Tailgating(テイルゲーティング)
久しぶりの英語のお話となります。
前回は、お仕事で日本からアメリカに出張したシナリオを書いてみました。
今回は、とってもアメリカらしいお話にいたしましょう。
表題になっている tailgating(テイルゲーティング)という言葉は、アメリカ文化を表す代表的なものかもしれません。
Tailgating は、最後に ~ing の付いた名詞形となっていますが、もともとは tailgate という名詞からきています。
Tailgate(テイルゲート)というのは、車の後部にあるドアのことです。たとえば、スポーツタイプ車の後部ドアだとか、小型トラックの荷台についている小さなドアだとか、一番後ろ(tail)にあるドアや開閉式ゲート(gate)のことです。
そんな単語から派生して、to tailgate というと、まるで誰かの後部ドアにくっつくように、接近して運転することをさします。
まあ、たいていは嫌がらせのためにやることでしょうか。前の車が異常に遅いとか、自分の前に突然割り込んで来たとか、そんな不快感を表すために、わざと前の車を tailgate をするわけですね。
同じく tailgate(後部ドア)から派生した言葉ではありますが、表題の tailgating は、とっても楽しい言葉です。
車の後部ドアを開け放って、パーティーをすることです。Tailgating party(テイルゲーティング・パーティー)または Tailgate party(テイルゲート・パーティー)とも呼ばれます。
車のドアを開け放つと、トランクにはビールや冷たい飲み物が入ったクーラー容器があって、ポテトチップスなんかのおつまみや、ハンバーガーの材料など食べ物も入っています。ハンバーガーやホットドッグを焼くために、小さなバーベキューグリルなんかも入っているでしょうか。
そして、食べ物や飲み物をゴソゴソと出してきて、車を停めたパーキングでパーティーを始めます。
ハンバーガーをこんがりとグリルしてパクついたり、ビールに舌鼓を打ったりと、みんなで歓談のひとときを楽しむのです。
そう、この tailgating は、おもに野球やフットボールなどのスポーツイベントの前に行われます。
どんな街に行こうと、みなさん、ごひいきのチームの試合が始まるのを首を長~くして待っています。ですから、そんな緊張感の混ざる興奮をみんなで楽しむのが tailgating というわけです。
だいたいスポーツイベントでは、食べたり飲んだりというのも楽しみのうちですが、tailgating をやることで、イベントの前から楽しみを始めてやろうというわけですね。
わたしなどは、tailgating という言葉を聞くと、フットボールシーズンを思い出します。
9月に入って、空は澄みわたり、涼しい風が吹くようになると、あ~、フットボールが始まるんだぁと、ピリッとした緊張感を抱くようになります。
そんな季節になると、多くのアメリカ人は秋の tailgating を楽しむようになるのです。(こちらは、プロフットボールのオークランド・レイダーズのホームスタジアム、マカフィー・コロシアム)
フットボールだけではありません。春から夏は野球、秋から冬はバスケットボールやアイスホッケー。Tailgating のできるイベントが何かしらあるのがアメリカなのです。
Tailgating は、実にアメリカ的な言葉ではありますが、もうひとつアメリカらしいのが、rubbernecking(ラバーネッキング)でしょうか。
こちらも最後に ~ing のついた名詞形となっていますが、もともとは rubberneck という名詞からきています。
直訳すると、何やら不思議な言葉ですよね。だってゴム(rubber)の首(neck)なのですから。
ちょっと想像しにくいですが、rubbernecking というのは、何か興味のあるものをしげしげと車内から見つめることをさします。
多くの場合、高速道路なんかを運転していて、脇で起きた事故を通りすがりに興味津々に眺めることをさしています。
道路に事故車が止まっていると、通り過ぎる車が全員スローダウンして、懸命に詳細を見ようとするので、事故の現場から後ろがひどく渋滞してしまう、という含蓄もあるでしょうか。
どうして「ゴムの首」なのかというと、ゴムがビヨーンと伸びるように、首がニョロッと右から左に伸びて、現場を見ようとするところからきています。
シリコンバレーでは、道路が混む場所はあちらこちらあるのですが、何でもない所で混み始めて「おかしいなぁ」と思っていると、事故だったりすることがよくあります。
そこで、こちらは、「あ~、これは rubbernecking だったんだ」と納得するのです。
そんな場面に遭遇すると、こちらは情けない気持ちになってしまうのです。だって、事故現場(人の不幸)を見たってしょうがないでしょう。
まあ、中には心の底から心配している人もいるのでしょうが、だいたいは興味本位で rubbernecking をやっている人たちなのでしょうから。
なんでも、rubbernecking というのは、観光地をめぐる観光客を表そうと、1890年代にアメリカで生まれた表現だそうです。
観光地に行くと、みなさん右に左にと忙しく首を動かし、名所旧跡を見ようとしますよね。そんな様子から生まれた言葉なんだそうです。
たとえば、ワイオミング州のイエローストーンという国立公園(Yellowstone National Park)に行くと、バイソン(American bison、別名バッファロー)の群れが堂々と道路を横切って行きます。
こんなに大きな動物が車のそばを通って行くのは、ちょっと恐怖でもあるのですが、そんな大自然と触れたいがために、車内の観光客は懸命に rubbernecking をやるのです。
そこから、事故現場を眺めることにも転用され、今では rubbernecking というと、(興味津々の)自分たちを表す適切な言葉として、アメリカ人に広く愛用されています。
というわけで、楽しい tailgating と、ちょっと複雑な rubbernecking。性質はまったく違いますが、ともにアメリカを表す代表的な言葉なのです。
覚えておくと、便利ですよ!