Essay エッセイ
2011年07月10日

遠吠え

今年は、いつまでも雨が残る不思議なお天気でした。

いつもは6月ともなると、乾期に入ってカラカラと晴れ渡り、ときには40度の暑さにもなるのです。

けれども、今年は、6月30日にまとまった雨が降り、ようやくこれが雨季の降り納めとなりました。

その雨上がりの未明、またまた不思議なことがありました。

辺りはまだ暗かったので、3時か4時頃だったのかもしれません。

ベッドに入っていたわたしは、動物の遠吠えで起こされたのです。オォ~ッ、オォ~ッというような、映画にでも出てきそうな声。

しかも、張りのあるその声は、すぐ裏庭から聞こえている!


「遠吠え」なんていうと、とっても恐ろしい動物のように思えますが、我が家のまわりには、コヨーテがたくさん住んでいて、彼らの遠吠えは珍しくはないのです。

夜中になると、よくコヨーテの「遠吠えの合唱」が聞こえて来るので、普段は気にすることもありません。

きっとあれは、仲間を呼び合っているのでしょう。一頭が鳴き始めると、それに呼応するように数頭が鳴き始め、まるで合唱のようにも聞こえるのです。

夜空に響くちょっと不気味な合唱ではありますが、コヨーテ自体は、そんなに恐ろしい動物ではありません。体だって犬ほどの大きさですし、第一、彼らは人間が恐いので、よほどこちらが悪さをしない限り、襲ってくることはないでしょう。

万が一、襲ってきたとしても、人間が蹴り飛ばせば、逃げて行くのではないでしょうか(やってみたことはありませんが)。


けれども、それは、向こうの丘から遠吠えが聞こえたときのお話。この日のように、すぐ裏庭から聞こえて来ると、ちょっと恐いなと、こちらはベッドの中で身構えるのです。

それに、暗闇を貫く遠吠えには、やはり野生の動物の恐ろしさを感じてしまうのです。きっとそれは、原始の頃から、人間の潜在意識に刻み込まれているものなのでしょう。

相手はいったい何を狙っているのかと、こちらも原始の耳を澄ましてみるのです。

すると、裏庭のコヨーテがオォ~ッと声を上げているうちに、あちらの丘からもオォ~ッと声が上がってくるではありませんか。

こちらのコヨーテはバリトンのようにトーンが低く、あちらはソプラノみたいに高いので、もしかすると男のコと女のコのペアなのかもしれません。

ひょっとすると、こちらのコヨーテくんは仲間から逸(はぐ)れてしまって、「みんなどこさぁ?」と泣いていたのかもしれません。

だとすると、ちょっとかわいそうでもありますね。

そう考えてみると、コヨーテくんがいとしくもなってきて、こちらはホッと眠りに落ちたのでした。


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