インフルエンザ
いえ、何のことはない、風邪か何かのウイルスが胃を攻撃して、胃腸の具合が悪くなったんです。
もちろん、たいしたことはなかったのですが、夜中に急に症状が出てきたので、恐くなってお医者さんに会いにいったのでした。
なんでも、英語では「Stomach flu(胃のインフルエンザ)」という病気だそうですが、今まで名前だけ聞いていて、何だか知らない病気だったので、自分で体験してみる(あんまりありがたくない)機会となりました。
そうなんです。アメリカでは、Stomach flu(胃のインフルエンザ)だの、Head cold(頭の風邪)だのと、おかしな通称の病気があって、自分で実際にかかってみないと、「あ、そうか!」と理解できないことがあるのです。
まあ、仰々しく「胃のインフルエンザ」というわりには、インフルエンザや風邪のようなウイルス性だけではなくて、何かのバクテリアでかかるときもあるそうなので、結局、急性胃腸炎(Gastroenteritis)のことを、まとめてこう呼ぶのでしょうね。
ちなみに、Head cold(頭の風邪)というのは、おもに鼻の粘膜が風邪のバイキンにやられて、鼻づまりや頭痛、くしゃみと、頭の周辺で出るタイプの風邪だそうです。
どうやら、わたしの「胃のインフルエンザ」は、ご丁寧なことに頭の方にも飛び火したようでして、その後、めまいと鼻水に悩まされたのでした。「胃」のあとは「頭」と、何とも忙しいことではありました。
というわけで、わたしの病気はたいしたことはなかったものの、やっぱり世の中では新型インフルエンザ(H1N1 influenza)が猛威をふるっていて、十分に注意しなければなりませんね。
アメリカでは、12月に入って、「どうやら流行は峠を越えたんじゃないか?」と言われるようになっていて、4週連続で、新しく新型インフルエンザにかかる患者の数が減ってきているそうなのです。
それでも、まだまだ発症する患者の数は多いままなので、できることなら、かかる前に予防接種を受けたいと願っている人はたくさんいるのです。
実は、わたしもその一人なんです。
10月下旬、かかりつけの病院で新型インフルエンザの予防接種が始まったので、すぐに行ってみたものの、制限があって受けられなかったので、代わりに季節性インフルエンザ(seasonal flu)の注射をしてもらったのでした。
そのときは、妊婦さん、6ヶ月未満の子供を持つ人、心臓病・糖尿病・喘息などの慢性的な病気を持つ人、そして医療従事者しか対象になっていませんでした。
子供たちには、注射の代わりに鼻からのスプレーを接種してあげていたようです。(鼻からのスプレーワクチンは、生きたウイルスを薄めたタイプなので、妊婦さんや喘息持ちの人には向きませんが、健康な子供たちには問題はないようです。)
その頃は、アメリカ全土で病気がどんどん広まっているわりには、ワクチンがとても不足していて、それこそ、ある種のパニック状態になっておりました。
どこかの病院で予防接種をするぞと聞くと、ソレッとばかりに長~い行列ができるし、小さい子供を持つ親たちは、かたっぱしから小児科に電話して、いったいいつになったら接種できるのかと、心配をつのらせておりました。
その後、少しずつワクチンも出回り始め、たとえば、シリコンバレーのあるサンタクララ郡などでは、土曜日ごとに青空のもとで無料予防接種クリニックが開かれたりしておりました。このときには、18歳未満の子供たちとその親、妊婦さん、慢性病を持つ人の接種が許されていたようです。(無料クリニックなので、郡の予算からお金が捻出されているのでしょう。)
11月初頭、初めてこのようなクリニックが開かれたときには、それこそ何千人という子供たちと親が、会場の遊園地の前に並んだようです。前日の金曜日から徹夜で並んでいた人たちも一人や二人ではなかったとか。
まあ、中には、慢性病を持っていると偽って、予防接種を受けに来た人もいるようではありますが、基本的には「来る者はこばまず」でやってあげていたようです。
わたしもそうしたいのは山々ですが、やっぱり子供たちが重症になりやすいことを考えると、一人でも多くの子供に接種して欲しいと思うので、ズルはしないぞ!と決心したのでした。
そして、子供たちを守りましょうと、学校も乗り出しました。シリコンバレーのサンノゼ市では、学区内の児童・生徒3万2千人全員にワクチン接種をすることになり、11月中旬から徐々に接種が始まったのです。
学区内の41の学校では、多くの生徒たちが必ずしも経済的に恵まれた環境にいるわけではないので、無料でワクチンを提供することになったようです。
こちらの学区で健康・家族サポートを担当している責任者の方が、もともとは看護婦さんだったようでして、とにかく子供たちの健康を第一に考える方のようですね。
保護者の中には、「いかなる予防接種もイヤ!」という人もいますので、拒否することもできるそうですが、基本的には学区内の子供たちから流行を防ごうという、画期的な計らいのようです。
ちなみに、わたしの病院でも予防接種は無料でやってくれるので、「病気の予防(prevention)」には、とくに重点を置いているようですね。
こんな風に、子供たちを優先に接種が始まったわけではありますが、12月に入った今も、とにかくワクチンが不足しています。
わたしの病院でも大人向けの予防接種クリニック自体が閉じてしまっているようなので、やっぱり需要はまだまだ大きいわりに、供給の方がまったく追いつかない状態のようですね。
子供向けのクリニックは細々とやっていて、10歳未満の子供たちには、2回目の接種をしてあげているようではあります。(新型ワクチンの場合は、小さい子供たちは一ヶ月空けて2回受けないと、効き目が足りないそうです。)
どうやら、足りないのは新型ワクチンだけではなくて、季節性インフルエンザの方も不足しているということで、今年は、普通のインフルエンザも「脚光」を浴びているようですね。
そういえば、わたしが季節性の予防接種を受けたときにも、こんなことを話しているおじさんがいましたよ。
「自慢じゃないけど、僕は1973年以来、一度も予防接種なんて受けたことがないんだよ。でも、今年はちょっと違うからね。もし新型が受けられなくたって、季節性のだけでも受けておきたいよね」と。
この方は66歳ということだったので、係の看護師さんに「65歳以上の方は、新型には免疫があるはずだから、ワクチンは受けなくてもいいんですよ」と言われて、ホッと胸をなでおろしていたようでした。
(アメリカの疾病予防管理センター(通称CDC)では、60歳以上の人の約3割には、新型ウイルスに対してなにがしかの免疫があるとしています。)
(それから、上の写真は、わたしの病院で予防接種のときに張ってくれる青い絆創膏。「thrive」というのは、こちらの病院のスローガンでして、「みんなで元気に生きていきましょう!」という意味合いがあるのです。)
というわけで、わたしも一日も早く新型ワクチンを受けたいと願っているところではありますが、先日、救急病院のベッドで横たわっているときには、こう痛感しておりました。
「世の中には、健康ほどありがたいものはないなぁ」と。
常日頃、元気に暮らしているときには、健康なんて空気のような存在でしかありませんが、病気になって、あちらこちらが痛んだり、具合が悪くなったりすると、「お願いですから、早く元通りにしてください」と、ついつい天を仰いだりしますよね。
そして、「昔の人は薬も十分になくて、病気になると大変だったろうなぁ」とも実感しておりました。だって、今のように特効薬がないと、苦しい症状がなかなか消えてくれないのですものね。
たとえば、昔は、結核で命を落とす文学者も多かったわけですが、そんな風に徐々に体が病に蝕まれる窮地に追い込まれても、書く情熱と創造力は決して衰えなかった。それどころか、それをバネとして、さらに優れた作品を生み出すこともあったのです。
もしかすると、病気になって研ぎすまされた心があって、その異常事態の心にしか作れないものもあるのかもしれませんね。
とにもかくにも、健康は大事に守りたいもの。そう実感できたのは、救急病院の点滴の効用なのでしょう。
久しぶりに家の外に出てみると、木々の彩りが一段と美しくなっているのに気が付いたのでした。