オリエント急行で気取った旅を ~ パート1
先日、ヨーロッパから戻ったばかりのところですが、この旅行は、もともと「オリエント急行(the Orient Express)」に乗るのが目的でした。
そう、有名なアガサ・クリスティのミステリー『オリエント急行殺人事件』の舞台ともなった、歴史ある寝台列車の旅です。
しかも、誕生日に列車に乗るという幸運が重なったのでした。
まあ、歴史をひも解きますと、現在の「オリエント急行」はアガサ・クリスティの時代とは違う会社が運営しておりまして、正式には「ヴェニス・シンプロン・オリエント急行(Venice Simplon-Orient-Express)」という名前になっています。
そして、ひとくちに「オリエント急行」と申しましても、いろんなルートがありまして、ルートによっては途中乗車も途中下車も可能です。
それこそ、長い路線は、トルコのイスタンブールとフランスのパリを結ぶ5泊6日の旅というのもありますし、短いものでは、イタリアのヴェニスとイギリスのロンドンを結ぶ1泊2日というのもあります。
わたしたちが乗ったのは、チェコ共和国の首都プラハからロンドンの区間。列車の出発はヴェニスで、ここからの乗客は中間地点のプラハでホテルに泊まったあと、また列車に乗って移動するというルートです。
中にはプラハで列車を降りる乗客もいますし、プラハから車中で一泊したあと、翌朝パリで降りる乗客もいます(写真は、パリ駅で降りる際、列車で知り合った人に手を振る女性客)。
わたしたちがプラハからロンドンという短い区間を選んだのは、まず一泊旅行だったことがあります。ずっと列車に揺られるわけですから、あまり長いと疲れるし、飽きるかもしれないと考えたからです。
そして、プラハもロンドンもほぼ初めての街なので、観光するのにちょうど良い場所であることがありました。
けれども、今年1月に申し込んだときには、すでに5月の分は満席。今年はこれ一本しかないということで、来年に持ち越そうかとも考えていました。
すると、間もなく、この路線の問い合わせが多かったので、10月末にもう一本追加運行するという連絡が入り、それが偶然にもわたしの誕生日だったのでした。
だとしたら、これはもう「乗りなさい」というお告げのようなものでしょう!
だって、誕生日や結婚記念日を祝うために乗る人が多いといっても、まさに乗車日が記念日に当たる人なんて、滅多にいないでしょうから。
というわけで、乗ると決まったら、「ディナーで何を着ようかしら」とか「ジーンズはいけないそうだから、どんな格好をしようかしら」とか、いろんなことを考え始めるのです。
それも楽しみのうちではありますが、わたしなどは、東京で足繁くお店をまわって、ようやく気に入った服を見つけることができました。
そう、オリエント急行の楽しみのひとつは、夜のディナーと翌日の昼のブランチ(立派なランチ)にあるわけですが、そのときは、ここぞとばかりに、みなさん着飾ってお出ましになるのです。
とくにディナーでは、男性は、少なくともスーツとネクタイ。女性は、それに見合った格好で、いくらでもおしゃれしても良いというルールがありまして、タキシードにカクテルドレスかイヴニングドレスというカップルもたくさん見かけましたね。
我が家の場合は、連れ合いがタキシードを着て、自分で蝶ネクタイを結びたいと主張していたのですが、わたしが選んだのがパンツスーツだったので、あちらもおとなしくスーツとネクタイにしてもらいました。
だって、男性がタキシードだと、こちらはドレスにしなくては釣り合いが取れませんものね。
そして、列車に乗るときには、ジーンズやジャージ系のカジュアルウェアは御法度なので、普段ジーンズばかりを愛用している我が家は、「え、何を着たらいいの?」と考えてしまうのです。
まあ、ほかの乗客の方々は、わりと高齢の方が多いので、普段からジーンズなんてお召しにならない方ばかりのようではありました。
が、列車に乗るときの格好は地味なものが多くとも、着飾るときにはピッカピカというような、メリハリのあるお召替えが印象的でしたね。
普段は質素。でも、気取るときには、恥ずかしからずに堂々と気取る。西洋人は、これがうまいですよね。
そうそう、個人的にはちょっと失敗したなと思ったことがあって、それは、ディナーのことばかり考えていて、翌日のブランチのことが頭から抜けていたことなのです。
翌日は日曜日で、軽いコンチネンタル朝食後のブランチは、日曜の定例ともいえるものですが、このときには、ちょっとおしゃれなワンピースくらいは用意しておいた方が良かったなと反省したのでした。
ブランチでは、シャンペンやワインを飲んだりするでしょう。そういった気取った席では、やはりちょっとおしゃれした方がいいですよね。
そんな気後れもあったのですが、このブランチは、とっても印象に残るものとなりました。
普段、わたしは「お酒は午後5時を過ぎてから」をルールとしているのですが、このときばかりは例外。白ワインのグラスを傾けながら、ディナーよりもおいしいブランチを堪能したのでした。
お酒は食事をより楽しくしてくれるけれど、窓を流れる美しい景色には負けるなと。
季節は晩秋。赤や黄の混じった木々や霧を帯びた優しい空気は、窓外の風景を絵画のように演出してくれています。
そんなかぐわしい風景は、口にするすべてを特別なものにしてくれるのでした。
(パート2に続く)