ドイツ語の「S」って?
「ドイツ」と言いましても、『2014年FIFAワールドカップ』で優勝したばかりのドイツチームとは関係ありません。
ちょっとお恥ずかしい話ですが、自分の中では、ひどく驚いた「発見」があったのでした。
近頃、わたしは、ドイツのDW(Deutsche Welle)-TVの英語放送が大好きです。
アメリカとは違う、なにかしらフレッシュなカメラアングルを感じるのです。
それで、普段は、朝ご飯のあとに新聞を読みながら、DW-TVの番組で「仮想ヨーロッパ旅行」を楽しむことにしています。
ごく最近は、DW-TVの英語放送もとみに「やわらかく」なってきて、アートや観光スポットの話題を好んで紹介するようになりました。
その中に、『euromaxx(ユーロマックス)』というヨーロッパ全体のライフスタイルを紹介する番組があって、7月からは『Cool Copies(クールなコピー)』という新シリーズが登場しました。
何かを「コピー」しているんだけれど、単なるコピーには終わっていないという、ちょっとひねった話題を紹介するシリーズです。
第一回目は、アートのコピー。
つまり、贋作(ニセモノ、forgery)のことです。
が、近頃は、ニセモノだって立派なアートになっていて、ウィーンにはニセモノアートの博物館(Museum of Art Fakes Vienna、写真)が登場したり、有名なアートにインスピレーションを受けたコピーが堂々と作品として所望されたりと、アートの世界にもおもしろい動きがあるそうです。
それは、ホンモノをそっくりそのままコピーしたのではなく、作者の「工夫」や「ひねり」が加わっているからなのですが、そうなると単なるニセモノを越えて、立派な作品になることもあるとか。
第一、巨匠をコピーして技法を学ぶやり方は、500年前のレオナルド・ダヴィンチの頃から盛んに行われていたことですし、コピーをホンモノと偽って売らなければ、贋作は必ずしも違法行為とはならないそうです。
というわけで、本題の『クールなコピー』シリーズ第三回。
ここで「花のコピー」の登場です。
花のコピーといえば、シルクフラワー。
材料は「シルク(絹)」に限らず、いろいろと使われていますが、花を模した造花(artificial flowers)のことですね。
なんでも、昔の東ドイツ圏には、シルクフラワーで有名な街があって、そこにたったひとつだけ残った工場では、今でも手作業で美しい「花」たちが生産されているそうです。
作品は、すべてオーダーメイド。有名なデザイナーやオペラハウス、個人の顧客と忙しく対応していますが、昔からの金型で花びらや葉っぱを切り取ったり、細やかに葉脈を入れたりと、根(こん)を詰めた作業が続きます。
花びらには、ひとつずつ筆で丁寧に色づけしていって、一本の花に仕上げます。デリケートなシルクですから、「書き損じ」は許されないし、手荒く扱うと穴が開いたり、破れてしまったりするので、カラフルな作業場にも緊迫した空気が流れます。
19世紀から続く花づくりで、何千という金型のコレクションが生まれましたが、新種の花の注文が来ると、花びらも葉っぱも、新しく金型からつくることもあるそうですよ。
そんなわけで、シルクフラワーが大好きなわたしは、画面を食い入るように見つめていたのですが、肝心の街の名前がわからない!
DW-TVは、ときにドイツ語なまりの英語で放映しているのに、字幕を一切出さないのが玉にきずなんですが、なんとなく「ジープニック」と聞こえたので、すかさずパソコンで検索してみました。が、適切なものは見当たらない。
「silk flowers(シルクフラワー)」「east germany(東ドイツ)」
それから、「ziepnick」と検索欄に書いてみたのですが、まるでヒットなし。
そこで、大きな世界地図を引っ張り出して、巻末の町名リストで「z」「i」「e」かな? 「z」「e」「i」かな? と探してみたのですが、やっぱり見当たらない。
番組では、ドレスデンのオペラハウスが上客だと言っていたので、ドレスデンの近くだとは思うのですが・・・。
困ったわたしは、ネットで番組のビデオを探してみると、そこに「街はSaxony州にある」という紹介文を発見!
この重大なキーワードを手がかりに、ようやく「Ziepnick(ジープニック)」は「Sebnitz(ジープニッツ)」である、と判明したのでした。
え~っ、「ジー(ズィー)」という発音が「S」から始まるの??
ドイツ語の「S」って、英語の「Z」みたいな発音なの??
と、ドイツ語をまったく知らないわたしは、椅子からころげ落ちるほどの発見をしたのでした。
なんでも、Sebnitz は、日本語では「ゼプニッツ」と呼ばれていて、州の名前 Saxony は「ザクセン州」と言うそうです。
いえ、自分の無知を自慢するわけじゃないですが、ドイツ語は「1、2、3」だってわからないです。
中学生のとき、スペイン人の神父さんにちょっとだけスペイン語を習ったことはありますが、ドイツ語は「異次元の言葉」ですから。
数年前、こんなことがありました。
ハイデルベルグの駅前の本屋さんで、絵ハガキを一枚買おうとしたのですが、「アイン」と言われたのに意味がわからなくて、店員さんが「1」と紙に書いてくれました。
まあ、その「1」が「7」みたいにヘンテコリンではありましたが、とにかく「1ユーロ」であることはわかったので、コインをひとつ差し出して支払いを済ませました。
そうしたら、それを見た後ろの男性客がクスッと失笑していましたが、だったら「ワンユーロ」と助言してくれたらいいのにね!
いえ、ドイツでは、よほどの郊外でない限り、英語が素晴らしくお上手な方々が多いです。
何年も前の雨の日、フランクフルトに行きたくて駅のホームで列車を待っていたら、天候不順でダイヤが乱れているというアナウンスを聞いて「あっちのホームに行きなさい」と教えてくれたカトリックのシスターがいらっしゃいました。
「これから、甥が神父になる儀式に出席するんです」と世間話を交わしたシスターですが、「あなたには想像できないでしょうけれど、身内から神父が出るっていうのは、ものすごく誉れ(ほまれ)とされているのよ」と、世の中の常識を教えてくました。
そんなわけで、英語に堪能なドイツ人が多いものですから、ハイデルベルグの観光客を相手に「ワン」ではなく「アイン」と言った店員さんに、ちょっと驚いたのでした(それとともに、現地の言葉で「1、2、3」くらいはチェックしておいた方がいいなと、大いに反省したのでした)。
おっと、すっかり話がそれてしまいましたが、ドイツ語の「S」。
どうしてそこまで街の名にこだわったかと言うと、それはひとえにシルクフラワーが大好きだから。
ホンモノもいいけれど、ホンモノとは違った風合いがあるでしょう。
そうそう、ゼプニッツの近くには、デリケートな白地の磁器で有名なマイセンもあって、実際、ゼプニッツの「花」工場でも、マイセン磁器の図柄からヒントを得たり、ショップに花を納入したりしているそうですよ。
シルクフラワーに磁器。そう聞いたら、訪問する機会はなくとも、記憶にだけは留めておきたいではありませんか。
我が家にも、あちらこちらにシルクフラワーが飾られていますが、こちらは、昨年、床の張り替えが終わったあと、あり合わせのシルクフラワーを急遽まとめてみたもの。こうやって「花」をリサイクルしてみるのも、案外楽しいものですよね。
緑のガラス器は「チョーヤの梅酒」の空き瓶で、赤いリボンは、サンフランシスコの有名店Recchiuti(リキューティ)のチョコレート箱にかかっていたもの。それから、花瓶敷きは、日本酒の瓶をおおっていた千代紙です。
廃品利用をするときも、自分なりの「ひとひねり」が楽しいでしょうか。