May I help you?(ご用は?)
今日のお題は、May I help you?
簡単な表現ではありますが、いろんな場面で使われます。
直訳すると「わたしがあなたを助けてさしあげましょうか?」となりますが、
どちらかというと、かしこまった言い方なので、お店で使われることが多いです。
お店に入ると、店員さんがこう声をかけてくれます。
May I help you?
何かお探しでしょうか?
これに対して、何か具体的に探しているものがあれば、
Yes, I’m looking for ~
はい、~を探しているんですが
と、探し物の内容を伝えます。
一方、「いえ、ただ店内を見させていただいているだけですので」と言いたいときには、
I’m just looking, thank you
もしくは、
I’m just browsing, thank you と答えます。
(こちらの browse(ブラウズ)という言葉は、「ちょろっと眺める」という意味ですが、「眺める」が転じて、インターネットにアクセスする「ブラウザ(browser)」という言葉が生まれました)
すると、あちらは、それ以上食い下がることもなく、
Please let me know if you have any questions
もしも何かご質問がありましたら、声をかけてくださいね
と、親切に言ってくれますので、
こちらは、Thank you と、にこやかに返します。
(こういう場合、あくまでも仏頂面はいけませんので、ニコリとうなずくだけでも十分でしょう)
そして、普段は、穏やかに May I help you? と声をかけてくれる店員さんですが、
店内に怪しげな人物が入ってくると、緊張した声色で May I help you? と尋ねます。
こちらの場合は、まさに「あなた、この店に何かご用ですか?」と、詰問するような感じでしょうか。
それから、冒頭に書いたように、May I help you? というのは、かしこまった言い方なので、友達同士では使わないでしょう。
もしも「何か助けてあげられることはあるかな?」と声をかけたい場合には、
Is there anything I can do (for you)?
何か、わたしが(あなたに)してあげられることはある?
と尋ねるのが一般的でしょうか。
それで、どうして May I help you? をご紹介しているのかというと、
先日訪れたロンドンのホテルで、こう聞かれたからでした。
May I help you unpacking?
そう、文字通り「あなたが荷解き(unpack)するのを手伝ってさしあげましょうか?」という意味です。
このホテルにチェックインすると、執事(butler)と名乗る方が部屋まで案内してくれて「何かお飲み物(refreshment)をお持ちしましょうか」と尋ねるので、連れ合いはシャンパンを、わたしはカモミールティーを頼みました。
そして、一時して戻ってきた執事の方が、わたしが服をハンガーに掛けようとしているのを見て、
May I help you unpacking?
荷解きをお手伝いいたしましょうか?
と、当然のように尋ねるのでした。
いえ、こんなことを聞かれたのは、生まれて初めてなので、内心「ヒエ~ッ」とうろたえながら、
Oh, no, I’m fine, thank you very much
と、失礼のないように答えたのでした。
さらに、執事の方は、「もしもプレス(アイロンかけ)やランドリーが必要でしたら、わたくしがコーディネートいたしますので、いつでも声をおかけください」とおっしゃるのです。
なるほど、執事の方にとっては、泊まり客がいつもパリッとした格好でお出かけできるように、常に心配りをするのが「お仕事」なんだな、と悟ったのでした。
その昔、イギリスの貴族の方々が大きなお屋敷に住んでいた頃は、男性は男性の「お付き」に、女性はメイドさんに服を着せてもらっていて、自分で服を着ることはなかったのですが、なんとなく、その頃を彷彿とさせるではありませんか!
なんでも、現地に住む友人によると、このホテルは「執事がいる」ことで有名だそうで、オペラや舞台の「絶対に取れないチケット」だって、どこからともなく調達してこられるとか。
いえ、わたしには、そんな用事はなかったので、テムズ川を見下ろすテラスでしたためた母宛の手紙を「出しておいてくださいね」と頼んだのが、唯一の頼み事となりました(やっぱり、庶民にとっては、人に何かを頼むのって気がひけますよねぇ)。
その晩は、サンフランシスコから到着したばかりだったので、ホテルのレストランで食事をしたのですが、こちらのレストランだって、ウェイターの方が丁寧だったのが印象的でした。
お隣のテーブルでは、次々と「注文をつける」紳士に対して、
いちいち As you wish と、低姿勢で答えるのです。
As you wish とは、「思し召しのままに」という意味ですが、
わたしの感覚では、中世の王様に対して、家来が深々と頭を下げながら「思し召しのままに」と答えているような感じがするのです。
まあ、アメリカのレストランでは、As you wish なんて、絶対に耳にすることはないでしょうけれど、
こちらのホテルのレストランで聞いていると、ごく自然な感じもするのでした。
追記: こちらは、サヴォイ(Savoy)という老舗のホテルでしたが、19世紀に建てられた建物のわりに、2年の大改築を経て2010年に再オープンしたそうで、部屋も快適でした。
オープン当初から、王族や貴族の方々、政界の重鎮、映画界のトップスターなどが集う「華やかなホテル」として名を馳せたそうで、ボールルーム(宴会場)の外には、若かりし頃のエリザベス2世がダンスを楽しまれる写真が、さりげなく飾られていました。
1953年には、女王の即位を祝って「戴冠記念ダンスパーティー」も開かれたそうですが、こちらは、即位する2年前のお姿だそうです。
「2010年の再オープンの際には、チャールズ皇太子もお祝いに立ち寄られた」と、玄関の脇には碑が埋め込まれていました。
そして、映画『風と共に去りぬ』の主人公を演じたヴィヴィアン・リーさんと、シェイクスピア俳優の夫、ローレンス・オリヴィエさんも、このサヴォイで出会ったそうですよ。