He or she(彼または彼女)パート1
今日は、男性と女性を表す言葉のお話をいたしましょうか。
英語を始めとして、インド・ヨーロッパ語(Indo-European languages)の多くは、性別をはっきりと区別しますよね。
人だけではなく、物だって「男性名詞」「女性名詞」に分かれていたりもします。
それぞれの名詞によって、形容詞まで男性形(masculine)や女性形(feminine)にしないといけないよと、面倒くさいルールがあったりもします。
たとえば、スペイン語では、「かわいい男の子」が chico bonito で、「かわいい女の子」が chica bonita ですが、名詞の後ろの形容詞 bonito が、女の子では bonita に変化しています。
うれしいことに、英語は、性別の区別の少ない言語ではありますが、彼(he)と彼女(she)くらいは、はっきりと区別しますよね。
それから、なにかしら大事なものを擬人化する場合は「彼女」を使ったり、一般的な話をする場合は「彼」を使ったりします。
たとえば、一般的に「人」を語る場合は、he(彼)や man(男性)を使います。
He who says he knows doesn’t know
自分が知っていると主張する者は、何も知らない
(この場合は、He who says he knows というのが長い主語となります)
All men are created equal
すべての人は平等につくられている
こういうケースでは、he や man(もしくは men、mankind)が使われていても、「人というものは」という一般的な意味になりますね。
さらに、「取締役会/委員会の会長」「ニュース番組のアンカー」「セールスマン」「スポークスマン」といった単語は、語尾に男性を表す ~ man が付きます。
それぞれ、chairman、anchorman、salesman、spokesman ですが、もともと男性が多い職種だったから、自然とそうなったのでしょう。
一方、「国家」「船」「車」「火星探査機」などは、女性形の she で表現されることが多いです。(写真は、2004年1月火星に着陸した探査機オポチュニティー)
最近では、国家は男性でも女性でもない it で表されることが多いですが、車や船は、だんぜん she のままです。
She is a fine machine
(あれは)いいマシーンだよ
(マシーンは、車やオートバイの代わりによく使われる言葉です)
That was her maiden voyage
それが(船の)初航海だった
やっぱり、男性が好む乗り物は、自分の「彼女」みたいに思っているのでしょうか? だって、車に名前を付けて語りかける男性って意外と多いそうですから!
それで、米語圏の習慣の流れを見てみると、男性とか女性とか、ことさらに性別を区別するのはおかしいということで、性別を「ぼかす」動きもありました。
たとえば、上に出てきたように、「国家」は she ではなく、it と表すことが多いですし、一般的に「人間」を表すときには、he ではなく、he or she(彼または彼女)と発言したり、書いたりすることも多くなりました。
学校の論文を書くときに、he or she 、略して he/she または s/he と書かないと、赤ペンで直される時期もありました。(そう、実際に s/he と書いていたんですよ!)
会長さんやニュースアンカー、セールスマンも、語尾の ~ man を ~ person(人)に入れ替えて、chairperson、anchorperson、salesperson と表現することも多くなりました。
ところが、いつの間にかそんな配慮に疲れたのか、また違った動きが出てきました。
語尾の ~ person はやめて、その人の性別によって chairman と chairwoman、spokesman と spokeswoman と、きっちりと区別するようになりました。今では、あんまり chairperson と「ぼかす」ことはありません。
その一方で、男性でもない女性でもない「中性形」が登場した言葉もあります。
語尾に ~ man の付く freshman(高校・大学の一年生)という言葉は、女子校だと freshwoman を使うこともありましたが、近年は、first-year(一年目の学生)というニュートラルな呼び名も登場しています。
(複数形は、freshmen、freshwomen、first-years となります。二年生の sophomore、三年生の junior、四年生の senior は性別の区別がないので、問題にはなりません)
男女を区別する職業も、「ウェイター」waiter と「ウェイトレス」waitress の場合は、「給仕担当者」server で統一し、「男優」の actor と「女優」の actress は、「俳優」を表す actor で統一するといった、ニュートラルな呼び名を採用する動きも見られます。
が、代名詞 he や she になると、ちょっと厄介でしょうか。
いちいち he or she と発言したり、s/he と書いたりするのはちょっと不自然なので、単に he に戻したり、男女どちらでも良い you や they を使ったり、なるべく代名詞を使わなくてもいいような文章構成にしたりと、今でも試行錯誤が続いています。
蛇足ですが、軍隊の新米兵の訓練では、男性兵をわざと Hey, ladies !(レディーたちよ)と呼びかけることも多いです。
「お前たちは男のくせに、女性の体力しかないのか!」という上官の「愛のむち」なんですが、おかしい反面、ちょっと問題かも。
というわけで、パート2に続きます