Lefty Loosey(左はゆるく)
英語って、日本語よりも音に敏感かな? と思うことがあるんです。
音というか、リズムとでもいいましょうか。
口に出して語呂(ごろ)がいい言葉が好きなんだなぁと思うんです。
そう、口の中でコロコロころがすような感じ。
たとえば、今日の表題になっている Lefty Loosey。
これには続きがあって、Lefty Loosey, Righty Tighty といいます。
発音は「レフティー・ルーシー、ライティー・タイティー」となりますが、「左はゆるく、右はきつく」という意味です。
工具のドライバー(screwdriver)を手にしたとき、左にまわすとネジはゆるむし、右に回すと、かたく締まるでしょう。そんな右と左の方向を覚えるときの「かけ声」です。
Loosey は形容詞 loose(ゆるい)を、Tighty は tight(きつい)を、語尾に y をつけて変形したものです。そうすることで、言いやすくなるんですね。
Lefty というのは、「左利き」という意味もありますが、left を Lefty(左に)、right を Righty(右に)と、同じく語尾に y をつけて語呂を良くしたんだと思います。
いえ、なにもそんな覚え方をしなくても、ちゃんとわかるでしょ? と思われるでしょう。でも、アメリカ人って「右回し」か「左回し」かわからなくなることがあるみたいですよ。
だから、Lefty Loosey, Righty Tighty という表現が存在するのです!
よくスーパーマーケットで野菜を買ったりすると実感するのですが、野菜を束ねてある針金をどっちに回したらいいのか、わかってない人が多いみたいです。
わたし自身は左に回して、針金を取ろうと思うのですが、実は、右回しにしないと取れないことが多々あるんです。だから、近頃は、まず右回しにしてみるんです。
すると、フェイントをかけられて、左に回すと取れることがあって、あ、しまった! って思うんですけれど・・・。
ですから、みなさんに、ぜひ覚えておいてほしいなぁと思うんです。
Lefty Loosey, Righty Tighty と。
でも、アメリカばかりではなくて、日本から買って来てもらった食パンの袋が、逆向きに閉じられていたことがありましたっけ。
もしかすると、左利きの方だったのかもしれませんが、まあ、日本人で珍しい! と驚いたのでした。
というわけで、語呂のいい「かけ声」で何かを覚えるというお話でしたが、実は、わたしが最初に Lefty Loosey という言葉を聞いたとき、Loosey というのは、Lucy という女のコの名前なのかと勘違いしたのでした。
だって、耳で聞いていると、同じ音ですから。
そう、Lefty Lucy、さしずめ「左利きのルーシー」かと・・・。
ルーシーといえばポピュラーな名前ですが、スヌーピーの漫画でおなじみの Lucy van Pelt ちゃんが有名ですよね。
(Photo of Lucy and Linus from Wikipedia)
それに、英語には、人の名前が出てくる表現がたくさんあるんですよ!
たとえば、こちら。
Nervous Nellie, Negative Nancy(ナーヴァス・ネリー、ネガティヴ・ナンシー)
神経質でビクビクしているネリーさん(男性)と、何にでも否定的なナンシーさん(女性)という意味です。
たとえば、みんなで何かしようよ! と盛り上がっているときに、「だって、こんな心配があるよ」と水を差すようなことを言う人。
そんな「前向きでない、心配性の人」のことを Nervous Nellie とか、Negative Nancy と表現します。人名ではありますが、固有名詞というよりも、単なる名詞みたいに使います。
たとえば、こんな風に。
My friend is a Negative Nancy. She has nothing positive to say about her life.
(わたしの友達は、いつも否定的なんです。自分の生き方に対して、何も前向きなことを言わないんです)
ちなみに、まったく反対に、何も心配しないで「なるようになるさ!」という態度の人を happy-go-lucky(ハピー・ゴー・ラッキー)と言います。ハイフンでつながって長いですが、形容詞となります。
He has such a happy-go-lucky attitude that he’s merely concerned about his future.
(彼は、ほんとに極楽とんぼだから、将来のことなんてほとんど気にしていないんだよ)
それから、人名を使った表現には、Doubting Thomas(ダウティング・トーマス)というのもありますね。
疑いを持つ(doubting)トーマスさん、というわけです。
そう、懐疑心が強くて、自分が納得するような確固たる証拠がないと、何も信じようとしない人のことです。
実は、トーマスさんというのは、イエス・キリストの十二使徒のひとり「トマス」のことだそうです。
十字架にかけられたイエスが復活しても、それを信じようとせず、イエスの姿を自分の目で確認し、深い傷に触れたときに初めて復活を認めた。だから、こんな表現ができあがったということです。
(写真は、13世紀のイタリアの画家ドゥッチオが描いたトマス。Photo of Thomas the Apostle by Duccio from Wikipedia)
たとえば、こんな風に使います。
She tried to explain her hypothesis thoroughly hoping to prove all those doubting Thomases wrong.
(彼女は、疑いの眼差しを向けている人々を納得させようと、自分の仮説をもれなく説明しようと努めた)
そして、人名が出てくる表現で一番有名なのは、Peeping Tom(ピーピング・トム)かもしれませんね。
あまり良い意味ではないですが、「覗き見をする人」のことです。
なんでも、この表現が生まれた背景には、11世紀初頭のイギリスにさかのぼる伝説があるそうです。
イギリスの首都ロンドンの北西にコヴェントリー(Coventry)という街があって、ここには、レディー・ゴダイヴァ(Lady Godiva)という方がいらっしゃいました。
彼女は、どうか民衆の税金を下げて欲しいと、領主であるご主人に訴えていらっしゃいましたが、「もしも税金を下げてくれるんだったら、裸で馬に乗り、街じゅうをねり歩くわ!」とまで宣言なさったそうです。
それで、約束どおり、彼女は裸で街をまわることになったのですが、前もって街の人には「どうか見ないでちょうだい」とお触れを出していたそうです。
でも、仕立て屋のトムだけは窓から「覗き見」してしまって、間もなく、無惨にも目が見えなくなってしまったとさ。
そんな風な、ちょっとコワい言い伝えだそうです。
(写真は、1949年コヴェントリーに寄贈されたレディー・ゴダイヴァの銅像。Photo of the Lady Godiva statue from Wikipedia)
歴史的には、Godiva ではなく、Godifu という名のレディーはいらっしゃったそうですが、「税金を下げるために、裸で馬に乗った」というのは伝説だろう、という説が濃厚だそうです。
それに、Peeping Tom(「覗き見」の仕立て屋トム)の話は、17世紀くらいになって付け加えられた逸話だろうということです。
けれども、美しく勇敢なレディー・ゴダイヴァのイメージは、西洋では根強く語り継がれていて、絵画や映画にも幾度となく取り上げられています。
そして、あのベルギーの有名なチョコレートGodiva(日本では「ゴディバ」)の名は、このレディー・ゴダイヴァからきているそうですよ!!
わたしも、このお話を書くまでは Peeping Tom の由来を知らなかったのですが、やはり、「不思議な言葉だな」と思うものには、何かしら深い事情があるんですねぇ。
追記: 人名を使った英語の表現に関しては、こちらにトップ10として紹介されています(Blog site ”Writing Revolution” by Carol Zombo)。
わたし自身の感じでは、こういった昔ながらの表現は人気を失いつつあるのではないかと思うのです。たぶん、若い人の中には、Nervous Nellie なんて聞いたこともない人が多いのではないでしょうか。