたそうですが、今では世界に名を知られるまでになっています。
パカマラの豆は、普通よりもずいぶんと大きいので、最初に見たときはびっくりしてしまいましたが、大きいわりに、お味は複雑で上品なのです。やはり甘みと酸味が強くて、味わうほどに味に変化がみられるような、よくできた豆なのです。(右側の豆が、パカマラです。)
いつもは一袋12オンス(約340グラム)で12ドル(約1080円)という値段ですが、こちらは15ドル(約1350円)でしたので、やはり「高級品種」として扱われているのでしょう。
ところで、この「ベアフット・コーヒー」では、メンバーカード(登録無料)を持っていれば、10袋買うと通常の12ドルの商品が1袋タダになるのです。10パーセントの割引とは、なかなかいい条件ではありませんか?