果物のラベル
アメリカのスーパーマーケットでお買い物をするときは、ラベルをちゃんと見ることも大事なことでしょうか。
野菜やお肉、お魚は、生産地もしくは生産国を売り場や商品パッケージで明記するのが規則となっているのですが、果物の場合は、一個ずつにペタッと貼られたラベルで代用するお店もあるようです。
アメリカでは、野菜は国内産のものが多いと思いますが、果物の場合は、それこそ世界中から輸入されています。
ですから、「地元のカリフォルニア産のものが食べたい!」と思ったときには、意識的に輸入物の果物を避ける人もいるようです。わたしも、どちらかというと、そのタイプでしょうか。
たとえば、春にイチゴの季節がやって来たら、地元のもの以外は、まず避けたいかなと思ったりもします。だって、カリフォルニアはイチゴの名産地ですからね。
上の写真は、世界のあちらこちらから集まった色とりどりの果物です。アメリカ産のレモン、イタリア産のキウイ、南米チリ産のアボカド、それから、地元カリフォルニア産のブラッド・オレンジです。
この「ブラッド・オレンジ(blood orange)」とは何だろう? と思われたことでしょう。
こちらは、その名の通り「血のオレンジ」という意味なのです。何が「血」なのかって、果肉と果汁が血のように真っ赤なので、そう呼ばれています。
でも、おどろおどろしい名前に反して、お味の方はとっても繊細で、香り高いオレンジとなっております。あまり酸味が強くないので、オレンジが苦手な方にも大丈夫かとも思います。
なんでも、もともとはイタリアのシチリア島の原産だったそうですが、その昔、シチリアに攻め込んだ人たちが、イタリア本土やポルトガル、スペインに持って帰って、それが世界中に広まったみたいです。今では、カリフォルニアもブラッド・オレンジの名産地のようですよ。
上の写真では、アボカドも出てきましたが、アボカドが果物かどうかはよく存じません。でも、大きな木に生るので、果物っぽい感じもしますよね。
カロリーは高いけれど、栄養たっぷりなので、サラダなどにも重宝いたします。切り身をわさび醤油に付けて、ご飯と一緒に海苔で巻くと、トロの味わいにもなりますよね!
アボカドと聞くと、わたしはいつも東京・千代田区二番町(にばんちょう)にあるベルギー大使館を思い出すのです。有楽町線・麹町駅(こうじまちえき)のすぐ近く、新宿通りからちょっと入った、静かな住宅街にあります。
少し前まで、大使館の塀際には、それは立派なアボカドの木があって、季節ともなると、緑色の果実をたわわに実らせていたのです。道行く人にも「都会のオアシス」の気分を満喫させてくれていました。
ところが、近年、大使館が全面的に建て替えられて、瀟洒(しょうしゃ)な洋館が大きなビルに様変わりしたのと同時に、庭のこんもりとした大木も無くなってしまいました。
アボカドの木がどこかに移されたのかは存じませんが、それにしても楽しみな木が無くなったものだと、ちょっと悲しい気分なのです。
そして、大使館員の家族たちのちょっとなまりのあるフランス語を耳にしなくなったのも、寂しいことではあります。「文人通り」近くの官舎からは、いつも元気な子供たちの声が聞こえてきたのでした。
あ、いけない、いきなり「アボカド談義」で話がそれてしまいました。
上の写真では、イタリア産のキウイが登場していますが、カリフォルニアでも、キウイをたくさん育てているようですよ。
こちらの写真のキウイは、堂々たる「California Grown(カリフォルニア産)」のラベルが貼ってありますが、これがちょっとおもしろいんです。
なぜって、これは昔のカリフォルニア州のナンバープレートを真似てあるからです。今のナンバープレートは、白地に青い文字でナンバーが書いてありますが、1970年代から1980年代初頭までは、青地に黄色のアルファベットや数字が表示してありました。ちょうどこのラベルの感じです。
今でも、青地に黄色のナンバープレートの古~い車を見かけることがありますが、たぶん、こういう車はずっと持ち主が変わっていないのでしょうね。持ち主が変更すると、ナンバープレートも変わるので、現行の(味気ない)ものになります。
そして、もっと古いカリフォルニアの車は、黒字に黄色い文字のナンバープレートになります。こちらは、ちょっとやそっとでは見かけないですが、それでも「皆無」というわけではありません。
よく昔のトラックでこのナンバープレートを見かけるのですが、ブ~ンとエンジンをふかすと真っ黒な煙をはくので、「地球温暖化をまったく考えてない!」と憤慨してしまうのです。
あ、また脱線している! ラベルのお話にもどりましょう。
スーパーマーケットでわたしが気を付けているのは、オーガニック(有機栽培)のラベルが付いているかどうかというのもあります。これには、ふたつのタイプがあるみたいで、ひとつは「USDA Organic」というものです。
USDAというのは、正式にはUnited States Department of Agricultureという名称で、アメリカの農務省のことです。ですから、「USDA Organic」というのは、国の農務省が定めた有機栽培の基準を満たした農作物のみに与えられる「証明書」みたいなものですね。
過去に何年間か化学肥料や殺虫剤や除草剤を使っていないとか、遺伝子組み換えの種なんか使っていないとか、かなり厳しい基準が設けてありますよね。
そして、もうひとつのタイプは、「CCOF」です。これは、California Certified Organic Farmers(カリフォルニア認証オーガニック農家)の略語になります。
カリフォルニアという名前が付いていますが、こちらの団体が認証する農作物は、必ずしもカリフォルニア産でなくてもよいそうです。
なんでも、北米と南米すべてを網羅していて、このラベルを付けることで小さな農家も信用されるようになるほど、歴史のある認証団体なんだそうです。
アメリカで「CCOF」のラベルを付けているということは、国の「USDA Organic」の基準を満たしていることになるそうなので、きっとこちらの方が、基準が厳しいのでしょうね。
こちらのカリフォルニア産のイチゴなんて、ごていねいに「CCOF」と「USDA Organic」と、ラベルをふたつも付けています。
産地の Watsonville(ワトソンヴィル)という街は、シリコンバレーから南西へ小一時間ほど行った、海沿いの農村地帯にあります。イチゴで有名な街ですので、きっと「自分たちのイチゴは最高だ!」という自負があるんでしょうね。だから、ラベルもひとつじゃなくて、ふたつ!
以前、「エメラルドシティー」というお話にも出てきましたが、ワトソンヴィルのニックネームは、Strawberry Capital of the World。まさに「世界のイチゴの首都」なのです。
さて、食べ物のラベルには、「Fair Trade Certified」というのもありますね。このラベルは、中南米などの発展諸国の作物に付いていたりします。
おもにコーヒー豆、バナナ、綿、チョコレート、砂糖といった農作物で見かけるのですが、「Fair Trade(フェアー・トレード)」という名の通り、生産や取引のプロセスで、「フェアーな」扱いをしていることを宣言する目印となっています。
たとえば、生産者に妥当な賃金を支払わないとか、不自然に安く作物を買い取るとか、そんなフェアー精神に反することは一切やっておりません、と証明するものなのです。
このラベルを使える団体はいくつかあるようなので、必ずしも同じ度合いのフェアー精神にのっとっていないのかもしれませんが、このラベルが付いていると、わたしなどはちょっと安心するのです。
だって、コーヒー豆、綿、砂糖、バナナといった作物は、昔の植民地時代の暗い過去を引きずっているようなものですから、生産者がちゃんと妥当な待遇を受けているのかなと、心配になってしまうのです。
こちらのバナナは、南米ペルー産ですが、「Fair Trade Certified」のラベルに加えて、「オーガニック」という文字も登場しているので、なお安心でしょうか。
バナナは皮が厚いので、オーガニックである必要はないと思われる方もいらっしゃるでしょうが、わたしは一度、普通のバナナを食べて、殺菌剤か何かの化学薬品の味がしたことがあります。それ以来、バナナは絶対にオーガニック!と決めているのです。
こちらは、中米グアテマラ産の「フェアー・トレード」のコーヒー豆ですが、この Atitlan(アティトラン)という地は、わたしにとっては思い入れの強い場所なのです。
いえ、わたし自身は行ったことがないのですが、大学院の恩師が、若い頃グアテマラでフィールドワークをしていたときに、一時期このアティトランに滞在していたのです。
アティトランという名は、アティトラン湖(Lago de Atitlán)という湖で有名なのですが、グアテマラ南部の高地にあるとても美しいカルデラ湖です。観光地としても名を馳せています。湖は高い山々に囲まれ、一帯には先住のマヤ族の村々が点在します。
恩師が村に滞在していたとき、村人のひとりが病院に担ぎ込まれたと急の知らせがありました。畑仕事をしていて、転倒して岩で頭を強打したというのです。
病院の手当で一命は取り留めたようですが、一家の働き手を失ったのは、家族にとっても大きな打撃だったようです。もともと火山地帯のゴツゴツとした土壌では、収穫が多いわけではありませんので、ひとりでも欠けると明日からの生活にも困ることになるのです。
そもそも、どうして勝手を知った自分の畑で転倒したのかというと、この畑はアティトラン湖を見下ろす火山の山肌にあったからです。気を付けなければ、いつでも転げ落ちる危険があるほど、急な斜面だったのです。ちょっと足を踏み外せば、この村人のように奈落の底へと転げ落ちる。
だったら平らな所に畑を作ればいいでしょうと思われるでしょう。けれども、グアテマラでは、平地はお金のある人たちに押さえられているのです。
そこで、少しは楽な生活ができるようにと、村人たちはコーヒー豆を育てるようになりました。昔ながらのプランテーションの労働者としてではなく、自分たちの力で少しずつ生産の全責任を負うようになったのです。
そんなわけで、わたしはグアテマラの名産品であるコーヒー豆を見ると、いつもアティトランの話を思い出すのです。そして、床に落っことした豆一粒でも、ちゃんと拾って挽くことにしています。
コーヒー豆は、ひとりひとりが手で摘まなければならない作物ですから、余計に思いが詰まっているように感じるのです。
ちょっと暗い話になってしまいましたが、こちらのコーヒー豆には、こんな見慣れないラベルも付いています。「Kosher(コウシャー)」。
これは、ユダヤ教の人たちが食べられることを示すラベルなのです。
ユダヤ教では、食べられるものと食べられないものの区別が厳格に分かれていて、たとえば、お肉にしても、きちんと屠殺して、解体して、口にする肉が不浄なものに触れないようにする規則があるそうなのです。
ですから、そういったユダヤ教の厳しい規則に沿って、ちゃんと食品を加工していますよ、というのが「Kosher」のラベルなのですね。
野菜の場合でも、虫が付いていたらいけないそうなのですが、コーヒー豆がどうやったら「Kosher」になれるのかは、わたしにはわかりません。
ふと思い出したのですが、シリコンバレーからロンドンに一泊出張したことがあって、このとき機上で隣に座っていたわたしのボスが、「Kosher」の食事を事前に予約していました。航空会社によっては、予約しておけば、Kosher food(コウシャーな食事)を出してくれるところもあるのですね。
元ボスはユダヤ教ではありませんが、なにせ好奇心の強い人。どんなものかと試したかったようですが、口にして「なんだ、普通の食事じゃない」とがっかり。
そうなんです。Kosherというのは、料理の仕方ではなくて、あくまでも材料の準備の仕方なのです。ですから、味が変わるわけではないのですね。
というわけで、食べ物のラベルをいろいろと見てきましたが、ラベルって吟味してみると本当におもしろいものなんですよ。
でも、こちらはちょっと「はてな?」と怪しいものでした。
ペルー産のバナナに貼ってあった「Inka Banana(インカ・バナナ)」のラベルなんですが、「インカ」という名のわりに、「ナスカの地上絵」風のサルが載っているのです!
あの~、両方ともペルーの誇りだというのはよくわかるのですが、「ナスカ(Nazca)文化」と「インカ文明」は時代がまったく違うでしょう!!
(6、7世紀まで栄えた古いナスカ文化に対して、インカ文明は15、16世紀に栄えた大文明ですよね。)
やっぱり、少しは歴史をお勉強してからラベルを作られた方がいいと思うのですが。
というよりも、このラベルは、歴史の苦手なアメリカの消費者に向けて作られたものかもしれませんね。アメリカ人にかかれば、ナスカもインカも同じもの?!