A tough nut to crack(殻の堅いくるみ?)
先日のエッセイでは、「北風と太陽」と題して、どうにも愛想の悪い女のコのお話をいたしました。
近くのクリーニング屋の店員さんで、何が不満なのか、決してニコッと笑顔を見せない方です。
たぶん、「満足」の敷居の高い方なのでしょう。だから、たいていのことは「満足=笑顔」につながらないようです。
それで、この方のように、どうにも扱いに困ってしまうような人のことを、a tough nut to crack と言いますね。
文字通りの意味は、「殻が堅いくるみ」。
こじあけようとしても(to crack)、なかなかあけられない殻の堅い(tough)木の実(nut)といった言い方です。
なんとなく「手に余る」と言いますか、「手に負えない」と言いますか、こちらがどう対処したら、あちらの気が済むのだろうか、心が和らぐのだろうかと、ちょっと悩む人のことです。
ストレートに、こんな風に使います。
She is a tough nut to crack
(彼女って、ちょっと手に負えない部分があるよね)
この表現は、人に対してばかりではなく、仕事などにも使えます。
たとえば、こんな風に。
The Chinese market is a tough nut to crack for many startup companies in Silicon Valley
(多くのシリコンバレーのスタートアップ会社にとって、中国市場というのは参入するのに難しいものである)
このように、a tough nut to crack というのは、いろんな場面で使える便利な表現ですが、「殻が堅くてあけられない木の実」って言い方をするなんて、西洋文化だなって気がしませんか?
この言葉を耳にすると、なんとなく「くるみ割り人形(a nutcracker)」を思い浮かべるのです。
一生懸命に口でくるみを割ろうとしているのに、殻が堅くてなかなか割れない。無理をし過ぎて、あごをおかしくしてしまった、かわいそうなくるみ割り人形・・・みたいな想像をしてしまうのです。
ちなみに、nutというのは、くるみみたいに殻に入っている木の実のことですが、日本で言うと、さしずめ栗とか銀杏といった感じでしょうか。
なぜかしら、nut には「エキセントリックな、ちょっと気狂いの人」という意味もあります。
それから、形容詞 nuts には、「気が狂っている」という意味があります。
そう、crazy みたいな形容詞でしょうか。
ですから、こんな風に使います。
He drives me nuts!
(彼を見ていると、もう頭がおかしくなりそう!)
同じような意味ですから、最後の nuts は、crazy で置き換えることもできます。
He drives me crazy!
この場合、動詞 drive は「車を運転する」ではなく、「おとしいれる」みたいな意味ですね。よく耳にする使い方ですので、覚えておくと便利だと思います。
というわけで、a tough nut to crack に出てきた形容詞 tough は、日本語の「堅い、固い、硬い」に当たる言葉だと思うのですが、「硬いもの」と言えば、岩や石。
英語では、rock。
こちらの写真のように、好んで rock climbing(岩登り)をなさる方もいらっしゃいますが、この rock を使ったおもしろい表現があるのです。
それは、between a rock and a hard place。
「岩と硬い場所の間にはさまれた」まさに「窮地」のことです。
右を向いても、左を向いても、いい解決策が見つからない・・・というような、難しい状況をさします。
なんとなく、岩と硬いものにつぶされそうなイメージがありますよね。
I was caught between a rock and a hard place
(どっちを選択しても抜け出せないような、難しい立場に立たされてしまった)
まあ、あんまり好ましい表現ではありませんが、仕事の(厳しい)場面ではよく使われるので、覚えておくと便利だと思います。
それで、石というと、英語では stone という言い方もありますが、この stone を使ったおもしろい言葉があります。
それは、stone fruits。
石(stone)のフルーツ(fruits)というくらいですから、果物なのですが、おもに桃やアプリコット、さくらんぼみたいな、プラム系の果物をさす言葉です。
真ん中に大きな種があって、そのまわりをふんわりと果肉が覆っているような果物のことです。
果肉の柔らかいフルーツが stone fruits と呼ばれるのは不思議な気もしますが、「石」の部分は、種が大きくて堅いことを意味するんだそうです。
実は、わたし自身は果物の中で白桃が一番好きなのですが、今頃の季節、カリフォルニアのスーパーマーケットではまだまだ白桃が売られているので、とっても嬉しいのです。
桃を丁寧に積み上げていたスーパーの店員さんが、こんなことを教えてくれました。
桃みたいな stone fruit は、すぐに傷んでしまうので、うちの母が白桃をたくさん買い過ぎたときには、白ワインに入れて食べるのよと。
皮をむいて、スライスした桃を、グラスの白ワインに入れるだけ。
すると、あら不思議。まったく違った味わいになって、とっても美味!
桃を入れたワインは、苦みが出るので飲めませんが、このアイディアは、夏のパーティーの話題づくりにもいいかなと思いました。
珍しい、涼しげな食べ方で目を引くし、第一、桃がおいしくなるし。
もうそろそろ白桃のシーズンではなくなりますが、機会があったら、ぜひ試してみてください!
おっと、最初のお題目からはずいぶんとそれてしまいましたが、今日の表現はこちら。
She is a tough nut to crack
(彼女には、手に負えない部分があるよね)
そんな風に言われないように、自分をちゃんとモニターしなければ!