おじいちゃんのお話かご
その「おじいちゃん」は、中米ニカラグアからアメリカにやって来ました。
まだまだお若い方で、仕事もバリバリ現役ですが、お孫さんがひとりいらっしゃって、またひとり生まれるそうなので、「おじいちゃん」ということにいたしましょう。
この方は、わたしと会うと、なぜか懐かしそうに子供の頃の話をなさるんです。きっと、誰かに伝えたいお話をたくさんお持ちなのでしょう。
おじいちゃんが小さい頃、家の庭には立派なマンゴーの木が立っていました。
マンゴーの木は、とても大きく成長するので、木登りには最適なんだそうです。
そんなわけで、よくマンゴーの木によじ登って遊んでいたのですが、楽しみは登るだけではありません。
もうひとつの楽しみは、花が終わって、実を結ぶ季節。
ほうとうは、実が黄色くなるまで待って食べないといけないのですが、まだ熟する前の緑色の実を食べるのが大好きだったんです。
たとえばパパイヤなどは、未成熟の緑の実を食材に使ったりしますけれど、マンゴーも成熟する前は、カリカリッとした歯ざわりで、ほんのり青くさい感じなのかもしれませんね。
この緑色のマンゴーに、塩をちょっとかけて食べるのが、一番の食べ方でした。ほんとに、ほっぺたが落っこちるくらいにおいしいそうです。
ですから、実がなる季節になると、喜び勇んで木に登っては、緑色の果実をパクついていたのでした。
でも、まだ熟していない実を食べると、必ずと言っていいほどにお腹をこわすので、お母さんは、気が気ではありません。
子供の姿が見えなくなると、「あら、あの子はどこに行ってしまったの? またマンゴーの木に登って、実を食べてるんじゃないでしょうね!」と、庭に探しに出て来ます。
さすがに、お母さんに見つかって「お腹をこわすから、早く降りてらっしゃい!」と大目玉をもらうと、しぶしぶ木を降りてみるのですが、時すでに遅し! 少したつと、お腹がゴロゴロしてくるのでした。
けれども、お母さんは慣れたもので、ちっとも驚きません。「もう、しょうがないわねぇ」と言いながら、自家製の処方薬をつくり始めます。
そう、お母さん秘蔵の特効薬。
これを飲むと、あら不思議、すぐにお腹は治るのでした。
おじいちゃんの家は、ニカラグアでも裕福な家庭だったので、街のお医者さんにかかることはできたはずです。でも、お医者さんの薬よりも、お母さんの「処方薬」は効果てきめん! だったのでしょう。
ですから、子供の頃は、いつもお母さんの特効薬のお世話になっていたそうです。
ある日、この話を母にしたことがあったのですが、母は、懐かしそうにこう言うのです。
そういえば、小学校の頃、木にたわわに実る赤い実を食べたことがあると。
あるとき同級生の家に「桑(くわ)の実」をもらいに行ったら、何かしら赤い実をたくさんつける木があって、それをみんなで拾って食べた子供の頃のひとコマ。
木の下に広げた蚊帳に、お父さんが棒を使ってうまく実を落っことしてくれたので、みんなで拾い集めて食べました。
でも、それが「赤い実」というだけで、名前はわからないとか。
庭の赤い実と聞くと、「グミの実」を思い浮かべますが、グミではないそうです。だって、グミの実は、違う同級生の家で食べたのをよく覚えているから。
そして、スモモのように大きな果実でもなかったとか。
この同級生は Oさんという商店街からは離れた家の子で、丘の上の庭には木がいっぱいあって、この「謎の赤い実」以外にも、実がなりそうな木はたくさんあったそうです。きっと、夏は枇杷、秋は柿と、季節ごとの楽しみがあったのでしょう。
母の話を聞いていたら、またおじいちゃんの話を思い出したのですが、ニカラグアのおじいちゃんの家でも、やっぱりお父さんが実を落っことしてくれたそうです。
アヴォカドもマンゴーと同じく、大きく成長する生命力旺盛な木ですよね。濃い緑の葉っぱが、どことなく南国的でもあります。
でも、その実の落とし方が変わっていて、日本では絶対にあり得ない方法なんですよ。
何かって、ショットガンで実の近くを狙って、うまい具合に打ち落とすんです!!
それで、実が地べたに落っこちる前に、うまくキャッチするのが、子供の役目。
だって、アヴォカドの実はやわらかいので、地べたに落っこちるとグシャッとつぶれてしまいますからね。
まあ、なんともスゴい「収穫の方法」ですが、木になっている、おいしそうな実を食べたい! という願望は、どこの国も同じでしょうか。
というわけで、今日は、おじいちゃんと母の思い出話。
太平洋の海原の両側に、たわわに実る果実のお話でした。
写真出典:Wikipedia