Nerves of steel (鋼の神経)
いきなり、すごいお題目ですが、
nerves of steel。
これは、まさに読んで字のごとしで、「鋼(はがね)の神経」という意味です。
(nerves が神経で、steel は鋼という意味ですね。)
神経が鋼でできているということは、つまり「少々の事ではへこたれない、忍耐力と心の平静さ、そして、立ち直りの早さを持っている」ということですね。
どうして薮から棒にこんなお題目にしたのかといえば、先日、ビジネスニュースを観ていたときに、この表現がお出まししたからなのです。
ニュースでは、こんな使われ方をしていました。
It’s going to take the nerves of steel to go through all the volatility in the market.
「これからの(株式)市場の不安定さを乗り切るためには、鋼の神経が必要となるでしょう。」
なぜなら、今年の終わり頃には、株価全体は少しは上がっていると思われるけれども、それに至るまでには乱高下が予想され、鋼の神経がなければ、ちょっとやってられないでしょう、というわけなのです。
(この場合の動詞 take は、「~を必要とする」という意味です。たとえば、It takes two to tango といえば、「タンゴを踊るには二人必要でしょ」。転じて「(何かを成し遂げるには)相手が必要でしょ」という意味になりますね。)
この表現をテレビで耳にする直前に、わたしはボ~ッとこんなことを思っていました。
「人の心は鉄でできているわけじゃないから、傷つきもするし、世の中が嫌になるときもあるでしょう」と。
すると、いきなり nerves of steel が出てきたので、日本語も英語も似たようなものだなぁと感心したのでした。
日本語でも、「鋼の神経」とか「鋼の心臓」とか言いますよね。
そんな風に「鋼鉄の心」を持っていないと、乗り切れないこともあるのです。そして、「あ~、鋼の神経を持っていたらなぁ」とボヤくのは、どこの世界でも同じようですね。
さて、この nerves of steel を書こうと思いながら、気を付けていろんな表現を聞いてみると、英語には、「神経」のように体の部分を使った表現が多いことにつくづく感心するのです。
以前「A pain in the butt(お尻が痛い?)」というお話でも、「お尻」や「首」が出てきました。あれ以来、体を使った慣用句に関してはリストを作っているくらいなのですが、この話を書き始めてからも、出てくるは、出てくるは。次々と耳に入ってくるのです。
たとえば、I had a shiver on my spine.
これは、「わたしは背筋がゾクゾクッとした」という意味です。
(spine は背骨、shiver は身震いとか悪寒という意味ですね。)
こちらの表現は、良いこと、悪いこと両方に使われるようではあります。たとえば、何か感動的なものを見たり、聞いたりして背筋がゾクッとしたとか、逆に、何かしら気味の悪いものを見てゾクッとしたとか、どちらでも使える表現のようです。
けれども、send shivers down my spine という表現になると、もっぱら悪い意味に使われるようでもあります。
It sent shivers down my spine
「(それを見て)背筋がゾクゾクした」
この場合、it の部分をいろんな名詞と置き換えると、かなり便利に使えますね。
それから、背筋とともに使われる前置詞(on とか down)ですが、実際には、いろいろと使われているようです。つまり、身震いを感じる場所がいろいろあるので、人それぞれの表現があるということでしょうか。たとえば、
It sent shivers up my spine. (背筋の下から上に悪寒が走った)
I had a shiver in my spine. (背筋の辺りがゾクッとした)
(上の写真は、以前「ハッピーハロウィーン」というお話でも掲載しましたが、サンフランシスコのカストロ通りで撮った、路上ハロウィーン・パーティーの様子です)
さて、体の部分を使った表現には、こんなにかわいいのもあります。
「わたしは体全部が耳になっています」というわけですが、「わたしは、その話にとても興味があるので、大いに聞く耳を持っています」という意味になります。
「さあ、ちゃんと聞いてるから、早く話してちょうだい!」というときに、頻繁に使われる表現です。こういうときには、耳が大きくなるのと同時に、目もランランと見開いているわけですね。
お次は、
We fought tooth and nail.
「我々は歯と爪で戦った」ということは、「我々は、(何かに対抗しようと)一生懸命に戦った」という意味になります。
こちらの表現は、文字通り、相手に抵抗しようと必死に戦ったという場合でもいいですし、何かを成し遂げるために懸命に働いたという場合でも、どちらでも使えます。
We fought tooth and nail to gain more market share といえば、「我々は、もっとマーケットシェア(市場占有率)を獲得するために、必死にがんばった」という意味になります。
さて、お次は、
I escaped on hands and knees.
「わたしは手とひざで逃げ出した」ということは、「四つん這いになって辛くも逃げ出した」という意味になります。
ちょうど赤ちゃんが四つん這いになって歩くのと同じように、二本足ではなく、手とひざを使って前に進むことをさします。
この表現が使われていたのは、火事場の生中継でした。焼け落ちる家から、命からがら逃げ出したというわけです。
手が出てきたところで、足もありますよ。
I got off on the wrong foot.
「わたしは間違った足で歩き出した」ということは、「最初に間違ったことをしてしまったので、物事がうまく行きそうにない」ということです。
逆に、「初めっからうまくやったので、最後までうまく行きそう」というのには、こういう風にいえばいいですね。
I got off on the right foot.
間違った足(wrong foot)の代わりに、正しい足(right foot)を使えばいいのですね。
似たような表現に、best foot forward というのがあります。たとえば、このように使います。
Put your best foot forward in a job interview.
「仕事の面接のときには、あなたのベストの足を前に出しなさい」ということは、「(面接の相手に対して)第一印象を良くしておきなさい」という意味になります。
良い方の足を前に出しておくということは、印象を良くするというわけですね。
さて、手や足があるということは、腕もあります。たとえば、こんな表現があるでしょうか。
It doesn’t cost an arm and a leg.
「それは、腕や足ほど費用がかからない」ということは、「そんなに莫大な金がかかるわけではない」というわけです。
なんでも、この表現は、王様や貴族の肖像画からきているのだそうです。
昔、画家に自分の肖像画を描いてもらおうとすると、肩までの肖像画が一番安く、腕や足を入れた全身像は、とっても高かった。
だから、「莫大な金」という意味で、an arm and a leg という表現が生まれたのだそうです。(参考ウェブサイト: www.phrases.or.uk)
I want something that doesn’t cost an arm and a leg といえば、「あんまり高くないものが欲しいわ」という意味ですね。
(こちらの写真は、エル・グレコ作『フランス王 聖ルイ』部分)
はてはて、つい調子に乗り過ぎてたくさんご紹介してしまいました。
けれども、今回まとめてご紹介したものは、冒頭の nerves of steel を聞いたあと、24時間以内に耳にした表現ばかりなのでした。
それほど、英語には、体に関する表現が多いということでしょうか。
まだまだ山ほどありますが、本日はこのくらいにして、また別の機会に譲ることにいたしましょう。