Essay エッセイ
2016年08月17日

ギャップイヤー(一年の中休み)

 ひと足先に始まった、アメリカの夏休みも、もう終わり。

 

 6月中ごろ、School’s out for summer(学校は夏休み)!

 

 と、長い休みが始まって、

 

 キャッキャと辺りを走り回っていた子供たち。

 

 8月の中旬ともなると、そろそろ学校に戻る時期となります。

 


ご存じのように、アメリカでは、夏休みが終わると、新しい学年(new school year)を迎えます。

 

 6月に学校を卒業した子にとっては、新しい学校(new school)に進学するタイミングでもあります。

 

 いずれにしても、新しい先生や友達と出会って、新しい経験をする期待と不安で、ワクワク、ドキドキ。

 

 大人たちにとっても、この時期、Back to school sale(新学期を迎えるセール)という言葉を耳にするようになって、あ~、いよいよ、ノートや勉強道具を買いそろえて学校に戻る頃なのね、と季節を感じます。

 

無事に子供を学校に送り出して、ホッとする時期でもありますし、

 

 昔を思い出して、心がキュッと引き締まる季節でもあります。

 

 School’s out(学校は休み)とか、

 

Back to school(学校に戻る)という言葉は、

 

 アメリカの立派な「季語」とも言えるでしょうか。

 

(写真は、新学年を迎えて幼稚園に一番乗りのルシア・ルーちゃん、5歳;Photo by Laura A. Oda, The Mercury News, August 17, 2016)

 


 そんなわけで、新しいことに遭遇する季節ではありますが、その「未知との遭遇」を、ちょっとだけ遅らせる人もいるようです。

 

 そう、新しい学校に進むのを、自分の意思で遅らせるのです。

 

今年話題になった中では、オバマ大統領の長女、マリアさんの例がありました。(Photo by Pablo Martinez Monsivais / Associated press Archive)

 

 彼女は、6月中旬、ホワイトハウスがある首都ワシントンD.C.で、名門私立高校を卒業しました。

 

 翌月の独立記念日(4日)には、18歳の誕生日を迎えて、ホワイトハウスに友達を招いてバースデーパーティが開かれました。

 

 アメリカでは、18歳は「オトナ」の仲間入りをする年齢なので、ご両親もさぞかし鼻が高かったことでしょう。

 

そして、大学進学は、マサチューセッツ州にある名門私立ハーヴァード大学に決まっています。
(写真は大学図書館;Photo of Widener Library, Harvard University by Caroline Culler, from Wikimedia Commons)

 

 が、普通は、秋に入学するところを、来年の秋に延期したのです。

 

 なんでも、こういうのを「ギャップイヤー(gap year)」と言うそうですよ。そう、「一年あける」といった感じですね。

 

 ハーヴァード大学の方も、「入学する前に、一年くらい好きなことをして、リフレッシュして学校に来てください」と、以前からギャップイヤーを奨励しているとか。

 

 マリアさんは、映画制作に興味があって、これまでケーブルテレビ局のHBOでインターンをしたり、スミソニアン動物園でインターンをしたりと、いろんな課外活動をしてきたそうです。

 

「経験」を大事にするアメリカには、高校生にだって、いろんなインターンの機会がありますからね。(写真は、今夏ホワイトハウスでインターンをした学生さんから手づくりの誕生日カードをもらうオバマ大統領; Official White House Photo by Pete Souza)

 

 でも、マリアさんがギャップイヤーに何をするのかは、公表されていません。

 

 同じ高校に通う妹のサーシャさんは、まだ15歳になったばかりなので、彼女が高校を卒業するまでは、オバマ一家は首都ワシントンに住むことが決まっています。

 

 ですから、「家族と一緒に一年を海外で過ごす」なんてことはできませんが、もしかすると、自分ひとりで旅に出ることは考えているのかもしれませんね。

 


 「ギャップイヤー」というのは、もともとヨーロッパやオーストラリアで盛んに行われてきたそうです。

 

でも、近頃は、アメリカでも広まりつつあるとか。

 

 実は、我が家のご近所さんも、そうなんです。

 

 ここの娘さんは、15歳半で高校のカリキュラムをすべて終わってしまって、大学に入ってもおかしくない時期なんですが、18歳になるまで、2年半も大学進学を遅らせることにしたそうです。

 

 もともと高校には行かないで、ホームスクール(自宅での学習)で学んできた女のコなんですが、名門私立大学に進みやすいようにって、テニスもするし、ピアノもするし、まさに文武両道の優等生です。

 

 ホームスクールで家にこもってはいけないと、テニスの大会に参加したり、ピアノの演奏会に出たり、年上の子供たちの家庭教師(tutor)をしたりと、お母さんの的確なアドバイスもあって、のびのびと育っているようです。

 

 けれども、お母さんにしてみると、まだまだ子供。「車の運転を教えたら、目の動きと手の動きがバラバラで、もう心配で見ていられないわ」と、不安材料もあるようです。(カリフォルニア州では、16歳になったらティーン向けの制限付き運転許可証を取得できるとか)

 

と、そんな女のコが、興味を抱いたのが、蜜蜂の危機。

 

 ほら、蜜蜂が世界じゅうでだんだんと姿を消していって、危機的状況だって言うでしょう。

 

 だから、住宅地でも養蜂を許そうじゃないかとか、都市の中にも農業を広めようじゃないかとか、そんな動きがあるでしょう。

 

 たぶん彼女は、蜜蜂の生態を通して、地球全体の環境問題という、でっかいことを考えているんだと思いますよ。

 

 だから、大学に入るまでの2年半で、なにかしらスゴい研究成果を出してやろう、と思い描いているのかもしれません。

 


 アメリカでは、もともとホームスクールが市民権を得るほど、個性や才能を大事にしますよね。

 

 学校でも、個性がキラリと光って、みんなの中で目立ったとしても、「出る杭は打たれる」ところがない。

 

 だって、人は、みんな違うものだから。

 

 そんなわけで、自主的にギャップイヤーを取って、学業を遅らせたとしても、「わたしは、こんなことがしてみたい!」と目標がはっきりとしているのかもしれません。

 

 もちろん、ギャップイヤーを取るには、向き、不向きがあって、誰にでも良いこととは思いません。

 

 けれども、一年たって戻ってきたら、「また学校で勉強したい!」という意欲と集中力が、グンと増している自分に気づくのかもしれません。

 

マリアさんも、ご近所の娘さんも、これから大海原へと漕ぎ出します。

 

 今後の成長が、楽しみなことではありますね。

 


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