Quarter Moon(四分の一の月?)
連れ合いが空を見上げて、「きれいだねぇ」とため息まじりの声を上げていました。
まるでロマンチストみたいに、いったい何を見つめているのかと思えば、ちょうどリビングルームの窓から見える高さに、半月が昇っていたのでした。
空には雲もなく、こうこうと輝く、立派な半月。
右側が明るい半月だったので、これから満月に向かって大きくなっていく月なのでしょう。
それで、一心に月を堪能している連れ合いには悪いけれど、わたしはこう聞いてみたのでした。
どうして英語では、半月のことを Quarter Moon と言うのかな? と。
そうなんです、なぜか半月は「四分の一の月」と表現するのです。
ときに日本の「半月」のように、Half Moon と言うこともあります。
たとえば、サンフランシスコの南西にある小さな湾は、Half Moon Bay と名付けられています。
これは、湾の形が、ちょうど半月のように弧を描いているからだそうです(地図の下方、赤枠の海岸線)。
けれども、ちょっと科学的に表現したい人だと、Quarter Moon の方を使うでしょうか。
そう、「半分」ではなく、「四分の一」。
そして、右側が光っていて、これから大きくなる半月(上弦の月)のことは、
First Quarter Moon(最初の四分の一の月)
満月のあと、これから小さくなっていく、左側が明るい月(下弦の月)のことを、
Third Quarter Moon(三番目の四分の一の月)
もしくは、Last Quarter Moon(最後の四分の一の月)と言います。
それで、「どうして四分の一の月?」というわたしの問いに対して、天文学の専門家でもない連れ合いは、実にいい説明をしてくれたのです。
西洋の文化では、「四分の一(quarter)」の概念は大事だよね。
たとえば、アメリカにだって、Quarter と呼ばれる25セント硬貨(1ドルの四分の一)があるでしょう。
だから、西洋の文化では、月が生まれたばかりの新月(New Moon)、最初の半月、満月(Full Moon)、最後の半月、そしてまた新月へと戻る月のライフサイクルを、4つに分けて考えていたんじゃないの?
それで、最初の半月は、ライフサイクルの四分の一を過ぎたという意味の First Quarter Moon、満月を過ぎたあとの半月は、ライフサイクルを四分の三過ぎたという意味の Third Quarter Moon と名付けたんじゃないかなぁ、と。
なるほど、アメリカンフットボールの試合だって、1時間を4つに分けて First Quarter、Second Quarter、Third Quarter、Fourth Quarter と呼びますものね。
月だって、それと同じことなんでしょう。
実際、科学的には「月が地球のまわりの軌道を四分の一過ぎた」から、最初の半月は First Quarter Moon と言うそうです。
とすると、こういうことになるでしょうか。
日本を始めとする「半月」と表現する文化では、「半分の月」という姿が大事なことで、西洋の文化では、「ライフサイクルを四分の一過ぎた月」という時の経過が大事なことだった。
日本語でも、「上弦の月」「下弦の月」の「上・下」というのは、光っている場所を示すのではなく、「先・後」という順番を示すものだそうで、そういう点では、英語の First Quarter や Third Quarter(もしくは Last Quarter)と同じように時間の経過を区別していますよね。
一方、日本語の「半月」や「弦月(げんげつ)」という言葉は、弓に張った弦になぞらえて「弓張月(ゆみはりづき)」とも言い換えられるそうですが、そうなると、やっぱり月の姿がとても大事だった、ということになるでしょうか。
そうなんです、連れ合いも月を愛でながら、こう言ったのでした。
そういえば、「半月」ってお菓子があるよね? と。
これは、鎌倉五郎さんの『半月(はんげつ)』というお菓子を指しているのです。
成田空港の免税店で人気商品となっているので、我が家もよくカリフォルニアに買って帰るんですよ。
中国からの観光客の方を始めとして、外人さんにも人気なので、きっと何かしら国際的な魅力があるのでしょう。
その一方で、中国には Moon Cake がありますが、こちらは、日本でも「月餅」として有名ですよね。
中秋の名月(Mid-Autumn Festival、Moon Festival)の頃に食べるお菓子ですが、以前、月餅の由来についてちょっとご説明したこともありました。
「元のモンゴル支配の時代、革命の密書を月餅に隠して、津々浦々の革命戦士の士気を高め、漢族の反乱を起こした」という従来の説に加えて、「4つの漢字を持つ月餅を4個箱に詰め、16の漢字をバラバラにして密書を再現した」という暗号説もありました。
何はともあれ、お月さまって、お饅頭やクッキーと、食べ物に深い縁があるのです。
というわけで、またまた話が脱線してしまいましたが、今日のお題は Quarter Moon。
「半月」と呼ぼうと、「四分の一の月」と呼ぼうと、地球から見上げると半分光っている月のことでした。
写真出典: 『半月』クッキーは、鎌倉 菓子・鎌倉五郎 本店さんのウェブサイトより。
月の写真は、NASA(アメリカ航空宇宙局)のウェブサイトより: 最初の半月の写真は、今年5月6日、国際宇宙ステーション(International Space Station)のクルーが撮影した、青い地平線に浮かぶ上弦の月。そして、月の満ち欠け図は、NASAが月の名称をわかりやすく解説したものです。
本文ではご説明しませんでしたが、三日月は Crescent(クレセント)、四分の三の月は Gibbous(ギボス)と呼びます。
それぞれ、満月に向かって大きくなるのが Waxing(ワクシング)、満月後に小さくなっていくのが Waning(ウェイニング)と表現します。