At your discretion(自分の判断でどうぞ)
今日のお題は、at your discretion
ちょっと難しい響きですが、よく使われる慣用句です。
名詞 discretion(「ディスクレッション」と発音)は、「判断力のあること」「良い判断ができること」といった意味。
よく「分別」とか「思慮深さ」という風に訳されます。
ですから、at your discretion というと、
「あなた自身の判断で、思ったように」行動すること。
つまり、自分自身で分別のある決断を下して、責任を持って行動する、というような意味です。
まあ、小難しい表現ではありますが、どういった場面に出てくるかというと、
観光地の看板が多いのではないでしょうか。
たとえば、「これから先は断崖絶壁になっていますので、これ以上進むんだったら、自分の責任で先に行ってください」といった看板。
たぶん、こんな風に書いてあるでしょうか。
Please proceed at your own discretion
どうぞ自分自身の裁量で先に進んでください
自分の判断で「大丈夫」だと思って進んでいるんだから、たとえ転んでケガをしたとしても、公園管理局とか自治体を責めないでね! といった含みがあります。
この at your discretion という言葉は、ちょっとした法律用語ですから、看板を立てた側には「責任回避」の意図もあるわけです。
(写真は、ハワイ州マウイ島の最南端にある断崖絶壁。いつも強風が吹き荒れる場所ですが、柵なんてありません)
それで、どうして at your discretion をお題に選んだかというと、
夏に向かってアメリカに観光に来られる方が増えるけれど、観光地の「看板」の意味は十分に知っておいた方がいいなぁ、と頭に浮かんだから。
カリフォルニアでは、あまり at your discretion という看板は見かけないかもしれません。
なにせ地元住民は多いし、外からの来訪者も多いし、事故が起きる前に、断崖絶壁はさっさと「立ち入り禁止」にするか、頑丈な柵を設けるでしょう。
けれども、来訪者が少ない場所とか、「雄大な自然」を重んじる土地柄では、人が手を加えない「大自然」のままにしてあるところも多いです。
そこで思い出すのが、ワシントン州のレーニア山(Mount Rainier)。
州都シアトルの南東にあって、レーニア山国立公園(Mt. Rainier National Park)の最高峰です。
(Photo of Mt. Rainier & Nisqually Glacier by National Park Service)
冬の間は、何メートルも雪が積もる4千メートル級の高山ですが、夏の間は、中腹まで車で気軽に登れます。
2千メートル近くの「サンライズ」という地点には、1930年代に建てられたロッジがあって、ここまで車で登って来ると、ロッジを足場に登山やハイキングを楽しめるようになっています。
ところが、この夏だけ開通する道路には、ガードレールがないんですよ!
「登り」が崖っぷちだと記憶していますが、右側通行の道路では、助手席から見下ろす景色は断崖絶壁で、まるで転げ落ちそうな気分にもなるのです。
どうしてガードレールがないのかはわかりませんが、「道路は通したけれど、それ以上は手を加えないよ!」と宣言しているかのようにも感じます。
実際、車で登れる「気軽さ」が危険に転じる場合もあるんです。
20年ほど前、我が家がこの道を通ったあとに、日本人観光客が乗った車が、崖から転落したことがありました。
現在は、ガードレールが敷設されたのかどうかは存じません。
けれども、こんな危険な登山道路にガードレールがないとは、「at your discretion(自分の判断で行動する)」の最たるものだと思うのです。
アメリカという国は、ときに「自由」を尊重するあまり、日本や諸外国と比べて「無謀」にも感じることがありますね。
たとえば有名な話ですが、東海岸ニューハンプシャー州には、「オートバイに乗るときにはヘルメットをかぶりなさい」という法律がないんです。
そう、そんな子供向けの規則は、大人には必要ないよ! というわけです。
ニューハンプシャーは「自由」を理想と掲げる州で、正式な「州のモットー(State Motto)」は、こちら
Live free or die
自由に生きるか、さもなければ死ぬか
つまり、「自由に生きられないなら、死んだほうがマシだ」といった感じ。
そして、「自由に生きられないくらいなら、死んでしまえ!」という教訓なのかもしれません。
それができないなら、この州に住む資格はないよ、と子供の頃から胸に刻んで生きていらっしゃるようです。
(写真のように、州のナンバープレートにも誇らしげに刻まれています)
この Live fee or die には続きがあって、
Death is not the worst of evils
死は、最悪の凶(きょう)ではない
というそうです。
昔の軍人さんの言葉だそうですが、なるほど、「自由を尊ぶには、死など恐れてはいけない」というアメリカ人の精神が、如実に表れたモットーのようですね。
実は、ヘルメットをかぶる法律がないのは、中部のイリノイ州とアイオワ州も同じだそうです。
(こちらの地図では、グレーの州が「ヘルメット法なし」: Map by Insurance Institute for Highway Safety, Highway Loss Data Institute)
けれども、「ヘルメットの法律すらないんだよ~」と引き合いに出されるのは、いつもニューハンプシャー。
なにせ、みんなが知っているモットーを掲げる州ですからね!
というわけで、お話がそれてしまいましたが、
「自分の判断で、思ったように行動しなさい」という
アメリカらしいお話でした。
(Natinal Park Service photo of Sunrise Meadows by Emily Brouwer)