もうひとつの玉ねぎ
前回、前々回と、果物や野菜のラベルと、食のブランドのお話をいたしました。
それに関連して、短いお話をどうぞ。
前回の「玉ねぎのブランド」でご紹介したビダリア(Vidalia)玉ねぎですが、7月に入って、店先からはもう姿を消してしまったようです。
ビダリアは、だいたい6月に入って各地に出荷されるようですが、数がとても少ないのでしょう。カリフォルニア辺りのお店では、一度入荷して売り切れると、そのあとは追加注文できないもののようです。
先日、いつものオーガニック(有機栽培)のお店に行ってみると、もうビダリアはありませんでした。
けれども、代わりに「ワラワラ(Walla Walla)」があるではありませんか!
ワラワラは、やはり甘い玉ねぎ(sweet onions)として有名なものですが、生産地は西海岸のワシントン州。カリフォルニアの北、オレゴン州のもうひとつ北です。
なんでも、この玉ねぎの原産地はイタリアのコルシカ島だそうですが、フランス人の兵隊さんが種を持ち帰り、その後、それがアメリカ・ワシントン州のワラワラ・バレーでイタリア系農民によって栽培されるようになった、という長い歴史を持つそうです。
ワラワラ・バレーは、ワシントン州の中でも温暖な気候で、肥沃な土壌。そこで育まれた玉ねぎは、やさしいお味になるのです。
こちらもジョージア州のビダリアと同じように、6月中旬頃から出荷が始まり、もう8月中旬には収穫を終えるそうです。
ですから、お店では、ビダリアがなくなったショックを顧客が味わわないで済むようにと、「ビダリアの次はワラワラ」と、仕入れの順番を決めてあるのでしょう。
だって、今は夏のバーベキューシーズン。グリルでこんがりと焼いたハンバーガーと、新鮮な玉ねぎは、最適の友。まさに「季節のお味」なのです。
ワラワラは、ビダリアと同じように大型の玉ねぎですが、ビダリアが横長な感じなのに対して、こちらは縦長のイメージです。(こちらの写真では、大きさがわかるようにとニンニクを入れてみました。ニンニクだってかなり大きいので、あまり比較にならなかったかもしれませんね。)
そして、大型なわりに、包丁をいれるとサクッとすんなり切れるのです。なぜって、水分がたくさん入っていて、やわらかいからです。
トントンと切っていても、とにかくジューシー。なんでも、玉ねぎの90パーセントは水分だそうですが、だからフライパンで炒めていても、とってもジューシーです。
そして、ビダリアと同じように、鼻にツンとこないので、料理もし易いのです。ビダリアと同じく、玉ねぎのイオウ成分が少ないので、鼻にツンとこないし、甘く感じるのです。なんでも、ワラワラのイオウ分は、普通の玉ねぎの半分だとか。
ワラワラのみずみずしさを失わないようにと、この晩は、チキン・ファヒータ(chicken fajita)をつくってみました。
ファヒータは、メキシコ風のアメリカ料理で、コリアンダー、オレガノ、クミンなど香辛料の利いた、シンプルなお料理です。鶏肉や牛肉を玉ねぎとピーマンで炒めて香辛料を加えますが、最後にライムをしぼって、酸味を利かせてもおいしいです。
ファヒータができあがったら、トルティーヤ(とうもろこしや小麦粉の薄いパン)にのせて、その上にサワークリームをトッピングします。
レストランでは、ファヒータは鉄板に、トルティーヤはバスケットに盛られて出てくる場合もありますが、食べるときには、トルティーヤにのっけていただきます。
ほんとうは、メキシコ料理には欠かせないシラントロ(日本語ではパクチー、シャンツァイ、または中国パセリ)をのせれば完璧でしたが、残念ながら手元にありませんでした。
わたしは、なぜだか定期的にチキン・ファヒータが食べたくなるのですが、もしかすると、コリアンダー(シラントロの果実や葉を乾燥して香辛料にしたもの)の味を欲しているのかもしれません。
そんな「ファヒータ・ファン」のわたしにとって、みずみずしくておいしい玉ねぎは必需品なのです。
ビダリアに比べて、ちょっとだけ甘みが薄いような気もいたしますが、玉ねぎくささがないので、ハンバーガーやサンドイッチにも生のスライスで合うことでしょう。
大きくて、みずみずしいワラワラ。
お店で見かけることがありましたら、ぜひお試しくださいね!